68 / 113
2章 傭兵騒動編
2-5 私――やると決めたら半端はしないって決めてるの
しおりを挟む
「…………」
「…………」
「…………?」
「…………?」
ムジカができたことはと言えば、首を傾げることだけだった。
そんなこちらの反応に、セシリアもまた顔から自信を失っていく。どうやら、こちらの反応が予想以上に予想外だったらしい。
ひとまず首を傾げたまま、ムジカはきょとんと訊いた。
「……なんだ? なんのお声がけだって?」
「……知りませんの?」
「ああ、まったく。大事な話か?」
「ええ、とっても」
無表情で頷かれて、ひとまず困る。
といっても知らないものは知らないのだから仕方がない。となれば知っている可能性がある人物に訊くしかなく、ムジカは視線を二人から離した。
と、ちょうどいいタイミングで茶を煎れていたリムが戻ってくる。
「――お待たせしました。お茶をお持ちしました……どうしたっすか?」
「リム。俺かラウル傭兵団あてに、周辺空域警護隊からなんか連絡来てるか?」
「警護隊からっすか? 連絡は来てなかったと思うっすけど。父さんも何も言ってなかったっすし」
「……あなたたち、本当に何も聞いてないの? ……あら、ありがとう。いただくわね?」
と、リムから湯気の立つティーカップを受け取って、香りを楽しむように口元まで運ぶ。
そうしてセシリアは含むように一口飲んで――ほんの一瞬、硬直した。
「……もしかして、猫舌か?」
「デリカシー!!」
「デリカシーの守備範囲、広すぎねえかな」
怒鳴られて思わず渋い顔するが、リムにも怪しむ目で見られたので口を閉ざす。
リムがテーブルにアーシャの分、ムジカの分と茶を置いて座るのを待ってから、ムジカは改めて問いかけた。
「そんで? 結局その隊員募集ってのはなんなんだ?」
「今のも含めて、これまでのあなたの態度にちょっと言いたいことがあるのだけれど……まあいいわ、説明してあげる。今回来た案内というのはね――……」
簡単に言ってしまえば、先のメタル襲撃で防空体制に穴の開いた警護隊から、見込みのある者への隊の参加案内らしい。
周辺空域警護隊はその名前の通り、この浮島周辺の空域を定期的に巡回・警護するノーブルたちの集団だ。役割は主に浮島の防衛だ。
“ノーブル”の語源はすなわち“貴族”だ。だが現代、この空において“ノーブル”とはこの空を、浮島を、人々を守ることを使命とする人々という意味合いが強い。そのため警護隊はまさしくノーブルらしい仕事と言える。
セイリオスの警護隊は実力主義のようだが、そういう面もあって警護隊への参加を認められることはある種の名誉になっているらしい。つまり参加を認められること、そして警護隊の一員として責務を果たすことは、彼らにとってはとても誇らしいことなのだ。
という話を、簡単にだが熱弁するセシリアから聞かされて。
記憶に引っかかるものを感じて、ムジカは首を傾げた。
「……ん? だけどあれって、確かランク戦である程度実力を認められたやつに与えられる権利とかじゃなかったか? 一年ってランク戦まだ参加してないだろ? なんで案内が来るんだ?」
「だから言ったでしょ、防空体制に穴が開いたって。これは臨時的な特例措置なのよ」
「特例?」
きょとんと訊くと。
今がどんな状態かわかってる? と呆れたように眉根を寄せてから、彼女は言ってきた。
「先のメタル襲撃で、ノーブルの側にたくさんの被害が出たのは知っているでしょう? 直近で学園が休業状態で、上級生が忙しそうにしてるのも体制を整えるため――つまりは壊れたノブリスの修理だとか、負傷者の治療とか、破壊された施設の修理とかが理由。一年生の警護隊参加要請もそのためのものよ。単純に今、人手不足なの」
「だから猫の手でも借りたいって?」
「最低限の実力はあると認められた猫の、ね」
そこに自負があるらしい――どこか胸を張るように言うセシリアを、ムジカは訝しむように見た。
彼女の表情からすれば、腕に自信はあるのだろう。一年坊が評価されるタイミングなど早々なかっただろうから、おそらくはあの襲撃の日にそこそこ活躍したということなのだろうが。
そこまで含めて察したうえで、ムジカの反応はこれだった。
「だからって、なんで俺のほうに話が来ると思ったんだ? 俺は錬金科だぞ?」
「……責務に努めるつもりはないと?
