光秀の甘やかな策略〜堕ちたのは戦国武将の腕の中

光秀に守られて

　眠れない、と思いつつ床に入ったが、少しうとうとしていたようだ。
　明け方前の薄闇の中、美琴は光秀の香りの残る布団で目を覚ました。

　林に迷い込み、光秀に助けられたのは昨夜のことだ。
　志乃に騙されていたことに多少の衝撃は受けたが、嫌われていたのは最初からだったのだと気付かされただけで、それ以上の驚愕も失望ない。

　それより光秀のことだ。
　助けられたのはこれが二度目だ。焦ったように名前を呼んでくれた光秀の声、抱きしめられたときの彼の温もり。

　光秀に名前を呼ばれたのは、初めてだった。
　その後、この部屋に招き入れられ、口づけを交わした。

　美琴はそっと自分の唇に触れてみる。ここに光秀の唇が重なっていた。
　光秀に触れられたのはいつかの夕暮れの時以来二度目だったが、あの時は「信長のための仕込み」であったのだろうと思っていた。

　けれど昨夜は？
　ひどく優しく扱われたのに突然「信長のところへ連れて行く」と宣言された。

　だったらなぜ？
　口付けられた意味が、美琴にはわからない。

　拒もうとしなかったのは、雰囲気に流されてしまったからかもしれない。

　思い返すといたたまれず顔を埋めた布団からは、光秀の匂いがする。ここは光秀の部屋で、当然布団も光秀のものだ。否応無しに彼のことを考えてしまうのは必然だった。

　障子の向こうに彼がいて、寝ずの番をしてくれている。将自ら番をするほどの要人でないことは、もちろんわかりきっている。

　けれど、光秀に守られている。
　その事実が、いまの美琴にはどうしようもない喜びであった。