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44. 心強さ
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先生たちと二階に上がり、応接室へと案内され簡単な事情聴取をされた。
休み時間にどこにいたとか、誰といたとか。このアリバイ確認をマルクス先生は申し訳なさそうに事務的に質問をしていたけれど、平民棟の中年教師はどうやら私を疑っているようだった。
「ライラ=コンスティさん、貴女の噂が生徒たちの間で流れているのをご存知ですか」
口調は丁寧ではあるものの、威圧的な態度で接してくる。
「ええ、先程の生徒さんから聞かされたことはございます」
「わたしはね、何もないところに噂は立たないと思っているんですよ。伝聞の途中で尾ひれが付いたり誇張されたりすることはあるだろうが、火元はあると考える。何か思い当たる節はないですかな?」
「まったく身に覚えがありませんわ」
私は考える間も作らず、すげなく答えた。必死に釈明をするつもりはなかったので、ただ否定の言葉だけを口にする。おそらく心証が悪いだろうけれどそれでいいと思った。
「そうですか、わかりました」
そう言いながら明らかに侮蔑したような眼差しを向ける。
「今回のことは私とマルクス先生から学園に報告を上げます。そのつもりで」
完全に私を犯人だと決めつけたような口ぶりに、思わず笑いそうになってしまう。
中年教師は不快そうに眉をひそめ、そのまま何も言わずに部屋を出て行った。
マルクス先生はその姿を見送ると、小さなため息をついてこちらに向き直る。
「……ライラさん、君を庇うことができなくて申し訳ない。今は担任の立場として擁護しにくい状況なんだ。こちらの保身を疑われかねないし、それによって調査がしにくくなるのを避けたいからね。そのくらい君の悪い噂というのが平民棟を中心に学園関係者にまでまことしやかに流れている」
そうでしょうね、と先程までの展開を見てそう思った。
「今のところ、僕は噂を肯定も否定もせずそれらの情報を集めているところだ。幸い貴族棟では噂は広まっていないし君を疑うものもいない。いつも通りの生活をしてくれてかまわないよ。また学園から呼び出されることがあるかもしれないけれど、僕もそれまでに否定できる材料をまとめておくから」
そう言ってマルクス先生は私を送り出してくれた。
教室に戻ると、あの場に来てくれたクラスメイト達がほとんど残って待っていてくれた。
皆心配して私を取り囲んで励ましてくれる。その気持ちを嬉しく思いつつ、でもゴメン、と心の中で謝った。
私はあえて、この流れに乗ろうと考えていたから。
私は悪役令嬢として存在し、ジュリアがヒロインとしてメインシナリオを歩んでゆく。これまでの流れを見る限り、私やジュリアの意思など関係なくそう仕向けられている。
これが以前から考えていた“回避しようと考える事の無駄”な事だと私は判断した。
それよりもシナリオの流れに身を任せ、翻すチャンスを待った方がいい。
*
それから三日後、今度は学園長室に呼ばれ聴取をされた。マルクス先生の尽力があったのか、以前と違って学園の偉い人たちから疑ってかかられることはなく、簡単な事実確認だけをされてあっさりと帰された。
悪役令嬢上等、と意気込んでいたから少し拍子抜け抜けしたけれど悪いことではない。
これで私の方は一旦落ち着いたけれど、結局ジュリアのドレスが破かれた事件は未解決のままである。
ただ、あの日から一つだけ変わったことがあった。
「ジュリア、一緒にテラスに行こう」
ルーク様があらゆる場面でジュリアを誘い独占することが多くなったことだ。
教室を出ていく二人を見送り、私は小さなため息をつく。
「……ライラ、私達も食堂に行きましょう」
今ではこんな場面にも慣れて、それを見ているクラスメイト達も何も言わない。
