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1章 強制入学編

4-6 決闘だ!!

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 結局あの後、ダンデスとか言うやかましいノーブルを黙らせた後。
 説明してくれた子分二人の話を要約すると、こういう話のようだった。

「――受け入れてくれる研究班がない?」

 ソファーにふんぞり返るダンデスは答えない。不機嫌そうにそっぽを向くので子分二人を見やれば、彼らは申し訳なさそうにうつむいていた。小柄で気弱そうなメガネの少年と、大柄で糸目、無口の少年。
 メガネのほうは、間違いでなければ先日ムジカを背中から撃ったもう一人だが。説明役を務めるのは、もっぱらその少年だ。

「はい。戦闘科の講義では、ノブリスを使いますから。その整備を、どこかの研究班に受け入れてもらおうと思ってたのですが……」
「どこに行っても、話すら聞いてもらえず門前払いされてる、と」

 通常、戦闘科のノブリスの整備は錬金科の担当だ。錬金科の研究班と契約を結ぶことで、お互い持ちつ持たれつの関係を作る。言い方を変えれば錬金科と関係を作れなかったノーブルは、ノブリスの整備が行えないということだ。
 当然それでは戦闘科の生徒はやっていけないし、あぶれた者は学園側からフォローが入るはずだが。自分のやりたいことに沿った研究班と連携を取れないとなると、戦闘科にとっても錬金科にとっても望ましくない結果となるわけだ。
 だからこそ研究班決めは、ある程度生徒の自主性が求められるのだが。

「それが全部断られるってことは、ヘタなこと言ったとか毎度相手を怒らせたとか、なんかやらかしたんだろ? 今だってお世辞にもいい態度だなんて言えないし。それがどうして俺のせいなんだ?」
「それは……」
「――お前たちが、ボクの悪評をばらまいたからだろう」

 と、不意に険悪に差し込んできたのは、これまで黙り込んでいたダンデスだった。
 彼は態度こそ偉そうにしていたが、その瞳には怒りと恨み、そしてわずかな狂気と怯えが見えた。それは総じてしまえば、敵意と呼んで差し支えないが――

「悪評?」

 何の話をしているのか。これもわからず顔をしかめた。
 そもそもほとんど関係のない相手だ。なんなら先ほどまで相手のことなど忘れていたくらいで、だからこそ理解できない。
 こちらの怪訝を察してくれたらしい従者が、事情を説明してくる。

「ここ数日、我々のノブリスの整備を依頼するため、各研究班を回っていたんです。ただ、ダンデス様の顔を見た途端、受け入れを断られてしまうことが続いて……」
「どうして断るのかを聞きだしたら、先日の“事故”が原因だと聞かされた。仲間を背中から撃つノーブルなどお断りだと……!」

 そこで拳を握り締めると、ダンデスは声を荒らげた。

「言え! 各研究班に先日のことを言いふらしたのはお前たちだろう!? アレは事故だと言ったはずだ! それなのに、どうしてこうまでボクが貶められている!? 平民風情を撃っただけなのに、おかしいだろう!? お前が悪評をばらまいたとしか思えない――」
「――うん? ……ああ、何の話かようやく分かった」

 と。
 唐突にアルマが口をはさんできたので、視線がそちらに集まった。
 彼女はほとほと嫌気が差していたのか、ダンデスたちの対応をムジカに任せてデスクにかじりついてたが。区切りのいい所を見つけたのか、マギコンを操作する手を止めると、肩越しに振り向いて言ってくる。

「毎年恒例だから、すっかり忘れてたよ。確かに少し前に、バカなノーブルの情報が各研究班に共有された。講義の最中、気に食わないからってペアでもない相手にガン・ロッドぶっ放した危険人物がいるから、うっかり契約結ばないように注意しろとね」
「!? やはり、お前が――」

