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天守跡へ

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「はあーー、はあーー」

 息が切れる。

(おばあちゃんの息切れも、こんな感じかな)

 美琴は懸命に天守跡を目指し、今度は脇目も振らず登ってきた。途中の信長本廟ルビほんびょうや本丸跡には後ろ髪を引かれる思いもしたが、とにかく頂上の天守跡へ行ってみたかった。

 やっと着いた山頂からは、麓に広がる大地と遠くに見える琵琶湖が素晴らしく綺麗に見えた。

「すごーい」

 息を整えながら、しばらく景色に見入る。

(信長様も、こうして眺めていたのかな。時には帰蝶様と)


「あっ、いけない!」


 また妄想ワールドに蕩けてしまうところだった。
 腕時計を確認すると、二時三十五分。帰りの新幹線は遅らせればいいし、近江牛を食べに行くのにもまだ時間はある。


 もう少しだけここに居たいとの思いから、残されている石垣にそっと触れた。

 手で触れながらゆっくりと歩き想像をめぐらせると、もう会う事の出来ない人達が確かにこの地に存在していた息吹のような、歴史のエネルギーを感じられる。


 かつてはここに城があり、戦国武将が実在し、闘い、守り、時には歯噛みし、私達と同じように懸命に生きていたのだ。



「信長様、池田美琴です。会いに参りましたよ。安土城は、きっと素晴らしいお城だったんでしょうね。私も一目、見たかったです」



 誰もいない天守跡に残された礎石の上に立ち、信長に話しかけた。
 無論、誰の返事もないに決まっている。ここには美琴一人が立っているだけだ。


 その時、音もなく足元の礎石が揺れだした。

(地震?)


 グラグラと身体が動かされ、バランスを保つのもやっとだ。足を踏ん張るが、急に身体が重くなり出し、立っている事もできないほどの目眩が美琴を揺さぶる。


(あれ……目が……)


 倒れる、と思った瞬間、美琴は意識を失った。

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