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2章
2-4 お前、実は結構厚かましいな?
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制服を脱いで部屋着に着替えると、ヤナギはすぐにキッチンへと戻った。買ったものを冷蔵庫に詰め込む作業は終わっている。
用事はそれではなく、夕飯の用意だ。
親元を離れた以上、食事は自分で作らなければならない。一人暮らしなのだから当たり前の話なのだが。炊事と家事は親の仕事だと、甘えていた半年前の自分はなんとも愚かだった。親元を離れて思い知ったのはその圧倒的なめんどくささだ。特に料理。
子供の献立には栄養素などという概念はない。最初の一か月、ヤナギは栄養なんてどうでもいいとばかりにコンビニ弁当だのインスタント麺だのを雑に食べていた。粗末な食生活の果てに待っていたのは悲惨な末路だ。ゴールデンウィーク中派手に体調を崩して寝込んだ。
親を偉大だと感じたのはまさしくその時だ。栄養を考えて時々子供の嫌いなメニューを出して、ブーブー文句を言われてもまったく気にしない。
「……いや、気にしてほしかったな少しは」
ため息をつく。
閉めたばかりの冷蔵庫を開いて、ヤナギは中身を物色した。何を作ろうか迷う時の基準は気分だ。サッと作れるものにしたいか、ちょっと――主婦ではなく男子高校生にとっての“ちょっと”――手が込んだものを作ろうかという二択。
今日はその“ちょっと”の気分だった。
「今日はカレーかな……」
炊飯器の用意は朝しておいたので、後はカレーを作るだけだ。
作り方にこだわりはない。ルーのパッケージ裏に記載されているレシピ通りだ。下手なことをしなくても、それで美味しく作れる。野菜を切ったら玉ねぎは炒めて、コンロにかけた鍋に野菜を全部ぶち込んで煮込んで……――
と。
「――何を作ってるんだい?」
「うおっ?」
不意に背後から話しかけられて、思わずヤナギは声を上ずらせた。
完全にアマツマの存在を忘れていた。一人暮らしだからこそ、誰かに話しかけられることがあるとすら思ってなかった。だからこそ、過剰に驚いて振り返る――
そして、軽く絶句した。
「ん? なに? どうかした?」
「……なあ。わざとやってる?」
「? なにが?」
「あー……いや、なんでもない」
不思議そうに首を傾げたので、わざとではないらしい。だからこそヤナギは頭痛を堪えるに眉間を指で揉んだ。
当たり前のことではあるが、アマツマは風呂上がりだった。まだ暑いのか軽く汗ばんだ顔に、上気した頬。既にドライヤーはかけたようで、猫っ毛の髪は乾いている。
まあ、そこまではいい。問題は服装だ。
学校指定の、ハーフジップの長袖ジャージ。胸元から襟まで伸びるチャックがついた、ごく一般的なジャージだが。
(なんでよりにもよって、チャック全開で出てくるんだこいつは?)
