宵闇の王と夜桜の君

なこ

文字の大きさ
上 下
1 / 6

Prolog(※)

しおりを挟む
(※後半に性描写があります)



 【宵闇の王】とまで呼ばれた歴代最強の吸血鬼、御門 司みかど つかさ。彼はAランク以上の人間の血液しか受け入れることが出来ない体質にいつも苦しめられていた。飢えに飢えていた。
 普段は父王が飼っている吸血奴隷の血を支給されて何とかなってはいるが、そのどれも、司の口に合うものではない。





 ある美しい夜。

 いつもの様に吸血鬼の友人達と共に歓楽街で享楽に耽っていた司は、しかし直ぐに飽きて早々に抜け出した。ブラブラと鬱陶しい客引きを無視しながら路地をのんびり歩いていく。

 その時、細い横道の奥に、ひらりと薄桃色の輝きがチラついたのが見えた。何故かそれがひどく司の気を引いたため、彼は細い横道に入り、ひたすら奥を目指す。すると、路地裏の奥に一本の美しい桜が立っているのを見つけた。

 こんな所に何故桜の木が。随分と立派なそれに暫し見惚れていた司に、背後から声がかかった。
 

「ーーオニイサン、こんな路地裏で何をなさってるんで?」


 鈴を転がしたような美しい声に振り返れば、娼館の客引きなのだろうーー店の名前が書かれた看板を手に持った、そこそこ質の良い着流しを身にまとった少年が立っている。
 司と目が合うと、少年はゆったりと色っぽい笑みを浮かべた。

「……夜桜を見ていただけだ」
「綺麗でしょう」

 友人に勧められて入った娼館の男娼・娼婦のように、必要以上にベタベタと話しかけてくることをしない。淡々と返されるだけの言葉は、しかし清廉な響きを持っていて煩わしさがない。他人との会話の距離感に珍しく心地良さを抱いている自分に、司は小さな驚きを感じていた。

「……お前、名前は?」
「じゃあ、【夜桜】と呼んでください。貴方は?」
「俺を知らないのか?」
「いいえ。でもそれは人様の中の貴方で、貴方ではないでしょう?」
「……、御門 司だ。」

 今まで司に媚びることなく、ただ彼の事を知ろうとした者などいなかった。




 ドクリと欲望、渇望が首を擡げる。何故か唐突に、彼が欲しいと思った。

 自分が願えば手に入らぬものなど何もない。

 隠すことなく晒された首。

 瞳孔が開いた。




「ーーひっ!?なに、」


 吸血鬼の並外れた身体能力に当然ただ人間の彼が逆らえるはずもなく、司は、急接近した彼に驚いて思わず逃げようとした【夜桜】を難なく地面に押し倒した。
 必死に抵抗している【夜桜】。今まで自分が血を求めれば、喜んで捧げない人間などいなかった。抵抗などされた事のない司は尚更『喰いたい』という欲望が増していくのを感じる。
 離す様子のない彼に【夜桜】は顔を青ざめて、助けを求めるか細い悲鳴をあげる。しかし、人の気配がないことを司は知っている。



ーーガブリ。



「ぁ"ーーーーーーーッッ!!!」

 無防備に晒された首筋に噛みつき、ヂュルヂュルと血を啜っていく。吸血鬼の唾液には快楽成分があるため、初めは必死に抵抗していた【夜桜】も、何時しかただ吸血を受け入れるだけになっている。
 自分の下で恐怖と快楽に震える【夜桜】をしっかりと抑え込み、血に飢えきっている司はまたも血を啜る。

「ーーーッァあ、や、やめ、吸わなーーーーァッ」

 着流しがすっかりはだけてあられのない姿になっている【夜桜】を見て、司は自分が欲情している事に気がついた。その欲望が赴くままに、はだけた着物を更に弛め、現れた陰茎を揉む。
 そうなれば、強烈な快楽成分に犯された【夜桜】は抵抗も出来ずに受け入れるしかない。何処ぞの娼館のであろう彼に勝手に手を出すのは本来御法度なのだが、そんな事は司をもってすれば簡単に揉み消せるので問題ない。

「なに、や、ァッーーーん、く、ひ……ッッぃ、」
「気持ちいいか?……可愛いなぁお前。俺が身請けしてやろうか」

 グチュグチュとわざと音を立てながら流れる先走りをさらに塗りこみ、速度を上げてイジってやる。快楽成分に慣れたのか、微かに抵抗を始める彼に無理矢理口付けをして唾液を飲ませてやれば、更なる快楽成分にもうなんの抵抗も出来なくなったのか【夜桜】はくたりと力を抜いた。
 馬鹿な少年だ。【宵闇の王】と呼ばれる程の強さを持つ司に、一介の男娼如きが逆らえるはずがないのだ。司は少年の首筋を押さえ込み、もう一度咥えた。手の速度もさらにあげる。