「そいつはノーブルの考えだな。悪いけど、俺は傭兵だよ」
冷ややかに目を細めて言うセシリアに、ムジカは肩をすくめることを返答とした。
周辺空域警護はとっても誇らしい仕事、というのは勝手だが。そんなのはノーブルの側の事情だ。ムジカには何の関係もない。
とはいえ、その一言で相手が機嫌を損ねたのは間違いない。先ほどよりもさらに冷ややかに、セシリアが囁いた。
「……メタルの別動隊という大群相手に献身的な英雄行為を成した、義憤の人と聞いていたのだけれど?」
「どこで聞いたんだそのうわさ? 傭兵団だって名乗ってたろ。仕事だよ、仕事」
と、思い出して後ろに控えていたリムに訊いた。
「……そういやリム。あの仕事の報酬ってどうなったんだ?」
「え? あーし知らないっすよ? アニキが始めた仕事なんだから、アニキがネゴしてるもんだと思ってたっすけど」
「傭兵団の仕事だーって声明出したのはお前だろうに」
そもそもアレはリムが仕事という体裁でムジカの戦闘介入を正当化しただけだったので、本来は仕事ですらなかったのだが。そんなことすら完全に忘れていた――
と、言ってからハッと視線を前に戻した。
テーブルの先、こちらを見つめる女二人は、何故か目を細めてニタニタと笑っている――……
「金にがめついはずの傭兵さんが、あんな大事件の報酬をほったらかしねえ……それって本当に“仕事”だったのかしら……?」
「あたし知ってるよ。自分のこと貶めるようなこと言ってるけど。こういうの、照れ隠しって言うんだって。ムジカっていい人扱いされる嫌がるけど、そういうとこ子供っぽいよね……!」
「……アーシャ。お前、次の訓練覚えとけよ」
ひとまずアーシャにだけは呪いを囁いてから、ムジカは一度咳ばらいを置いた。
「まあ与太話はともかくとしてだ。周辺空域警護隊の件で、俺に声かけてきた理由は? まさかとは思うが、あんたとチーム組んで一緒に参加しろとでも?」
本題に話を戻す。後半は半ば嫌味や当てつけの類になったが、ムジカはどちらかと言えば牽制のつもりだった。アホなこと考えてるんじゃないだろうなと、半眼で相手を見やるのだが。
対するセシリアはと言えば、ケロッとしたものだった。
「ええ、そのまさかよ?」
「……はあ?」
流石に予想外に過ぎたので、思わずそんな声を上げる。
だが当のセシリアは涼しげな顔して微笑むだけだ。驚くことすら予想の内のような顔して、先を続けてくる。
「警護隊の参加に関して、一年生が実力不足というのは事実よ。それはあちらも把握してる。だから私たち被推薦者は二名まで、同行者を集めてチームでの参加が認められてるの――というより、推奨されてるわ。私はお声がけしてもらえた私の実力に胸を張るけれど、一方で無謀でもないの。経験不足は否定しない。だから、あなたに声をかけたというわけ」
「というわけ、と言われてもな。俺はやる気ないんだが」
「あら。この要請は拒否権ないわよ。だってノーブルとしての大切なお仕事ですもの」
「俺はノーブルじゃないんだが?」
「なら傭兵さんに、お仕事として依頼を出そうかしら。私は経験が欲しいだけだから、警護隊の参加報酬は全部あなたにあげてもいいし。なんなら少しくらいなら色を付けても構わないわよ?」
「…………」
暗にめんどくさいからやりたくないと言っているのに意外に弁が立つ。
思わずムジカは半眼でセシリアを見やった。待ち受ける彼女の顔には不敵な笑み。
と、背後から思わぬ援護射撃。
