パラーム【色欲少年の選択】

クロ

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ルーイック東部支所

中央区

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 線路が摩擦する金属音が聞こえるだけで、列車自体の音はほとんどない。風を全身に感じる。涼しい。さっきの不快感が嘘のようだ。これで、リーミアがもう少し大人しくしてくれたら、言うことなしだろう。

 15分ほど経っただろうか。子どものようにはしゃぐリーミアをたしなめていると、中央区の駅が見えてきた。中央区までの道のりは、平原が続くばかりであったが、駅の周辺は家が立ち並び、喧騒を感じる。

 中央区は来るたびに建物が増えている。もともとは、教会などの大きな建物に子ども達が集まり、寝食を共にしていたのだが、最近はそれぞれの住居を構えるようになった。

 ルーイックの技術部と研究部が共同で行った、パラームのエネルギー化により、従来のそれとは比べ物にならないほどの技術力を手に入れた。昨今の衣食住の充実は、その賜物である。

 中央区の駅はコンクリートで整備されており、真新しさを感じる。レストランもあるため、常に人が多い。

 視界には、まるでテーマパークにでも来たかのように、子どもしかいない。この世界には、大人は存在しない。そもそも、大人と子どもという区別概念が存在しない。人類すべてが大人であり、子どもでもある。

 それを裏付けるかのように、外見年齢は5歳くらいであろう、小さな子が、ここのレストランの料理長をしている。個人差があるのだが、パラームを宿す人間の成長は遅く、外見が5歳くらいであっても、20年以上生きている可能性がある。外見年齢が18歳くらいになると、成長が止まる。

 僕やリーミアも、普通の人間であればとっくに死んでいる年数を生きている。老いることがないため、寿命が尽きない。重い病に罹るか、事故でも起きないかぎり、死ぬことはない。

 いつまでも若い体で生き続けることのできる、子どもたちの楽園だ。


「見てみて!でっかい魚!」

 リーミアが指さす方を見る。家の屋根を超えるほど高い鉄の棒に、赤と白の布で作られた魚が吊るされ、風でなびいている。

 鯉のぼり、というもので、この季節になると飾るものらしい。中央区には世界中の文化が集結し、入り混じる。これもその一つであろう。

「あれ格好いいなぁ。レイン、ウチにもつけようよー」

「教会にアレは合わないでしょ・・・」

「もっと金ぴかにすれば合うって!絶対!」

 リーミアはセンスというものを前世に置いてきてしまったようだ。

「下手に飾らないことが一番格好いいんだよ」

「えぇー、よくわかんない」

 リーミアは不満そうに口をとがらせる。

 僕は無視して歩を進める。

 駅から出ると、すぐに中央広場がある。

 大きな噴水があり、その水の頂点より高い巨大なアーチが交差している。目印となるため、中央区に住む人々の待ち合わせ場所に使われるらしい。

 左右と正面に道が真っすぐのびており、周辺には店や住居が建ち並んでいる。昼間ということもあって、飲まれそうなほどに人が多く、賑わいを見せている。

 安全上、仕方がないことなのだが、人口が中央区に密集しすぎているのも問題である。万が一、中央区で災害が起きた場合、とてつもない被害になるだろう。

 例えば今、この巨大なアーチが倒れでもしたら、一体、何人が下敷きになり、何人が死ぬのだろう。喧噪は一瞬にして阿鼻叫喚となる。

 国としての機能は充実してきたが、まだまだ課題はあるようだ。

「わぁぁ!やっぱ中央区は最高だね!」

 リーミアは都会派らしく、中央区に来るたびにハイテンションとなる。もともと中央勤務であったのを僕が引き抜いたため、その点については申し訳なく思っている。

 たまに訪れる分にはいいが、毎日こんな喧噪に飲まれていたら、気がおかしくなりそうだ。僕は静かな教会で美少女に囲まれて生活をするのが最も幸せだ。

「人が多いから、あんまり勝手な行動はしないように・・・」

「あっ!あれ、新しい店じゃん!」

 案の定、僕の話など耳にも入らず、器用に人の波をかわし、勝手に走り回るリーミア。僕とリーミアは、本当に真反対であると思う。
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