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龍神2

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 太陽の輝きは白き龍を復活させる。光を浴びた龍はその身体に刻まれた巨大な傷口をみるみると回復させた。
 そして再び、天へと昇っていく。太陽の如く光り輝くその球体を目掛けて龍は大きく口を開いた。
 次の瞬間、龍は太陽を飲み込んだのだ。龍が口を閉じても、その口の中から光が漏れだす。食われたからと言って消滅したわけじゃねえ。
 魔力感知に移るこの魔力量は、今までの攻撃の比じゃない。

「がしゃ髑髏、盾になれ!」

 巨大な骨の塊がブレスの前に身体を晒し盾となる。しかしその巨体も一瞬でバラバラにされた。一部は溶けて融解している事からあのブレスの熱量が想像される。がしゃ髑髏によって少しは速度が弱まっているが、回避するほど時間が稼げている訳でも無い。

「結界術『神域』」

 それをつぶやいたのは寧だった。いや、寧であって寧ではない。その身体の所有権を今持っているのは大昔の最強の陰陽師、安倍晴明だ。
 言葉を切っ掛けにするように、黄金でできたのれんが幾つも生み出された。和風と言うか古風というか、それはしかし、龍の口から放たれた太陽の如き熱の塊を完全に防ぎきって見せた。

「どうやら、僕の力が必要なようだね」

 魚の塔でこいつとは喋ったが、それだって精神的な意味でだ。だから、実際に声を聴くのは初めてになる。口を動かしているのは寧だが、喋っているのは安倍晴明。今まで誰とも会話しなかったあいつが、初めて喋っていた。
 声は寧の物だが、その話し方は似ても似つかない。

「ここからは僕が指揮を執る」

「寧さん? 急に何を」

 安倍晴明の事を知っているのは、斎とオリビアだけだ。それ以外からしたら急に意味の分からない事を言い出したように見えるのも仕方のない事だろう。
 しかし、そんな事に時間を割いている余裕はない。俺の魔力は限界が近く、何より俺の攻撃力をもってしても完全回復されてしまっている。ならば、あいつの言葉に賭けるしかない。

「信じていいいんだな?」

「ああ、少なくとも僕はこの娘に死なれるのは困るんだよ」

 その瞳は嘘を言っていなかった。俺はそれを信じる事にした。

「てめぇら、こいつの指示に従え!」

 俺がそういうと、翔を含めた四人も覚悟を決めたような表情になった。どうやら、それなりに信頼されているらしい。

 白龍は大技の反動が来てるのかこっちの動きを静観している。攻めるなら今がチャンス。そして、魔力的にも体力的にも攻めるならこれが最後のチャンスだ。

「無効化魔法、そして一の権能か。理解した。付与術<無効化魔法>」

 寧の身体から、黄金の光が幾つかの玉になって跳んでいく。その行先はオリビア、斎、伸、姫乃、花蓮の五人。そしてその玉を受け取った五人の身体から黄金の光があふれだす。
 俺の魔力感知は確かに五人からあふれ出る魔力に無効化属性を感知した。そしてそれは俺のやっていたような魔力に対する付与ではなく、人体に対する付与。俺の付与が単一的な物だとすればあいつの付与は、解除しない限り永続で付与され続けられる代物だ。

(行くよ樋口徹。君はあいつと唯一一対一で戦える存在だ。だから君はあいつと一対一で全力で戦え。最後は僕が決める)

 それは言葉ではなく、脳へ直接届くような声。まるで人格付与の時のような感覚だ。
 なんでもありだな最強さんよ。

(これは念話さ。彼等にもこれで指示を出す。君は僕の指令に従っていればいいよ)

 偉そうに。まあいい。今だけはその通りに動いてやるよ。

 超加速+天狐。空中を駆けあがり、一気に白龍の顔前へ移動する。
 影纏い。それは、影を物質的に纏う事で防御力や攻撃力を上げるスキルである。俺は影纏いを腕に集中させ、左腕から影の刃を形成する。これで疑似的な二刀流を行う事ができる。

 白龍は鼻先まで迫る俺に向かって口を大きく開いて待ち構えている。このまま噛み千切るつもりなのだろう。
 が、そう簡単に食われてやるつもりもない。シャドウドライブ起動。
 ゲーム的に言えば、このスキルは無敵時間を付与するスキルだ。それを使えば一撃は確実に凌げる。だが、今このスキルを発動させた理由は口の中に入りこむためだ。
 外からの攻撃はアホみたいに硬い鱗がガードしてしまう。ならば内部からの攻撃ならどうだ。