「別に受けてもいいんじゃないっすか? どうせしばらく暇なんすし」
「……やる気の問題なんだけどなあ」
ちらと肩越しにリムを見やってから、ムジカはため息をついた。
「……ひとまず傭兵としての仕事なら、俺の一存じゃ決められん。本気なら、団長に話を通しといてくれ。こっちの都合優先になるが、話はそれからだ」
「構わないわ。今日は話を聞いてもらえただけでも十分よ」
「最初の時点で危うく聞いてもらえなさそうだったけどね?」
呆れたようにアーシャが言ってくるので、混ぜっ返すなよとムジカは半眼を向けた。
と、ふと気づいて訊く。
「ところで同行者は二名までなんだろ? あと一人は?」
別に必須というわけではないだろう――し、このセシリアがどこまでやれるかは知らないが、足手まといは少ないほうがいい。
さすがにそれを口にはしなかったが、視線の先でセシリアはやはり微笑んでいた。どうやら当てはあるようだ。
というか、もう決まっているらしい。彼女はその微笑みのまま言ってきた。
「私、あなた――そして、アーシャよ」
「……うぇ?」
思わず上ずった声が出た。
予想もしてない三人目の名前に思わずアーシャを見やると、彼女は『たははー』と苦笑した後、
「どーせあたし、暇してたし。経験が必要だなーとは思ってたから。そしたらセシリアに、普段の訓練手伝ってあげるから、代わりに私の手伝いしなさいって――」
「言われて、そのまま請け負ったと?」
「うん。実力は足りてないかもだけど、それを理由に何もしないのはもったいないし。うちの班のリーダーに話したら、無理しない程度に自由にしていいって言われたからさ。何事も経験だからって」
「…………」
つまり、安請け合いしたらしい。その事実にムジカは思いっきり眉根を寄せた。
警護隊は実力が足りない者は参加できない仕組みだったはずだが。実力が足りてないというのであれば、まさしくアーシャがそれだ。将来的にはともかくとしても、現在の彼女は素人同然だ。
そんな彼女を実戦に送り出す? どだい正気じゃない。
誘ったセシリアはこちらの不安など全く意にも介していないようなので、こちらの取り越し苦労なのかもしれないが。
(最悪、いざとなったらこの二人のお守りか……)
その前に、次善策は仕込んでおこう。そこまで考えて、手短に告げた。
「仮に依頼を受けることが決まったら、こいつ、参加前にみっちり訓練させるからな」
「ええ、もちろん。私――やると決めたら半端はしないって決めてるの」
「……うわあ。ちょっとかわいそうな予感がするっす」
最後はリムの、既に何かを悟ったかのような呻きだが。
セシリアと顔を見合わせて頷きあった後、ジトっとした目でアーシャを見やる――
「……ふぇ?」
能天気な彼女は能天気だから、この後のことをまだ想像していないようだった。
「…………」
「…………?」
「…………?」
ムジカができたことはと言えば、首を傾げることだけだった。
そんなこちらの反応に、セシリアもまた顔から自信を失っていく。どうやら、こちらの反応が予想以上に予想外だったらしい。
ひとまず首を傾げたまま、ムジカはきょとんと訊いた。
「……なんだ? なんのお声がけだって?」
「……知りませんの?」
「ああ、まったく。大事な話か?」
「ええ、とっても」
無表情で頷かれて、ひとまず困る。
といっても知らないものは知らないのだから仕方がない。となれば知っている可能性がある人物に訊くしかなく、ムジカは視線を二人から離した。
と、ちょうどいいタイミングで茶を煎れていたリムが戻ってくる。
