【完結】あの愛をもう一度…

春野オカリナ

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切り捨てたい過去

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 それは11月半ば過ぎのことだった。

 いつもの様に私と子供たちは洗濯物を取り込んでいた。最近の子供達は洗ったシーツをメイドのマルサと一緒に広げるのが好きで、彼女と一緒にベットメイクをしに行っていた。

 ふと何気なく外を見ると、塀の側の木の陰からこちらの様子を見ている人影を見つけた。それは紛れもなくグレースだった。

 まさか、ロイドを待っている。それともエディを……。

 どうして放っておいてくれないの。今の私達には遠い過去の出来事なのよ。今更かき乱さないで──。

 私の心の中はぐちゃぐちゃで、ドロドロとした感情が渦巻いていた。それは10年前に飲み込んだはずの苦い想いと事故死した時に味わった屈辱が入り混じっている。

 お願いだからもうここには来ないでほしい。

 心の底からそう願った。彼女に関わらなければロイドを、この幸せを失う事は無い。そう思っていた。子育てが忙しかった私の耳にも社交界の噂話は別の友人から聞いて知っている。

 エッセン様とグレースが離婚寸前だと。

 それは前回とも同じだった。彼女はエッセン様から拒絶されている。昔から何処か潔癖症のあるエッセン様は、自分に嘘偽りを告げる人間や罠を仕掛け他人を貶める人が嫌いだった。

 そんな彼を罠に嵌めて結婚したのだから、彼にとってグレースは不倶戴天の敵のような存在なのかもしれない。貴族の対面を気にして表面は繕っていても仮面夫婦であることは誰もが知っていた。

 これはきっとエッセン様なりのグレースへの罰なのだ。来たるべき時に離縁するための──。

 もう30になる女が離縁されても、まともな縁談などこない。最終的には修道院ぐらいしかないだろう。

 それに、彼は温情もかけている。この間にグレースが反省し、彼との関係をやり直そうと努力したらきっとエッセン様もそれなりに対処していただろうが、前回はそんな気配などなかった。

 葬儀も伯爵夫人に対するものではなかったと伝え聞いている。しかも、不貞疑惑のついた妻を先祖代々の伯爵家の墓地に入れる事も躊躇って、平民の墓地に埋葬したとも聞いていた。

 今回もこのままでは同じ目に遭うだろう。どちらにしてもロイドや子供たちに関わらせたくなかった私は、執事のライナーに言って、今度グレースを見つけたら、私に知らせる様に伝えた。

 そして、エッセン様にも手紙を認めた。

 グレースが屋敷に来ている事を知らせる為に。一番いいのはエッセン様が自分の妻と話し合えばいいのだけれど、今回もそうしないのは、お互いに未練があるのかもしれない。

 やり直し前は、ロイドが死んでから一月後に手紙が届けられた。何度も『もう一度やり直したい』そう書かれていた。

 あの頃の私なら喜んで、彼を許し受け入れたかもしれない。でも今はそんな気にはなれない。やり直して自分の気持ちにはっきりと気付いたのだから、

 ──ああ、私は確かに夫を愛している。

 そう確信している。

 できることなら関わりたくない。私達家族のこれからの未来にグレースはいらない。

 幼馴染の私にこんな風に思わせているのは他ならぬグレース本人なのだから。

 その日、私はロイドにグレースの話を寝室でしたのだ。

 そこで、ロイドの口から真実を聞かされたのだった。
 
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