異世界転移でモフモフくんのお世話係に!?

文字の大きさ
上 下
1 / 28

異世界転移

しおりを挟む
「おお、おお、道が開けたか……!」

 ぐわんとめまいがして、思わず閉じた目を開くと、そこには先ほどまでとは違う光景があった。

「え」

 辺りは薄暗く、夜を迎える前のようだった。足元は硬い岩でできた地面があって、そこに白く粉っぽいもので謎の文字と絵と円が描かれている。その中心に、紘子は立っているみたいだ。
 視界の端に映る人影に視線を移すと、絵本のサンタクロースみたいに髭を生やした老人が、太い杖をついて立っていて、まるでファンタジーの賢者のような格好だと頭の片隅で思いながら、紘子は警戒心を隠さず男を見据えた。
 おかしい。先ほどまで、会社から帰る道を歩いていたはず。ここはどこで、あれは誰だ。紘子は静かにカバンに手を入れて、通報できるようにスマホを探した。

「行幸、行幸。さてお嬢さん、言葉は分かるかの?」
「……」
「警戒されるのも無理はない。じゃが、ちとこちらの話を聞いてくれんかの?」

 紘子は何も言わなかったが、老人は勝手に話し始める。

「わしは祈祷師をしておる。国に遣えるものじゃ。今回お主を呼び出したのは、我が王国の王子の病を癒す者を探しておって、召喚した結果、現れたのがお嬢さんだったのじゃ。つまり、そなたには王子を癒す力が備わっているはず。どうか病を癒す手助けをしてくださらんか」
「……無理です。私、医者じゃないです」
「医術を携わる者かどうかは関係ない。ここで、祈祷の結果、呼び出されたことがその証明になるのじゃよ」

 カツン、と紘子の指の爪先が硬いものに触れた。スマホだ。ゆっくりと手繰り寄せて、電源ボタンと音量ボタンを同時に押した。押し続ければカウントダウンが始まって、自動的に警察に連絡されるはず。
 十秒ほど経ったところでちらりとスマホの画面を見たが、手にしたそれは真っ暗で動いていなかった。

「うそ」

 紘子はぞっとした。防衛手段はこれしかない。あとは走って逃げるか。しかしここはどこかの一室のようで、古ぼけて薄暗い岩の部屋の出口はすぐに分かりそうもなかった。
 この謎の老人相手に逃げることは難しくはないと思うが、地の利はあちらにある。 
 ばくばく騒がしい心臓を感じながら、紘子の呼吸は速く浅いものになっていた。
 突然、老人の奥から新たに人が現れた。頭に羊のツノを付けて、民族衣装らしい変わった格好をしている。

「ローガン様、いかがいたしましょう」
「ふむ……ひとまず案内しようと思うんじゃが……」

 こちらを見るローガンと呼ばれた老人に、紘子は何も言い返せず、黙ったまま。

「そなた名前は?」
「……ひろ」
「ヒロ、そう警戒せずとも、何もとって食おうという話ではない。ヒロはお客様じゃ。詳しい話は追々するが、ひとまず場所を変えるのについて来てはくれぬか」

 こちらに選択肢はない。ここがどこで、相手が誰なのか全く何も分からないのだ。紘子は名前を曖昧にして伝えるだけが精一杯の防衛だったが、それだけだ。
 ここはとりあえず従うしかない。途中で逃げ道があるかもしれない。紘子はそう思って、頷いたのだった。

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

目立ちたくない召喚勇者の、スローライフな(こっそり)恩返し

gari
ファンタジー
 突然、異世界の村に転移したカズキは、村長父娘に保護された。  知らない間に脳内に寄生していた自称大魔法使いから、自分が召喚勇者であることを知るが、庶民の彼は勇者として生きるつもりはない。  正体がバレないようギルドには登録せず一般人としてひっそり生活を始めたら、固有スキル『蚊奪取』で得た規格外の能力と(この世界の)常識に疎い行動で逆に目立ったり、村長の娘と徐々に親しくなったり。  過疎化に悩む村の窮状を知り、恩返しのために温泉を開発すると見事大当たり! でも、その弊害で恩人父娘が窮地に陥ってしまう。  一方、とある国では、召喚した勇者(カズキ)の捜索が密かに行われていた。  父娘と村を守るため、武闘大会に出場しよう!  地域限定土産の開発や冒険者ギルドの誘致等々、召喚勇者の村おこしは、従魔や息子(?)や役人や騎士や冒険者も加わり順調に進んでいたが……  ついに、居場所が特定されて大ピンチ!!  どうする? どうなる? 召喚勇者。  ※ 基本は主人公視点。時折、第三者視点が入ります。  

タジタジ騎士公爵様は妖精を溺愛する

雨香
恋愛
美醜の感覚のズレた異世界に落ちたリリがスパダリイケメン達に溺愛されていく。 ヒーロー大好きな主人公と、どう受け止めていいかわからないヒーローのもだもだ話です。  逆ハーレム風の過保護な溺愛を楽しんで頂ければ。 1日2回 7:00 19:00 に更新します。