 その言葉を聞いて、即座にダンデスが激昂するが。
 その怒りも、すぐにアルマの容赦ない一言で沈下した。

「だがそれ、送り主は生徒会長だよ」
「……はっ?」

 赤く染まった顔から血の気が引いていくのは壮観ではあったが、それはそれとしてアルマに訊く。

「なあ。いまいち話についていけてないんだが……毎年恒例ってのは、何の話だ?」
「いやなに。本当に、ありがちな話という以上の意味はないよ。自分はなにしても許されるって勘違いしてるノーブルが、アホやらかすのがこの時期なのさ。故郷じゃいいとこのボンボンってことでちやほやされてたんだろうけどね。セイリオスで親の七光りが通用するわけないじゃないか」
「……生徒会長が送り主って言うのは?」
「? そこ疑問に思うところあるかね? 注意喚起は生徒会の仕事だろ?」
「ああ、まあ、そうか」

 としか言いようがない。どうせなら本人にも警告飛ばしとけよとは思うが、ある意味ではこれこそが厳罰なのかもしれない。
 視線を少年たちに戻せば、全員が顔を真っ青にしていたが。

「な、な……何故? 何故、生徒会長が……?」
「何故って。決まってるだろ。セイリオスの管理者はあの女だぞ? 戦闘科だってあの女のシマだ。アホやらかせば、睨まれるのも当然だろうに」
「たかが“事故”だと言っているだろう!? それがどうして!?」
「……本気で言っているのかね?」

 悲鳴を上げるダンデスに、アルマが無慈悲に告げた。

「たかが事故でも、味方を撃ち落とそうとするノーブルを、あの女が必要とすると思うかね?」
「――――――」
「いらんだろ、どう考えても」

 瞳に心の底からの軽蔑を籠めて。アルマが冷たく囁く。
 それきり興味を失ったらしい。アルマはマギコンの操作に戻りながら、こちらを振り向かずに言ってきた。

「ま、あの女の理屈はどうでもいいよ。話が終わったならさっさと帰ってくれたまえ。悪いが私はこれ以上、凡百に時間を取られたくないのでね」

 やれやれ、本当に時間の無駄だった……などと、アルマは完全に話を終わらせたつもりらしい。
 だが確かに、これは時間の無駄と言わざるを得ない。浮島の管理者に睨まれているノーブルなど、どれだけ能力があろうとリスクでしかない。ましてや付き合いのない新入生など、どこの研究室も取りたがらなくて当たり前だ。
 だからこそ、これで話が終わってくれればよかったのだが。

「……?」
「…………?」

 不意にひび割れたような声が聞こえて、ムジカはダンデスを見やった。
 うつむいて、両ひざに自らの手を置いて。その少年は打ちひしがれているように見える。先ほどアルマから語られたのは、学園生としては死刑宣告にも等しい。それを思えば、うなだれるのも理解のできることはあるが。
 違った。ムジカの耳に届いたのは、反省とか後悔とか、それらとは明らかに別種のなにかだった。

「凡百? この、このボクが……凡百だと……?」
「ダンデス様……?」

 最初は、うなるように――静かに。

「――取り消せ、小娘!!」

 だが膝の上に握られた掌が握り締められた時、それは一瞬で激情へと化けた。
 応接机を蹴飛ばして立ち上がり、その場でアルマに向かって叫ぶ。アルマはそれを、肩越しに見返すだけだが――

「ボクはスバルトアルヴが序列二位、ファルクエーレの嫡子だぞ!? そのボクを凡百だと!? お前はボクを侮辱する気か!?」
「キミのスペックシートには目を通した。その上での正当な評価だよ。私がキミを“いらない”と言っているのもそれが理由だ。私は、私が“作ってやってもいい”と思ったノーブル以外に用はないんだ。だから、キミとの話は始まる前から終わっている」
「どこまでも、ボクを侮辱するか……!? なら、もう許しはしない――」

 そうして、ダンデスが宣言したのは。
 真っ当な理性が残っていたなら絶対に決断しなかっただろう、破滅のための言葉だった。

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