初めは彼の変化に皆驚き、本人にどうしたのかと尋ねたりしていた。けれど多くを語らず「ジュリアを守りたい」との言葉を聞いてからは、誰も何も言わなくなった。
今の教室には、以前にはあった明るさや賑やかさが影を潜めていた。表面上はいつも通りのように会話をしていても、そこには今までのような無邪気さはない。王子から名誉のお誘いを受けているはずのジュリア自身も、表情が硬く暗くなっていった。
でもそんな日々のなかでも変わらない人物がいた。ディノとエイデンだ。ルーク様と、私を含めたクラスメイトとの間に見えない溝があるなかで、今までと変わらずルーク様と軽口を叩いたりクラスメイトと賑やかに会話をしている。今のクラスがかろうじてバラバラにならずにいるのは二人のおかげだ。
そんな毎日を送るなか、火の精霊殿巡拝の日が巡ってきた。
「ライラ、今日は火の巡拝日だろ。一緒に帰るか」
月に一度あるこの日は、ディノもエイデンも気軽にこうして誘ってくれる。
私はお言葉に甘え、いつものように馬車で送ってもらうことになった。でも彼は儀式に参列しないため、馬車がグライアム邸に着くとそこでお別れとなる。
長い儀式を終え、殿官たちに見送られて祭壇の間を出ると、私服に着替えたディノが柱にもたれ掛かっている姿が見えた。
「ディノ、どうしたの?」
驚いて小走りに駆け寄る。
「すまん、少し時間いいか」
私が頷くと、側で様子を窺っていた殿官たちが私たちの意向を汲んでその場を後にしてくれた。
「学園だと話が出来ないからな。忙しいのに悪い」
「時間なら問題ないわ。どうしたの?」
「エイデンから話を聞いている。それで一度ライラとも話をしておいた方がいいと思ったんだ」
そう言って、場所を移して話をすることになった。
「今の状況、ライラは無理をしていないか?」
話し始めは、私への気遣いからだった。
悪い噂や糾弾についてだろうか。一応ドレスの件は学園側に疑われていないようだし、今のところそこまで大きな問題はない。
「そうね、噂が消えない限り大丈夫とは言い難いけれど、特に気にしていないわ。ディノはエイデンとどこまで話しているの?」
そう尋ねると、先日エイデンがここに来たこと、その時の会話の内容を教えてもらった。
それは私の知らない興味深い話だった。盗聴魔法を扱う組織と王宮騎士団のこと、その目的などだ。
これらの事はゲーム内で描かれることのなかった情報だ。もちろんこの国の人間として王国軍や王宮騎士団の存在は知っていたけれど、その部隊までは把握していない。
ここ最近のおかしな出来事が王妃の差し金ではないかと疑っていたけれど、それを裏付けるものがなかった。でもそれを行える環境が彼女の身近にあることを知って、ようやく裏が取れた気がした。
少しばかりスッキリした私と違い、ディノは眉間に皺を寄せて考え込んでいる。
「盗聴の件を見る限り諜報活動に関わる人間がいることは確かだ。ただ何が目的なのか、ジュリアの事件やライラの悪評に関係しているかもわからない。聖女候補生絡みかとか予想はしているが、その理由が全く読めないのが気にかかる」
そう言ってディノは深く唸る。
ディノには申し訳ないけれど、私はあの日からこれまでの間にすでに考えを纏めていた。
まず盗聴、私への悪評、ジュリアの事件の主犯は王妃だと仮定する。その動機は私の聖女候補生としての価値を下げること。
そして聖女への強い願望を持つ私に王妃が救いの手を差し伸べ、王子暗殺の手駒として手繰り寄せる。そういった計画を立てているのではないかと話を組み立てていた。
これはゲームのメインシナリオの展開から逆算した予想だ。これが自分の中で一番しっくりくる理由でもある。
ディノの顔をちらりと見た。私はすでに答えを出しているけれど、これを彼やエイデンに話すことは出来ない。
なぜなら私の敵は、王妃であり聖女であるから。
精霊信仰の上に成り立つこの国では、王妃は国王以上に尊敬と敬愛を捧げられる存在だ。そんな彼女を、余程の根拠も無く疑い陥れる言葉を吐くなどこの国では許されない。もしそれを口にすれば下手をすれば不敬罪、そうでなくても不穏分子として目を付けられるだろう。
