上 下
19 / 40

それぞれの思い

しおりを挟む


『私たちが行くダンジョンはコロセウムよ。一階層につき敵対生物が一体現れ、それを倒す事によって次の階層へ進むことができるわ。これが9階層までの生物データ、こっちがマップデータね。まあ9階層までの全ての階層の構造は同じだったけどね』

 僕達の付き添いは会談の時にいた女冒険者だった。アメリカは冒険者という名のダンジョン探索者を国家資格として正式に採用した。冒険者はダンジョンの侵入権限、得たアイテムの使用許可とアイテムを国に売る権利を持っている。ダンジョン内で得たアイテムは現在の所最低値が日本円で3万円。
 冒険者試験に受かる事ができるアメリカ国籍の持ち主であればだれでもダンジョンに入る事が可能で、命懸けだが見返りも多い職業となっているようだ。

 そして日本のダンジョンにはないアメリカダンジョンの特性。同時に入った人間以外の人間がダンジョン内に存在しないという特徴を持っている。
 アメリカで冒険者を職業にしている人間は推定200万人。アメリカにはダンジョンが3つ存在しているので各地にギルドと呼ばれるダンジョンに関する国営施設が存在している。

 オリビアと名乗ったその女の指示に従いアメリカ入国を済ませた僕と寧さんは直ぐにコロセウムと呼ばれるダンジョンがあるワシントンDCに着いていた。

『探索は明日からよ。それまで少し休んでおいてね』

 明日からって、もう夜やないかい!
 外は真っ暗ホテルで夕食食べて寝るくらいしかすることがない。
 時差で眠気もそんなにないから、部屋で一人アメリカのダンジョンについての情報を漁っていると扉がノックされた。

『空いてますよ』

 従業員かと思って英語で話したが扉を開けたのは寧さんだった。

「あの、少しお話しがあるのですが……」

「いいよ。どうせ暇だったとこだし」

「正直な話、私は私の力では徹さんの足手まといになっていると感じています」

「そうなんだ」

「実際にダンジョン攻略の際に戦っているのは徹君だけです、私も九重さんも近接戦闘能力はありませんから。もしかしたら私たちが居なくてもダンジョン攻略は可能なのではないですか?」

「君もそういう事を考えるんだね。でも君の力は実際酒吞童子もがしゃ髑髏も倒している。今の戦闘についてこれていないのは一重にレベルが僕に追いついていないのと『アイツ』に近接戦闘能力の才能がありすぎるせいだ。寧さんは一撃必殺の魔法があるし、九重さんの百鬼夜行は寧さんの防御に非常に役立っていると僕は考えているよ」

「でも………………それなら徹君は必要ありませんよね?」

「ああ、気が付いたんだね。いや、遅いか早いかの違いでしかないか。それで、僕をパーティーから追い出して今後は二人でダンジョン攻略をするかい?」

「そう言うつもりでした。でも、どうやら私は貴方無しでは本気になれないようです」

「ああ、僕は君にそう言ってもらえるだけで幸せだよ。君たちには降霊術と百鬼夜行という誰にも負けない能力がある。なら、やはり僕や『あいつ』が居なくても君たちは強い」

「いいえ、それは違います。徹さんと徹君は二人で完成された存在なんだと思います。欠点を補い人間が絶対に持っている矛盾を二つに分ける事によって無くした存在。それに私たちは不純物なんです。だから、私と九重さんとで相談して決めました。徹君に見合う力を身に着けるだけの時間をください!」

「そっか。うん、分かったよ。実は僕からも頼もうと思っていたんだ。僕はこれからアメリカのダンジョンを攻略していく。今回アメリカに来たのはダンジョン間転移を開通させるためだ。コロセウムはダンジョン内で別の探索者に合う事がない。つまり日本に居ながらアメリカに気が付かれることなく攻略を進める事ができるという事だ。だから日本のダンジョンは君に任せてもいいかい?」

「分かりました! 私たちは必ず貴方に見合う力を身に着けます!」

「僕も歩みを進めるつもりはないから、簡単に追い付けると思わない方がいいよ」

「徹さんの方は、追い抜かれて突き放されてたとしても温情でパーティーに入れてあげるのでご心配なさる必要はありませんよ」

「楽しみにしてるよ」

「はい」

「明日が最後のダンジョン攻略か」

「いいえ、私たちが世界一を手に入れるために少しだけ離れるだけです」

 ひとしきり話して寧さんは部屋から出て行った。


 良かったのか?

 何が?

 コロセウムで探索者通しが接触しないって知ったのはさっきだ。

 だから?

