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覚醒
1.魔法陣
しおりを挟むここはダンジョン。
この世界にはダンジョンが存在している。
いや、言い方が悪かっただろうか。
ダンジョンのある世界が存在しているのではない
ダンジョンそのものが世界なのである。
人間も魔物も皆ダンジョンの中に住んでいる。
人間は階層を重ね、魔物との戦闘により食料や武器、アイテムの類を得る。魔物は自らの住みやすい環境の階層に住み、その階層の守護者として人間と争う。
人間の悲願はこのダンジョンを突破することだった。上へ上へと彼らの持てる限りの力を使いながら進もうと試みた。しかし、人間の脆弱な力では魔物相手にはどうすることも出来なかった。
そこで、それでは味気ないからとこの世界を管理する存在は動き、人間に力をさずけた。
そう、それこそが『魔法陣』
この魔法陣はこの世界を管理する存在──いわゆる神──から使役された天使が彼らの一部の力を人間へと与え、魔物と張り合えるような状況を作り出した。
『魔法陣』には二つの要素が組み込まれていた。一つは人類に「魔法」と呼ばれる人知を超越した力をさずけること。二つ目はスキルと呼ばれる、その吹けば飛びそうな身一つで魔物へと挑戦するための切符となるものである。
とは言うもののこれは娯楽。
神から見れば膠着した世界の歯車に対してちょっとした潤滑油を垂らして酒のつまみにするようなもの。
神に使役されている天使からすれば、天使達は力をさずけることは出来るがその力が何かは与えてみないとわからないものである。
人にその存在は見えるものではないのだが、彼らからすれば自分が力を与えたものはいわば駒。その駒同士を競走馬として、天界から自分の力を与えるという行為をベットにしてこの世界に変革をもたらす存在を誰が見出すかで楽しんでいるだけである。
そんな世界ラビリア
このダンジョンで今神や天使が望むような新たな革変が今起ころうとしている。
「ねえエリー!今日は待ちに待った『魔法陣』を授かる日だよ。楽しみだねー。どんな陣が浮かび上がるかなー。」
「僕は強い『魔法陣』じゃなくてもいいから普通に暮らせるくらいの陣が欲しいかなー」
「でもエリー、男の子なら英雄に憧れたりしないの?」
「そりゃあ僕だって憧れはするよ。でも、こんな寂れたところで英雄の卵が生まれるとはとてもじゃないけど思えないんだよねー。ましてやいわゆる『第六陣』が出ちゃったら僕の人生終わっちゃうからねー」
そんなことを言いながら笑い合うふたりの10才の男女。
最初に興奮した口調で話始めたのがシャロン。まだ幼いながらもその風になびいている彼女の自慢の髪は美しい銀の輝きを四散させ、彼女の髪の光のあたり具体の違いにより出来る、白く輝く部分と影となり少しくらい色をしている部分とがコントラストを織り成し、幻想的な雰囲気をこの年にして得ている。
瞳は紅玉のように真っ赤な光を煌めかせ周囲を魅了し、高めで綺麗な筋が通る鼻にこぶりな口ぶりと将来はとても美しくなるであろうことは誰もが疑わないようなそんな女の子。
シャロンと会話をしていたエリーと呼ばれていたのは彼女の幼なじみであるエリアス。
明るい色をした茶髪に、キリッとした金眼の男。彼の金眼は母親譲りのものであり、シャロンの赤眼にも引けを取らない輝きをしている。これ以外の特徴として、しいて挙げるとするならばそれはパーツのバランスだろう。
顔と言っても、パーツさえよければそれでいいかと言われるとそうでもない。そのパーツが正しく並んでいて美しさをなす。そのことに関していえば、彼の顔のパーツの素材に関してはそれほどのものであるが、そのバランスが美しく、その事が彼を美少年としている所以であった。
「でもこの世界の女には『第五陣』が出ないらしいから私は『第六陣』さえ出なければ御の字かな?」
ちょっとおどけたシャロンはそうエリーにほほ笑みかける。
「そうだね、僕達が幸せに暮らせる陣が出てくれればいいんだけどね。」
二人はしばらく歩くと魔法陣出現をするための神殿へとたどり着く。後ろからは二人の親も少し離れてやってきている。
この魔法陣顕現の儀式はこの世界の管理者からのプレゼントであると言われている。ダンジョンという過酷な環境で10歳まで生き残ったことに関しての贈り物だ。
そう、さっきまではのほほんとした雰囲気の話かと思われたかもしれないがそんなことは無い。
今彼らがいる場所はダンジョン一階層
いつでも命の危険が迫ってくる。
今この瞬間だって彼らの目の前から魔物がドロップする可能性だってあるのだ。幸いに一階層はほかの階層に較べると圧倒的な広大な面積を誇るためか、魔物の分散具合がほかの階層よりも広くなるために魔物に出会うことは少ない。そして一階層であるがために強力な魔物は出現しない。
それでも、家の中に突然に魔物がポップして殺される可能性も多々あるそんな世界。
そのことに対しての祝福としての魔法陣なのだ。
彼らは神殿に入ると事前に神官に案内されて奥の部屋へと連れていかれる。
そうしてそこで彼らはもう1度『魔法陣』についての基本情報についておさらいをする。
『魔法陣』の効果は主に二つ。
魔法の使用が可能となることと魔法陣の種類により現れる効果とスキルが得られるのだ。
詳しく説明すると、現れる魔法陣は人それぞれのものである。まず第1に色を持つ。それが持ち主の使える魔法の属性と一致をする。
赤→火 黄→雷 青→水 緑→風 茶→土 黒→闇 白→光
ほとんどはこの7色のどれかに属することになる。そして浮かんだ色こそが彼らの魔法の才能となる。
第2に魔法陣の模様は主に五種類存在する。
『第一陣』・・・これが一番のあたりと言われる魔法陣。
効果: 〈身体強化大〉〈防御強化中〉〈魔法強化中〉
・スキルは大半がレアなものが出現
『第二陣』・・・魔法特化の魔法陣。これもあたりと言われる。
効果: 〈身体強化小〉〈防御強化中〉〈魔法強化大〉
・*スキルは魔法系のものが現れやすい。
『第三陣』・・・耐久特化型。普通よりはいい扱いとなる。
だが扱いにくい魔法陣とも言われる。
効果: 〈身体強化中〉〈防御強化大〉〈魔法強化小〉
・スキルは何が出るかわからない。
『第四陣』・・・凡人型。大半の人々はこの魔法陣を持つ。
効果:〈身体強化中〉〈防御強化中〉〈魔法強化小〉
・日常生活に役立つものが出やすい。
『第五陣』・・・最低階級。女性には出現しない。どの陣よりも
劣っているために辛い立場を強いられる。
効果:〈身体強化小〉〈防御強化中〉〈魔法強化小〉
・強力なスキルが出た試しがない。
これらの魔法陣がこれからの人生を決めると言っても過言ではない。
もしも第一陣や第二陣が出現すれば彼らの人生はバラ色のものとなる事だろう。圧倒的に出現数が少ないその二つの陣は持っているだけで上流階級仲間入りと同義なのである。
逆に第五陣が出現してしまえば人生はそこで終わったも同然と言えるだろう。どんなに彼らが努力しようとも魔法陣において彼らは逆立ちしてもほかの陣に勝つことは出来ないのだ。つまり、奴隷のような一生を過ごす道しか存在しない。
この7×5種類の中から運命が決定されるはずなのである。
彼らの人生も決めてしまうのが『魔法陣』なのである。
そうして説明も終わりとうとう彼らに魔法陣が顕現する時間がやってくることとなる。
「すごいかたくなってるじゃんシャロ!」
「そういうエリーだって小刻みに震えてるの私知ってるんだからね」
お互いに一度見つめ合い、小さく吹き出す。
