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勝敗の行方
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試合開始前にライバルのアイゼンから
「お前、今日、婚約者にオリーブの冠を渡すのか?だったら、手加減してやろうか?」
「ふざけるな!実力で勝ち取ってみせる!!余計な、お世話だ。試合に集中しろ」
いつもの様にふざけてきたアイゼンを威嚇しながら、今日の試合は絶対に負けられない。何がなんでも僕の女神に冠を捧げてみせる。そして結婚するんだ。その意気込みで決勝まで突き進み、次の相手の試合を見ていると、バーナードとアイゼンが中々いい試合をしていて、どちらが勝ってもおかしくないほどだった。
結局、アイゼンがバーナードの剣を最後に交わして、バーナードの首に剣を突きつけた。剣先を潰してあるが、一歩間違えば大怪我のもとだ。ギリギリ踏み止められたのは、双方ともに腕が確かだからだが、観客からは残念そうな声が漏れていた。何故なら、アイゼンと僕との勝負はここ何年も見慣れた試合で、観客らにとってはバーナードと僕との試合を見たかったようだ。
だが、実力勝負のこの御前試合には王族達が見に来ている。手を抜くことは騎士道に反する。そんな騎士がいたらこの国の有事の際には何の役にも立たない。全員が実力を出し切っているのだ。
「残念だったな。もう少しでアイゼンを負かすことが出来たのに」
「仕方がない。今回は奴の方が素早かった。でも次はそうはいかない。どうせ、君が敵を取ってくれるだろう」
「奴とは、互角だ。今回もどうなるか分からないがやれることはやるつもりだ」
「がんばれよ!客席で応援している」
「ああ」
僕はアイゼンの待つ会場に向かった。僕達が会場に入ると大きな歓声が上がる。
ああ、何度、彼とこの空気を味わった事だろう。
特別で神聖な儀式に、参加している不思議な感覚をいつも感じていた。
試合が始まると、観客の声が遠くに感じる。いつもの感覚で二人だけの空間にいる様に、お互いが一歩も引かずに勝負は長引いた。僕が前進すると彼は一歩下がって、脇から隙を突こうとする。僕が上手く交わして逆に彼の前に剣を突き立てる。激しい剣さばきで、会場に打ち合っている剣の鈍い音だけが響いていた。互角の力同士のせめぎ合い、勝敗の行方は神のみぞ知る所だが、僕の中で何かいつもと違う違和感があった。
そして、僕の剣が彼の剣をはじいた時、『ギィ―ーーーン』と妙な鈍い音と共に折れた剣先が宙を舞った。
アイゼンの剣が折れたのだ。僕の勝利。しかし、僕は素直に喜べなかった。いつもならこんな程度で、剣が折れることがないのに、今日は折れた。
「なあ、アイゼン。お前の剣を見せてくれ」
「いや、ダメだ」
僕の頼みをやけに拒否するが、しつこく「見せろ」というとそれを見せた。彼が使っていた剣は普段、練習様に使っている剣で、試合用ではなかった。
「なんで、こんな剣で参加するんだ。こんな事で勝てても嬉しくないぞ!この試合は無効だ!やり直しを要求する」
「お前は馬鹿か?やり直しなんて出来ないんだよ。これは俺の不注意で剣を変えたんだ。装備が不十分な騎士は失格だ!俺の為を思うなら、黙っていろ!!この貴族のお坊ちゃまが!」
吐き捨てる様に唸る彼の言葉が僕の胸に刺さった。
そうだ、僕が今騒ぎ立てれば、アイゼンは失格となり、次席のバーナードが二位になる。ダメだ。折角ここまで這い上がった彼の努力が無駄になる。そう決心した僕はこの事を黙秘することを選んだ。
だが、巧妙に仕掛けられた罠はこの時から、じわじわと僕たちの周りを絞め始めていた。
「お前、今日、婚約者にオリーブの冠を渡すのか?だったら、手加減してやろうか?」
「ふざけるな!実力で勝ち取ってみせる!!余計な、お世話だ。試合に集中しろ」
いつもの様にふざけてきたアイゼンを威嚇しながら、今日の試合は絶対に負けられない。何がなんでも僕の女神に冠を捧げてみせる。そして結婚するんだ。その意気込みで決勝まで突き進み、次の相手の試合を見ていると、バーナードとアイゼンが中々いい試合をしていて、どちらが勝ってもおかしくないほどだった。
結局、アイゼンがバーナードの剣を最後に交わして、バーナードの首に剣を突きつけた。剣先を潰してあるが、一歩間違えば大怪我のもとだ。ギリギリ踏み止められたのは、双方ともに腕が確かだからだが、観客からは残念そうな声が漏れていた。何故なら、アイゼンと僕との勝負はここ何年も見慣れた試合で、観客らにとってはバーナードと僕との試合を見たかったようだ。
だが、実力勝負のこの御前試合には王族達が見に来ている。手を抜くことは騎士道に反する。そんな騎士がいたらこの国の有事の際には何の役にも立たない。全員が実力を出し切っているのだ。
「残念だったな。もう少しでアイゼンを負かすことが出来たのに」
「仕方がない。今回は奴の方が素早かった。でも次はそうはいかない。どうせ、君が敵を取ってくれるだろう」
「奴とは、互角だ。今回もどうなるか分からないがやれることはやるつもりだ」
「がんばれよ!客席で応援している」
「ああ」
僕はアイゼンの待つ会場に向かった。僕達が会場に入ると大きな歓声が上がる。
ああ、何度、彼とこの空気を味わった事だろう。
特別で神聖な儀式に、参加している不思議な感覚をいつも感じていた。
試合が始まると、観客の声が遠くに感じる。いつもの感覚で二人だけの空間にいる様に、お互いが一歩も引かずに勝負は長引いた。僕が前進すると彼は一歩下がって、脇から隙を突こうとする。僕が上手く交わして逆に彼の前に剣を突き立てる。激しい剣さばきで、会場に打ち合っている剣の鈍い音だけが響いていた。互角の力同士のせめぎ合い、勝敗の行方は神のみぞ知る所だが、僕の中で何かいつもと違う違和感があった。
そして、僕の剣が彼の剣をはじいた時、『ギィ―ーーーン』と妙な鈍い音と共に折れた剣先が宙を舞った。
アイゼンの剣が折れたのだ。僕の勝利。しかし、僕は素直に喜べなかった。いつもならこんな程度で、剣が折れることがないのに、今日は折れた。
「なあ、アイゼン。お前の剣を見せてくれ」
「いや、ダメだ」
僕の頼みをやけに拒否するが、しつこく「見せろ」というとそれを見せた。彼が使っていた剣は普段、練習様に使っている剣で、試合用ではなかった。
「なんで、こんな剣で参加するんだ。こんな事で勝てても嬉しくないぞ!この試合は無効だ!やり直しを要求する」
「お前は馬鹿か?やり直しなんて出来ないんだよ。これは俺の不注意で剣を変えたんだ。装備が不十分な騎士は失格だ!俺の為を思うなら、黙っていろ!!この貴族のお坊ちゃまが!」
吐き捨てる様に唸る彼の言葉が僕の胸に刺さった。
そうだ、僕が今騒ぎ立てれば、アイゼンは失格となり、次席のバーナードが二位になる。ダメだ。折角ここまで這い上がった彼の努力が無駄になる。そう決心した僕はこの事を黙秘することを選んだ。
だが、巧妙に仕掛けられた罠はこの時から、じわじわと僕たちの周りを絞め始めていた。
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