「トルネードファング!」

 内側から回転するように切り付ける。影によって間合い延長された攻撃は来るだろう。本来なら鱗を貫通するために影纏いは鋭さを意識しなければならないが、この柔い内部への攻撃なら二刀流にする余裕すらある。
 その攻撃は流石に効いたようで堪らず白龍は口を開いた。その間に俺は天狐で外へ出る。しかし、どれだけダメージを与えても同じである。夜空に太陽が昇る。
 今度は地に落ちる事すらせず、空中にとどまりながら簡単に白龍は傷を回復させていく。これじゃあエンドレスゲームだぜ。ほんとになんとかできるんだろうな。
 チラッと寧の方を見るが、あっちはあっちで忙しそうだった。聖典に宿った光が増幅されていっている。

 龍は太陽を飲み込みその瞳に俺の姿を映し出した。

「面白れぇ。俺一人なら、お前の攻撃なんてなんとでもなるんだよ」

 能力接続スキルリンク。それは同時にスキルを発動する場合、その全てのスキルに補正がかかり、更に同時発動しているスキルが多ければ多い程、その補正値は高くなるスキル。今の能力接続のスキルレベルは8、同時発動可能な最大数は9。
 本来これは常在パッシブスキルを連結させるための物ではない。

「その攻撃は破壊の力を宿し<ザ・ワン>、
その剣は勇気の光を宿し<ブレイブソード>、
その身体は勇気の炎を燃え盛らせ<ブレイブオーラ>、
例え剣が届かぬともその刃が折れる事はなく<ダブルウェーブスラッシュ>、
闇はその刃に味方し<影纏い>、
その瞳は全てを見抜き<先読みの魔眼>、
その波動は全てを壊し<魔力分解>、
その全ては調和を生み<魔力支配>、
だからこそ、この刃に切れぬ物などありはしない<天照>」

 俺の持ちうる全ての技の集大成。全ての技を集約させて挑ませて貰おうか!

「GYAAAAAAAAAAA!!」

 大気を震わす龍の咆哮と同時にその口から圧倒的な熱量を宿る光が放たれる。

「奥義<虫の密語>」

 今まで一番軽く剣を振るう。この技に威力は必要ない。この技に速さは必要ない。
 空の妖刀から放たれた衝撃波がブレスとぶつかる。パシッと音がした。この技の起点となっているのはブレイブソードだ。ブレイブソードは弾いた技の魔力を吸収し、次の一撃を吸収した魔力分強くする。それに対し、この技はその魔力の起点となっている部分を見抜き、その魔力を乱す事によって魔法そのものを崩壊させる。
 つまり、この技は魔力的に構成された能力を全て無効にする。無効化魔法を剣術に押し込めたような代物である。

(準備できたよ。白龍から離れなさいな)

 時間稼ぎはもういいようだ。
 天狐を利用してすぐに白龍から離れる。

「五芒星魔法陣<天叢雲剣>」

 寧の隣に着地すると、一人でにパラパラをページを捲る聖典を手に持って一つの魔法、いや陰陽術を完成させていた。
 いつの間にか白龍を中心とした五方向に五芒星が描かれた紙を持った奴らが陣取っていた。それは最初に黄金の光を受け取っていた五人だった。

 そして、龍を見据えて龍の正面に位置取るのは神道翔。聖剣を構えその刃には今まで以上の黄金の光が集約していた。

「翔くん。さっき僕が言ったことを覚えているかい? 聖典にはこの世界に存在する全ての書物の情報が網羅されている。そして聖剣にはこの世界に存在する全ての剣を能力が備わっている。そして、伝承の中にしか存在しなかった最強の剣、神器を僕は召喚した。君の聖剣ならあの剣を複製できるはずだよ」

「はい」

 翔は目を閉じる。祈る様に、念じるように、翔の集中が深くなればなるほどにその刀身の光は強くなっていく。
 それと同時に、魔法陣の中央、白龍の更に上から一本の巨大な剣が出現した。

 その剣は半透明でガラスのように透き通っていた。柄に青色の丸い水晶が付いている。
 そして、翔の持つ聖剣もその姿を今しがた出現した剣を少し小さくしたような物へ姿を変えていく。

「行きます!」

 翔が目を開く。見据えるのは白龍のみ。
 その歩みを止めるものは何もなく、白龍が自己防衛のために出した鍵爪はいともたやすく切断された。

 そのまま翔は突き進む。跳躍力だけで見れば今のあいつの身体能力は俺以上だ。

「聖剣模倣<天叢雲剣>」

「五芒星呪法<神剣召喚>」


 翔の剣が正面から白龍の右目を捉える。
 魔法によって作成された巨大な剣が縫い留めるように白龍の背中から腹を突き破る。
 翔の剣は尚も止まる事なく、相当に硬い龍の鱗をまるでバターでも切り裂くかの如く直進していく。

「行けえええええぇぇぇええ!!」

 頭が二つに割れ、巨大な剣によって地面にたたき落された白龍は、その身体を粒子へと変えていった。
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