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信長様、今会いに行きます!
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荒々しい野面積みの石垣に囲まれた、石造りの大手道を登って行く。「石仏」の表示を見つけた池田美琴は、感動から立ち尽くした。
「すごい、本当にあるんだ……」
九月とといえどまだまだ暑く、滴る汗をぬぐいながらじっと足元の石を見つめる。
ここは安土城址の入り口に当たる、大手道と呼ばれる石階段。言わずと知れた織田信長の居城で、ついにやって来られた興奮で美琴の瞳は輝いていた。
史跡巡りが唯一の趣味と言えば聞こえはいいが、他に見たものと言えば修学旅行で行った法隆寺、金閣寺、東大寺、それに二条城くらいである。言わば初心者だが、これからいろんな場所へ行ってみたいという気持ちは溢れんばかりだ。
テレビで小学生の男の子がお城について熱心に語っているのを見て以来、学生時代は全く興味の持てなかった歴史について、少しだけ関心を抱くようになった。
スマホで「織田信長」と検索すると、それだけでたくさんの情報が表示される。
織田信長を検索したのは、日本の歴史、と言われてピンとくるのがそれだけだったから。
名前、誕生日から、どんな風に育ったのか、どんな人物だったのか、どんな政策を行って、どんな生涯だったのか。
難しくて意味のわからない内容ばかりだが、調べるうちに「教科書に出てきた人」から「本当に存在していた人」と言う認識に変化した。
そこから「行ってみたい」という思いが強くなり、ついに今日、城巡り本を飛び出してやってきたのだ。
美琴は探検に出かけた少年のように、期待に胸を膨らませながら、一人で石段を登った。こんな所について来てくれる友人もいなければ、彼氏ももちろんいない。
美琴の心の中では信長が彼氏のようなものだ。
友人に誘われて合コンなんかに参加した事もないではないが、どうも気の合う人に巡り会えない。少しでも「歴史が好き」なんて匂わせようものなら、あっと言う間に「変わった女」という目で見られて、はい終わり、という展開にももううんざりだった。
そんな美琴が、二十三歳にしてやっと獲得した唯一の趣味。
気乗りしない合コンに出かけて疲労を増幅させるより、一人で思う存分史跡をめぐり、妄想を巡らせることの方が性に合っているかも知れない。
長く広々とした大手道を登りながら、美琴は期待に胸を膨らませていた。
どこまでも続くように見える大手道は、天守までの距離もさることながら、絶対君主である信長をも遠い存在に感じさせる。
近づこうにも近づけない、手の届かない存在である信長の凄さを見せつけられているようで、圧倒された。
何百年も前に造られたというのに、戦国人たちのパワーが今もそこにあるかのようだ。
大手道の途中には前田利家や、羽柴秀吉の館跡もあり、これも萌えポイントだ。
この館跡から、信長に呼びつけられた利家や秀吉が急ぎ駆けつけていたのかもしれない、と想像しただけでキュンとなる。
目に見えないけれど強固な絆が確かにある。支配されて従っているというだけでなく、自らの審美眼とか洞察力とか、それに適った相手にだけ従う事を許している。
まさに男の沽券を賭けた従属関係、というのが堪らない。
美琴が会社で上司に文句を言わないで従うのとは、全然違う。
強い武将であるのに更に強い武将に従う。現代に名を残した武将たちは、一体どんな気持ちで信長様に付き従っていたのだろう。
考えても考えても、現代人でしかも歴オタ初心者の美琴には謎だらけだが、それも楽しい。
ふと我にかえると、羽柴秀吉館跡で突っ立ったままだった。ぼんやり妄想に浸っていると、つい時間の感覚がなくなってしまうのだが、楽しくてやめられないのがたまに傷だ。
けれどまだまだ先を目指し、登らねば。
天守跡では信長が待っているようにも思える。
「信長様、もう少しお待ちくださいね。今、会いに行きますから!」
美琴は急いで長い石段を登り始めた。
「すごい、本当にあるんだ……」
九月とといえどまだまだ暑く、滴る汗をぬぐいながらじっと足元の石を見つめる。
ここは安土城址の入り口に当たる、大手道と呼ばれる石階段。言わずと知れた織田信長の居城で、ついにやって来られた興奮で美琴の瞳は輝いていた。
史跡巡りが唯一の趣味と言えば聞こえはいいが、他に見たものと言えば修学旅行で行った法隆寺、金閣寺、東大寺、それに二条城くらいである。言わば初心者だが、これからいろんな場所へ行ってみたいという気持ちは溢れんばかりだ。
テレビで小学生の男の子がお城について熱心に語っているのを見て以来、学生時代は全く興味の持てなかった歴史について、少しだけ関心を抱くようになった。
スマホで「織田信長」と検索すると、それだけでたくさんの情報が表示される。
織田信長を検索したのは、日本の歴史、と言われてピンとくるのがそれだけだったから。
名前、誕生日から、どんな風に育ったのか、どんな人物だったのか、どんな政策を行って、どんな生涯だったのか。
難しくて意味のわからない内容ばかりだが、調べるうちに「教科書に出てきた人」から「本当に存在していた人」と言う認識に変化した。
そこから「行ってみたい」という思いが強くなり、ついに今日、城巡り本を飛び出してやってきたのだ。
美琴は探検に出かけた少年のように、期待に胸を膨らませながら、一人で石段を登った。こんな所について来てくれる友人もいなければ、彼氏ももちろんいない。
美琴の心の中では信長が彼氏のようなものだ。
友人に誘われて合コンなんかに参加した事もないではないが、どうも気の合う人に巡り会えない。少しでも「歴史が好き」なんて匂わせようものなら、あっと言う間に「変わった女」という目で見られて、はい終わり、という展開にももううんざりだった。
そんな美琴が、二十三歳にしてやっと獲得した唯一の趣味。
気乗りしない合コンに出かけて疲労を増幅させるより、一人で思う存分史跡をめぐり、妄想を巡らせることの方が性に合っているかも知れない。
長く広々とした大手道を登りながら、美琴は期待に胸を膨らませていた。
どこまでも続くように見える大手道は、天守までの距離もさることながら、絶対君主である信長をも遠い存在に感じさせる。
近づこうにも近づけない、手の届かない存在である信長の凄さを見せつけられているようで、圧倒された。
何百年も前に造られたというのに、戦国人たちのパワーが今もそこにあるかのようだ。
大手道の途中には前田利家や、羽柴秀吉の館跡もあり、これも萌えポイントだ。
この館跡から、信長に呼びつけられた利家や秀吉が急ぎ駆けつけていたのかもしれない、と想像しただけでキュンとなる。
目に見えないけれど強固な絆が確かにある。支配されて従っているというだけでなく、自らの審美眼とか洞察力とか、それに適った相手にだけ従う事を許している。
まさに男の沽券を賭けた従属関係、というのが堪らない。
美琴が会社で上司に文句を言わないで従うのとは、全然違う。
強い武将であるのに更に強い武将に従う。現代に名を残した武将たちは、一体どんな気持ちで信長様に付き従っていたのだろう。
考えても考えても、現代人でしかも歴オタ初心者の美琴には謎だらけだが、それも楽しい。
ふと我にかえると、羽柴秀吉館跡で突っ立ったままだった。ぼんやり妄想に浸っていると、つい時間の感覚がなくなってしまうのだが、楽しくてやめられないのがたまに傷だ。
けれどまだまだ先を目指し、登らねば。
天守跡では信長が待っているようにも思える。
「信長様、もう少しお待ちくださいね。今、会いに行きますから!」
美琴は急いで長い石段を登り始めた。
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