26 / 28
嫉妬
しおりを挟む
「はあー、ようやくヒロに会えた。数え年だと十五だが、獣人の数え方だともう二十代半ばだ。ヒロ、これで文句はないだろう?」
「そう、かもしれませんけど……私、セオドア様に黙っていたことがあります」
「異世界のことか?」
ぴたりと言い当てられて、ヒロは一瞬固まった。
「聞いたのですか?」
「ヒロと一緒になりたいと父様に言った時に聞いた。会えなくなるのだぞと。しかしローガンが言うには、呼び出して帰すことができると言うじゃないか。それなら僕がそっちへ行こう」
「国王は!? ならないのですか?」
一番重要なことだと声をあげると、セオドアは微笑みながら首を振った。
「ヒロに会わない間、考えたのだ。何が大事かを。元気になった体で、何になりたいかを。僕は、国王より、この獣人の体を活かせる騎士になりたい。そしてその力で国と、僕を助けてくれたヒロを守りたい」
「それは、恩を感じていただけているのはありがたいですが、友愛と恋愛は違いますよ」
「分かっている。例えヒロが男だとしても、自分のものにしたいと思ったのだ。隣に立つのは自分以外ありえないと。ちゃんと恋愛として好きだ。病を治してくれたのは、そのきっかけにすぎない」
これだけ言われてしまっては、ヒロはもう押し黙るしかなかった。セオドアが返事を求めているのを感じてはいるけれど、ヒロは自分の気持ちがぐちゃぐちゃで分からなかった。
「あの」
「うん」
「その、セオドア様」
「うん」
「私、今混乱していて……自分の気持ちが分からないのです……セオドア様のことはもちろん好きですが、それが弟としてなのか、恋人としてなのかが、よく分からなくて」
セオドアは、ヒロの話を聞きながら、握っている手を親指で優しく撫ぜる。セオドアの手はひとまわり大きくなっていて、すっぽりヒロの手を包み込んでいた。
握られた手を見ながら、ヒロはぽつりぽつりと続ける。
「急なことに、困惑しています……まさか、本当に、その、思いを寄せてくださっているとは思わず……この先もっと良い人と出会うかもしれませんよ?」
「僕はヒロが良い。このまま帰したら後悔する」
「私、元の世界に帰りたいです。だからもし度々会えるとしても、長期滞在はできないと思います」
「そこは互いのスケジュールを鑑みて、調節しよう」
「……なんだか、考え方も大人になりました?」
「中身も成長するからだろう。あとは父様やエナとたくさん話をしたからかな」
国王と話をするのは分かるが、エナとそんなに何を話したのだろう。
「父様とは国のことについて。国王を継がなくても、知っておいた方が国のためになるから。これからも勉強していくつもりだ。エナとはヒロのことについてかな」
何を話したのか聞きたいが、藪蛇がこわくて聞けなかった。恥ずかしい思いをする予感しかしない。
「……あとは、母様とも話した。国王ではなく、騎士団長を目指す、僕の想いを伝えたら、泣かれてしまった」
「きっと、嬉しかったのではないでしょうか」
「うん。母様もそう言っていた。立派に育ってくれてありがとうと」
親子のわだかまりは解けたようだ。良かったと思うと同時に、セオドアが嬉しそうにしていることが、ヒロにとっても嬉しかった。
「ヒロ。返事は急がないけれど、でもその間に他の誰かに取られたら嫌だ」
「それはないですよ」
「さっき男と話していただろう」
「あれは本当に話していただけですよ」
「ヒロはそうでも、相手はどうかな」
むっすりとしたセオドアの顔は、幼い頃と変わらず可愛くて、思わず頭に手が伸びていた。ぽん、と手を乗せた瞬間の感触に、はっとする。
「……なでてくれ、ヒロ」
察したセオドアが、促す。ぎこちなくなりつつも撫でると、不機嫌丸出しの表情だった顔を溶かして、満足そうに目を閉じた。
「そう、かもしれませんけど……私、セオドア様に黙っていたことがあります」
「異世界のことか?」
ぴたりと言い当てられて、ヒロは一瞬固まった。
「聞いたのですか?」
「ヒロと一緒になりたいと父様に言った時に聞いた。会えなくなるのだぞと。しかしローガンが言うには、呼び出して帰すことができると言うじゃないか。それなら僕がそっちへ行こう」
「国王は!? ならないのですか?」
一番重要なことだと声をあげると、セオドアは微笑みながら首を振った。
「ヒロに会わない間、考えたのだ。何が大事かを。元気になった体で、何になりたいかを。僕は、国王より、この獣人の体を活かせる騎士になりたい。そしてその力で国と、僕を助けてくれたヒロを守りたい」