「ーー、ァ"ッ、やぁ、ひ、イ"ッーーーーーーーッッ!!!」
「……っぷはっ……気持ちよくイケたな。美味かったぜ。」

 肩で息をする【夜桜】を抱き締め、首筋を舐めてやれば、傷口は直ぐに癒えてしまった。痕を残してやりたかったが、男娼ーーそれもそこそこいい店の男娼ともなれば、店の許可無く吸血されてしまったと言うだけで廃棄処分される事もあると友人達が言っていたから。
 








ーーおかしい。
 




 何故、たかが娼館にAランクーーいや、恐らくSランクの血を持った子どもがいるのか。しかも、客引きなんて危険な役目をさせている。Aランク以上の血液しか飲めない司にとっても、【夜桜】の血は極上だった。


 それに、司は彼が声をかけて来るまでその存在に気が付かなかったのだ。本来、五感が優れている吸血鬼は気配に非常に敏感だ。しかも司ほどの力を持つ吸血鬼が、たかだか男娼如きの気配に気づかないはずが無いのだ。




ブスリ。





 突然の衝撃に、司はただ呆然と【夜桜】を見つめている事しか出来なかった。
 火照っていた筈の彼の顔はいつの間にかすっかり素面で、感情の読めない真顔で司の首に太い注射器を刺し、血液を吸い出した。注射器を抜き取ると、何処から出したのか、銀色の銃口を司の腹に当て、一切の躊躇いなくぶち抜いた。
 ズドン、と鈍い音が響く。

「ーーーーーーーぐっっう、!!!」
「……は、けいせいぎゃくてーん。」

 静謐な空気を秘めていた筈の【夜桜】は、先程とすっかり雰囲気が変わっている。穏やかでどこか危うい色気を含んだ彼は何処にもいない。その代わりに、一切の感情のゆらぎもない、一本線のような不気味さを感じさせていた。

 ズキズキと痛む腹を抑えて呻く俺から抜け出した【夜桜】は、司の顔を思いっきり蹴り倒し、頭に銃口を固定した。
 どうやら吸血鬼にとって毒となる銀で作られているらしい銃弾は、貫通すること無く腹に収まり司を鮮烈な痛みで苦しめている。銀によって付けられた傷は治癒能力に優れた吸血鬼と言えども中々癒えることがないのだ。


 冷や汗が吹き出る。


「……おま、えは……」
「あははー、反応悪すぎでは?宵闇の王と言えどもこの程度か。ま、任務が思ったより平穏に進んで良かった」
「吸血鬼、狩り、か」
「気づくのおっそいですね。周りにチヤホされ過ぎて弱くなったんじゃないです?ーー押し倒された時は殺されたと思って焦りまくったけど、まさか欲情されるとは。恥ずかしい所見せちゃったなぁ……。気持ち良すぎてこのままヤラれるかと思いましたよ」


 ペラペラと一風変わって饒舌に話す【夜桜】は、しかしまだ快楽が残っているのか、銃を握る手が微かに痙攣している。それを見て、この期に及んで状況にそぐわずぶち犯したいと思ってしまう自分に呆れすら覚えてしまう。


 司はぴくりと眉を動かした。
 彼の強烈な血の匂いに気づいた友人達が近寄って来ている気配がする。目の前の少年もそれに気付いたのか、銃をしまって立ち上がり、着物をテキパキと整える。


「じゃ、俺は失礼します。『御門 司の血液を採取する』のが任務なので」

 一切振り返ることなく軽快な足取りで去っていく彼に、司はニヤリと悪辣な笑みを浮かべる。


 初めて欲しいものが手に入らなかった。初めて油断していたとはいえ自分が負けた。ーー俺のモノにしたい。あの少年を捕まえて、犯して、貶めて、縛って、快楽漬けにして、飼い殺しにしたい。


 駆けつけた友人達が悲鳴をあげて駆けつけるのも構わず、司はただ夜に乱れ咲く桜を見つめていた。












 

「失礼しまーす。任務完了の報告に参りました」
「……思ったより早かったな。ーーあぁ、確認した。御苦労。ゆっくり休むといい」
「ありがとうございま、」
「所で、この匂いはどう説明するのかな」
「うげ」
「ーー吸わせたな?」
「ごめんなさい」
「……無事だったのならいい。だが、次は無いぞ」







 









 



「ーーーーーーーぁ、ああぐ、ひーーッ!」
「ほら、『逃げてごめんなさい』と言いなさい。」
「ーー、ご、ごぇ、なさァーーッぁああ!や、ああも、やめぇーー、ぁ、ぁ、ぁ、ーー」

カチッ
ブィイイイイイインーーーーーーー!!!

