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スマホと戦国武将
しおりを挟むスマホに興味を持ったと思い込んだ美琴は、光秀に説明を始めた。
「これ、スマホって言うんです。こうやって写真が撮れるんですよ?」
さっき芙蓉を撮影したように、光秀にカメラを向け撮影ボタンをタップすると、シャッター音が響き、不機嫌な彼の写真が撮れた。
眉間の皺を深くする光秀に、美琴は撮ったばかりの写真を画面に写して見せる。
「ほら。びっくりしました?」
美琴のいた現代では驚く事でも何でもないが、こんな小さな機械で写真が撮れるのは、戦国武将である光秀にとって初めての体験だろう。
さぞかし驚いた光秀の顔が見られるかと期待して見上げた彼の表情は、美琴にしてみればあまりに変化がないものだった。
期待はずれのリアクションにがっかりした。恒興ならもっと、あからさまに驚いてくれそうなのに。
「光秀様は、驚かないんですね」
肩を落とす美琴に、光秀はいつも通り冷やかに言い放つ。
「しまえ。他の者に見られれば厄介だ」
確かに見つかれば厄介ごとだが、もう少し優しい言い方は出来ないものだろうかと、美琴は唇を尖らせた。
けれども恒興の遠縁ということになっているし、曲者を匿ったと彼が責められるのは美琴にとっても本意ではない。
優しい彼に迷惑をかけるような事を、光秀が咎めるのは当たり前だった。
「すみません……」
スマホを懐に戻して、美琴は頭を下げる。
そう言えば、光秀はここへ何をしに来たのだろう。美琴がこの館へ来てから、彼が訪ねて来たのは初めてだ。
「恒興さんに、何かご用でしたか?」
懐を押さえ小首をかしげる美琴を一瞥すると、光秀はふいと視線をそらした。
「まあ、な……」
光秀にしては歯切れの悪い返事だが、言葉もかわしたくないのだろうと美琴は思った。たった今叱られたばかりなのだから当然だ。
生憎、恒興は信長の共で鷹狩りに出かけていて留守だ。
「恒興さんは朝からお出かけなんです」
「そのようだな」
「何か言伝を?」
役に立とうというよりは、光秀の秘密を探れるかもしれない、と思った。彼が信長を裏切るような事があれば、すぐにやめさせなければとの想いから申し出る。
信長は天下人になるのだ。それを知っているのは、美琴だけなのだから。
「いや……また出直そう」
知られてはならない用だったのか、大した事ではなかったのか。
ふと、牢で助けてもらった礼を忘れていたと思い出し、慌てて引き止めた。
「あ、えっと……助けてくださって、ありがとうございました」
頭を下げ、顔を上げると、光秀はもう背を向けて歩き出している。
彼の表情は見て取れず、面倒ばかりかけている事を鬱陶しがられているのかもしれないと思った。
けれど、礼の言葉も受け取ろうとしないなんて。
光秀の態度に、美琴は腹を立てた。
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