特に二人は精霊殿を構える四大守護司の息子という、王家と密接につながっている重要な家柄だ。反逆になりかねない危険な道を二人に背負わせたくなかった。
「意外と冷静なんだな」
そんなことを考えていたら、ディノが沈黙を破るようにそう口にした。
「そうね、今更おろおろしたところで何かが変わるわけじゃないもの。噂なんて平民棟で流れているだけで、学園からは何のお咎めもない無いし問題ないわ」
少し虚勢を張って元気な声で返す。
「いや、それじゃなくてルークのこと」
いきなりルーク様の名前を出されてどきりとした。
彼が私を避けがちになり、ジュリアに傾倒していることを言っているのだろうか。
私はしばらく逡巡した後、口を開いた。
「ルーク様が、私の手の甲に指で字を書いてくれたの」
あの夏の日を思い出して、その時に触れられた左手の甲をぎゅっと右手で包んだ。
「夏休みの離宮で、ディノが参加しなかった乗馬の日。今までと付き合い方が変わるかもしれないとルーク様が話されて」
ディノは黙って聞いてくれている。
「その後、口を噤んだと思ったら、私の手の甲に“信じろ”って指で字を書いてくれたの。もしかしたら、あの頃から何か異変があったのかもしれない」
誰にも話すことはないと思っていたけれど、こうして口にするとルーク様のその言葉がじわじわと私の中に沁み込んできた。
ずっとあの時の事を心の拠り所にしてきたけれど、改めてその言葉に助けられているんだと実感する。
「だから私は大丈夫。それよりも二人にはルーク様を見ていてあげてほしいの」
ディノに不安を与えないように笑顔を見せてそうお願いした。
「わかった……。でも何かあったら俺の家でもエイデンの家でもいいから連絡してくれ。もしくは今日のような巡拝日に情報交換をしよう。さすがに精霊殿内までは勝手に探れないはずだ」
大霊石が鎮座している精霊殿はその巨大な力によって守られ、外部からの精霊力の干渉をはねのける力があるとのことだった。
そうか、だからエイデンもディノもこの中で話をしていたのか。
「わかったわ、ありがとう。こうして話を共有できただけでも心強いし助かる」
私はディノにお礼を言い、そのまま少し雑談して精霊殿を後にした。
帰りの馬車に揺られながら、訪れた時よりも随分と気持ちが軽くなっていた。
全てを話せなくても、事情を理解しわかってくれる友達がいる。それを実感するだけでも、鬱屈とした気持ちから開放された気分だった。
休み時間にどこにいたとか、誰といたとか。このアリバイ確認をマルクス先生は申し訳なさそうに事務的に質問をしていたけれど、平民棟の中年教師はどうやら私を疑っているようだった。
「ライラ=コンスティさん、貴女の噂が生徒たちの間で流れているのをご存知ですか」
口調は丁寧ではあるものの、威圧的な態度で接してくる。
「ええ、先程の生徒さんから聞かされたことはございます」
「わたしはね、何もないところに噂は立たないと思っているんですよ。伝聞の途中で尾ひれが付いたり誇張されたりすることはあるだろうが、火元はあると考える。何か思い当たる節はないですかな?」
「まったく身に覚えがありませんわ」
私は考える間も作らず、すげなく答えた。必死に釈明をするつもりはなかったので、ただ否定の言葉だけを口にする。おそらく心証が悪いだろうけれどそれでいいと思った。
「そうですか、わかりました」
そう言いながら明らかに侮蔑したような眼差しを向ける。
「今回のことは私とマルクス先生から学園に報告を上げます。そのつもりで」
完全に私を犯人だと決めつけたような口ぶりに、思わず笑いそうになってしまう。
中年教師は不快そうに眉をひそめ、そのまま何も言わずに部屋を出て行った。
マルクス先生はその姿を見送ると、小さなため息をついてこちらに向き直る。
