上 下
24 / 28

パーティー

しおりを挟む
 しばらくその場に突っ立っていたが、ヒロもパーティーに出席しなければならない。下を見下ろすと、まだ行列ができていたので、それに合流しようと、下に向かう階段を探した。結局、兵士に迷っているところを見つかって、案内してもらい、集団に紛れ込む。
 セオドアはともかく、国王が変装を楽しみにしていたが会った方が良いのだろうかとヒロは考えた。しかし、一般の何の後ろ盾もない参加者が、国王に声をかけるなど、目立つ以外の何者でもない。機会があればで良いか、と考え直して、ヒロは流されるままに人の列にならって進んだ。
 そうして着いた先は、大きなホールだった。まるで舞踏会でも行われそうな……。

(まさか、舞踏会じゃないよね? 立食パーティーだよね?)

 立食パーティーとは言われてないが、ヒロはてっきり美味しいものを摘んだり、談笑したりするパーティーだと思っていた。しかし、ホールには何もなく、ただ広いだけの空間がそこにあるだけ。そして、後から後から入ってくる人々が、そこここに立ち並んで談笑している。
 ヒロの背中に冷や汗が流れた。壁の花になっていればいいのだろうけれど、万が一ダンスがあって、誘われたらどうしよう。誘われることはないのが大前提とはいえ、隠れる場所もないので何が起きてもおかしくない。ひとりハラハラしながら、壁の際になるべく身を寄せて人混みの影に隠れるようにする。

「セオドア殿下のお顔を見れるのは何年振りかしら?」

 ちょうど近くでセオドアの名前を聞き、ヒロは肩が跳ねた。

「すっかり元気になったご様子だそうよ」
「私はあまり記憶にございませんけれど、あの国王陛下と王妃様のお子様ですもの。素敵な方に違いないわ」
「でも今日は成人の儀のお披露目だけで、婚約者探しはしないそうよ」
「あら、そうなの?」
「病が治ったといえど、十五歳になられたばかりだからかしら?」
「それでもそろそろ結婚のことは考えておられるはずよねえ」

 セオドア様、結婚するのか。どこか呆然とした気持ちで、耳をすり抜けていく言葉を聞く。

「でも獣人よ?」
「そうねえ、王妃には少し厳しいわね」
「王妃になるには、弟のルカ殿下を狙うべきなのでしょうけれど、まだ子どもなのが否めなくて……美しくはあるのだけれど……」
「セオドア殿下も、獣人でなければ良かったですのにねえ」

 獣人、と聞いて、ふと見回せば、ここにいる参加者は人間ばかりなことに気付いた。獣人はこのような場に出ることもできないのか。ヒロは、腹が立つような悲しいような心地がした。
 それにしても、と思う。なんやかんやセオドアのことを噂している女子たちは、何をもってセオドアを評価しているのか。顔と獣人の二点だけしかないではないか。セオドアは、優しく賢く、可愛くてかっこよく、素敵な人であるというのに。と、先ほどのセオドアとの鉢合わせを思い出して、頬が熱くなった。

「静粛に」

 響き渡った一声に、ざわめきがサッと静まる。
 声の元を見ると、謁見の間のように高い位置に国王と王妃が並んで立っていた。彼らの背後には扉があって、そこから入って来たようだ。そこからホールの壁を沿うように伸びる階段を、国王は王妃の手を取って、ゆっくりと降りてくる。
 二人の後ろに、人影が現れた。銀の髪に、青い瞳。セオドアだ。彼もまた、国王と王妃のあとに続いてゆっくりと降りて来る。
 細波のように、人々がひそひそと声を漏らした。
 国王と王妃が、ホール正面の、三段ほど高い位置にある椅子にそれぞれ腰掛けると、人々の声も止んだ。セオドアも、国王と王妃の間にある椅子に腰掛ける。
 国王が再び立つ。

「今日は誠に良き日である。第一王子セオドアの、成人の儀を執り行ったことをここに宣言する」

 人々が拍手したのに続いて、ヒロも拍手した。

「さて、セオドアの成人を祝い、集ってくれたこと、感謝する。本日は楽しんでいかれよ」

 パン、と国王が拍手すると、ヒロのところからは人が多くて見えなかった楽団が、リズムの良いクラシカルな演奏を始めた。同時にホールの扉から、シェフたちが馳走の乗ったワゴンを運んできて、いい匂いが立ち込めた。ヒロが食べ物に釣られている間に、あっという間に何組かの男女がホールの中心に出て踊り、また何組かは王家の前に立ち並び、順番に挨拶を始めた。
 その様子を見て、やっぱり場違いな気しかないと思いつつ、ワゴンの側へにじり寄る。
 普段からここのご飯を食べ慣れているけれど、このような場に出される料理はまた一味違っていて、とても豪華だった。
 ヒロは小皿片手に、片っ端から食べていった。どれも一口サイズにしてあるので、全種類食べてしまえるのが嬉しいところだ。もぐもぐと口を動かしながら、踊っている男女を眺める。ワルツというのだろうか、ヒロには分からないが、くるりと回った時に広がるドレスの裾が綺麗だと思った。
 こうして見るだけでも楽しい。国王も王妃も、楽しんでと言っていたが、ヒロは踊らなくても十分楽しんでいた。さて、あとはデザートを、ワゴンを物色していたところ、ヒロに声がかけられた。

「もし、そこのお嬢さん」
「……」
「あなたですよ、美味しそうにたくさん食べていらっしゃる黒髪のお嬢さん」
「……わたし!?」

 ハッと思わず顔を上げると、横から胸に手を当てて覗き込んでいた青年と目があった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

異世界に召喚されたけど間違いだからって棄てられました

ピコっぴ
ファンタジー
【異世界に召喚されましたが、間違いだったようです】 ノベルアッププラス小説大賞一次選考通過作品です ※自筆挿絵要注意⭐ 表紙はhake様に頂いたファンアートです (Twitter)https://mobile.twitter.com/hake_choco 異世界召喚などというファンタジーな経験しました。 でも、間違いだったようです。 それならさっさと帰してくれればいいのに、聖女じゃないから神殿に置いておけないって放り出されました。 誘拐同然に呼びつけておいてなんて言いぐさなの!? あまりのひどい仕打ち! 私はどうしたらいいの……!?

家ごと異世界ライフ

ねむたん
ファンタジー
突然、自宅ごと異世界の森へと転移してしまった高校生・紬。電気や水道が使える不思議な家を拠点に、自給自足の生活を始める彼女は、個性豊かな住人たちや妖精たちと出会い、少しずつ村を発展させていく。温泉の発見や宿屋の建築、そして寡黙なドワーフとのほのかな絆――未知の世界で織りなす、笑いと癒しのスローライフファンタジー!

『異世界庭付き一戸建て』を相続した仲良し兄妹は今までの不幸にサヨナラしてスローライフを満喫できる、はず?

釈 余白(しやく)
ファンタジー
HOT 1位!ファンタジー 3位! ありがとうございます!  父親が不慮の事故で死亡したことで最後の肉親を失い残された高校生の小村雷人(こむら らいと)と小学生の真琴(まこと)の兄妹が聞かされたのは、父が家を担保に金を借りていたという絶望の事実だった。慣れ親しんだ自宅から早々の退去が必要となった二人は家の中で金目の物を探す。  その結果見つかったのは、僅かな現金に空の預金通帳といくつかの宝飾品、そして家の権利書と見知らぬ文字で書かれた書類くらいだった。謎の書類には祖父のサインが記されていたが内容は読めず、頼みの綱は挟まれていた弁護士の名刺だけだ。  最後の希望とも言える名刺の電話番号へ連絡した二人は、やってきた弁護士から契約書の内容を聞かされ唖然とする。それは祖父が遺産として残した『異世界トラス』にある土地と建物を孫へ渡すというものだった。もちろん現地へ行かなければ遺産は受け取れないが。兄妹には他に頼れるものがなく、思い切って異世界へと赴き新生活をスタートさせるのだった。 その他、多数投稿しています! https://www.alphapolis.co.jp/author/detail/398438394

好き勝手スローライフしていただけなのに伝説の英雄になってしまった件~異世界転移させられた先は世界最凶の魔境だった~

狐火いりす@商業作家
ファンタジー
 事故でショボ死した主人公──星宮なぎさは神によって異世界に転移させられる。  そこは、Sランク以上の魔物が当たり前のように闊歩する世界最凶の魔境だった。 「せっかく手に入れた第二の人生、楽しみつくさねぇともったいねぇだろ!」  神様の力によって【創造】スキルと最強フィジカルを手に入れたなぎさは、自由気ままなスローライフを始める。  露天風呂付きの家を建てたり、倒した魔物でおいしい料理を作ったり、美人な悪霊を仲間にしたり、ペットを飼ってみたり。  やりたいことをやって好き勝手に生きていく。  なぜか人類未踏破ダンジョンを攻略しちゃったり、ペットが神獣と幻獣だったり、邪竜から目をつけられたりするけど、細かいことは気にしない。  人類最強の主人公がただひたすら好き放題生きていたら伝説になってしまった、そんなほのぼのギャグコメディ。

異世界召喚されたけどヤバい国だったので逃げ出したら、イケメン騎士様に溺愛されました

平山和人
恋愛
平凡なOLの清水恭子は異世界に集団召喚されたが、見るからに怪しい匂いがプンプンしていた。 騎士団長のカイトの出引きで国を脱出することになったが、追っ手に追われる逃亡生活が始まった。 そうした生活を続けていくうちに二人は相思相愛の関係となり、やがて結婚を誓い合うのであった。

【書籍化決定】俗世から離れてのんびり暮らしていたおっさんなのに、俺が書の守護者って何かの間違いじゃないですか?

歩く魚
ファンタジー
幼い頃に迫害され、一人孤独に山で暮らすようになったジオ・プライム。 それから数十年が経ち、気づけば38歳。 のんびりとした生活はこの上ない幸せで満たされていた。 しかしーー 「も、もう一度聞いて良いですか? ジオ・プライムさん、あなたはこの死の山に二十五年間も住んでいるんですか?」 突然の来訪者によると、この山は人間が住める山ではなく、彼は世間では「書の守護者」と呼ばれ都市伝説のような存在になっていた。 これは、自分のことを弱いと勘違いしているダジャレ好きのおっさんが、人々を導き、温かさを思い出す物語。 ※書籍化のため更新をストップします。

神獣に転生!?人を助けて死んだら異世界に転生する事になりました

Miki
ファンタジー
学校が終わりバイトに行く途中、子供を助けて代わりに死んでしまった。 実は、助けた子供は別の世界の神様でお詫びに自分の世界に転生させてくれると言う。 何か欲しい能力があるか聞かれたので希望をいい、いよいよ異世界に転生すると・・・・・・ 何故か神獣に転生していた! 始めて書いた小説なので、文章がおかしかったり誤字などあるかもしてませんがよろしくお願いいたします。 更新は、話が思いついたらするので早く更新できる時としばらく更新てきない時があります。ご了承ください。 人との接し方などコミュニケーションが苦手なので感想等は返信できる時とできない時があります。返信できなかった時はごめんなさいm(_ _)m なるべく返信できるように努力します。

異世界でフローライフを 〜誤って召喚されたんだけど!〜

はくまい
ファンタジー
ひょんなことから異世界へと転生した少女、江西奏は、全く知らない場所で目が覚めた。 目の前には小さなお家と、周囲には森が広がっている。 家の中には一通の手紙。そこにはこの世界を救ってほしいということが書かれていた。 この世界は十人の魔女によって支配されていて、奏は最後に召喚されたのだが、宛先に奏の名前ではなく、別の人の名前が書かれていて……。 「人違いじゃないかー!」 ……奏の叫びももう神には届かない。 家の外、柵の向こう側では聞いたこともないような獣の叫ぶ声も響く世界。 戻る手だてもないまま、奏はこの家の中で使えそうなものを探していく。 植物に愛された奏の異世界新生活が、始まろうとしていた。

処理中です...