23 / 40
罠
しおりを挟む
あれから光秀とは、何もなかったかのように接している。
あんな事をしておいておくびにも出さないでいる自分にも驚いたが、光秀も今まで通り、いや、今まで以上に美琴に冷たく接しているのは気のせいではないだろう。
あれは信長のものになるための「仕込み」だったのだ。決して好意があってのことではない。子供ではないし、取り乱すほどの事ではないのだと、美琴は自分に言い聞かせる。
光秀の部屋で手伝いを終えた美琴は、伏し目がちに廊下を歩き、自室へ向かった。
と、そこへ志乃が通りかかる。
会釈してすれ違おうとすると、志乃に呼び止められた。
「美琴様」
「はい」
何だろうと顔を上げれば、珍しく志乃が微笑みを向けている。怪訝に思ったが訪ねるのも億劫で、美琴も愛想笑いを浮かべた。
「光秀様より、言伝がございます」
「光秀様から?」
光秀の仕事場から戻ったのはたった今だ。それなのに言伝なんて。
いささか不審には思ったが、普段から隙のない志乃の企みに、美琴は気付けなかった。
志乃はもう半歩美琴に近づくと、声を潜め耳打ちした。
「館を出て左に曲がり、塀伝いに行きますと小径がございます。そこを進んだ先にひときわ大きな檜がございます。そこを左に入ったところで、待っていると」
「でも……」
どれが檜かもわからなければ、その場所に辿り着ける自信もなく、美琴は口ごもる。けれど耳打ちされた事も手伝って、秘密を共有しているような気持ちになった。
「大きな檜の木に、目印の赤い紐が結んでございます故、案ずるには及びません」
にこりと微笑まれ「さあ、早く」と急かされた。
何か重要な話があるのかもしれない。もしかしたら、光秀の逆心を暴こうとしているのに勘付かれたのだろうか。
誰かに見つかると厄介だと、裏のあまり使われていない戸口から出るよう志乃に言われ、美琴は光秀の待つ森の中へと一人急いだ。
あんな事をしておいておくびにも出さないでいる自分にも驚いたが、光秀も今まで通り、いや、今まで以上に美琴に冷たく接しているのは気のせいではないだろう。
あれは信長のものになるための「仕込み」だったのだ。決して好意があってのことではない。子供ではないし、取り乱すほどの事ではないのだと、美琴は自分に言い聞かせる。
光秀の部屋で手伝いを終えた美琴は、伏し目がちに廊下を歩き、自室へ向かった。
と、そこへ志乃が通りかかる。
会釈してすれ違おうとすると、志乃に呼び止められた。
「美琴様」
「はい」
何だろうと顔を上げれば、珍しく志乃が微笑みを向けている。怪訝に思ったが訪ねるのも億劫で、美琴も愛想笑いを浮かべた。
「光秀様より、言伝がございます」
「光秀様から?」
光秀の仕事場から戻ったのはたった今だ。それなのに言伝なんて。
いささか不審には思ったが、普段から隙のない志乃の企みに、美琴は気付けなかった。
志乃はもう半歩美琴に近づくと、声を潜め耳打ちした。
「館を出て左に曲がり、塀伝いに行きますと小径がございます。そこを進んだ先にひときわ大きな檜がございます。そこを左に入ったところで、待っていると」
「でも……」
どれが檜かもわからなければ、その場所に辿り着ける自信もなく、美琴は口ごもる。けれど耳打ちされた事も手伝って、秘密を共有しているような気持ちになった。
「大きな檜の木に、目印の赤い紐が結んでございます故、案ずるには及びません」
にこりと微笑まれ「さあ、早く」と急かされた。
何か重要な話があるのかもしれない。もしかしたら、光秀の逆心を暴こうとしているのに勘付かれたのだろうか。
誰かに見つかると厄介だと、裏のあまり使われていない戸口から出るよう志乃に言われ、美琴は光秀の待つ森の中へと一人急いだ。
0
お気に入りに追加
18
あなたにおすすめの小説
校長室のソファの染みを知っていますか?
フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。
しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。
座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る
【完結】Mにされた女はドS上司セックスに翻弄される
Lynx🐈⬛
恋愛
OLの小山内羽美は26歳の平凡な女だった。恋愛も多くはないが人並に経験を重ね、そろそろ落ち着きたいと思い始めた頃、支社から異動して来た森本律也と出会った。
律也は、支社での営業成績が良く、本社勤務に抜擢され係長として赴任して来た期待された逸材だった。そんな将来性のある律也を狙うOLは後を絶たない。羽美もその律也へ思いを寄せていたのだが………。
✱♡はHシーンです。
✱続編とは違いますが(主人公変わるので)、次回作にこの話のキャラ達を出す予定です。
✱これはシリーズ化してますが、他を読んでなくても分かる様には書いてあると思います。
愛娘(JS5)とのエッチな習慣に俺の我慢は限界
レディX
恋愛
娘の美奈は(JS5)本当に可愛い。そしてファザコンだと思う。
毎朝毎晩のトイレに一緒に入り、
お風呂の後には乾燥肌の娘の体に保湿クリームを塗ってあげる。特にお尻とお股には念入りに。ここ最近はバックからお尻の肉を鷲掴みにしてお尻の穴もオマンコの穴もオシッコ穴も丸見えにして閉じたり開いたり。
そうしてたらお股からクチュクチュ水音がするようになってきた。
お風呂上がりのいい匂いと共にさっきしたばかりのオシッコの匂い、そこに別の濃厚な匂いが漂うようになってきている。
でも俺は娘にイタズラしまくってるくせに最後の一線だけは超えない事を自分に誓っていた。
でも大丈夫かなぁ。頑張れ、俺の理性。
【R18】カッコウは夜、羽ばたく 〜従姉と従弟の托卵秘事〜
船橋ひろみ
恋愛
【エロシーンには※印がついています】
お急ぎの方や濃厚なエロシーンが見たい方はタイトルに「※」がついている話をどうぞ。読者の皆様のお気に入りのお楽しみシーンを見つけてくださいね。
表紙、挿絵はAIイラストをベースに私が加工しています。著作権は私に帰属します。
【ストーリー】
見覚えのあるレインコート。鎌ヶ谷翔太の胸が高鳴る。
会社を半休で抜け出した平日午後。雨がそぼ降る駅で待ち合わせたのは、従姉の人妻、藤沢あかねだった。
手をつないで歩きだす二人には、翔太は恋人と、あかねは夫との、それぞれ愛の暮らしと違う『もう一つの愛の暮らし』がある。
親族同士の結ばれないが離れがたい、二人だけのひそやかな関係。そして、会うたびにさらけだす『むき出しの欲望』は、お互いをますます離れがたくする。
いつまで二人だけの関係を続けられるか、という不安と、従姉への抑えきれない愛情を抱えながら、翔太はあかねを抱き寄せる……
托卵人妻と従弟の青年の、抜け出すことができない愛の関係を描いた物語。
◆登場人物
・ 鎌ヶ谷翔太(26) パルサーソリューションズ勤務の営業マン
・ 藤沢あかね(29) 三和ケミカル勤務の経営企画員
・ 八幡栞 (28) パルサーソリューションズ勤務の業務管理部員。翔太の彼女
・ 藤沢茂 (34) シャインメディカル医療機器勤務の経理マン。あかねの夫。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる