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王妃と弟
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そこへ、兵士がひとり駆けてきた。
「ヒロ殿へ、オリビア王妃様からお茶会のお誘いを承って参りました!」
「お茶会?」
という名の干される場では。ジェンソン国王は今まで何度か顔を合わせたことがある上に、茶目っ気があり、今ではすっかり国王と言うよりセオドアのパパだと思っている節がある。しかし、王妃様。会ったことがない上に、女性はどちらかというと男性より粘っこい接待になる印象がヒロにはある。
例えば、相手の顔や身につけているものをよく見たり、応対に関して気持ちが機微に反応したり、褒めたと思ったら後で陰口を言ったり。男性がそうではないとは言わないが、何かとねちっこい気がして、ヒロは同性とはじめましてをする時は少し構えてしまう。
「私だけですか?」
「特に申し付けられてはおりません」
ヒロはちらっとセオドアを見た。息子を差し置いて、王妃に会って良いものかと思ったからだ。
「……僕も行こう」
ヒロと視線を合わすことなく、セオドアは兵士に言った。ここまで回復したのだ。息子の元気な姿を見たいだろうと、ヒロは賛成する。
しかし、今までセオドアに会いに来なかったのはなぜだろうか。少し嫌な予感がしたが、勝手な想像ほど当たらないものはないと、それを頭からかき消した。
アイザックに王妃の性格と、そこのところを聞きたかったけれど、本人の前で家族間のことを聞くのは失礼だと思ってやめた。
エナは側支えとして行くことになり、兵士に連れられて、一行は王宮の中庭まで歩く。セオドアには少ししんどいかと思われたが、毎日部屋と訓練場を行き来しているおかげか、辛そうな様子は見受けられない。無理をしているようならすぐに止めようと思いながら、ヒロはセオドアの様子を気にしつつ足を運んだ。
オリビア王妃は、少し影のある女性だった。何人かの兵士と女官に囲まれて、椅子に座りティーカップを傾けているところにお邪魔することになった。
椅子には他にも座っている子どもがいて、セオドアの弟たちだと分かった。
王妃はこちらに気付くと、立ち上がる。
「王妃のオリビアと申します」
そう言ってドレスのスカートをつまみ上げ、ゆったりとお辞儀をした。はらり、と栗色の髪の毛が肩を滑る。ヒロとしては今すぐ座って欲しかった。こんな綺麗なお辞儀をされるほどの人間ではなかったので。
「さあ、あなたもご挨拶なさい」
「僕はルカと申します」
王妃が促すと、銀髪で新緑のような目の色をした少年が胸元に手を当て、頭を小さく下げた。
「こちらはアルバート。アルバート、ご挨拶」
「アルバートです! 五さいです!」
透き通る様な茶髪の小さな子が、元気に挨拶をしてくれる。こちらの子は王妃に似て産まれたようだ。
「はじめまして、ヒロと申します。セオドア様には大変お世話になっております」
「世話をしているのはヒロの方でしょう」
王妃は笑った。気難しい方ではなさそうだと、ヒロは少し安心する。
「久しぶりね、セオドア。元気そうで安心したわ。ジェンソンから聞いてはいたけれど、そんなに歩けるようにもなって」
「母様も、お元気で何よりです」
「セオドア兄様、僕のことを覚えていらっしゃいますか?」
「ああ。もちろん。賢くて優しい僕の弟だ」
病に侵されている数年の間は、顔を合わせることがなかったのだろうか。もしかすると、様子を見に来ていたのは国王だけで、他の人は会うのを控えていたのかもしれない。
ルカはセオドアに言われて嬉しそうな表情を見せた。小さなアルバートは目をぱちぱちしていて、状況が分かっていないようだった。おそらく、数年も会っていないとすれば、記憶に残るのが難しかったのだろう。
ルカとセオドアは仲の良さが伺えたが、王妃とセオドアだけ、どこかぎこちないような、二人の間に薄い壁が隔たっているような、そんな印象を抱く。
王妃は少しばかりセオドアを見つめた後、ヒロの方を向いた。それだけで、緊張で心臓がどきどきする。
「セオドアが兄と慕っているようね。ジェンソンから聞いたわ」
「もったいないことでございます」
「では僕の兄様でもあるのですね!」
「にいさまー?」
「え!」
ルカとアルバートに言われ、ヒロはとんでもないことだと慌てたが、王妃は微笑んでそれを見守っていて、止める様子はなかった。
「セオドア兄様とお揃いがいい。ねえヒロ、いいでしょう?」
「ええっと、私は、構いませんが……兄として何かできるわけではないですよ?」
「兄様とお揃いなのが良いのだ」
ルカはセオドアを見てにっこり笑った。