「……ライラさん、君を庇うことができなくて申し訳ない。今は担任の立場として擁護しにくい状況なんだ。こちらの保身を疑われかねないし、それによって調査がしにくくなるのを避けたいからね。そのくらい君の悪い噂というのが平民棟を中心に学園関係者にまでまことしやかに流れている」
そうでしょうね、と先程までの展開を見てそう思った。
「今のところ、僕は噂を肯定も否定もせずそれらの情報を集めているところだ。幸い貴族棟では噂は広まっていないし君を疑うものもいない。いつも通りの生活をしてくれてかまわないよ。また学園から呼び出されることがあるかもしれないけれど、僕もそれまでに否定できる材料をまとめておくから」
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悪役令嬢上等、と意気込んでいたから少し拍子抜け抜けしたけれど悪いことではない。
これで私の方は一旦落ち着いたけれど、結局ジュリアのドレスが破かれた事件は未解決のままである。
ただ、あの日から一つだけ変わったことがあった。
「ジュリア、一緒にテラスに行こう」
ルーク様があらゆる場面でジュリアを誘い独占することが多くなったことだ。
教室を出ていく二人を見送り、私は小さなため息をつく。
「……ライラ、私達も食堂に行きましょう」
今ではこんな場面にも慣れて、それを見ているクラスメイト達も何も言わない。
初めは彼の変化に皆驚き、本人にどうしたのかと尋ねたりしていた。けれど多くを語らず「ジュリアを守りたい」との言葉を聞いてからは、誰も何も言わなくなった。
今の教室には、以前にはあった明るさや賑やかさが影を潜めていた。表面上はいつも通りのように会話をしていても、そこには今までのような無邪気さはない。王子から名誉のお誘いを受けているはずのジュリア自身も、表情が硬く暗くなっていった。
でもそんな日々のなかでも変わらない人物がいた。ディノとエイデンだ。ルーク様と、私を含めたクラスメイトとの間に見えない溝があるなかで、今までと変わらずルーク様と軽口を叩いたりクラスメイトと賑やかに会話をしている。今のクラスがかろうじてバラバラにならずにいるのは二人のおかげだ。
そんな毎日を送るなか、火の精霊殿巡拝の日が巡ってきた。
「ライラ、今日は火の巡拝日だろ。一緒に帰るか」
月に一度あるこの日は、ディノもエイデンも気軽にこうして誘ってくれる。
私はお言葉に甘え、いつものように馬車で送ってもらうことになった。でも彼は儀式に参列しないため、馬車がグライアム邸に着くとそこでお別れとなる。
長い儀式を終え、殿官たちに見送られて祭壇の間を出ると、私服に着替えたディノが柱にもたれ掛かっている姿が見えた。
「ディノ、どうしたの?」
驚いて小走りに駆け寄る。
「すまん、少し時間いいか」
私が頷くと、側で様子を窺っていた殿官たちが私たちの意向を汲んでその場を後にしてくれた。
「学園だと話が出来ないからな。忙しいのに悪い」
「時間なら問題ないわ。どうしたの?」
「エイデンから話を聞いている。それで一度ライラとも話をしておいた方がいいと思ったんだ」
そう言って、場所を移して話をすることになった。
「今の状況、ライラは無理をしていないか?」
話し始めは、私への気遣いからだった。
悪い噂や糾弾についてだろうか。一応ドレスの件は学園側に疑われていないようだし、今のところそこまで大きな問題はない。
「そうね、噂が消えない限り大丈夫とは言い難いけれど、特に気にしていないわ。ディノはエイデンとどこまで話しているの?」
そう尋ねると、先日エイデンがここに来たこと、その時の会話の内容を教えてもらった。
それは私の知らない興味深い話だった。盗聴魔法を扱う組織と王宮騎士団のこと、その目的などだ。
これらの事はゲーム内で描かれることのなかった情報だ。もちろんこの国の人間として王国軍や王宮騎士団の存在は知っていたけれど、その部隊までは把握していない。
ここ最近のおかしな出来事が王妃の差し金ではないかと疑っていたけれど、それを裏付けるものがなかった。でもそれを行える環境が彼女の身近にあることを知って、ようやく裏が取れた気がした。