「――お待たせしました。お茶をお持ちしました……どうしたっすか?」
「リム。俺かラウル傭兵団あてに、周辺空域警護隊からなんか連絡来てるか?」
「警護隊からっすか? 連絡は来てなかったと思うっすけど。父さんも何も言ってなかったっすし」
「……あなたたち、本当に何も聞いてないの? ……あら、ありがとう。いただくわね?」
と、リムから湯気の立つティーカップを受け取って、香りを楽しむように口元まで運ぶ。
そうしてセシリアは含むように一口飲んで――ほんの一瞬、硬直した。
「……もしかして、猫舌か?」
「デリカシー!!」
「デリカシーの守備範囲、広すぎねえかな」
怒鳴られて思わず渋い顔するが、リムにも怪しむ目で見られたので口を閉ざす。
リムがテーブルにアーシャの分、ムジカの分と茶を置いて座るのを待ってから、ムジカは改めて問いかけた。
「そんで? 結局その隊員募集ってのはなんなんだ?」
「今のも含めて、これまでのあなたの態度にちょっと言いたいことがあるのだけれど……まあいいわ、説明してあげる。今回来た案内というのはね――……」
簡単に言ってしまえば、先のメタル襲撃で防空体制に穴の開いた警護隊から、見込みのある者への隊の参加案内らしい。
周辺空域警護隊はその名前の通り、この浮島周辺の空域を定期的に巡回・警護するノーブルたちの集団だ。役割は主に浮島の防衛だ。
“ノーブル”の語源はすなわち“貴族”だ。だが現代、この空において“ノーブル”とはこの空を、浮島を、人々を守ることを使命とする人々という意味合いが強い。そのため警護隊はまさしくノーブルらしい仕事と言える。
セイリオスの警護隊は実力主義のようだが、そういう面もあって警護隊への参加を認められることはある種の名誉になっているらしい。つまり参加を認められること、そして警護隊の一員として責務を果たすことは、彼らにとってはとても誇らしいことなのだ。
という話を、簡単にだが熱弁するセシリアから聞かされて。
記憶に引っかかるものを感じて、ムジカは首を傾げた。
「……ん? だけどあれって、確かランク戦である程度実力を認められたやつに与えられる権利とかじゃなかったか? 一年ってランク戦まだ参加してないだろ? なんで案内が来るんだ?」
「だから言ったでしょ、防空体制に穴が開いたって。これは臨時的な特例措置なのよ」
「特例?」
きょとんと訊くと。
今がどんな状態かわかってる? と呆れたように眉根を寄せてから、彼女は言ってきた。
「先のメタル襲撃で、ノーブルの側にたくさんの被害が出たのは知っているでしょう? 直近で学園が休業状態で、上級生が忙しそうにしてるのも体制を整えるため――つまりは壊れたノブリスの修理だとか、負傷者の治療とか、破壊された施設の修理とかが理由。一年生の警護隊参加要請もそのためのものよ。単純に今、人手不足なの」
「だから猫の手でも借りたいって?」
「最低限の実力はあると認められた猫の、ね」
そこに自負があるらしい――どこか胸を張るように言うセシリアを、ムジカは訝しむように見た。
彼女の表情からすれば、腕に自信はあるのだろう。一年坊が評価されるタイミングなど早々なかっただろうから、おそらくはあの襲撃の日にそこそこ活躍したということなのだろうが。
そこまで含めて察したうえで、ムジカの反応はこれだった。
「だからって、なんで俺のほうに話が来ると思ったんだ? 俺は錬金科だぞ?」
「……責務に努めるつもりはないと?
