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登城
しおりを挟む改めて見ると、その壮麗さに驚く安土城を見上げ、美琴は思わず足を止めた。
「どうだ、近くで見るとさらにすごいか」
恒興の問いに、首肯する。
現代では幻となった安土城に今から足を踏み入れる興奮と、憧れていた戦国の覇王信長に会える緊張で、美琴は体を震わせた。
「さあ、参ろう。信長様がお待ちだ」
「あ、はい」
恒興の声に、慌てて後を追った。
「ここ……?」
通された場所は想像したのと違う畳張りの一室で、美琴は首を傾げた。
「ははっ。なんだ、もしや天守に入れると思ったか?」
「……はい」
「天守に入れるのは信長様とごく近しい者だけだ。普段は信長様の方から本丸へいらしてくださる。有難きことだぞ」
(そうなんだ)
煌びやかさが有名な天守とは違い、落ち着いた雰囲気の室内には、一見すると派手な物はなく、絢爛豪華を誇る安土城に来たとは感じられなかった。
少しばかり肩を落とす美琴の頭上に、意地の悪いささやきが落ちてきた。
「閨のお相手でもすると言うなら、毎日でも天守に登れるぞ」
背後から、二人の話を聞いていたのだろう。やはりそこに現れたのは光秀だった。
「……ねや?」
意味を問うため恒興の顔を覗き込んだが、どうにも目を合わせようとしてくれない。
なんのことかと考えを巡らせる美琴の耳元に、光秀が唇を寄せて囁いた。
「夜伽のことだ」
囁かれた言葉の意味に気付き、美琴は頬を真っ赤に染めた。含みを持たせた光秀の囁きが、頭の中にこだまする。
「まあ、お前のような幼子には、信長様のお相手など勤まるまい」
「そんなことっ!」
カッとなった美琴は光秀を睨みあげるが、思いの外近いところにあった彼の整った涼しげな顔に、たじろいでしまった。
「ほう。ならば、遊女のような手管でもあると?」
「それはっ……」
光秀の口撃に二の句が継げない。
口ごもる美琴から少し離れ、光秀は素知らぬふりで腰をおろした。口元には皮肉な笑みを浮かべて。
一つ咳払いの後に恒興になだめられ、美琴はため息を吐く。
会うたびにからかわれたり叱られたり、美琴にとって光秀はやはり鬼門のようだ。
そんな事を考えていると、廊下から誰かの歩く音が近づいてきた。
「信長様だ」と恒興に言われ、彼に倣って頭を下げる。
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