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逆の立場
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ある朝、起き上がったベッドが血だらけになっていて、ヒロは血の気が引いた。月のものが来たのだ。
慌ててエナの元に駆け込み、事情を話すと、ナプキンこそなかったが専用の布など必要な物を貸してくれた。
どうりでお腹が痛かったはずである。
「ヒロは月のものは重いの?」
「最初の日だけは……動けないことはないのですが」
「ヒロはいつもセオドア様に付きっきりだし、たまに休むくらい許されるでしょう。今日は私一人でやります」
「でも、セオドア様になんて言えば……」
男のフリをしているのだ。月のもので、だなんて言えるはずもない。
「私が適当に誤魔化しておきます。ヒロは一日安静にしていて。明日も調子が悪いようだったら、明日も考えましょう」
「ありがとうございます」
ヒロはエナに手伝ってもらい、ベッドのシーツを取り替えて、洗濯物は洗濯置き場に別として置かせてもらうことにした。エナが洗っておくと申し出たが、それはさすがに申し訳ない。
まだ出血から時間が経っていなかったからか、桶に水を入れて浸ければ、血が浮き上がって線のように流れ出す。
これは体調が落ち着いたら洗うことにして、ヒロは自分の部屋に帰った。ベッドに寝転べば、じくじくした痛みがより鮮明に感じられてきて、少しでも痛みを和らげようと丸まった体勢になる。
そうしているうちに、ことんとヒロは寝てしまっていた。
次に起きた時、辺りは夕日に照らされていた。そんなに深く寝入ってしまったのかと、痛むお腹をさすりながら起き上がる。
ちょうどその時、コンコンと部屋がノックされた。
「ヒロ、大丈夫か」
セオドアだった。とたん、匂いが気になり始める。血の匂いに気付かれたらどうしよう。寝たふりをした方がいいだろうか。
頭の中がてんやわんやしていると、扉が開いた。
「入るぞ、ヒロ」
こうなったら無視をするわけにもいかない。寝台に腰掛けたまま、ヒロはセオドアを見た。彼の後ろで、エナが謝るポーズをしていた。
「大事ないか?」
「大丈夫です」
「食欲は? 寒くはないか? 腹痛だと聞いたが」
「大丈夫ですって、セオドア様」
額に手を当てたり、布団をかけ直したり、セオドアは甲斐甲斐しくヒロの様子をみた。されるがままにしていたが、いつもと立場が逆なのが、なんだかおかしかった。
「セオドア様、移ってしまいますよ?」
「腹痛は移らない。さすがに知っておる」
ふんす、と何故かやる気に満ちた様子のセオドアが答える。
しかし、ここまで距離が近いと血の匂いがしないか気になるが、どうやら匂いには気付いていないようだ。獣人だからといって、鼻が人間の何倍も鋭いわけではないのだなとヒロは安心した。
「私は大丈夫ですから」
「顔色が悪い。ヒロ、横になっていいぞ」
内臓をぎゅうと締められるかのような腹痛がやってきたので、言葉に甘えて横になることにした。すかさず、セオドアが掛け布団を肩まで広げる。
ぎゅうぎゅうと痛むお腹を抱えて丸くなり、痛みに耐えていると、セオドアの声がした。
「つらそうだ。代われるものなら代わりたいというのは、このような気持ちなのだな」
「……セオドア様が元気なのが一番ですから、どうか代わりたいなどと仰らないでください」
「では何かしてほしいことはないか?」
どうしてもヒロに何かしてあげたいようだった。セオドアのその気持ちを汲んで、ヒロは口を開いた。
「腰を」
「ん?」
「腰に手を当てて温めてくださいますか?」
「そのようなことでヒロが安まるなら、もちろん」
セオドアは、エナに椅子を取ってきてもらい、それに腰掛けてベッドに寝転ぶヒロの腰に手を当てた。小さな両手だが、何より気持ちが嬉しかった。