 アメリカのダンジョンを攻略しようと思っていたなんて嘘だ。

 そうだよ?

 良かったのか?

 何があろうと私は前を向く。彼女に初めて会った時に言われた言葉だ。僕もそんな生き方をしてみたいと思ったし。何よりもかっこいいなって思ったんだ。

 ああ。

 だからさ、きっとこれでいいんだ。僕が前を向かない事が一番かっこ悪い。

 そうかい。ま、明日は俺がそのストレスを吹き飛ばすくらい暴れてやるよ。

 ありがとう。

 やめろ、きもちわりい。



 僕は目じりに溜めた涙が零れないように耐えながら眠りについた。




 side 椎名 寧

(良かったのかい?)

 宙に浮き、半透明な着物の男が私に話しかけてくる。実際に言葉を発している訳ではなく心に直接語り掛けてくるように。

(何の話ですか?)

(彼にあんな嘘を吐かせた事さ)

(ええ、今の私ではあの人の隣に立つ資格はありませんから)

(それで、君はどうやって強くなるつもりなのかな? 自慢じゃないけど僕の力は完成している。僕の理を読み解く力に期待しているのならやめた方がいい。君に降霊した僕なら別だけど、君自身にそれを扱う才能ないよ)

(解っていますよ、そんな事は。だからダンジョンを攻略するんです)

 私の能力は守護霊である安倍晴明を降霊させる事で理を読み解く力を使い相手を消滅させる。私以外の私の能力を知る人間は、全員そう思っている。

(それに、貴方なら私の才能とやらを引き出せるでしょう?)

(僕が協力する意味あるかな)

(あら、私が死んでも構わないんですか?)

(ああ~、それは困るね。相当困る。なんたって楽しみが無くなっちゃうからね。いいだろう君の才能を伸ばす方法は僕が教えよう。そう君の才能、補い助ける力を)




 side 安倍晴明

(それにしてもダンジョンか……。あれを作った者はあんな紛い物で何を企んでいるのやら)
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

王宮で汚職を告発したら逆に指名手配されて殺されかけたけど、たまたま出会ったメイドロボに転生者の技術力を借りて反撃します

有賀冬馬
ファンタジー
王国貴族ヘンリー・レンは大臣と宰相の汚職を告発したが、逆に濡れ衣を着せられてしまい、追われる身になってしまう。 妻は宰相側に寝返り、ヘンリーは女性不信になってしまう。 さらに差し向けられた追手によって左腕切断、毒、呪い状態という満身創痍で、命からがら雪山に逃げ込む。 そこで力尽き、倒れたヘンリーを助けたのは、奇妙なメイド型アンドロイドだった。 そのアンドロイドは、かつて大賢者と呼ばれた転生者の技術で作られたメイドロボだったのだ。 現代知識チートと魔法の融合技術で作られた義手を与えられたヘンリーが、独立勢力となって王国の悪を蹴散らしていく!

俺だけに効くエリクサー。飲んで戦って気が付けば異世界最強に⁉

まるせい
ファンタジー
異世界に召喚された熱海 湊(あたみ みなと)が得たのは(自分だけにしか効果のない)エリクサーを作り出す能力だった。『外れ異世界人』認定された湊は神殿から追放されてしまう。 貰った手切れ金を元手に装備を整え、湊はこの世界で生きることを決意する。

喜んだらレベルとステータス引き継いで最初から~あなたの異世界召喚物語~

中島健一
ファンタジー
[ルールその1]喜んだら最初に召喚されたところまで戻る [ルールその2]レベルとステータス、習得したスキル・魔法、アイテムは引き継いだ状態で戻る [ルールその3]一度経験した喜びをもう一度経験しても戻ることはない 17歳高校生の南野ハルは突然、異世界へと召喚されてしまった。 剣と魔法のファンタジーが広がる世界 そこで懸命に生きようとするも喜びを満たすことで、初めに召喚された場所に戻ってしまう…レベルとステータスはそのままに そんな中、敵対する勢力の魔の手がハルを襲う。力を持たなかったハルは次第に魔法やスキルを習得しレベルを上げ始める。初めは倒せなかった相手を前回の世界線で得た知識と魔法で倒していく。 すると世界は新たな顔を覗かせる。 この世界は何なのか、何故ステータスウィンドウがあるのか、何故自分は喜ぶと戻ってしまうのか、神ディータとは、或いは自分自身とは何者なのか。 これは主人公、南野ハルが自分自身を見つけ、どうすれば人は成長していくのか、どうすれば今の自分を越えることができるのかを学んでいく物語である。 なろうとカクヨムでも掲載してまぁす