「そいつはノーブルの考えだな。悪いけど、俺は傭兵だよ」
冷ややかに目を細めて言うセシリアに、ムジカは肩をすくめることを返答とした。
周辺空域警護はとっても誇らしい仕事、というのは勝手だが。そんなのはノーブルの側の事情だ。ムジカには何の関係もない。
とはいえ、その一言で相手が機嫌を損ねたのは間違いない。先ほどよりもさらに冷ややかに、セシリアが囁いた。
「……メタルの別動隊という大群相手に献身的な英雄行為を成した、義憤の人と聞いていたのだけれど?」
「どこで聞いたんだそのうわさ? 傭兵団だって名乗ってたろ。仕事だよ、仕事」
と、思い出して後ろに控えていたリムに訊いた。
「……そういやリム。あの仕事の報酬ってどうなったんだ?」
「え? あーし知らないっすよ? アニキが始めた仕事なんだから、アニキがネゴしてるもんだと思ってたっすけど」
「傭兵団の仕事だーって声明出したのはお前だろうに」
そもそもアレはリムが仕事という体裁でムジカの戦闘介入を正当化しただけだったので、本来は仕事ですらなかったのだが。そんなことすら完全に忘れていた――
と、言ってからハッと視線を前に戻した。
テーブルの先、こちらを見つめる女二人は、何故か目を細めてニタニタと笑っている――……
「金にがめついはずの傭兵さんが、あんな大事件の報酬をほったらかしねえ……それって本当に“仕事”だったのかしら……?」
「あたし知ってるよ。自分のこと貶めるようなこと言ってるけど。こういうの、照れ隠しって言うんだって。ムジカっていい人扱いされる嫌がるけど、そういうとこ子供っぽいよね……!」
「……アーシャ。お前、次の訓練覚えとけよ」
ひとまずアーシャにだけは呪いを囁いてから、ムジカは一度咳ばらいを置いた。
「まあ与太話はともかくとしてだ。周辺空域警護隊の件で、俺に声かけてきた理由は? まさかとは思うが、あんたとチーム組んで一緒に参加しろとでも?」
本題に話を戻す。後半は半ば嫌味や当てつけの類になったが、ムジカはどちらかと言えば牽制のつもりだった。アホなこと考えてるんじゃないだろうなと、半眼で相手を見やるのだが。
対するセシリアはと言えば、ケロッとしたものだった。
「ええ、そのまさかよ?」
「……はあ?」
流石に予想外に過ぎたので、思わずそんな声を上げる。
だが当のセシリアは涼しげな顔して微笑むだけだ。驚くことすら予想の内のような顔して、先を続けてくる。
「警護隊の参加に関して、一年生が実力不足というのは事実よ。それはあちらも把握してる。だから私たち被推薦者は二名まで、同行者を集めてチームでの参加が認められてるの――というより、推奨されてるわ。私はお声がけしてもらえた私の実力に胸を張るけれど、一方で無謀でもないの。経験不足は否定しない。だから、あなたに声をかけたというわけ」
「というわけ、と言われてもな。俺はやる気ないんだが」
「あら。この要請は拒否権ないわよ。だってノーブルとしての大切なお仕事ですもの」
「俺はノーブルじゃないんだが?」
「なら傭兵さんに、お仕事として依頼を出そうかしら。私は経験が欲しいだけだから、警護隊の参加報酬は全部あなたにあげてもいいし。なんなら少しくらいなら色を付けても構わないわよ?」
「…………」
暗にめんどくさいからやりたくないと言っているのに意外に弁が立つ。
思わずムジカは半眼でセシリアを見やった。待ち受ける彼女の顔には不敵な笑み。
と、背後から思わぬ援護射撃。
「別に受けてもいいんじゃないっすか? どうせしばらく暇なんすし」
「……やる気の問題なんだけどなあ」
ちらと肩越しにリムを見やってから、ムジカはため息をついた。
「……ひとまず傭兵としての仕事なら、俺の一存じゃ決められん。本気なら、団長に話を通しといてくれ。こっちの都合優先になるが、話はそれからだ」
「構わないわ。今日は話を聞いてもらえただけでも十分よ」
「最初の時点で危うく聞いてもらえなさそうだったけどね?」