「なんか大丈夫な気がしてきたよ、シャロのおかげで」
「そんなこと言ったら私もそうよ、エリーのおかげで」
そうしてまず先に魔法陣を授かるのはシャロン。
彼女は部屋の奥に置いてある天使の像へと向けて祈りを捧げる。すると彼女が淡い白銀の光に包まれていく。
そして、光が収まるとシャロンがこちらへと戻ってきて彼女の手の甲をこちらへ向かって見せてくる。
「どう!私は水系統の魔法の能力があったみたいよ!」
そう言ってこっちにはにかんでくる。
魔法陣に関しては一般人は第四陣しか知らないため、気にすることはないのだが……
「こ、こ、これは!!!!!」
やけに大げさに神官が驚く。
取り乱した神官は一度姿勢や調子を整えた後に静かに、ゆっくりと衝撃的な事実を述べてくる。
「おめでとうございますシャロン様。この魔法陣は『第二陣』でございます。つきましては国へと連絡させていただきますが、いつかに迎えが来ると思いますので準備をお願いしますね。後でご両親ともお話をさせてもらいます。」
そう言った。
エリーもシャロも頭の中は真っ白だ。
ここは田舎も田舎、第二陣や第一陣が出ることなんて数年に一度単位でしかない。
その確率を今隣でシャロンは引き当てたのだ。
エリアスからすれば軽くないパニック状態だ。
エリアスもシャロンもこれから一緒に仲良く暮らしていきたかった。別にそんな強力なじんは欲しくなかった。
この初恋を壊すような『魔法陣』は欲しくなかった。
これからも一緒に生活を送るにはエリアスも第一陣か第二陣を引くしかないのだ。
「あはは、第二陣が出ちゃったよエリー……」
「おめでとうシャロ!いい陣が出たんだよ?もっと喜んでもいいんじゃないかな?」
「そうは言ってもエリーと…………」
「そういえばいいスキル出た?」
もちろんエリーの心はズタボロである。自分がここで第一陣か第二陣を出すような確率はほぼゼロであることは疑いようのない現実だから。でも、シャロンの輝かしい未来が決定したことに関しては喜べる。のだが……
「えっとねー、〈魔道士〉〈魔力増加〉〈宝箱ドロップup小〉〈力up小〉だったね。」
「4つもあるんだ!すごいじゃないか!魔道士のスキルはとても希少だって聞くしこれはこの国の中でも有数の魔道士になれるんじゃないかな!」
シャロンの表情は浮かない。
でも、タダの空元気状態のエリアスにはそのことに気づかない。そしてそれがシャロンのことを遠ざけているように聞こえるために、シャロンには小さくない胸の痛みが蓄積されていく。
でもそんなことを考え、心を落ち着ける余裕もなく無情にもエリアスの番がすぐにやって来る。
エリアスは部屋の奥へと歩く。
膝は震えている。
目の前の天使像が悪魔のようにみえる。
神官の笑顔が心を押しつぶす。
そんな心持ちの中で祈りを捧げ、彼はシャロの時と同様に白銀の光に包まれる。
その時、シャロンは見た。
自分の元へと魔法陣を与えに来た存在とは異なるものがエリアスへと力を貸しているのを。
何が違うのかと言われても上手く表せないけど強いて言うのであれば『格』が。
そして光は収まりその中からエリアスが再び現れる。
しかし、彼はそこから動かなかった。
いや、動けなかった。
エリアスの目線は自分の手の甲を刺していて瞬きもしない。
彼だけがこの世界から取り残されて、時間が止まっかのような光景が続く。
そんな様子を心配したシャロンは彼に近づく。
エリアスの背後から彼の様子をうかがおうとした時にシャロンは見てしまった。いや、見えてしまった。
エリアスの手の甲に存在する『複数色の魔法陣』を。
そして、明らかに常人と異なる『複雑な魔法陣』を。
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