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13.御前会議(ロドルフ視点)
しおりを挟む魔獣討伐隊が戻ってきたその翌日、宰相と軍務大臣とロトスと共に、体調の芳しくない国王の部屋を訪れた。
今回の件についての詳細を語るため、我々はベッドの近くに置かれたテーブルに着席する。
「ではまずはロトス様から陛下にご説明願います」
大臣から促され、ロトスが今回の戦況と現地の状態の報告をする。魔獣が現れた方角とおおよその頭数、その際の戦況と現地の被害について次々と上げていく。
「今回リディア王女の護衛騎士グレイに参加してもらった理由は、神子の天眼に彼が映っていたからにほかなりません。そのため私は彼を戦闘に参加させるつもりはなく、私と共に神子を護衛してもらう予定でした。
しかし私は、この天眼の本当の意味を知りました。彼こそがこの事態を収めるために必要な人物だったのだと、彼が剣を抜いた瞬間にわかりました。一斉に逃げ出す魔獣の群れをこの目で見て、そう確信したのです」
やや興奮気味に語るロトスは、どうやら彼を気に入ったらしくその人柄と活躍を語って聞かせた。
「今回の事は国として褒章せねばならないだろう。ロドルフとリディア王女の婚姻を控え、セダとの関係がより良いものになればと考えてはいる」
父はベッドの上に座り頷きながらそう答えるが、宰相はそれに対して一つの疑問を投げかけた。
「しかし今回の騒動、リディア王女が来て間もなく起きたことが気になります。魔獣が王都付近まで入り込むなど数十年に一度あるかないかの事。セダの策略とまでは言いませんが、何か不吉の現象に思えます」
「さすがにそれは考えすぎですよ。魔獣は人に慣れません。それに今はセダ王国の大切な王女がこちら側にいるというのに、そんなことを仕掛けるなどありえないでしょう。
それにこれを不吉と言うのなら、来て早々に巻き込まれたリディア王女とグレイが我々に対しても言えること。かつての敵国とはいえ、そのような言及は不毛に思います」
ロトスは畳み掛けるように否定した。そんな二人のやりとりを聞いて、私は大臣に訊ねる。
「貴方はどう考えていますか? 直接ロトスや隊長からも話を聞いていると思いますが」
「はい。私が受けた報告からは、ノアール卿に対して不満や不信感は聞いておりません。とにかく気迫が圧倒的であったとのことで、魔獣が逃げ出したことに疑問はなかったようです。道中では気遣いも見られ、兵たちは信用していたようです」
大臣は私見を述べないものの、話しぶりではロトスと同じように今のところは信用している様子に見える。
私はというと、彼――グレイ・ノアールに対して警戒していたところはあった。
理由は特にない。ただ初めて彼を見た時から、何かしらの違和感があったことは確かだ。
敵意や害意というよりも、何か言いようのない歪さ。
だから彼女に宮殿を案内する際、彼を護衛から外させた。宮殿内でも重要な場所を案内する予定であった為、いくら王女の護衛で従者だとしても、彼を同行させるべきではないと判断した。
宰相が“不吉”という言葉を出したことで、なんとなく自分の中で腑に落ちたような、しっくりくるものがあった。
もしかしたら私は、それと似た感覚を抱いていたのかもしれない。あの言いようのない違和感は私を嫌な気分にさせていた。
しかしロトスは全くそれを感じていないようで、出征した時に随分と打ち解けたようだった。今では親しげに「グレイ」と呼びかけ、信頼している様子をみせている。
私と宰相は彼に対して懐疑派、ロトスと軍務大臣は信用派といったところだろうか。
しかし協力してもらったのは事実で、こちらから礼を示す必要がある。次はどのような報酬を与えるかと、そちらの話し合いへと移った。
国王の体調を考え、会議は二時間もかからず終えることになり、私達はその場で解散した。そして部屋を出るとロトスに声を掛けられる。
「兄上は、今回のリディア王女の婚前留学についても疑念を抱いているのですか?」
私の態度に感じるものがあったのか、ロトスがそう質問してきた。
実際のところ国として警戒していたことには間違いない。この婚前留学はセダ側の希望で、こちら側から提示したものではないからだ。
すでに婚約は成立していたとはいえ、なぜ嫁がせる側がそれを希望するのか、何か裏があるのではと疑ってしまうのは、かつての争いによる傷痕のようなものといえる。
しかしこちらの理不尽ともいえる要望を受け入れ、本当に王女一人と護衛一人だけで入国してきたことは、ラダクールとしては評価していた。
だから護衛の彼については個人的に警戒心を抱いても、リディア王女には嫌な感情を持つことがなかった。
むしろ、か弱く高貴な女性を、護衛一人のみで来させてしまったことへの申し訳なさを強く感じている。だからこそ、彼女には不自由をさせず守るべき存在であると今は考えていた。
「いや、さすがに誠意を見せたセダ王国に対してそんな風には思っていない。ただ、宰相の言った“不吉”という言葉が腑に落ちてしまった」
「いやだな、兄上。そのためにアリスが活躍しているのではないですか。神子がこの国にいるうちは、その“不吉”なことが天眼によって見通せるのですから」
ロトスはそう言って軽快に笑った。
確かに弟の言う通り、その為にアリスがここにいる。そして私も、根拠なく些細なことにこだわり過ぎているのかもしれないと、少々反省した。
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