私の騎士がバグってる! ~隣国へ生贄に出された王女は、どうにか生き延びる道を探したい~

紅茶ガイデン

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5.ラダクール宮殿

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 この日、二泊目を終えた私達は昨日よりも早めに出発することになった。
 予定では、今日の昼過ぎにラダクールへ入国することになっている。


 広大な自然の中に続く一本道。高く上がった日がやや傾いてきた頃、馬車がゆっくりと止まった。どうやら国境に到着したらしい。

 私は先に降りたグレイの手を借りて降車した。


「ようこそおいでくださいました、セダ王国リディア王女殿下。ラダクール王国は殿下のご婚前留学をたいへん心待ちにし、歓迎しております。私は近衛隊第二副団長マリウスと申します。王の命にてお迎えに参りました」

 目の前には多くのラダクールの兵がずらりと並んでいる。そして事前の取り交わしにより、私を護衛していたセダの騎士達とはここで別れ、出迎えた彼らと共に王都へ向かう。

 私は緊張する気持ちをおさえながら、胸を張ってラダクールの騎士の前に立った。

 とうとうここから、運命の舞台に上がることになる。

 あちらの目的は、この留学でラダクールの習慣や文化を私に学んでもらうこと。
 約三ヶ月間、それらの勉強や妃教育を受けることになるので、まあまあ忙しい毎日になる予感がしている。覚えなければいけないことがたくさんある中で、果たして私は破滅回避に向けて考える余裕があるのだろうか。

 実際にラダクールの地に降り立ったら、そんなことが頭に浮かんで急に怖くなった。

 ここに来るまでも不安になって色々と考えてきたけれど、こうして現実味を帯びてくると今までが机上の空論のように思えて萎れてしまいそうだった。

 でも、まずは王宮に入らないとわからないこともあるはず。時間の猶予はまだあるし、この目で確かめなければならないこともある。
 きっと大丈夫。そう自分に言い聞かせて、ネガティブになる自分をどうにか奮い立たせた。



 それから三日間の旅を経て、ようやくラダクールの中心地である王都まで辿り着いた。

 その間のグレイは、非常に静かで控えめな従者に徹している。入国前のように私に話しかけることもなく、私が声をかけるまで口を開くことをしない。
 ずっと黙っているのも辛かったから時々話し相手になってもらったけれど、さすがの彼もラダクールに入ってからは慎重になっているようだった。


 そうして、目の前に現れたラダクールの王宮。セダとはまた違う独特な美しい姿を見せている。

 婚約式以来、二年ぶりに訪れた宮殿をしみじみと眺めた。あの時には記憶がなかったけれど、この建物はゲームの背景で何度も目にした馴染み深いものだ。

 懐かしい、あの頃の記憶。恋に憧れた私が夢中になってプレイした世界。

 宮殿を見上げたら、嬉しいと思うよりも不思議と切ない気持ちが湧き上がった。





「ようこそ、ラダクール宮殿へ」

 エントランス前の広場には多くの人々と共に、婚約者であるロドルフ王太子が迎え出てくれていた。
 グレイの手を借りて馬車を降りた私は、ロドルフの前で深く礼をする。

「我が婚約者リディア王女、遠路はるばるご苦労様でした。しばらくこちらでゆっくりと過ごし、ラダクールの文化を多く学んでいってください。……では王の元まで私が案内します。どうぞこちらへ」

 手短な挨拶の後、ロドルフ自らが私たちを案内してくれた。馬車に積まれた荷物はラダクールの使用人たちの手に渡り、私とグレイは長く広い廊下を通って王の間へ通された。

 二年越しにお会いするラダクールの王。玉座に座るその姿は、あの頃よりも顔は土気色に変わりやせ細っている。


「ようこそおいでくださった、リディア王女。婚約からもう二年になるか、あれから大人になり随分と美しくなられた」

 弱々しい姿になっているとはいえ、元々大きな体で優しい顔をしたラダクール王は、余裕があるようにゆったりと話す。
 いつも厳しく険しい顔を崩さない我が父セダ王とは対照的に、鷹揚と構えたその姿は父とはまた違った威厳を放っている。

 私は軽く頭を下げて謝辞を述べると、王は頷いて後ろに控えるグレイにも声を掛けた。


「そなたはノアール侯爵の息子と聞いている。その立場でありながら、多くの負担をかけさせてしまっていることを申し訳なく思っている。しかし彼女が正式にラダクールに嫁ぐまでは、こちらも気を緩めたくないのでな。そのかわり彼女には十分な人材を当てるつもりでいるし、そなたも客人として迎えるつもりだ」

 護衛として連れてきたグレイまで気にかけてくれるところを見ると、一応セダに対して敬意の気持ちは示すつもりらしい。


 その後は王からいくつかのお言葉をいただき、謁見の時間は短く終えることとなった。会話の途中で疲れたように間が空いたりしたことを考えると、結構無理を押して迎えてくれたようだ。


「ではこれからのことを話しましょう。お二人ともこちらへ」

 王の間を出ても、ロドルフはそのまま案内を続けてくれた。そういった姿勢をみても、私たちが敬意を払われもてなされているとわかる。

 彼らがどういう人たちかゲームで知っているとはいえ、護衛一人しか入国を許さないという姿勢に若干の不安を抱いていたことはたしかだ。


 だけど、体調が悪くても押して迎えてくれたラダクール王。顔立ちは似ていなくても、穏やかな表情に面影があるロドルフ殿下。

 まさしくゲーム通りの印象で、ホッと胸を撫で下ろしていた。


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