セオドアは、弟に慕われて嬉しいはずなのに、なんだかおもしろくないと胸にもやもやとした気持ちがめぐるのを感じた。
「ヒロ殿へ、オリビア王妃様からお茶会のお誘いを承って参りました!」
「お茶会?」
という名の干される場では。ジェンソン国王は今まで何度か顔を合わせたことがある上に、茶目っ気があり、今ではすっかり国王と言うよりセオドアのパパだと思っている節がある。しかし、王妃様。会ったことがない上に、女性はどちらかというと男性より粘っこい接待になる印象がヒロにはある。
例えば、相手の顔や身につけているものをよく見たり、応対に関して気持ちが機微に反応したり、褒めたと思ったら後で陰口を言ったり。男性がそうではないとは言わないが、何かとねちっこい気がして、ヒロは同性とはじめましてをする時は少し構えてしまう。
「私だけですか?」
「特に申し付けられてはおりません」
ヒロはちらっとセオドアを見た。息子を差し置いて、王妃に会って良いものかと思ったからだ。
「……僕も行こう」
ヒロと視線を合わすことなく、セオドアは兵士に言った。ここまで回復したのだ。息子の元気な姿を見たいだろうと、ヒロは賛成する。
しかし、今までセオドアに会いに来なかったのはなぜだろうか。少し嫌な予感がしたが、勝手な想像ほど当たらないものはないと、それを頭からかき消した。
アイザックに王妃の性格と、そこのところを聞きたかったけれど、本人の前で家族間のことを聞くのは失礼だと思ってやめた。
エナは側支えとして行くことになり、兵士に連れられて、一行は王宮の中庭まで歩く。セオドアには少ししんどいかと思われたが、毎日部屋と訓練場を行き来しているおかげか、辛そうな様子は見受けられない。無理をしているようならすぐに止めようと思いながら、ヒロはセオドアの様子を気にしつつ足を運んだ。
オリビア王妃は、少し影のある女性だった。何人かの兵士と女官に囲まれて、椅子に座りティーカップを傾けているところにお邪魔することになった。
椅子には他にも座っている子どもがいて、セオドアの弟たちだと分かった。
王妃はこちらに気付くと、立ち上がる。
「王妃のオリビアと申します」
そう言ってドレスのスカートをつまみ上げ、ゆったりとお辞儀をした。はらり、と栗色の髪の毛が肩を滑る。ヒロとしては今すぐ座って欲しかった。こんな綺麗なお辞儀をされるほどの人間ではなかったので。
「さあ、あなたもご挨拶なさい」
「僕はルカと申します」
王妃が促すと、銀髪で新緑のような目の色をした少年が胸元に手を当て、頭を小さく下げた。
「こちらはアルバート。アルバート、ご挨拶」
「アルバートです! 五さいです!」
透き通る様な茶髪の小さな子が、元気に挨拶をしてくれる。こちらの子は王妃に似て産まれたようだ。
「はじめまして、ヒロと申します。セオドア様には大変お世話になっております」
「世話をしているのはヒロの方でしょう」
王妃は笑った。気難しい方ではなさそうだと、ヒロは少し安心する。
「久しぶりね、セオドア。元気そうで安心したわ。ジェンソンから聞いてはいたけれど、そんなに歩けるようにもなって」
「母様も、お元気で何よりです」
「セオドア兄様、僕のことを覚えていらっしゃいますか?」
「ああ。もちろん。賢くて優しい僕の弟だ」
病に侵されている数年の間は、顔を合わせることがなかったのだろうか。もしかすると、様子を見に来ていたのは国王だけで、他の人は会うのを控えていたのかもしれない。
ルカはセオドアに言われて嬉しそうな表情を見せた。小さなアルバートは目をぱちぱちしていて、状況が分かっていないようだった。おそらく、数年も会っていないとすれば、記憶に残るのが難しかったのだろう。
ルカとセオドアは仲の良さが伺えたが、王妃とセオドアだけ、どこかぎこちないような、二人の間に薄い壁が隔たっているような、そんな印象を抱く。
王妃は少しばかりセオドアを見つめた後、ヒロの方を向いた。それだけで、緊張で心臓がどきどきする。
「セオドアが兄と慕っているようね。ジェンソンから聞いたわ」
「もったいないことでございます」
「では僕の兄様でもあるのですね!」
「にいさまー?」
「え!」
ルカとアルバートに言われ、ヒロはとんでもないことだと慌てたが、王妃は微笑んでそれを見守っていて、止める様子はなかった。
「セオドア兄様とお揃いがいい。ねえヒロ、いいでしょう?」
「ええっと、私は、構いませんが……兄として何かできるわけではないですよ?」
「兄様とお揃いなのが良いのだ」
ルカはセオドアを見てにっこり笑った。
セオドアは、弟に慕われて嬉しいはずなのに、なんだかおもしろくないと胸にもやもやとした気持ちがめぐるのを感じた。
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