理由ならわかる。暑いからだ。だから胸元を開いている。話としてはそれだけだが――そのせいで、くたんと垂れた襟の間から、生白い肌と鎖骨が覗く。男とはまったく違う、艶めかしいまでに柔らかそうな真っ白の肌……
生唾を飲み込みそうになるのを慌てて堪えて、ヤナギはどうにか息を吐いた。あちらが意識していないなら、こちらも意識しない。負けた気がするからだ。何にかは知らないが。
だから逃げるようにさっさと背を向けると、料理に集中するふりをしてつっけんどんに告げた。
「俺の晩飯。カレー作ってる」
「へえ……アマツマって料理するんだ?」
「煮るか焼くかで済むような、簡単なやつならな。総菜ばっかり食べてるわけにもいかんし」
「なるほどなるほど、感心だね。それにしてもカレーか……いいね。ちょうどお腹が空いてたんだ」
「……ん?」
その言いように嫌なものを覚えて、思わずヤナギはまたアマツマを――極力顔から下は見ないように――見やった。
鍋を覗きたかったのか、先ほどより近い場所にいたアマツマに、きょとんと告げる。
「お前の分なんてないぞ?」
「……え?」
どこか楽しそうにしていた顔から、急速に表情が消えていくのを見届ける。
なんとなくヤナギが連想したのは、お気に入りの玩具を取り上げられた赤ん坊の顔だった。笑顔が数秒で凍りつき、衝撃に呆然とし、最後には泣き出し――たりは、流石にしなかったが。
少なくとも似たような気配を漂わせて、訊いてくる。
「……なんで?」
「なんでも何も、一人分しか作ってないし」
「どうして」
「材料一人分しか買ってないし」
というか、そもそも風呂入ったら帰るもんだとばかり思っていたんだが――と、特に感情を含めずに言うと。
何がスイッチだったのかは知らないが、途端にキリリと表情を引き締め、アマツマは大げさに演技臭く嘆いてみせた。
「こんなに美味しそうな夕飯を前に? ボクの舌をこうまでカレーな気分にさせておいて、キミはボクをあの寒空の下に放り出すというのかい? ひどい。それはあまりにもひどいよヒメノ。キミとボクの仲じゃないか?」
「……お前、実は結構厚かましいな?」
思わず半眼で呻く。こいつ、演劇部だったっけ? などと疑いもしたが、アマツマは部活には所属していなかったはずだ。
つまり、これが女の子を口説く時の“王子様”ということなんだろうか。
「にしても、俺とアマツマの仲?」
「そうだよヒメノ。ボクとキミの仲だよ? 慮ってくれても――」
「せいぜいただのクラスメイトじゃねえか?」
「…………」
この前お節介で手当てはしたが。やはりそれ以上の関係ではない、と思う。お互い、学校ではほぼ没交渉だ。今日の体育の授業ではアクシデントがあったから話をしたが、普段接点はない。
ふと思い至って鍋のほうに視線を戻した。ことことと煮えた鍋の中で、緩やかに野菜が躍っている。そろそろルーを入れてもいい頃だろう――
と。
「……その言い草はひどいよ、ヒメノ……」
「……っ!?」
すぐ真後ろで、声。耳元で囁かれたハスキーボイスに、ばっと振り向く。
目の前に――美しい女の顔があった。たとえ髪が短くとも、人からは王子様と呼ばれていても。ともすれば、吐息が肌に触れそうなほどの場所に……アマツマの顔がある。
悲しげに伏せられた瞳はヤナギからわずかに逸らされてはいたが、それでも女はヤナギを見ていた。
「悲しくて、胸が張り裂けそうだ。ボクはこんなにも、ヒメノのことを想っているのに……」
「…………」
触れるか、触れないか。その境目の感触と共に、愁いを帯びた目で。恋人に縋りつくように囁いてくる――
だがどうにもやるせなくて、ヤナギは半眼で告げた。
「お前もしかして、いつも女の子にそんなこと言ってんの?」
「え? うん。意外とウケいいよ、悲しそうにすがるパターン」
存外ケロッと表情を戻して、アマツマは答える。
距離は変わらず近いままだが、それだけで空気の重さはがらりと変わった。
「おっかしいなあ。これ、ヒメノに効かないのか。このパターン結構ウケ良かったのになあ……」
「……お前、それ女の子相手だろ? なんで男の俺に試したんだ?」
「いや、ヒメノも案外イケるかなって」
「…………」
それはどういう意味で言ってんだ? と視線だけで訊く。口笛を吹くふりなどしてアマツマはごまかしていたが。
「家で晩飯食えなくなるぞ」
「ああ、それは大丈夫だよ。どうせないし」
「……?」
つい、それはどういう意味かと聞き返しそうになったが。
それよりも先に、アマツマがしゅんとした顔で訊いてくるほうが早かった。
「ねえヒメノ。やっぱり、だめ……かな?」
「…………」