呆れたようにアーシャが言ってくるので、混ぜっ返すなよとムジカは半眼を向けた。
と、ふと気づいて訊く。
「ところで同行者は二名までなんだろ? あと一人は?」
別に必須というわけではないだろう――し、このセシリアがどこまでやれるかは知らないが、足手まといは少ないほうがいい。
さすがにそれを口にはしなかったが、視線の先でセシリアはやはり微笑んでいた。どうやら当てはあるようだ。
というか、もう決まっているらしい。彼女はその微笑みのまま言ってきた。
「私、あなた――そして、アーシャよ」
「……うぇ?」
思わず上ずった声が出た。
予想もしてない三人目の名前に思わずアーシャを見やると、彼女は『たははー』と苦笑した後、
「どーせあたし、暇してたし。経験が必要だなーとは思ってたから。そしたらセシリアに、普段の訓練手伝ってあげるから、代わりに私の手伝いしなさいって――」
「言われて、そのまま請け負ったと?」
「うん。実力は足りてないかもだけど、それを理由に何もしないのはもったいないし。うちの班のリーダーに話したら、無理しない程度に自由にしていいって言われたからさ。何事も経験だからって」
「…………」
つまり、安請け合いしたらしい。その事実にムジカは思いっきり眉根を寄せた。
警護隊は実力が足りない者は参加できない仕組みだったはずだが。実力が足りてないというのであれば、まさしくアーシャがそれだ。将来的にはともかくとしても、現在の彼女は素人同然だ。
そんな彼女を実戦に送り出す? どだい正気じゃない。
誘ったセシリアはこちらの不安など全く意にも介していないようなので、こちらの取り越し苦労なのかもしれないが。
(最悪、いざとなったらこの二人のお守りか……)
その前に、次善策は仕込んでおこう。そこまで考えて、手短に告げた。
「仮に依頼を受けることが決まったら、こいつ、参加前にみっちり訓練させるからな」
「ええ、もちろん。私――やると決めたら半端はしないって決めてるの」
「……うわあ。ちょっとかわいそうな予感がするっす」
最後はリムの、既に何かを悟ったかのような呻きだが。
セシリアと顔を見合わせて頷きあった後、ジトっとした目でアーシャを見やる――
「……ふぇ?」
能天気な彼女は能天気だから、この後のことをまだ想像していないようだった。
0
お気に入りに追加
42
あなたにおすすめの小説
ママと中学生の僕
キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。
小学生最後の夏休みに近所に住む2つ上のお姉さんとお風呂に入った話
矢木羽研
青春
「……もしよかったら先輩もご一緒に、どうですか?」
「あら、いいのかしら」
夕食を作りに来てくれた近所のお姉さんを冗談のつもりでお風呂に誘ったら……?
微笑ましくも甘酸っぱい、ひと夏の思い出。
※性的なシーンはありませんが裸体描写があるのでR15にしています。
※小説家になろうでも同内容で投稿しています。
※2022年8月の「第5回ほっこり・じんわり大賞」にエントリーしていました。
蘇生魔法を授かった僕は戦闘不能の前衛(♀)を何度も復活させる
フルーツパフェ
大衆娯楽
転移した異世界で唯一、蘇生魔法を授かった僕。
一緒にパーティーを組めば絶対に死ぬ(死んだままになる)ことがない。
そんな口コミがいつの間にか広まって、同じく異世界転移した同業者(多くは女子)から引っ張りだこに!
寛容な僕は彼女達の申し出に快諾するが条件が一つだけ。
――実は僕、他の戦闘スキルは皆無なんです
そういうわけでパーティーメンバーが前衛に立って死ぬ気で僕を守ることになる。
大丈夫、一度死んでも蘇生魔法で復活させてあげるから。
相互利益はあるはずなのに、どこか鬼畜な匂いがするファンタジー、ここに開幕。
漫画の寝取り竿役に転生して真面目に生きようとしたのに、なぜかエッチな巨乳ヒロインがぐいぐい攻めてくるんだけど?