「それは、恩を感じていただけているのはありがたいですが、友愛と恋愛は違いますよ」
「分かっている。例えヒロが男だとしても、自分のものにしたいと思ったのだ。隣に立つのは自分以外ありえないと。ちゃんと恋愛として好きだ。病を治してくれたのは、そのきっかけにすぎない」
これだけ言われてしまっては、ヒロはもう押し黙るしかなかった。セオドアが返事を求めているのを感じてはいるけれど、ヒロは自分の気持ちがぐちゃぐちゃで分からなかった。
「あの」
「うん」
「その、セオドア様」
「うん」
「私、今混乱していて……自分の気持ちが分からないのです……セオドア様のことはもちろん好きですが、それが弟としてなのか、恋人としてなのかが、よく分からなくて」
セオドアは、ヒロの話を聞きながら、握っている手を親指で優しく撫ぜる。セオドアの手はひとまわり大きくなっていて、すっぽりヒロの手を包み込んでいた。
握られた手を見ながら、ヒロはぽつりぽつりと続ける。
「急なことに、困惑しています……まさか、本当に、その、思いを寄せてくださっているとは思わず……この先もっと良い人と出会うかもしれませんよ?」
「僕はヒロが良い。このまま帰したら後悔する」
「私、元の世界に帰りたいです。だからもし度々会えるとしても、長期滞在はできないと思います」
「そこは互いのスケジュールを鑑みて、調節しよう」
「……なんだか、考え方も大人になりました?」
「中身も成長するからだろう。あとは父様やエナとたくさん話をしたからかな」
国王と話をするのは分かるが、エナとそんなに何を話したのだろう。
「父様とは国のことについて。国王を継がなくても、知っておいた方が国のためになるから。これからも勉強していくつもりだ。エナとはヒロのことについてかな」
何を話したのか聞きたいが、藪蛇がこわくて聞けなかった。恥ずかしい思いをする予感しかしない。
「……あとは、母様とも話した。国王ではなく、騎士団長を目指す、僕の想いを伝えたら、泣かれてしまった」
「きっと、嬉しかったのではないでしょうか」
「うん。母様もそう言っていた。立派に育ってくれてありがとうと」
親子のわだかまりは解けたようだ。良かったと思うと同時に、セオドアが嬉しそうにしていることが、ヒロにとっても嬉しかった。
「ヒロ。返事は急がないけれど、でもその間に他の誰かに取られたら嫌だ」
「それはないですよ」
「さっき男と話していただろう」
「あれは本当に話していただけですよ」
「ヒロはそうでも、相手はどうかな」
むっすりとしたセオドアの顔は、幼い頃と変わらず可愛くて、思わず頭に手が伸びていた。ぽん、と手を乗せた瞬間の感触に、はっとする。
「……なでてくれ、ヒロ」
察したセオドアが、促す。ぎこちなくなりつつも撫でると、不機嫌丸出しの表情だった顔を溶かして、満足そうに目を閉じた。
21
お気に入りに追加
23
あなたにおすすめの小説
異世界に召喚されたけど間違いだからって棄てられました
ピコっぴ
ファンタジー
【異世界に召喚されましたが、間違いだったようです】
ノベルアッププラス小説大賞一次選考通過作品です
※自筆挿絵要注意⭐
表紙はhake様に頂いたファンアートです
(Twitter)https://mobile.twitter.com/hake_choco
異世界召喚などというファンタジーな経験しました。
でも、間違いだったようです。
それならさっさと帰してくれればいいのに、聖女じゃないから神殿に置いておけないって放り出されました。
誘拐同然に呼びつけておいてなんて言いぐさなの!?
あまりのひどい仕打ち!
私はどうしたらいいの……!?
家ごと異世界ライフ
ねむたん
ファンタジー
突然、自宅ごと異世界の森へと転移してしまった高校生・紬。電気や水道が使える不思議な家を拠点に、自給自足の生活を始める彼女は、個性豊かな住人たちや妖精たちと出会い、少しずつ村を発展させていく。温泉の発見や宿屋の建築、そして寡黙なドワーフとのほのかな絆――未知の世界で織りなす、笑いと癒しのスローライフファンタジー!
『異世界庭付き一戸建て』を相続した仲良し兄妹は今までの不幸にサヨナラしてスローライフを満喫できる、はず?
釈 余白(しやく)
ファンタジー
HOT 1位!ファンタジー 3位! ありがとうございます!
