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衝動

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 灯りを持って自分を探し回る家臣たちに助けられ館まで戻ると、心配する彼らをどうにか宥め、光秀は人払いをした。

 今夜は美琴をここに寝かせる。一人にしておけば、また身に危険が迫らんとも限らない。
 美琴を自室に招き入れ、障子を閉める。 

 二人きりになると、瞳を潤ませた美琴に見上げられた。

「光秀様……」

 弱々しく掠れた声で自分を呼ぶ姿があまりに頼りなく、背中に回した手で抱き寄せると、美琴もそれに応えるように抱き返してきた。

 しばらく互いの体温を感じ合うようにぴたりとくっつく。
 そうしてどちらからともなく見つめ合い、そうすることが自然というように口づけを交わした。

 押し当てた唇は少しばかり冷たく震えている。林の中で冷えてしまったのだろう。温めるように食んでやると、強張りが解けた。

 宥めるように舌でなぞり、隙間から舌を差し入れれば拒まず、徐々に舌と舌が絡まり合う。優しく吸い上げてやると儚い声が漏れた。

「っ、ん」

 堪らずさらにと求めれば、しがみついてきて庇護欲を掻き立てられる。

 背中に回した手でしっかと支え、逃げ惑う舌を追い立てるように舐る。

「んんっ、んぁっ」

 悩ましい声に、もっと欲しくなる。だが、これ以上してはもう止められない。
危うく飛び去りそうな理性をなんとか手繰り寄せ、光秀はそっと身体を離した。

 潤んだ瞳と視線が絡み、光秀の心が軋む。
 これは信長に差し出さねばならない女で、自分のものには出来ない。

 それでもこうしてしまったのは己の修練が足りぬせいだと、光秀は奥歯を噛む。

「今夜は、ここで寝ろ。俺は外にいる」

「でもっ」

「明日、お前を信長様のところへ連れて行く」

 何か言いたげに唇を震わせるが、美琴は何も言わなかった。

 それでいい、と光秀は自身に言い聞かせる。
 この女は天下を治めるのに必要な、言わば生贄なのだ。

 己が欲したのは女などではなく、天下静謐せいひつ

 その為には力が要る。信長の力が――。

 光秀は信じている。信長にこそ天下を治める力があると。彼こそが、覇王になれるのだと。

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