旦那様が多すぎて困っています!? 〜逆ハー異世界ラブコメ〜

ことりとりとん
恋愛
男女比8:1の逆ハーレム異世界に転移してしまった女子大生・大森泉 転移早々旦那さんが6人もできて、しかも魔力無限チートがあると教えられて!? のんびりまったり暮らしたいのにいつの間にか国を救うハメになりました…… イケメン山盛りの逆ハーです 前半はラブラブまったりの予定。後半で主人公が頑張ります 小説家になろう、カクヨムに転載しています

【完結】目覚めたら男爵家令息の騎士に食べられていた件

三谷朱花
恋愛
レイーアが目覚めたら横にクーン男爵家の令息でもある騎士のマットが寝ていた。曰く、クーン男爵家では「初めて契った相手と結婚しなくてはいけない」らしい。 ※アルファポリスのみの公開です。

【完結】転生少女は異世界でお店を始めたい

梅丸
ファンタジー
せっかく40代目前にして夢だった喫茶店オープンに漕ぎ着けたと言うのに事故に遭い呆気なく命を落としてしまった私。女神様が管理する異世界に転生させてもらい夢を実現するために奮闘するのだが、この世界には無いものが多すぎる! 創造魔法と言う女神様から授かった恩寵と前世の料理レシピを駆使して色々作りながら頑張る私だった。

【完結】少し遅れた異世界転移 〜死者蘇生された俺は災厄の魔女と共に生きていく〜

赤木さなぎ
ファンタジー
 死体で異世界転移してきた記憶喪失の主人公と、敬語系×エルフ×最強×魔女なヒロインが結婚して、不老不死になった二人が持て余した時間を活かして、異世界を旅して巡る物語です。  のんびり旅をしていたはずが、気付けば神様との戦いに巻き込まれたりします。  30万文字超えの長編ですので、少しずつゆっくりと読んで、楽しんで貰えたらと思います!  おかげさまで、HOTランキング最高2位達成! 沢山読んで頂き、ありがとうございます! ―――――― ■第一章 (63,379文字)  魔女様とのんびり森の中での生活を楽しもう!  と思っていたら、どうやら魔女様には秘密が有る様で……。  まだ名前も無い頃の二人の出会いの物語。 ■第二章 (53,612文字)  二人は森の外の世界へと飛び出して行く。  様々な出会いをした、二人の旅の記録。 ■第三章 (28,903文字)  長い旅から森へと帰って来ると、何者かによって二人の家は破壊されていた。  二人は犯人を捜す為に、動き出す。  バトル要素有り。 ■第四章 (47,744文字)  旅の中で出会った龍に託された真実の目。  それを巡って、神との戦いへと発展して行く。  バトル要素有り。 ■第五章 (68,773文字)  二人の旅の舞台は、海を越えて東の大陸へ。  謎のメッセージ、そして黒い泥の事件を追う。  第二章のテイストで進む東の大陸出の旅の記録。 ■過去編 (約9万文字)  本編へと繋がる、かつての魔女エルと勇者アルが紡ぐ、冒険の物語。  一度は魔王討伐を諦めた勇者と、突然現れた最強の魔女が、魔王を討つ為、再び旅に出るお話です。 ■第二部  エピローグ②とエピローグ③の間の物語。

一緒に異世界転生した飼い猫のもらったチートがやばすぎた。もしかして、メインは猫の方ですか、女神様!?

たまご
ファンタジー
 アラサーの相田つかさは事故により命を落とす。  最期の瞬間に頭に浮かんだのが「猫達のごはん、これからどうしよう……」だったせいか、飼っていた8匹の猫と共に異世界転生をしてしまう。  だが、つかさが目を覚ます前に女神様からとんでもチートを授かった猫達は新しい世界へと自由に飛び出して行ってしまう。  女神様に泣きつかれ、つかさは猫達を回収するために旅に出た。  猫達が、世界を滅ぼしてしまう前に!! 「私はスローライフ希望なんですけど……」  この作品は「小説家になろう」さん、「エブリスタ」さんで完結済みです。  表紙の写真は、モデルになったうちの猫様です。

異世界着ぐるみ転生

こまちゃも
ファンタジー
旧題:着ぐるみ転生 どこにでもいる、普通のOLだった。 会社と部屋を往復する毎日。趣味と言えば、十年以上続けているRPGオンラインゲーム。 ある日気が付くと、森の中だった。 誘拐?ちょっと待て、何この全身モフモフ! 自分の姿が、ゲームで使っていたアバター・・・二足歩行の巨大猫になっていた。 幸い、ゲームで培ったスキルや能力はそのまま。使っていたアイテムバッグも中身入り! 冒険者?そんな怖い事はしません! 目指せ、自給自足! *小説家になろう様でも掲載中です

処理中です...