少しばかりスッキリした私と違い、ディノは眉間に皺を寄せて考え込んでいる。
「盗聴の件を見る限り諜報活動に関わる人間がいることは確かだ。ただ何が目的なのか、ジュリアの事件やライラの悪評に関係しているかもわからない。聖女候補生絡みかとか予想はしているが、その理由が全く読めないのが気にかかる」
そう言ってディノは深く唸る。
ディノには申し訳ないけれど、私はあの日からこれまでの間にすでに考えを纏めていた。
まず盗聴、私への悪評、ジュリアの事件の主犯は王妃だと仮定する。その動機は私の聖女候補生としての価値を下げること。
そして聖女への強い願望を持つ私に王妃が救いの手を差し伸べ、王子暗殺の手駒として手繰り寄せる。そういった計画を立てているのではないかと話を組み立てていた。
これはゲームのメインシナリオの展開から逆算した予想だ。これが自分の中で一番しっくりくる理由でもある。
ディノの顔をちらりと見た。私はすでに答えを出しているけれど、これを彼やエイデンに話すことは出来ない。
なぜなら私の敵は、王妃であり聖女であるから。
精霊信仰の上に成り立つこの国では、王妃は国王以上に尊敬と敬愛を捧げられる存在だ。そんな彼女を、余程の根拠も無く疑い陥れる言葉を吐くなどこの国では許されない。もしそれを口にすれば下手をすれば不敬罪、そうでなくても不穏分子として目を付けられるだろう。
特に二人は精霊殿を構える四大守護司の息子という、王家と密接につながっている重要な家柄だ。反逆になりかねない危険な道を二人に背負わせたくなかった。
「意外と冷静なんだな」
そんなことを考えていたら、ディノが沈黙を破るようにそう口にした。
「そうね、今更おろおろしたところで何かが変わるわけじゃないもの。噂なんて平民棟で流れているだけで、学園からは何のお咎めもない無いし問題ないわ」
少し虚勢を張って元気な声で返す。
「いや、それじゃなくてルークのこと」
いきなりルーク様の名前を出されてどきりとした。
彼が私を避けがちになり、ジュリアに傾倒していることを言っているのだろうか。
私はしばらく逡巡した後、口を開いた。
「ルーク様が、私の手の甲に指で字を書いてくれたの」
あの夏の日を思い出して、その時に触れられた左手の甲をぎゅっと右手で包んだ。
「夏休みの離宮で、ディノが参加しなかった乗馬の日。今までと付き合い方が変わるかもしれないとルーク様が話されて」
ディノは黙って聞いてくれている。
「その後、口を噤んだと思ったら、私の手の甲に“信じろ”って指で字を書いてくれたの。もしかしたら、あの頃から何か異変があったのかもしれない」
誰にも話すことはないと思っていたけれど、こうして口にするとルーク様のその言葉がじわじわと私の中に沁み込んできた。
ずっとあの時の事を心の拠り所にしてきたけれど、改めてその言葉に助けられているんだと実感する。
「だから私は大丈夫。それよりも二人にはルーク様を見ていてあげてほしいの」
ディノに不安を与えないように笑顔を見せてそうお願いした。
「わかった……。でも何かあったら俺の家でもエイデンの家でもいいから連絡してくれ。もしくは今日のような巡拝日に情報交換をしよう。さすがに精霊殿内までは勝手に探れないはずだ」
大霊石が鎮座している精霊殿はその巨大な力によって守られ、外部からの精霊力の干渉をはねのける力があるとのことだった。
そうか、だからエイデンもディノもこの中で話をしていたのか。
「わかったわ、ありがとう。こうして話を共有できただけでも心強いし助かる」
私はディノにお礼を言い、そのまま少し雑談して精霊殿を後にした。
帰りの馬車に揺られながら、訪れた時よりも随分と気持ちが軽くなっていた。
全てを話せなくても、事情を理解しわかってくれる友達がいる。それを実感するだけでも、鬱屈とした気持ちから開放された気分だった。
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