どう答えるのが正しいのか。それがわからずに、沈黙が長くなり過ぎていた。その上でそもそも一人分しかないんだから、ダメも何もない――と、断ろうと思ったのだが。
深々とため息をつくと、ゆるゆると首を振ってから呻いた。
「新しく作るのも面倒だし、ルー入れてかさ増しするか……」
「え? ヒメノ?」
「俺が食えりゃいいって程度のもんだからな。途中で分量の変更とかもしたことねえし……マズくても文句言うなよ」
そう告げてからの変化は劇的だった。
それこそ、お気に入りの玩具を取り戻した子供のように、顔をパッと輝かせて、
「ホント!? ヒメノ、ありがとう!!」
「あーあーうるせえ。まだ時間かかるから、リビングでテレビでも見てろ。集中できねえ」
「集中? もう煮るだけじゃないの?」
「他にやることあんだよ。いいからあっち行ってろ」
「はーい」
そのままスキップでもしそうな様子でリビングに行く。本当にお腹が減っていたのだろう。機嫌はとてもよさそうだ。
その様子を尻目に追いかけながら――こっそりと、だがまた深々とヤナギはため息をつく。
(あー……しんっど……)
何がしんどかったかといえば、アマツマの態度だ。隙だらけ、無防備というだけでもキツいのに、今度は学校で女の子を口説くのと同じように接してきた。何が面白いんだか……と思っていたが、その片鱗を味わってしまった。
美人の顔が目の前にあったという、その事実だけでクラクラするというのに。
するりと頬まで伸びてきた指のくすぐったさ。耳元で転がすように囁かれた声。真に迫った悲しげな顔……
今も、心臓がバクバクとうるさい。確かに、見惚れるほどの威力はあった――あったのだが。
(シャンプーの匂いがなあ……)
何がやるせなかったかといえばそれだ。
ヤナギが普段使っているものと同じ匂い。それはほぼイコールで、風呂上がりの自分と同じ匂いなわけで。それに気づいた瞬間、一気に現実に引き戻された。
あるいは、女の子が自分と同じシャンプーの匂いを漂わせていることにこそ何かを感じるべきだったのかもしれないが……
「なにやってんだかな、俺……」
「んー? ヒメノー、なんか言ったー?」
「言ってねえ。もう少しおとなしく待ってろ」
そっけなく言い返して、ヤナギは小さくため息をついた。
用事はそれではなく、夕飯の用意だ。
親元を離れた以上、食事は自分で作らなければならない。一人暮らしなのだから当たり前の話なのだが。炊事と家事は親の仕事だと、甘えていた半年前の自分はなんとも愚かだった。親元を離れて思い知ったのはその圧倒的なめんどくささだ。特に料理。
子供の献立には栄養素などという概念はない。最初の一か月、ヤナギは栄養なんてどうでもいいとばかりにコンビニ弁当だのインスタント麺だのを雑に食べていた。粗末な食生活の果てに待っていたのは悲惨な末路だ。ゴールデンウィーク中派手に体調を崩して寝込んだ。
親を偉大だと感じたのはまさしくその時だ。栄養を考えて時々子供の嫌いなメニューを出して、ブーブー文句を言われてもまったく気にしない。
「……いや、気にしてほしかったな少しは」
ため息をつく。
閉めたばかりの冷蔵庫を開いて、ヤナギは中身を物色した。何を作ろうか迷う時の基準は気分だ。サッと作れるものにしたいか、ちょっと――主婦ではなく男子高校生にとっての“ちょっと”――手が込んだものを作ろうかという二択。
今日はその“ちょっと”の気分だった。
「今日はカレーかな……」
炊飯器の用意は朝しておいたので、後はカレーを作るだけだ。
作り方にこだわりはない。ルーのパッケージ裏に記載されているレシピ通りだ。下手なことをしなくても、それで美味しく作れる。野菜を切ったら玉ねぎは炒めて、コンロにかけた鍋に野菜を全部ぶち込んで煮込んで……――
と。
「――何を作ってるんだい?」
「うおっ?」
不意に背後から話しかけられて、思わずヤナギは声を上ずらせた。
完全にアマツマの存在を忘れていた。一人暮らしだからこそ、誰かに話しかけられることがあるとすら思ってなかった。だからこそ、過剰に驚いて振り返る――
そして、軽く絶句した。
「ん? なに? どうかした?」
「……なあ。わざとやってる?」
「? なにが?」
「あー……いや、なんでもない」
不思議そうに首を傾げたので、わざとではないらしい。だからこそヤナギは頭痛を堪えるに眉間を指で揉んだ。
当たり前のことではあるが、アマツマは風呂上がりだった。まだ暑いのか軽く汗ばんだ顔に、上気した頬。既にドライヤーはかけたようで、猫っ毛の髪は乾いている。
まあ、そこまではいい。問題は服装だ。
学校指定の、ハーフジップの長袖ジャージ。胸元から襟まで伸びるチャックがついた、ごく一般的なジャージだが。
(なんでよりにもよって、チャック全開で出てくるんだこいつは?)
