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最後の奇蹟
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葬儀の次の日、私達は王都での最後の時間を過ごしていた。
前回とは違って、私達のこれからの事は意外に円満に話が付いていた。ロイドは遺言状を残していて、自分に何かあった時、私と子供は実家の子爵家の帰ることを明記していた。
その為、義父たちは故人の遺志を尊重するという形で上手く収まった。
夫のいないクリスマスはとても寂しいものだった。
サロンに皆が集まっている時に、それは届いた。
玄関からお届け物ですという声にライナーが対応する為に扉を開けた。
「こちらにサインをお願いします」
それはロイドからの最後のクリスマスプレゼントだった。
私にはポインセチアとエディには絵の具、マリーには人形が届けられた。それぞれにメッセージカードが付けられていて、私のカードには、
──君の幸せを願っている。愛しているよ。
そう書かれていた。
その時に私は気づいたのだ。彼もきっとやり直し前の記憶があることに──。
だから、あの最後の日彼は私に別れのキスをした。そして、伝えたい言葉を言う為に彼はやり直したのだろう。私はあの言葉を聞く為にやり直させられたのかもしれない。そう思うと込み上げてきたものが溢れてきて、私は花に顔を埋めて泣いてしまった。母は私の背中を泣き止むまで擦ってくれていた。
ロイドは私とエディの未来を変えたかったのだと思う。
それに彼と私が変えた未来でエッセン様とグレースの未来も変わった。
マイケルと呼ばれていた子供は、エッセン様の祖父の年の離れた妹の孫だった。彼女は婚約者を捨てて平民の男と駆け落ちして勘当された。
その子供は成長して結婚して出来たのがマイケルという男の子だった。グレースが慰問先の孤児院でエッセン様に良く似た子供の話を先代伯爵にしたところ、直ぐに調べて分かったそうだ。
エッセン様も自分の身体の事を話した結果、マイケルを正式に伯爵家の養子にするために二人で孤児院に行ったのだ。そして、真実を話されたマイケルは受け入れる事が出来なかった。走り出た所に馬車が来た。とっさに庇ったところはロイドらしい。彼は自分が死ぬ運命から逃れられない事を知っていたのだろう。
自分の命を犠牲にして、最後に彼は皆の心を救ったのかもしれない。
こうして、私達の2ヶ月のやり直しは終わった。
今は私と子供たちは実家の子爵家の領地に帰っている。でも前回と違ってエディは田舎暮らしを嫌っていない。それは元気に走り回れるからだ。
草原を走り回っている子供たちに「おやつのじかんよ。手を洗ってきなさい」そう声をかけているのは母ロレーヌ。
「あまり無理はしなのよ。ゆっくり歩いてきなさいね。あっ、それと木陰は冷えるから日の当たる場所にいなさいよ」
そう言って、何かと私の世話を焼こうとして来る母に苦笑する。
「分かってるわ。初めてでもないんだからそれくらい気を付けますよ」
憎まれ口を利きながら、大きくなっているお腹を擦っている私。
そう、あの時私のお腹の中にはロイドが望んだ子供がいる。秋には生まれる予定だ。お腹の大きさから双子ではないかと言われているが、それならそれで嬉しい。
この子たちは、ロイドが最後に起こした奇蹟なのだから。
風が吹く中、私は誰かに抱きしめらているように感じていた。それは亡くなった夫ロイドの想いだったのかもしれない。
ポインセチアの花言葉は、『貴女の幸福を祈る』その言葉通りロイドは私達を見守り続けていてくれるのだろう。
─完─
前回とは違って、私達のこれからの事は意外に円満に話が付いていた。ロイドは遺言状を残していて、自分に何かあった時、私と子供は実家の子爵家の帰ることを明記していた。
その為、義父たちは故人の遺志を尊重するという形で上手く収まった。
夫のいないクリスマスはとても寂しいものだった。
サロンに皆が集まっている時に、それは届いた。
玄関からお届け物ですという声にライナーが対応する為に扉を開けた。
「こちらにサインをお願いします」
それはロイドからの最後のクリスマスプレゼントだった。
私にはポインセチアとエディには絵の具、マリーには人形が届けられた。それぞれにメッセージカードが付けられていて、私のカードには、
──君の幸せを願っている。愛しているよ。
そう書かれていた。
その時に私は気づいたのだ。彼もきっとやり直し前の記憶があることに──。
だから、あの最後の日彼は私に別れのキスをした。そして、伝えたい言葉を言う為に彼はやり直したのだろう。私はあの言葉を聞く為にやり直させられたのかもしれない。そう思うと込み上げてきたものが溢れてきて、私は花に顔を埋めて泣いてしまった。母は私の背中を泣き止むまで擦ってくれていた。
ロイドは私とエディの未来を変えたかったのだと思う。
それに彼と私が変えた未来でエッセン様とグレースの未来も変わった。
マイケルと呼ばれていた子供は、エッセン様の祖父の年の離れた妹の孫だった。彼女は婚約者を捨てて平民の男と駆け落ちして勘当された。
その子供は成長して結婚して出来たのがマイケルという男の子だった。グレースが慰問先の孤児院でエッセン様に良く似た子供の話を先代伯爵にしたところ、直ぐに調べて分かったそうだ。
エッセン様も自分の身体の事を話した結果、マイケルを正式に伯爵家の養子にするために二人で孤児院に行ったのだ。そして、真実を話されたマイケルは受け入れる事が出来なかった。走り出た所に馬車が来た。とっさに庇ったところはロイドらしい。彼は自分が死ぬ運命から逃れられない事を知っていたのだろう。
自分の命を犠牲にして、最後に彼は皆の心を救ったのかもしれない。
こうして、私達の2ヶ月のやり直しは終わった。
今は私と子供たちは実家の子爵家の領地に帰っている。でも前回と違ってエディは田舎暮らしを嫌っていない。それは元気に走り回れるからだ。
草原を走り回っている子供たちに「おやつのじかんよ。手を洗ってきなさい」そう声をかけているのは母ロレーヌ。
「あまり無理はしなのよ。ゆっくり歩いてきなさいね。あっ、それと木陰は冷えるから日の当たる場所にいなさいよ」
そう言って、何かと私の世話を焼こうとして来る母に苦笑する。
「分かってるわ。初めてでもないんだからそれくらい気を付けますよ」
憎まれ口を利きながら、大きくなっているお腹を擦っている私。
そう、あの時私のお腹の中にはロイドが望んだ子供がいる。秋には生まれる予定だ。お腹の大きさから双子ではないかと言われているが、それならそれで嬉しい。
この子たちは、ロイドが最後に起こした奇蹟なのだから。
風が吹く中、私は誰かに抱きしめらているように感じていた。それは亡くなった夫ロイドの想いだったのかもしれない。
ポインセチアの花言葉は、『貴女の幸福を祈る』その言葉通りロイドは私達を見守り続けていてくれるのだろう。
─完─
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