父親が不慮の事故で死亡したことで最後の肉親を失い残された高校生の小村雷人(こむら らいと)と小学生の真琴(まこと)の兄妹が聞かされたのは、父が家を担保に金を借りていたという絶望の事実だった。慣れ親しんだ自宅から早々の退去が必要となった二人は家の中で金目の物を探す。
その結果見つかったのは、僅かな現金に空の預金通帳といくつかの宝飾品、そして家の権利書と見知らぬ文字で書かれた書類くらいだった。謎の書類には祖父のサインが記されていたが内容は読めず、頼みの綱は挟まれていた弁護士の名刺だけだ。
最後の希望とも言える名刺の電話番号へ連絡した二人は、やってきた弁護士から契約書の内容を聞かされ唖然とする。それは祖父が遺産として残した『異世界トラス』にある土地と建物を孫へ渡すというものだった。もちろん現地へ行かなければ遺産は受け取れないが。兄妹には他に頼れるものがなく、思い切って異世界へと赴き新生活をスタートさせるのだった。
その他、多数投稿しています!
https://www.alphapolis.co.jp/author/detail/398438394
好き勝手スローライフしていただけなのに伝説の英雄になってしまった件~異世界転移させられた先は世界最凶の魔境だった~
狐火いりす@商業作家
ファンタジー
事故でショボ死した主人公──星宮なぎさは神によって異世界に転移させられる。
そこは、Sランク以上の魔物が当たり前のように闊歩する世界最凶の魔境だった。
「せっかく手に入れた第二の人生、楽しみつくさねぇともったいねぇだろ!」
神様の力によって【創造】スキルと最強フィジカルを手に入れたなぎさは、自由気ままなスローライフを始める。
露天風呂付きの家を建てたり、倒した魔物でおいしい料理を作ったり、美人な悪霊を仲間にしたり、ペットを飼ってみたり。
やりたいことをやって好き勝手に生きていく。
なぜか人類未踏破ダンジョンを攻略しちゃったり、ペットが神獣と幻獣だったり、邪竜から目をつけられたりするけど、細かいことは気にしない。
人類最強の主人公がただひたすら好き放題生きていたら伝説になってしまった、そんなほのぼのギャグコメディ。
異世界召喚されたけどヤバい国だったので逃げ出したら、イケメン騎士様に溺愛されました
平山和人
恋愛
平凡なOLの清水恭子は異世界に集団召喚されたが、見るからに怪しい匂いがプンプンしていた。
騎士団長のカイトの出引きで国を脱出することになったが、追っ手に追われる逃亡生活が始まった。
そうした生活を続けていくうちに二人は相思相愛の関係となり、やがて結婚を誓い合うのであった。
最強ドラゴンを生贄に召喚された俺。死霊使いで無双する!?
夢・風魔
ファンタジー
生贄となった生物の一部を吸収し、それを能力とする勇者召喚魔法。霊媒体質の御霊霊路(ミタマレイジ)は生贄となった最強のドラゴンの【残り物】を吸収し、鑑定により【死霊使い】となる。
しかし異世界で死霊使いは不吉とされ――厄介者だ――その一言でレイジは追放される。その背後には生贄となったドラゴンが憑りついていた。
ドラゴンを成仏させるべく、途中で出会った女冒険者ソディアと二人旅に出る。
次々と出会う死霊を仲間に加え(させられ)、どんどん増えていくアンデッド軍団。
アンデッド無双。そして規格外の魔力を持ち、魔法禁止令まで発動されるレイジ。
彼らの珍道中はどうなるのやら……。
*小説家になろうでも投稿しております。
*タイトルの「古代竜」というのをわかりやすく「最強ドラゴン」に変更しました。
【書籍化決定】俗世から離れてのんびり暮らしていたおっさんなのに、俺が書の守護者って何かの間違いじゃないですか?
歩く魚
ファンタジー
幼い頃に迫害され、一人孤独に山で暮らすようになったジオ・プライム。
それから数十年が経ち、気づけば38歳。
のんびりとした生活はこの上ない幸せで満たされていた。
しかしーー
「も、もう一度聞いて良いですか? ジオ・プライムさん、あなたはこの死の山に二十五年間も住んでいるんですか?」
突然の来訪者によると、この山は人間が住める山ではなく、彼は世間では「書の守護者」と呼ばれ都市伝説のような存在になっていた。
これは、自分のことを弱いと勘違いしているダジャレ好きのおっさんが、人々を導き、温かさを思い出す物語。
※書籍化のため更新をストップします。
神獣に転生!?人を助けて死んだら異世界に転生する事になりました
Miki
ファンタジー
学校が終わりバイトに行く途中、子供を助けて代わりに死んでしまった。
実は、助けた子供は別の世界の神様でお詫びに自分の世界に転生させてくれると言う。
何か欲しい能力があるか聞かれたので希望をいい、いよいよ異世界に転生すると・・・・・・
何故か神獣に転生していた!
始めて書いた小説なので、文章がおかしかったり誤字などあるかもしてませんがよろしくお願いいたします。
更新は、話が思いついたらするので早く更新できる時としばらく更新てきない時があります。ご了承ください。
人との接し方などコミュニケーションが苦手なので感想等は返信できる時とできない時があります。返信できなかった時はごめんなさいm(_ _)m
なるべく返信できるように努力します。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる