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仲直り?
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ヒロはエナのことをこちらのお母さんだと思っている節がある。何かあった時に、真っ先に頼りにする相手だ。
「エナー!」
エナはセオドアのご飯を用意してもらっているところだった。
「どうしました、ヒロ」
「セオドア様に嫌われてしまったかもしれない……」
ヒロが嘆くと、エナは声を立てて笑った。
「まさか。セオドア様がヒロを嫌うだなんて、ありえないわ」
「私、余計なことを言ったかもしれないんです」
「セオドア様はそのくらいで嫌いになることはないですよ。いつも心が広くて優しいセオドア様って言っているのはどなた?」
「私です……」
「なら平気でしょう? ほらヒロ、ご飯の支度ができたから行きますよ」
「あ、いや、少しひとりにしてくれと言われたんです」
「それでもご飯はお持ちしなくては。ちょうど水差しが持てなかったので助かりました」
エナに言われて、小さなワゴンに乗り切らなかった水差しを持った。さっきの今で、セオドアと顔を合わせるのは気まずいが、仕事と言われればやらなくてはならない。
ヒロは来た道を戻り、セオドアの部屋の前に立った。エナがノックをする。
「セオドア様、ご飯をお持ちしました」
エナが部屋に入る後ろを、おそるおそるついて行く。そうして、二人でベッドの脇に小さな机を用意し、そこに配膳をしていく。ヒロはセオドアの方をなるべく見ないようにした。
食事中は、喉に詰まらせたり何かあってはいけないように側についていなければならない。カチャ、カチャ、とカトラリーとお皿がぶつかる音だけが響く。いつもなら同じような状況にあっても何とも思わないが、今日は居心地が悪くてたまらなかった。
セオドアが食事を終え、後片付けをして、ヒロがワゴンを持って行こうとしていた時、彼に話しかけられた。
「ヒロ」
「はい!」
「僕たちは喧嘩をしているわけではないのだから、普通にしてほしい……そうだろう?」
「申し訳ありません。勝手に気まずく思ってしまい……セオドア様が怒ったかなと思うと……」
「ヒロは僕が怒ったと思ったのか?」
「はい……」
「僕だって、ひどい言葉を投げつけられたりしない限りはそう簡単に怒ることはないよ。逆に、一度も目が合わないからちょっと傷付いた、かな」
ヒロは自分の早計な判断を反省した。
「セオドア様、申し訳ありませんでした。あの、私のことお嫌いになられたりしてませんか?」
「ヒロのことを嫌いになどなるものか! 前に言ったろう、兄のようだと。兄みたいな存在を簡単に嫌いになどなるものか」
セオドアの耳がピンと立った。ヒロはほっとした。
「安心しました。私ばかりがセオドア様に心を傾けているのかと思いましたが、セオドア様も、私のことを思ってくださっているのですね。なんて」
ヒロが調子に乗ってそんなことを言うと、セオドアは少しばかり頬を赤くした。
「それは何か語弊があるような気がするのだが……」
「仲良しってことですよ!」
「ヒロ、あんなに不安そうにしてたのに、現金なものですね」
エナの一言に、ヒロは空笑いしてみせた。
「でも本当に良かったです。じゃあ私、ワゴンを持って行ってきますね」
今にも鼻歌を歌い出しそうなくらいに声音が弾んでいるヒロを、セオドアとエナは微笑んで見送った。
「エナー!」
エナはセオドアのご飯を用意してもらっているところだった。
「どうしました、ヒロ」
「セオドア様に嫌われてしまったかもしれない……」
ヒロが嘆くと、エナは声を立てて笑った。
「まさか。セオドア様がヒロを嫌うだなんて、ありえないわ」
「私、余計なことを言ったかもしれないんです」
「セオドア様はそのくらいで嫌いになることはないですよ。いつも心が広くて優しいセオドア様って言っているのはどなた?」
「私です……」
「なら平気でしょう? ほらヒロ、ご飯の支度ができたから行きますよ」
「あ、いや、少しひとりにしてくれと言われたんです」
「それでもご飯はお持ちしなくては。ちょうど水差しが持てなかったので助かりました」
エナに言われて、小さなワゴンに乗り切らなかった水差しを持った。さっきの今で、セオドアと顔を合わせるのは気まずいが、仕事と言われればやらなくてはならない。
ヒロは来た道を戻り、セオドアの部屋の前に立った。エナがノックをする。
「セオドア様、ご飯をお持ちしました」
エナが部屋に入る後ろを、おそるおそるついて行く。そうして、二人でベッドの脇に小さな机を用意し、そこに配膳をしていく。ヒロはセオドアの方をなるべく見ないようにした。
食事中は、喉に詰まらせたり何かあってはいけないように側についていなければならない。カチャ、カチャ、とカトラリーとお皿がぶつかる音だけが響く。いつもなら同じような状況にあっても何とも思わないが、今日は居心地が悪くてたまらなかった。
セオドアが食事を終え、後片付けをして、ヒロがワゴンを持って行こうとしていた時、彼に話しかけられた。
「ヒロ」
「はい!」
「僕たちは喧嘩をしているわけではないのだから、普通にしてほしい……そうだろう?」
「申し訳ありません。勝手に気まずく思ってしまい……セオドア様が怒ったかなと思うと……」
「ヒロは僕が怒ったと思ったのか?」
「はい……」
「僕だって、ひどい言葉を投げつけられたりしない限りはそう簡単に怒ることはないよ。逆に、一度も目が合わないからちょっと傷付いた、かな」
ヒロは自分の早計な判断を反省した。
「セオドア様、申し訳ありませんでした。あの、私のことお嫌いになられたりしてませんか?」
「ヒロのことを嫌いになどなるものか! 前に言ったろう、兄のようだと。兄みたいな存在を簡単に嫌いになどなるものか」
セオドアの耳がピンと立った。ヒロはほっとした。
「安心しました。私ばかりがセオドア様に心を傾けているのかと思いましたが、セオドア様も、私のことを思ってくださっているのですね。なんて」
ヒロが調子に乗ってそんなことを言うと、セオドアは少しばかり頬を赤くした。
「それは何か語弊があるような気がするのだが……」
「仲良しってことですよ!」
「ヒロ、あんなに不安そうにしてたのに、現金なものですね」
エナの一言に、ヒロは空笑いしてみせた。
「でも本当に良かったです。じゃあ私、ワゴンを持って行ってきますね」
今にも鼻歌を歌い出しそうなくらいに声音が弾んでいるヒロを、セオドアとエナは微笑んで見送った。
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