上 下
2 / 31

ライバルからの激励

しおりを挟む
 次の日からアレクセイはコーネリアの実家オルフェ侯爵家を毎日訪問し続けた。

 「お願いです。コーネリアに妻に会わせて下さい。僕は無実です」

 「申し訳ありませんが、旦那様からお嬢様・・・と会わせるなと申し付かっておりますので、どうかこのままお引き取り下さい」

 「そ、そんな」

 先触れを出すと当然、門前払いを食らわされ、職場では針の筵となっていた。

 「自業自得だ!」

 兄達やアレクセイの家族でさえそう思っている。だが、アレクセイは諦められなかった。デビュタントで出会った愛しいコーネリアの事を……。


 アレクセイ・ギャロットは公爵家の次男として生まれ、結婚したら伯爵を譲り受け、愛するコーネリアと幸せな家庭を築く未来を夢見ていた。そして、やっと念願の新婚生活を送れるはずだった。つい先日までは……

 あの忌々しい見知らぬ女がアレクセイの人生を台無しにした。彼は騎士学校を卒業後、まじめに仕事に取り組む好青年で浮いた話もなければ婚約者一筋の所謂朴念仁の様な人物。そんな彼がやっと念願の親衛隊に入隊し、王太子の護衛を任された。もちろん両家の家族は大喜びし、コーネリアもお祝いした。

 だが、先日の事件で彼は転落の人生を歩んでいた。コーネリアとの甘い新婚生活はなくなり、一人寂しく二人の新居に帰宅する。職場では周りから白い目で見られ、今日ついに王太子の護衛を外された。その上、今度は親衛隊ではなく下級騎士達の警備騎士に降格した。全く覚えのない彼からしたら理不尽すぎるこの処遇に不満を抱きつつ仕事をこなす日々が続いた。

 「なあ、お前本当に不貞を犯したのか?」

 同僚のアイゼンが珍しく声をかけてきた。この男とアレクセイはライバルで、御前試合ではいつも互角で何かと張り合っている仲。犬猿の仲。そんな男から声をかけられたのは意外だった。

 「神に誓って、僕は無実だ。大体そんな暇はないだろう」

 そう、王太子の護衛は不規則で、過労死する程の激務。だから選ばれるのも御前試合での評価が殆ど全てなのだ。若く優秀な人材で尚且つ清廉潔白な人物というのが条件で、上の年齢は40才位までと徹底されている。年を取ると身を挺して主を守ることが出来ない。この国の騎士は40才で昇進出来ないと引退するしかないのが現状なのだ。

 その間に名を馳せることが出来れば貴族のお抱えや剣術指南の話もあるが、多くは平民として余生を送っている。だから生まれも貴族のアレクセイはある意味恵まれている。アイゼンの様に平民ではないからだ。二人は対照的で「平民の期待の星・アイゼン」方や「貴族の期待の星・アレクセイ」と呼ばれる程、周りからも一目置かれる存在。

 「良い事教えてやるよ。神殿で鑑定できるんだぜ」

 「何をだ?」

 「童貞や処女を鑑定するんだよ」

 その言葉に思わず反応してしまった。

 「やっぱり、お前やったことなかったのか?いつも澄ましている顔が面白い位、赤いぞ。こりゃいいや」

 面白そうに笑うアイゼンを睨みつけながら

 「どうすればいいんだ。教えてくれ」

 いつになく素直なアレクセイに戸惑いながら、アイゼンはその神殿の仕組みを教えたのだった。

しおりを挟む
感想 41

あなたにおすすめの小説

【1/23取り下げ予定】あなたたちに捨てられた私はようやく幸せになれそうです

gacchi
恋愛
伯爵家の長女として生まれたアリアンヌは妹マーガレットが生まれたことで育児放棄され、伯父の公爵家の屋敷で暮らしていた。一緒に育った公爵令息リオネルと婚約の約束をしたが、父親にむりやり伯爵家に連れて帰られてしまう。しかも第二王子との婚約が決まったという。貴族令嬢として政略結婚を受け入れようと覚悟を決めるが、伯爵家にはアリアンヌの居場所はなく、婚約者の第二王子にもなぜか嫌われている。学園の二年目、婚約者や妹に虐げられながらも耐えていたが、ある日呼び出されて婚約破棄と伯爵家の籍から外されたことが告げられる。修道院に向かう前にリオ兄様にお別れするために公爵家を訪ねると…… 書籍化のため1/23に取り下げ予定です。

【完結】もう無理して私に笑いかけなくてもいいですよ?

