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62. エピローグ
しおりを挟む強いヘッドライトの明かりが全身を包んだかと思うと、すぐにその光は失っていった。
目の前には前方がひしゃげた車と、折れ曲がったガードレール。
さっきの光は何だったのだろう。ヘッドライトにしてはやけに眩しく、周りが見えなくなるほどだった。
危うく死ぬかと思ったけれど、どうやら直前で止まってくれたらしい。周囲に人が集まり、救急車を呼ぶ電話をしている人もいる。
私は自分が地面に手を突いているのを見て、ようやく腰を抜かしていたことに気付いた。無理もない、もう命はないと思ってお母さんお父さんには心の中で謝っていたくらいだ。
「石上さん、大丈夫ですか!」
よく知る声に話しかけられ振り返ると、一年後輩の同僚が心配そうに近寄ってきた。
「大きな音がして見に来たら、車が事故を起こして石上さんが倒れているからびっくりして。体は大丈夫ですか? 念のため救急車で運んでもらった方がいいですよ」
そう心配そうに話す後輩君が私の側でしゃがむ。
「ごめんごめん、大丈夫。びっくりして転んじゃっただけだから」
私を助け起こそうとしてくれた後輩君の手を借りずに自分で起き上がる。パンパンと手に付いた砂利を払うと、車の中から頭をポリポリ掻きながら運転手が出てきた。何があったのかはわからないけれど、一応彼も無事のようだ。
近くに警察署があるせいか、すぐにパトカーと救急車が到着し、自損事故の調査のためか運転手が連れていかれる。
「俺送りましょうか? こんなこともあって怖いでしょうし」
そう心配してくれたけれど、お互いに残業続きで疲れていることはわかっている。
「心配いらないって。明日も残業だし早く帰ってゆっくり休んで。また明日もがんばろー」
気持ちだけありがたく受け取っておくことにした。
お互いに挨拶をしてそれぞれの方向に歩き出そうとしたところで、
「あれ、これ石上さんのじゃないですか?」
歩道に落ちているショップの袋を拾い上げて私に見せる。
「あっ、ありがとう。私のだわ。じゃあ気を付けて帰ってね!」
危ない。自分がオタクであることは職場にバレたくはない。お礼を言って、そそくさと自宅へと戻ることにした。
「ただいまー」
おかえり、という母の声が奥の方から聞こえ、私はそのまま二階の自室に荷物を置きに行く。
買ってきたドラマCDを袋から取り出すと、転んだ時の衝撃なのかケースが外れ中が割れてしまっていた。日頃の疲れの癒しにと思って楽しみにしていたのに、聴く前に破損してしまった。
「えー、うそぉ……」
がっかりしたけれど、買い替えるのもお金がもったいないし出費が痛い。
そんなふうに思ってしまった自分に少し驚いた。公式物販されているものは、グッズも含めて欠けることなく揃えていた私だったのに、今は執着する気も起きない。
ちょっと前の私だったらルーク様のために速攻でネットでポチっていたのに。
「……まあ、いいか」
あれだけ熱を上げていた自分が不思議と醒めている。疲れているし、お腹が空いているせいもあるかもしれない。今はとにかくご飯が食べたい。
私はテーブルの上に、割れた『ガイディングガーディアン』のドラマCDを置いて部屋を出た。
階段を下りていくとカレーのいい香りがする。私は母の待つダイニングへと向かった。
ーENDー
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