上 下
103 / 113
2章 傭兵騒動編

6-8-2 パワーよ

しおりを挟む
『――パワーよ』

 その声は、本当に聞こえたのかどうか。
 少なくとも次の瞬間には、光の奔流はアーシャの世界の音という音すら破壊した。
 <ナイト>級魔道機関が生み出す魔力を、ほぼ全て注いで生み出された破壊光。空を見上げ、飛び出そうとしていた<ダンゼル>を――ダンデスを、何の余韻もなく呑み込んでいく。
 これと同質のものを、アーシャは以前見たことがあった。メタル襲撃の日、レティシアが超大型メタルを消し飛ばしたあの一撃。アレと比べればはるかに小さく、また時間も短いが……
 やがて閃光が消え去ったとき、元居た場所にダンデスの姿は……ない。
 空に留まったまま、唖然とアーシャは呟いた。

「……殺、した……?」
『――まさか。こんなことで手を汚したりなんてしないわよ』
「え?」

 呆れたように言うセシリアにぎょっと彼女を見やると。
 彼女はその場から指をさすように、ガン・バズーカをとあるほうに向けた。スタジアムの、ちょうどセシリアが撃った方向だ。その壁際に、叩きつけられたようにノブリスが一機、ノビている……
 と、そこできょとんとアーシャは首を傾げた。先ほどの一撃は明らかに威力がおかしかった。本来なら<ダンゼル>どころか、スタジアムの壁も原形をとどめているはずがない。なのに、スタジアムも消し飛んでいない……
 呆然としていると、フフンと今度は鼻で笑ってセシリアが言ってくる。

。普通に撃ってたら消し炭すら残らなかったでしょうけど、まあ好き好んで人殺しがしたいわけでもないし。腰部ラックに引っかけておいたのを撃つ少し前に思い出してね』

 ならこれで十分でしょ?、などと肩をすくめて彼女は言うが。
 壁に叩きつけられたまま――ついでに衝撃に押しつぶされて全身バキバキの――<ダンゼル>を見やってから、アーシャは恐る恐る聞いた。

「……全力で撃つ必要はあったの?」
『ただの八つ当たりよ』
「……なんで?」
『あんなのがノーブルを名乗るなんて、私たちへの侮辱もいいところでしょ? 言っておくけれど、私だって怒ってるのよ』
「…………」

 胸を反らして怒ったようにセシリアは言う。だが“ノーブル”に関しては一家言あるようだし、自分なりに――アーシャはどうかと思っているが――ノーブルであろうとしているセシリアにとって、ダンデスのような存在は許せたものではないのだろう。
 と、ふと思い出してアーシャは空に人を探した。見たかったのは、アーシャを助けてくれた先輩の<ナイト>だが。

『…………』

 ガディと呼ばれた先輩は、何も言わずに空からダンデスを見下ろしていた。何か思うところがあるのか。そういえば、彼はダンデスにも先輩と呼ばれていた。ならばダンデスの関係者だろうか……
 そこまで考えて、アーシャはふとため息をついた。今はそんなことはどうでもいい。なんにしても、これで一旦はひと段落か……
 などと思った、ちょうどそんな時だった。

「……え?」
『あー!?』

 そのダンデスと、ついでに墜ちていた空賊の<ナイト>をかっさらう、影が一つ!
 完全に忘れていた。ムジカが去り際にガン・ロッドを破壊して無力化していった、もう一機の空賊の<ナイト>だ。戦闘に参加していないのでどこかに逃げたのだと思っていたのだが、まだ居残っていたらしい。
 自身のガン・ロッドもその辺に放り捨てて、二人を抱えて一目散に逃げていく。

「あ、ちょ、ま……待ちなさいよ!! これだけ荒らしておいて何逃げてんの!! セシリア、追うよ!!」
『ちょっと待って! 魔力全部使っちゃったから、リスタートに時間が……!! 第一あなた、ガン・ロッドないでしょ!? ……ガディ先輩!?』
『わかっている!! このまま逃がすわけには――』

 と。

?』

 上位者からの強制介入通信。問答無用で回線がオンされ、勝手に通信が起動する。
 モニターに表示されたウインドウからこちらを見てくるのは……

「アルマ先輩?」
『アレを追う前に、やってもらいたいことがあるんだがね』

 なんで彼女が? などと思う間もなく、マイペースに彼女は話し始める。

『具体的には北のほうなんだが。空賊の<ナイト>八機に襲われて、警護隊の連中がピンチらしい。時間稼ぎが目的なのか、はたまた別の何かがあるのか、人死には出てないらしいんだが……ラウル講師もいないようだし、少々手が足りんようだ。また空賊に攻め込まれても面白くない。そこの頭でっかち、ちと急いで行ってこい』
『なんだと……!? その情報をいったいどこで――いや、だが、逃げる奴らは――』
『あんなの逃がしたところでどうということもないよ。殺したいなら止めはせんがね……ああ、あとやたらとうるさい小娘ーズ。お前らもう役に立たんから、これ以上は仕事せんでいいぞ』
「そ、そんな!? こんなにやられて、そのままあいつら逃がすんですか!? それに、今はムジカが戦ってるんです! 生徒会長とリムちゃんも攫われてる――追いかけないと!!」
『――そんな様子でか?』
「……!!」