幼馴染みの2人は魔王と勇者〜2人に挟まれて寝た俺は2人の守護者となる〜

海月 結城
ファンタジー
ストーカーが幼馴染みをナイフで殺そうとした所を庇って死んだ俺は、気が付くと異世界に転生していた。だが、目の前に見えるのは生い茂った木々、そして、赤ん坊の鳴き声が3つ。 そんな俺たちが捨てられていたのが孤児院だった。子供は俺たち3人だけ。そんな俺たちが5歳になった時、2人の片目の中に変な紋章が浮かび上がった。1人は悪の化身魔王。もう1人はそれを打ち倒す勇者だった。だけど、2人はそんなことに興味ない。 しかし、世界は2人のことを放って置かない。勇者と魔王が復活した。まだ生まれたばかりと言う事でそれぞれの組織の思惑で2人を手駒にしようと2人に襲いかかる。 けれども俺は知っている。2人の力は強力だ。一度2人が喧嘩した事があったのだが、約半径3kmのクレーターが幾つも出来た事を。俺は、2人が戦わない様に2人を守護するのだ。

『希望の実』拾い食いから始まる逆転ダンジョン生活!(改訂版)

IXA
ファンタジー
凡そ三十年前、この世界は一変した。 世界各地に次々と現れた天を突く蒼の塔、それとほぼ同時期に発見されたのが、『ダンジョン』と呼ばれる奇妙な空間だ。 不気味で異質、しかしながらダンジョン内で手に入る資源は欲望を刺激し、ダンジョン内で戦い続ける『探索者』と呼ばれる職業すら生まれた。そしていつしか人類は拒否感を拭いきれずも、ダンジョンに依存する生活へ移行していく。 そんなある日、ちっぽけな少女が探索者協会の扉を叩いた。 諸事情により金欠な彼女が探索者となった時、世界の流れは大きく変わっていくこととなる…… 人との出会い、無数に折り重なる悪意、そして隠された真実と絶望。 夢見る少女の戦いの果て、ちっぽけな彼女は一体何を選ぶ? 絶望に、立ち向かえ。

欲張ってチートスキル貰いすぎたらステータスを全部0にされてしまったので最弱から最強&ハーレム目指します

ゆさま
ファンタジー
チートスキルを授けてくれる女神様が出てくるまで最短最速です。(多分) HP1 全ステータス0から這い上がる! 可愛い女の子の挿絵多めです!! カクヨムにて公開したものを手直しして投稿しています。

迷い人 ~異世界で成り上がる。大器晩成型とは知らずに無難な商人になっちゃった。~

飛燕 つばさ
ファンタジー
孤独な中年、坂本零。ある日、彼は目を覚ますと、まったく知らない異世界に立っていた。彼は現地の兵士たちに捕まり、不審人物とされて牢獄に投獄されてしまう。 彼は異世界から迷い込んだ『迷い人』と呼ばれる存在だと告げられる。その『迷い人』には、世界を救う勇者としての可能性も、世界を滅ぼす魔王としての可能性も秘められているそうだ。しかし、零は自分がそんな使命を担う存在だと受け入れることができなかった。 独房から零を救ったのは、昔この世界を救った勇者の末裔である老婆だった。老婆は零の力を探るが、彼は戦闘や魔法に関する特別な力を持っていなかった。零はそのことに絶望するが、自身の日本での知識を駆使し、『商人』として新たな一歩を踏み出す決意をする…。 この物語は、異世界に迷い込んだ日本のサラリーマンが主人公です。彼は潜在的に秘められた能力に気づかずに、無難な商人を選びます。次々に目覚める力でこの世界に起こる問題を解決していく姿を描いていきます。 ※当作品は、過去に私が創作した作品『異世界で商人になっちゃった。』を一から徹底的に文章校正し、新たな作品として再構築したものです。文章表現だけでなく、ストーリー展開の修正や、新ストーリーの追加、新キャラクターの登場など、変更点が多くございます。

アラヒフおばさんのゆるゆる異世界生活

ゼウママ
ファンタジー
50歳目前、突然異世界生活が始まる事に。原因は良く聞く神様のミス。私の身にこんな事が起こるなんて…。 「ごめんなさい!もう戻る事も出来ないから、この世界で楽しく過ごして下さい。」と、言われたのでゆっくり生活をする事にした。 現役看護婦の私のゆっくりとしたどたばた異世界生活が始まった。 ゆっくり更新です。はじめての投稿です。 誤字、脱字等有りましたらご指摘下さい。

処理中です...