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1. 宮廷舞踏会
しおりを挟む弦楽器の美しい旋律に合わせて、くるくる回る。
皆の注目を浴びる中、私はこの国の王太子ジェラルド様の手を取りワルツを踊っていた。
その注目しているなかの一人、彼の方の婚約者であられるロザンヌ様が、とても冷めた目でこちらを見ている。視線がとても痛い。
ああ、どうしてこんなことになってしまったの。
私はジェラルド様に気付かれぬよう、小さく溜息を洩らした。
「シャルロット・バニエ嬢。どうか私と踊っていただけませんか?」
そう恭しく声を掛けられたことから始まった。
今年十六歳となった私のデビュタントの一環で、初めて宮廷舞踏会に招かれた。父と、婚約者であるウィリアムと一緒に参加した舞踏会。
社交界デビューということで最初は父にエスコートをしてもらい、ダンスを一曲踊って父がお世話になっている方達に挨拶をしてまわっていた。それらを終えて、ではここからは婚約者のウィリアムと、というところでお誘いをかけられた。
側にいた父も、隣にいた私の婚約者であるウィリアムも一瞬言葉を失い、固まった。
なぜなら私にダンスの申し込みをしてきた人物は、この国の王太子であられるジェラルド様なのだから。
え、えっ? これはどういうことですか。私に婚約者がいることはすでに宮廷に伝えているはずでは。頭が真っ白になって、困惑する。
「貴女の踊る姿があまりに眩しく、この宮殿に舞い降りた天使のように輝いて見えた。どうか私と一曲を共にしていただけませんか」
とても紳士的な振る舞いで私を誘ってくるけれど、私には婚約者がいる上に、ジェラルド様にもロザンヌ様という立派な婚約者様がいらっしゃる。
社交界デビューをしたばかりだというのに? 王太子様の誘いをお断りすることは可能なの? 私はどうすればいいの――――
当然、社交の場であるので他の男性にダンスに誘われ交流を深めていく場であることは理解している。でもまだ婚約者であるウィリアムと踊る前に誘われるとは思っていなかったし、この場合どう対応することが正解なのかわからなかった。しかも相手は王太子殿下、絶対に失礼があってはならない。
そう戸惑っていると、隣にいたウィリアムが一歩前に出てジェラルド様と対峙した。
「殿下。大変申し訳ございませんが、彼女は社交界に足を踏み入れたばかりです。彼女にはまだ殿下のお相手は荷が重く、失礼があってはいけません。少しばかり社交界の経験を積むまでご容赦いただけないでしょうか」
丁寧な言葉遣いをしているものの、その表情には険がある。不遜な態度ととられても仕方のない態度に私はハラハラした。
「それは私も承知しているよ。私と踊ることはそれこそ良い経験になると思うのだが」
どちらも意見を譲る気はないらしい。
「もう一つ申し上げますと、殿下のご婚約者様より先にシャルロットを誘われますのは、お相手に対して失礼にあたるかと」
「なに?」
ジェラルド様が不愉快な表情に変わったのを見て私は慌ててしまった。まだ独立もしていない伯爵家の子息が、王太子にしていい物言いではないことはさすがにわかる。
「あの、ジェラルド殿下のお誘いをお受けいたします」
この場を丸く収めるために、咄嗟にそう口にしてしまった。
表情がパッと明るくなったジェラルド様にほっとしたものの、口を噤んでしまったウィリアムには心の中で謝る。私の為に嫌な役を買ってくれただろうに、それを無視した形になってしまった。
数分間の辛抱でウィリアムの態度が不問になるのなら。そう思っていたけれど、事はそう簡単に終わらないらしい。
ワルツを踊る間、ジェラルド様はじっと私の目を見つめて離さず「君を目にするまで、これほど女性に心惹かれることはなかった」と、まるで口説き文句のようなことを言われてしまった。
ああ、本当にどうしてこんなことになってしまったの。
ジェラルド様からお礼の言葉を頂き、やっと解放されたとほっとしたのも束の間、私は周囲から大注目を浴びていた。
私は、もしかしてやらかしてしまったのかしら?
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