 ぴしゃりと言い切られて……というよりは。
 冷たい、何の感情もない目で睨まれて、アーシャは言葉を失った。
 その間にアルマは呆れたように肩をすくめて、

『やめとけやめとけ。それならまだお前も北に行ったほうが役立つというものだし……小娘。お前、あの冷血女を勘違いしてるぞ』
「冷血女?」

 誰のことか。思い当たらなかったが、こちらの理解を置き去りにしてアルマは言う。

『あれが助手とリムくんだけ引き連れてったということは、仕込みはそれで十分ということだ。他に何か手を回してるかも知らんが。まあ声がかかってない以上、お前に役はない……それに小娘。お前が助手の心配など十年早い』

 そしてアルマが口にしたのは――
 不可解と言えば不可解な、こんな言葉だった。

『お前、あのエネシミュを使ってるんだろう? ならば知っているはずだ――?』
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

ロボリース物件の中の少女たち

ジャン・幸田
キャラ文芸
高度なメタリックのロボットを貸す会社の物件には女の子が入っています! 彼女たちを巡る物語。

勇者召喚に巻き込まれ、異世界転移・貰えたスキルも鑑定だけ・・・・だけど、何かあるはず!

よっしぃ
ファンタジー
9月11日、12日、ファンタジー部門2位達成中です! 僕はもうすぐ25歳になる常山 順平 24歳。 つねやま  じゅんぺいと読む。 何処にでもいる普通のサラリーマン。 仕事帰りの電車で、吊革に捕まりうつらうつらしていると・・・・ 突然気分が悪くなり、倒れそうになる。 周りを見ると、周りの人々もどんどん倒れている。明らかな異常事態。 何が起こったか分からないまま、気を失う。 気が付けば電車ではなく、どこかの建物。 周りにも人が倒れている。 僕と同じようなリーマンから、数人の女子高生や男子学生、仕事帰りの若い女性や、定年近いおっさんとか。 気が付けば誰かがしゃべってる。 どうやらよくある勇者召喚とやらが行われ、たまたま僕は異世界転移に巻き込まれたようだ。 そして・・・・帰るには、魔王を倒してもらう必要がある・・・・と。 想定外の人数がやって来たらしく、渡すギフト・・・・スキルらしいけど、それも数が限られていて、勇者として召喚した人以外、つまり巻き込まれて転移したその他大勢は、1人1つのギフト?スキルを。あとは支度金と装備一式を渡されるらしい。 どうしても無理な人は、戻ってきたら面倒を見ると。 一方的だが、日本に戻るには、勇者が魔王を倒すしかなく、それを待つのもよし、自ら勇者に協力するもよし・・・・ ですが、ここで問題が。 スキルやギフトにはそれぞれランク、格、強さがバラバラで・・・・ より良いスキルは早い者勝ち。 我も我もと群がる人々。 そんな中突き飛ばされて倒れる1人の女性が。 僕はその女性を助け・・・同じように突き飛ばされ、またもや気を失う。 気が付けば2人だけになっていて・・・・ スキルも2つしか残っていない。 一つは鑑定。 もう一つは家事全般。 両方とも微妙だ・・・・ 彼女の名は才村 友郁 さいむら ゆか。 23歳。 今年社会人になりたて。 取り残された2人が、すったもんだで生き残り、最終的には成り上がるお話。

パンツを拾わされた男の子の災難?

ミクリ21
恋愛
パンツを拾わされた男の子の話。

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

男女比の狂った世界で愛を振りまく

キョウキョウ
恋愛
男女比が1:10という、男性の数が少ない世界に転生した主人公の七沢直人(ななさわなおと)。 その世界の男性は無気力な人が多くて、異性その恋愛にも消極的。逆に、女性たちは恋愛に飢え続けていた。どうにかして男性と仲良くなりたい。イチャイチャしたい。 直人は他の男性たちと違って、欲求を強く感じていた。女性とイチャイチャしたいし、楽しく過ごしたい。 生まれた瞬間から愛され続けてきた七沢直人は、その愛を周りの女性に返そうと思った。 デートしたり、手料理を振る舞ったり、一緒に趣味を楽しんだりする。その他にも、色々と。 本作品は、男女比の異なる世界の女性たちと積極的に触れ合っていく様子を描く物語です。 ※カクヨムにも掲載中の作品です。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

クラスメイトの美少女と無人島に流された件

桜井正宗
青春
 修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。  高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。  どうやら、漂流して流されていたようだった。  帰ろうにも島は『無人島』。  しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。  男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?

小さなことから〜露出〜えみ〜

サイコロ
恋愛
私の露出… 毎日更新していこうと思います よろしくおねがいします 感想等お待ちしております 取り入れて欲しい内容なども 書いてくださいね よりみなさんにお近く 考えやすく

処理中です...