理由ならわかる。暑いからだ。だから胸元を開いている。話としてはそれだけだが――そのせいで、くたんと垂れた襟の間から、生白い肌と鎖骨が覗く。男とはまったく違う、艶めかしいまでに柔らかそうな真っ白の肌……
生唾を飲み込みそうになるのを慌てて堪えて、ヤナギはどうにか息を吐いた。あちらが意識していないなら、こちらも意識しない。負けた気がするからだ。何にかは知らないが。
だから逃げるようにさっさと背を向けると、料理に集中するふりをしてつっけんどんに告げた。
「俺の晩飯。カレー作ってる」
「へえ……アマツマって料理するんだ?」
「煮るか焼くかで済むような、簡単なやつならな。総菜ばっかり食べてるわけにもいかんし」
「なるほどなるほど、感心だね。それにしてもカレーか……いいね。ちょうどお腹が空いてたんだ」
「……ん?」
その言いように嫌なものを覚えて、思わずヤナギはまたアマツマを――極力顔から下は見ないように――見やった。
鍋を覗きたかったのか、先ほどより近い場所にいたアマツマに、きょとんと告げる。
「お前の分なんてないぞ?」
「……え?」
どこか楽しそうにしていた顔から、急速に表情が消えていくのを見届ける。
なんとなくヤナギが連想したのは、お気に入りの玩具を取り上げられた赤ん坊の顔だった。笑顔が数秒で凍りつき、衝撃に呆然とし、最後には泣き出し――たりは、流石にしなかったが。
少なくとも似たような気配を漂わせて、訊いてくる。
「……なんで?」
「なんでも何も、一人分しか作ってないし」
「どうして」
「材料一人分しか買ってないし」
というか、そもそも風呂入ったら帰るもんだとばかり思っていたんだが――と、特に感情を含めずに言うと。
何がスイッチだったのかは知らないが、途端にキリリと表情を引き締め、アマツマは大げさに演技臭く嘆いてみせた。
「こんなに美味しそうな夕飯を前に? ボクの舌をこうまでカレーな気分にさせておいて、キミはボクをあの寒空の下に放り出すというのかい? ひどい。それはあまりにもひどいよヒメノ。キミとボクの仲じゃないか?」
「……お前、実は結構厚かましいな?」
思わず半眼で呻く。こいつ、演劇部だったっけ? などと疑いもしたが、アマツマは部活には所属していなかったはずだ。
つまり、これが女の子を口説く時の“王子様”ということなんだろうか。
「にしても、俺とアマツマの仲?」
「そうだよヒメノ。ボクとキミの仲だよ? 慮ってくれても――」
「せいぜいただのクラスメイトじゃねえか?」
「…………」
この前お節介で手当てはしたが。やはりそれ以上の関係ではない、と思う。お互い、学校ではほぼ没交渉だ。今日の体育の授業ではアクシデントがあったから話をしたが、普段接点はない。
ふと思い至って鍋のほうに視線を戻した。ことことと煮えた鍋の中で、緩やかに野菜が躍っている。そろそろルーを入れてもいい頃だろう――
と。
「……その言い草はひどいよ、ヒメノ……」
「……っ!?」
すぐ真後ろで、声。耳元で囁かれたハスキーボイスに、ばっと振り向く。
目の前に――美しい女の顔があった。たとえ髪が短くとも、人からは王子様と呼ばれていても。ともすれば、吐息が肌に触れそうなほどの場所に……アマツマの顔がある。
悲しげに伏せられた瞳はヤナギからわずかに逸らされてはいたが、それでも女はヤナギを見ていた。
「悲しくて、胸が張り裂けそうだ。ボクはこんなにも、ヒメノのことを想っているのに……」
「…………」
