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ピッ⋯ピッ⋯ピッ⋯
ここは病院の一室である。
部屋の中にはベッドサイドモニタの電子音とすすり泣く声が静かに響いている。
そんな沈黙をやぶったのは、この病室の主だ。
もうほとんど見えない濁った目で両親を見つめ、掠れた声で話しかけた。
「⋯⋯ねぇ⋯父さん、母さん⋯⋯僕ね、幸せ⋯⋯だったんだよ⋯」
僕の家は裕福だったようで、病室は僕専用の広い一人部屋で浴槽もお手洗いも個別で付いていて、たくさんの本も用意してくれた。
それに両親は仕事で忙しいのに休みの度に話に来てくれ、お兄ちゃん達やお姉ちゃん達も仕事帰りや学校帰りに会いに来てくれ、休みの日はお嫁さんや旦那さん、彼氏や彼女、子供を連れて遊びに来てくれて、寂しいと感じる時は無かった。
「⋯⋯」
その言葉を聞き俯いていた顔をゆっくりとあげ、沈黙で答える両親。
「⋯⋯確かに、発作は⋯苦しかっ⋯⋯たし、辛かったけど、父⋯⋯さんや⋯母さんが、来て⋯くれた⋯⋯とき、とても嬉し⋯⋯かった⋯。」
兄や姉、新しく家族になった人達、姪と甥を順々に見つめる。泣いている気配がする。
「⋯先生、ずっと⋯⋯寄り添⋯⋯って、下さり⋯⋯あり、がと⋯⋯うござ⋯いました⋯⋯。
⋯⋯ははっ⋯⋯もぅ、みんな⋯の顔が⋯⋯見え、ないや⋯⋯。⋯でも、みんな⋯泣いて⋯⋯いる気配が⋯する。⋯⋯ダメだよ⋯。⋯⋯おと、なが泣いたら⋯⋯子供達が⋯ふ、あんに⋯⋯なっ⋯⋯ちゃう⋯。
⋯⋯ねぇ、旦那さん⋯お嫁さん⋯の⋯みな、さん⋯⋯僕の兄さん⋯や姉さん、達は⋯⋯家族を⋯とても⋯とっても⋯⋯大事にす、る人⋯達です。⋯⋯でも、不器用なとこ、ろが⋯あり、ます。⋯⋯抱え込ま、ない、よう⋯⋯みてて、あげ、て下さい⋯。」
お嫁さんや旦那さん達が頷く気配がする。その事に安心して、顔を緩める。
「⋯⋯甥っ子⋯ちゃん、姪っ⋯子ちゃん⋯⋯達、おじちゃんと⋯⋯約束しよう⋯⋯?⋯⋯ママやパパ達⋯じいじや、ばあば⋯達と⋯⋯仲良く⋯する、って⋯⋯」
『うん!』
甥や姪が元気に返事するのが聞こえる。しかし、涙を我慢している気配がするため、幼いながらもこれから起こることをしっかりと理解した上での返事なのだろう。賢い子達だ。
「よろ、しくね。
⋯⋯みんな、あり⋯がと、う⋯⋯。⋯みんなに会、えて⋯⋯しあ、わせ⋯⋯だった。⋯⋯いと、しい、ひと⋯⋯た⋯⋯ち⋯⋯⋯よ⋯。⋯ま⋯⋯⋯た⋯ね⋯⋯」
声がだんだんと小さくなって最後は消え入りそうな声だった。
願わくば、来世は一度でいいから外に出たいと思いながら笑顔でスゥーっと息を引き取った。
ピーーー
ベッドサイドモニタから先程とは違う電子音がなり響き、部屋にいる全ての人が泣き崩れる。しばらくなっていた電子音は、先生の手によって止められた。
ここは病院の一室である。
部屋の中にはベッドサイドモニタの電子音とすすり泣く声が静かに響いている。
そんな沈黙をやぶったのは、この病室の主だ。
もうほとんど見えない濁った目で両親を見つめ、掠れた声で話しかけた。
「⋯⋯ねぇ⋯父さん、母さん⋯⋯僕ね、幸せ⋯⋯だったんだよ⋯」
僕の家は裕福だったようで、病室は僕専用の広い一人部屋で浴槽もお手洗いも個別で付いていて、たくさんの本も用意してくれた。
それに両親は仕事で忙しいのに休みの度に話に来てくれ、お兄ちゃん達やお姉ちゃん達も仕事帰りや学校帰りに会いに来てくれ、休みの日はお嫁さんや旦那さん、彼氏や彼女、子供を連れて遊びに来てくれて、寂しいと感じる時は無かった。
「⋯⋯」
その言葉を聞き俯いていた顔をゆっくりとあげ、沈黙で答える両親。
「⋯⋯確かに、発作は⋯苦しかっ⋯⋯たし、辛かったけど、父⋯⋯さんや⋯母さんが、来て⋯くれた⋯⋯とき、とても嬉し⋯⋯かった⋯。」
兄や姉、新しく家族になった人達、姪と甥を順々に見つめる。泣いている気配がする。
「⋯先生、ずっと⋯⋯寄り添⋯⋯って、下さり⋯⋯あり、がと⋯⋯うござ⋯いました⋯⋯。
⋯⋯ははっ⋯⋯もぅ、みんな⋯の顔が⋯⋯見え、ないや⋯⋯。⋯でも、みんな⋯泣いて⋯⋯いる気配が⋯する。⋯⋯ダメだよ⋯。⋯⋯おと、なが泣いたら⋯⋯子供達が⋯ふ、あんに⋯⋯なっ⋯⋯ちゃう⋯。
⋯⋯ねぇ、旦那さん⋯お嫁さん⋯の⋯みな、さん⋯⋯僕の兄さん⋯や姉さん、達は⋯⋯家族を⋯とても⋯とっても⋯⋯大事にす、る人⋯達です。⋯⋯でも、不器用なとこ、ろが⋯あり、ます。⋯⋯抱え込ま、ない、よう⋯⋯みてて、あげ、て下さい⋯。」
お嫁さんや旦那さん達が頷く気配がする。その事に安心して、顔を緩める。
「⋯⋯甥っ子⋯ちゃん、姪っ⋯子ちゃん⋯⋯達、おじちゃんと⋯⋯約束しよう⋯⋯?⋯⋯ママやパパ達⋯じいじや、ばあば⋯達と⋯⋯仲良く⋯する、って⋯⋯」
『うん!』
甥や姪が元気に返事するのが聞こえる。しかし、涙を我慢している気配がするため、幼いながらもこれから起こることをしっかりと理解した上での返事なのだろう。賢い子達だ。
「よろ、しくね。
⋯⋯みんな、あり⋯がと、う⋯⋯。⋯みんなに会、えて⋯⋯しあ、わせ⋯⋯だった。⋯⋯いと、しい、ひと⋯⋯た⋯⋯ち⋯⋯⋯よ⋯。⋯ま⋯⋯⋯た⋯ね⋯⋯」
声がだんだんと小さくなって最後は消え入りそうな声だった。
願わくば、来世は一度でいいから外に出たいと思いながら笑顔でスゥーっと息を引き取った。
ピーーー
ベッドサイドモニタから先程とは違う電子音がなり響き、部屋にいる全ての人が泣き崩れる。しばらくなっていた電子音は、先生の手によって止められた。
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