冬馬亮
恋愛
公爵令嬢のエリーゼは、遅れて出席した夜会で、婚約者のオズワルドがエリーゼへの不満を口にするのを偶然耳にする。 オズワルドを愛していたエリーゼはひどくショックを受けるが、悩んだ末に婚約解消を決意する。だが、喜んで受け入れると思っていたオズワルドが、なぜか婚約解消を拒否。関係の再構築を提案する。その後、プレゼント攻撃や突撃訪問の日々が始まるが、オズワルドは別の令嬢をそばに置くようになり・・・ 「彼女は友人の妹で、なんとも思ってない。オレが好きなのはエリーゼだ」 「私みたいな女に無理して笑いかけるのも限界だって夜会で愚痴をこぼしてたじゃないですか。よかったですね、これでもう、無理して私に笑いかけなくてよくなりましたよ」

婚約者が不倫しても平気です~公爵令嬢は案外冷静~

岡暁舟
恋愛
公爵令嬢アンナの婚約者:スティーブンが不倫をして…でも、アンナは平気だった。そこに真実の愛がないことなんて、最初から分かっていたから。

骸骨と呼ばれ、生贄になった王妃のカタの付け方

ウサギテイマーTK
恋愛
骸骨娘と揶揄され、家で酷い扱いを受けていたマリーヌは、国王の正妃として嫁いだ。だが結婚後、国王に愛されることなく、ここでも幽閉に近い扱いを受ける。側妃はマリーヌの義姉で、公式行事も側妃が請け負っている。マリーヌに与えられた最後の役割は、海の神への生贄だった。 注意:地震や津波の描写があります。ご注意を。やや残酷な描写もあります。

まだ20歳の未亡人なので、この後は好きに生きてもいいですか?

せいめ
恋愛
 政略結婚で愛することもなかった旦那様が魔物討伐中の事故で亡くなったのが1年前。  喪が明け、子供がいない私はこの家を出て行くことに決めました。  そんな時でした。高額報酬の良い仕事があると声を掛けて頂いたのです。  その仕事内容とは高貴な身分の方の閨指導のようでした。非常に悩みましたが、家を出るのにお金が必要な私は、その仕事を受けることに決めたのです。  閨指導って、そんなに何度も会う必要ないですよね?しかも、指導が必要には見えませんでしたが…。  でも、高額な報酬なので文句は言いませんわ。  家を出る資金を得た私は、今度こそ自由に好きなことをして生きていきたいと考えて旅立つことに決めました。  その後、新しい生活を楽しんでいる私の所に現れたのは……。    まずは亡くなったはずの旦那様との話から。      ご都合主義です。  設定は緩いです。  誤字脱字申し訳ありません。  主人公の名前を途中から間違えていました。  アメリアです。すみません。    

私のドレスを奪った異母妹に、もう大事なものは奪わせない

文野多咲
恋愛
優月(ゆづき)が自宅屋敷に帰ると、異母妹が優月のウェディングドレスを試着していた。その日縫い上がったばかりで、優月もまだ袖を通していなかった。 使用人たちが「まるで、異母妹のためにあつらえたドレスのよう」と褒め称えており、優月の婚約者まで「異母妹の方が似合う」と褒めている。 優月が異母妹に「どうして勝手に着たの?」と訊けば「ちょっと着てみただけよ」と言う。 婚約者は「異母妹なんだから、ちょっとくらいいじゃないか」と言う。 「ちょっとじゃないわ。私はドレスを盗られたも同じよ!」と言えば、父の後妻は「悪気があったわけじゃないのに、心が狭い」と優月の頬をぶった。 優月は父親に婚約解消を願い出た。婚約者は父親が決めた相手で、優月にはもう彼を信頼できない。 父親に事情を説明すると、「大げさだなあ」と取り合わず、「優月は異母妹に嫉妬しているだけだ、婚約者には異母妹を褒めないように言っておく」と言われる。 嫉妬じゃないのに、どうしてわかってくれないの? 優月は父親をも信頼できなくなる。 婚約者は優月を手に入れるために、優月を襲おうとした。絶体絶命の優月の前に現れたのは、叔父だった。

別に要りませんけど?

ユウキ
恋愛
「お前を愛することは無い!」 そう言ったのは、今日結婚して私の夫となったネイサンだ。夫婦の寝室、これから初夜をという時に投げつけられた言葉に、私は素直に返事をした。 「……別に要りませんけど?」 ※Rに触れる様な部分は有りませんが、情事を指す言葉が出ますので念のため。 ※なろうでも掲載中

どなたか私の旦那様、貰って下さいませんか?

秘密 (秘翠ミツキ)
恋愛
私の旦那様は毎夜、私の部屋の前で見知らぬ女性と情事に勤しんでいる、だらしなく恥ずかしい人です。わざとしているのは分かってます。私への嫌がらせです……。 ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆ 政略結婚で、離縁出来ないけど離縁したい。 無類の女好きの従兄の侯爵令息フェルナンドと伯爵令嬢のロゼッタは、結婚をした。毎晩の様に違う女性を屋敷に連れ込む彼。政略結婚故、愛妾を作るなとは思わないが、せめて本邸に連れ込むのはやめて欲しい……気分が悪い。 彼は所謂美青年で、若くして騎士団副長であり兎に角モテる。結婚してもそれは変わらず……。 ロゼッタが夜会に出れば見知らぬ女から「今直ぐフェルナンド様と別れて‼︎」とワインをかけられ、ただ立っているだけなのに女性達からは終始凄い形相で睨まれる。 居た堪れなくなり、広間の外へ逃げれば元凶の彼が見知らぬ女とお楽しみ中……。 こんな旦那様、いりません! 誰か、私の旦那様を貰って下さい……。

処理中です...