そのうち、うつらうつらと眠気がやってきて、ヒロは寝入ってしまったのだった。
慌ててエナの元に駆け込み、事情を話すと、ナプキンこそなかったが専用の布など必要な物を貸してくれた。
どうりでお腹が痛かったはずである。
「ヒロは月のものは重いの?」
「最初の日だけは……動けないことはないのですが」
「ヒロはいつもセオドア様に付きっきりだし、たまに休むくらい許されるでしょう。今日は私一人でやります」
「でも、セオドア様になんて言えば……」
男のフリをしているのだ。月のもので、だなんて言えるはずもない。
「私が適当に誤魔化しておきます。ヒロは一日安静にしていて。明日も調子が悪いようだったら、明日も考えましょう」
「ありがとうございます」
ヒロはエナに手伝ってもらい、ベッドのシーツを取り替えて、洗濯物は洗濯置き場に別として置かせてもらうことにした。エナが洗っておくと申し出たが、それはさすがに申し訳ない。
まだ出血から時間が経っていなかったからか、桶に水を入れて浸ければ、血が浮き上がって線のように流れ出す。
これは体調が落ち着いたら洗うことにして、ヒロは自分の部屋に帰った。ベッドに寝転べば、じくじくした痛みがより鮮明に感じられてきて、少しでも痛みを和らげようと丸まった体勢になる。
そうしているうちに、ことんとヒロは寝てしまっていた。
次に起きた時、辺りは夕日に照らされていた。そんなに深く寝入ってしまったのかと、痛むお腹をさすりながら起き上がる。
ちょうどその時、コンコンと部屋がノックされた。
「ヒロ、大丈夫か」
セオドアだった。とたん、匂いが気になり始める。血の匂いに気付かれたらどうしよう。寝たふりをした方がいいだろうか。
頭の中がてんやわんやしていると、扉が開いた。
「入るぞ、ヒロ」
こうなったら無視をするわけにもいかない。寝台に腰掛けたまま、ヒロはセオドアを見た。彼の後ろで、エナが謝るポーズをしていた。
「大事ないか?」
「大丈夫です」
「食欲は? 寒くはないか? 腹痛だと聞いたが」
「大丈夫ですって、セオドア様」
額に手を当てたり、布団をかけ直したり、セオドアは甲斐甲斐しくヒロの様子をみた。されるがままにしていたが、いつもと立場が逆なのが、なんだかおかしかった。
「セオドア様、移ってしまいますよ?」
「腹痛は移らない。さすがに知っておる」
ふんす、と何故かやる気に満ちた様子のセオドアが答える。
しかし、ここまで距離が近いと血の匂いがしないか気になるが、どうやら匂いには気付いていないようだ。獣人だからといって、鼻が人間の何倍も鋭いわけではないのだなとヒロは安心した。
「私は大丈夫ですから」
「顔色が悪い。ヒロ、横になっていいぞ」
内臓をぎゅうと締められるかのような腹痛がやってきたので、言葉に甘えて横になることにした。すかさず、セオドアが掛け布団を肩まで広げる。
ぎゅうぎゅうと痛むお腹を抱えて丸くなり、痛みに耐えていると、セオドアの声がした。
「つらそうだ。代われるものなら代わりたいというのは、このような気持ちなのだな」
「……セオドア様が元気なのが一番ですから、どうか代わりたいなどと仰らないでください」
「では何かしてほしいことはないか?」
どうしてもヒロに何かしてあげたいようだった。セオドアのその気持ちを汲んで、ヒロは口を開いた。
「腰を」
「ん?」
「腰に手を当てて温めてくださいますか?」
「そのようなことでヒロが安まるなら、もちろん」
セオドアは、エナに椅子を取ってきてもらい、それに腰掛けてベッドに寝転ぶヒロの腰に手を当てた。小さな両手だが、何より気持ちが嬉しかった。
そのうち、うつらうつらと眠気がやってきて、ヒロは寝入ってしまったのだった。
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