「ーーーーーーーあああぁぁぁぁ!!あ、ーーーいつ、唄、にげて、ぁああ、あ、にげるのぉ、ああ"」

パンッパンッパンッパンッ!!
グチュグチュグチュグチュグチュ!!

「あ、あ、あ、あ、あ、き、きもち、は、ハハッぁ」
「ッッ気持ちいいね。キミは私の【運命】なのだから。奥さんなんて、子供なんて捨てて私のものになりなさい。」
「あぁ、ん、なる、なるからァ、あ、、もっと、ぉ、」



 あぁきたない、きたない、きたない。

 かぁさんだったものが血塗れで転がってる。
 吸血鬼がとぉさんを嬲っている。
 抵抗していた筈のとぉさんは、ただ血を啜られただけで簡単にかぁさんを裏切った。




 あぁ、気持ち悪い。全員殺そう。
しおりを挟む
感想 15

あなたにおすすめの小説

例え何度戻ろうとも僕は悪役だ…

東間
BL
ゲームの世界に転生した留木原 夜は悪役の役目を全うした…愛した者の手によって殺害される事で…… だが、次目が覚めて鏡を見るとそこには悪役の幼い姿が…?! ゲームの世界で再び悪役を演じる夜は最後に何を手に? 攻略者したいNO1の悪魔系王子と無自覚天使系悪役公爵のすれ違い小説!

壁乳

リリーブルー
BL
俺は後輩に「壁乳」に行こうと誘われた。 (作者の挿絵付きです。)

乙女ゲームのサポートメガネキャラに転生しました

西楓
BL
乙女ゲームのサポートキャラとして転生した俺は、ヒロインと攻略対象を無事くっつけることが出来るだろうか。どうやらヒロインの様子が違うような。距離の近いヒロインに徐々に不信感を抱く攻略対象。何故か攻略対象が接近してきて… ほのほのです。 ※有難いことに別サイトでその後の話をご希望されました(嬉しい😆)ので追加いたしました。

ヤクザと捨て子

幕間ささめ
BL
執着溺愛ヤクザ幹部×箱入り義理息子 ヤクザの事務所前に捨てられた子どもを自分好みに育てるヤクザ幹部とそんな保護者に育てられてる箱入り男子のお話。 ヤクザは頭の切れる爽やかな風貌の腹黒紳士。息子は細身の美男子の空回り全力少年。

真面目系委員長の同室は王道転校生⁉~王道受けの横で適度に巻き込まれて行きます~

シキ
BL
全寮制学園モノBL。 倉科誠は真面目で平凡な目立たない学級委員長だった。そう、だった。季節外れの王道転入生が来るまでは……。 倉科の通う私立藤咲学園は山奥に位置する全寮制男子高校だ。外界と隔絶されたそこでは美形生徒が信奉され、親衛隊が作られ、生徒会には俺様会長やクール系副会長が在籍する王道学園と呼ぶに相応しいであろう場所。そんな学園に一人の転入生がやってくる。破天荒な美少年の彼を中心に巻き起こる騒動に同室・同クラスな委員長も巻き込まれていき……? 真面目で平凡()な学級委員長が王道転入生くんに巻き込まれ何だかんだ総受けする青春系ラブストーリー。 一部固定CP(副会長×王道転入生)もいつつ、基本は主人公総受けです。 こちらは個人サイトで数年前に連載していて、途中だったお話です。 今度こそ完走させてあげたいと思いたってこちらで加筆修正して再連載させていただいています。 当時の企画で書いた番外編なども掲載させていただきますが、生暖かく見守ってください。

悪役令息の七日間

リラックス@ピロー
BL
唐突に前世を思い出した俺、ユリシーズ=アディンソンは自分がスマホ配信アプリ"王宮の花〜神子は7色のバラに抱かれる〜"に登場する悪役だと気付く。しかし思い出すのが遅過ぎて、断罪イベントまで7日間しか残っていない。 気づいた時にはもう遅い、それでも足掻く悪役令息の話。【お知らせ:2024年1月18日書籍発売!】

皇帝の立役者

白鳩 唯斗
BL
 実の弟に毒を盛られた。 「全てあなた達が悪いんですよ」  ローウェル皇室第一子、ミハエル・ローウェルが死に際に聞いた言葉だった。  その意味を考える間もなく、意識を手放したミハエルだったが・・・。  目を開けると、数年前に回帰していた。

ハッピーエンドのために妹に代わって惚れ薬を飲んだ悪役兄の101回目

カギカッコ「」
BL
ヤられて不幸になる妹のハッピーエンドのため、リバース転生し続けている兄は我が身を犠牲にする。妹が飲むはずだった惚れ薬を代わりに飲んで。

処理中です...