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訓練場にて
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それから、多少は目線が気にはなるものの、噂をするような言動は減っていった。ローガンはきちんと約束を守ってくれたようだ。
騎士団の訓練場にセオドアが行くのはほぼ毎日で、訓練の様子を眺める日が大半だが、歩行練習だけの往復ですませる時もある。ヒロとしては、セオドアが見学をせずに戻る日の方が嬉しい。というのも、見学をすると決まって木刀を振らされるからだ。
アイザックがヒロを構うことが増えた、という方が正しいか。非力で無知なヒロに物を教えるのが楽しいらしい。これはジェンソン国王に会った時に聞いた話だ。
ヒロとしては、セオドアの護衛ではなく世話役なのだから、勘弁してほしい。
しかし今日も今日とてアイザックはヒロの様子を見にくる。
「ヒロ殿、調子はどうだ?」
そう言ってぺたぺたと肩周り、二の腕などを触っていく。筋肉の付き様を確認しているらしいが、ヒロが男だと公言しているばかりにこれを避けることができない。
「いつ見ても線が細いなあ」
「筋肉が付きにくい体質なんです」
「筋肉を付けるトレーニングはやっているか?」
「アイザック様、ヒロは世話役なのでそこまでやるのは難しいことかと」
「む」
エナがフォローしてくれるが、アイザックはどこか不満げだ。と、急にアイザックがヒロの脇を持って抱き上げた。
「うわ!」
「軽い。軽すぎるぞ。ちゃんと食べているのか」
「食べてます食べてます! おろしてください!」
アイザックは何やら考え事をしているようで、ヒロを抱き上げた姿勢のまま動かない。されるがまま、というのも嫌だったので、ヒロはアイザックの頭に手を置いた。
「耳を触りますよアイザック様。早くおろしてください」
アイザックは驚いて、目をぱちぱち瞬きした。
「ヒロ殿は怖いもの知らずか」
「不敬になるのであれば、ローガン様になすりつけます」
「なすりつけるのか」
アイザックは笑った。
「おもしろい。俺が騎士団長と知ってのその態度。武術に骨のあるやつはいたが、このように大それた態度をとるやつは初めてだ」
「不敬ですか?」
「いや、俺が抱き上げたのも悪かった。軽いと言われて嬉しい男はいない」
ようやく足が地について、ヒロはほっとした。近くで見上げたアイザックは、ヒロの頭ひとつ分背が高く、普通に考えたら怖いなと思った。しかし何かと絡んでくるアイザックだ。猫が構ってほしいと近くをうろうろするような、そんな様子に似ていて、怖さは半減していた。
「団長、あまり構いすぎると嫌われてしまいますよ」
「そんなに構ってるか?」
「団員が嫉妬するくらいに」
冗談を言ってアイザックに声をかけたのは、副団長のマックスだった。アイザックは獣人だが、マックスは人だ。
ヒロは冗談でも団員に嫉妬されてたまるかと思った。アイザックは三十代くらいのまだ若々しい男で、団員の憧れである。こういう立場にはいかにも男職人、みたいな無精髭の堅苦しいタイプがなりそうだが、顔立ちはどちらかというと涼やかで整っており、性別が同じでも、という人がいたっておかしくない。
「ヒロさん、知らないなら教えてあげるけれど、獣人の耳を触るって結構なことなんですよ?」
「結構なことって?」
「俺たち人間で考えてみてください。そういうことをする仲って、どんなでしょうね」
マックスの言葉に、ヒロは顔を赤らめた。はたと思い出して、セオドアを振り返ると、彼も頬を赤く染めていた。
「まさか、殿下にやってしまったんです?」
「とんでもないな」
騎士団トップの二人に言われて、ヒロは撃沈した。
騎士団の訓練場にセオドアが行くのはほぼ毎日で、訓練の様子を眺める日が大半だが、歩行練習だけの往復ですませる時もある。ヒロとしては、セオドアが見学をせずに戻る日の方が嬉しい。というのも、見学をすると決まって木刀を振らされるからだ。
アイザックがヒロを構うことが増えた、という方が正しいか。非力で無知なヒロに物を教えるのが楽しいらしい。これはジェンソン国王に会った時に聞いた話だ。
ヒロとしては、セオドアの護衛ではなく世話役なのだから、勘弁してほしい。
しかし今日も今日とてアイザックはヒロの様子を見にくる。
「ヒロ殿、調子はどうだ?」
そう言ってぺたぺたと肩周り、二の腕などを触っていく。筋肉の付き様を確認しているらしいが、ヒロが男だと公言しているばかりにこれを避けることができない。
「いつ見ても線が細いなあ」
「筋肉が付きにくい体質なんです」
「筋肉を付けるトレーニングはやっているか?」
「アイザック様、ヒロは世話役なのでそこまでやるのは難しいことかと」
「む」
エナがフォローしてくれるが、アイザックはどこか不満げだ。と、急にアイザックがヒロの脇を持って抱き上げた。
「うわ!」
「軽い。軽すぎるぞ。ちゃんと食べているのか」
「食べてます食べてます! おろしてください!」
アイザックは何やら考え事をしているようで、ヒロを抱き上げた姿勢のまま動かない。されるがまま、というのも嫌だったので、ヒロはアイザックの頭に手を置いた。
「耳を触りますよアイザック様。早くおろしてください」
アイザックは驚いて、目をぱちぱち瞬きした。
「ヒロ殿は怖いもの知らずか」
「不敬になるのであれば、ローガン様になすりつけます」
「なすりつけるのか」
アイザックは笑った。
「おもしろい。俺が騎士団長と知ってのその態度。武術に骨のあるやつはいたが、このように大それた態度をとるやつは初めてだ」
「不敬ですか?」
「いや、俺が抱き上げたのも悪かった。軽いと言われて嬉しい男はいない」
ようやく足が地について、ヒロはほっとした。近くで見上げたアイザックは、ヒロの頭ひとつ分背が高く、普通に考えたら怖いなと思った。しかし何かと絡んでくるアイザックだ。猫が構ってほしいと近くをうろうろするような、そんな様子に似ていて、怖さは半減していた。
「団長、あまり構いすぎると嫌われてしまいますよ」
「そんなに構ってるか?」
「団員が嫉妬するくらいに」
冗談を言ってアイザックに声をかけたのは、副団長のマックスだった。アイザックは獣人だが、マックスは人だ。
ヒロは冗談でも団員に嫉妬されてたまるかと思った。アイザックは三十代くらいのまだ若々しい男で、団員の憧れである。こういう立場にはいかにも男職人、みたいな無精髭の堅苦しいタイプがなりそうだが、顔立ちはどちらかというと涼やかで整っており、性別が同じでも、という人がいたっておかしくない。
「ヒロさん、知らないなら教えてあげるけれど、獣人の耳を触るって結構なことなんですよ?」
「結構なことって?」
「俺たち人間で考えてみてください。そういうことをする仲って、どんなでしょうね」
マックスの言葉に、ヒロは顔を赤らめた。はたと思い出して、セオドアを振り返ると、彼も頬を赤く染めていた。
「まさか、殿下にやってしまったんです?」
「とんでもないな」
騎士団トップの二人に言われて、ヒロは撃沈した。
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