触れるか、触れないか。その境目の感触と共に、愁いを帯びた目で。恋人に縋りつくように囁いてくる――
だがどうにもやるせなくて、ヤナギは半眼で告げた。
「お前もしかして、いつも女の子にそんなこと言ってんの?」
「え? うん。意外とウケいいよ、悲しそうにすがるパターン」
存外ケロッと表情を戻して、アマツマは答える。
距離は変わらず近いままだが、それだけで空気の重さはがらりと変わった。
「おっかしいなあ。これ、ヒメノに効かないのか。このパターン結構ウケ良かったのになあ……」
「……お前、それ女の子相手だろ? なんで男の俺に試したんだ?」
「いや、ヒメノも案外イケるかなって」
「…………」
それはどういう意味で言ってんだ? と視線だけで訊く。口笛を吹くふりなどしてアマツマはごまかしていたが。
「家で晩飯食えなくなるぞ」
「ああ、それは大丈夫だよ。どうせないし」
「……?」
つい、それはどういう意味かと聞き返しそうになったが。
それよりも先に、アマツマがしゅんとした顔で訊いてくるほうが早かった。
「ねえヒメノ。やっぱり、だめ……かな?」
「…………」
どう答えるのが正しいのか。それがわからずに、沈黙が長くなり過ぎていた。その上でそもそも一人分しかないんだから、ダメも何もない――と、断ろうと思ったのだが。
深々とため息をつくと、ゆるゆると首を振ってから呻いた。
「新しく作るのも面倒だし、ルー入れてかさ増しするか……」
「え? ヒメノ?」
「俺が食えりゃいいって程度のもんだからな。途中で分量の変更とかもしたことねえし……マズくても文句言うなよ」
そう告げてからの変化は劇的だった。
それこそ、お気に入りの玩具を取り戻した子供のように、顔をパッと輝かせて、
「ホント!? ヒメノ、ありがとう!!」
「あーあーうるせえ。まだ時間かかるから、リビングでテレビでも見てろ。集中できねえ」
「集中? もう煮るだけじゃないの?」
「他にやることあんだよ。いいからあっち行ってろ」
「はーい」
そのままスキップでもしそうな様子でリビングに行く。本当にお腹が減っていたのだろう。機嫌はとてもよさそうだ。
その様子を尻目に追いかけながら――こっそりと、だがまた深々とヤナギはため息をつく。
(あー……しんっど……)
何がしんどかったかといえば、アマツマの態度だ。隙だらけ、無防備というだけでもキツいのに、今度は学校で女の子を口説くのと同じように接してきた。何が面白いんだか……と思っていたが、その片鱗を味わってしまった。
美人の顔が目の前にあったという、その事実だけでクラクラするというのに。
するりと頬まで伸びてきた指のくすぐったさ。耳元で転がすように囁かれた声。真に迫った悲しげな顔……
今も、心臓がバクバクとうるさい。確かに、見惚れるほどの威力はあった――あったのだが。
(シャンプーの匂いがなあ……)
何がやるせなかったかといえばそれだ。
ヤナギが普段使っているものと同じ匂い。それはほぼイコールで、風呂上がりの自分と同じ匂いなわけで。それに気づいた瞬間、一気に現実に引き戻された。
あるいは、女の子が自分と同じシャンプーの匂いを漂わせていることにこそ何かを感じるべきだったのかもしれないが……
「なにやってんだかな、俺……」
「んー? ヒメノー、なんか言ったー?」
「言ってねえ。もう少しおとなしく待ってろ」
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