みずがめ
恋愛
目が覚めたら読んだことのあるエロ漫画の最低寝取り野郎になっていた。
なんでよりによってこんな悪役に転生してしまったんだ。最初はそう落ち込んだが、よく考えれば若いチートボディを手に入れて学生時代をやり直せる。
身体の持ち主が悪人なら意識を乗っ取ったことに心を痛める必要はない。俺がヒロインを寝取りさえしなければ、主人公は精神崩壊することなくハッピーエンドを迎えるだろう。
一時の快楽に身を委ねて他人の人生を狂わせるだなんて、そんな責任を負いたくはない。ここが現実である以上、NTRする気にはなれなかった。メインヒロインとは適切な距離を保っていこう。俺自身がお天道様の下で青春を送るために、そう固く決意した。
……なのになぜ、俺はヒロインに誘惑されているんだ?
※他サイトでも掲載しています。
※表紙や作中イラストは、AIイラストレーターのおしつじさん(https://twitter.com/your_shitsuji)に外注契約を通して作成していただきました。おしつじさんのAIイラストはすべて商用利用が認められたものを使用しており、また「小説活動に関する利用許諾」を許可していただいています。
金貨1,000万枚貯まったので勇者辞めてハーレム作ってスローライフ送ります!!
夕凪五月雨影法師
ファンタジー
AIイラストあり! 追放された世界最強の勇者が、ハーレムの女の子たちと自由気ままなスローライフを送る、ちょっとエッチでハートフルな異世界ラブコメディ!!
国内最強の勇者パーティを率いる勇者ユーリが、突然の引退を宣言した。
幼い頃に神託を受けて勇者に選ばれて以来、寝る間も惜しんで人々を助け続けてきたユーリ。
彼はもう限界だったのだ。
「これからは好きな時に寝て、好きな時に食べて、好きな時に好きな子とエッチしてやる!! ハーレム作ってやるーーーー!!」
そんな発言に愛想を尽かし、パーティメンバーは彼の元から去っていくが……。
その引退の裏には、世界をも巻き込む大規模な陰謀が隠されていた。
その陰謀によって、ユーリは勇者引退を余儀なくされ、全てを失った……。
かのように思われた。
「はい、じゃあ僕もう勇者じゃないから、こっからは好きにやらせて貰うね」
勇者としての条約や規約に縛られていた彼は、力をセーブしたまま活動を強いられていたのだ。
本来の力を取り戻した彼は、その強大な魔力と、金貨1,000万枚にものを言わせ、好き勝手に人々を救い、気ままに高難度ダンジョンを攻略し、そして自身をざまぁした巨大な陰謀に立ち向かっていく!!
基本的には、金持ちで最強の勇者が、ハーレムの女の子たちとまったりするだけのスローライフコメディです。
異世界版の光源氏のようなストーリーです!
……やっぱりちょっと違います笑
また、AIイラストは初心者ですので、あくまでも小説のおまけ程度に考えていただければ……(震え声)
スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活
昼寝部
ファンタジー
この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。
しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。
そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。
しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。
そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。
これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。
冤罪をかけられ、彼女まで寝取られた俺。潔白が証明され、皆は後悔しても戻れない事を知ったらしい
一本橋
恋愛
痴漢という犯罪者のレッテルを張られた鈴木正俊は、周りの信用を失った。
しかし、その実態は私人逮捕による冤罪だった。
家族をはじめ、友人やクラスメイトまでもが見限り、ひとり孤独へとなってしまう。
そんな正俊を慰めようと現れた彼女だったが、そこへ私人逮捕の首謀者である“山本”の姿が。
そこで、唯一の頼みだった彼女にさえも裏切られていたことを知ることになる。
……絶望し、身を投げようとする正俊だったが、そこに学校一の美少女と呼ばれている幼馴染みが現れて──
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる