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個々の爪

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 僕たちは馬車に乗っていた。
 シャルテが王都で雇った神の祝福を持つ3人とだ。
 男が2人女が1人。
 確かに歴戦の戦士って風格はあるが、その内2人は舐めた態度が鼻につく。
 基本的に恩恵は先天的な物なので生まれた時からちやほやされていたのだろう。
 だが、戦力的にあてになるのは事実。
 外ずらだけはよく接しておくとする。
 カゲロウにもそう言い含めた。

 恩恵の内容は各人とも話したくは無いと踏んでか、誰も言っていない。
 自己紹介もしたにはしたが、名前と歳くらいなものだ。
 僕が最年少。15才。
 流石に恩恵を持つ人間が4人も乗っている馬車だ、魔物も一瞬でチリになって行く。
 自慢げに神から得た身体能力を披露する男は、僕には酷く滑稽に思えた。
 勿論、魔物避けという重要な役割を背負って貰った事は感謝しているが。

 それと情報閲覧では神の恩恵は解らない。
 解るのは身体能力、魔力、スキルだけだ。
 そして彼らのうち魔物避けをしている男、テスラと1人だけ女の恩恵持ちのアルナは身体能力がAとなっている。
 もう1人の男、カゲトは魔力がSでスキル量が1人だけずば抜けて多い。この3人で最強は恐らくカゲトだ。
 まあ全員の恩恵が不明なので何とも言えないが。

 外で魔物と戦ってるテスラもこの辺りの敵に恩恵を使うつもりが無いのか、特殊な力を使おうとはしない。
 まあ、雑魚なので使う必要が無いだけだとは思うが。
 
 馬車はここに来た時とは違う、これでもかというほどデカく、豪華な物だった。
 それを2つ走らせている。
 馬車は片方が僕を含める、恩恵持ち4人。それとカゲロウだ。
 もう片方が雇い主の馬車だ。シャルテやリオンが乗っている。
 恩恵の能力は歩兵100人分と同価値と考える事が戦術的に基本だ。
 勿論、恩恵の種類によって差異は存在するが、大まかにはそうなっている。
 要するにこの馬車に乗っている四人だけで歩兵400人分の働きを要求されている訳だ。

 馬が違うのか、馬力の違いによって領地までは来る時よりもかなり早く到着した。
 時刻は夕方6時。
 明日には国境線が始まる。

 そして夕食を終えた後、シャルテの意向によって情報の整理をすると僕たち恩恵を持つ4人とシャルテの父であり、この地の現領主であるセントルグ・マリテノールが一室に集まっていた。

「それじゃあまずは自己紹介と行くか。俺の名前はテスラ、歳は17。恩恵は殴れば殴るほどに相手に莫大なダメージを与える事が出来るもんだ」

 僕は思う。それは当然だろうと。
 まあ多分、こいつが言いたいのは追加ダメージって意味だろうけど。

「なるほど、ではテスラ君には強い個体や隊長クラスを任せるとしよう」

「おう!」

 おい、恩恵まで話さないといけないのか?
 聞いて無いぞ。
 濁す方法を考えておかないと。

「それじゃ、次は私が自己紹介しましょう。名はアルナ、歳は17です。恩恵の内容は雷を操る事が出来ます。纏ったり、纏わせたり、発したり。魔法の様に使う事も可能です」

 雷か、性質が謎過ぎるから何とも言えないな。
 彼女自身がどれだけ雷という物を理解しているかによっては高い戦闘能力になるだろう。

「それはこの戦いにおいて重宝する能力だ。アルナ殿には撃滅を任せる事が出来るな」

「はい」

 正直、この2人は大して期待していない。
 恩恵がどうのって話ではなく、人として……だ。
 戦いを舐めてる節が所々に見え隠れする。
 カゲトの警戒度に比べると、この2人はその半分も危機意識を持っていない。言い切れるほどにだ。
 出来れば共闘したくない相手、それが僕が見据えるこの2人だ。

「じゃあ次は俺でいいのか?」

 カゲトが僕をチラッと見て来たので頷きで返した。

「それじゃあ、俺の名前はカゲト、歳……は一応17だ。恩恵は影を司る神からの物だ。影に潜ったり影を刃の様に操る事も出来る。夜は無敵だが朝は弱くなる」

「なるほど。では君には遊撃を頼んでも?」

「問題ない」

 影を操る恩恵か。
 汎用性は一番だな。
 もしかするとカゲロウよりも強い可能性がある。

「それじゃあ僕が最後かな。僕はカガミ、歳は1人だけ15だ。恩恵は説明しづらいんだが、色んな物資を作り出す事が出来る、食料から武器まで何でもだ。まあ武器は僕専用だけど」

「なるほど、カガミ君は後衛向きだな。カゲト君と一緒にに遊撃という事でどうだろうか?」

「いや僕は1人でいい」
「いや俺は1人がいい」

 意図せずカゲトと被ってしまった。
 確かに影に潜る性質を考えると単独行動の方が都合がいいだろうしな。
 僕を足でまといと考えてるのかもしれない。
 事実僕の身体能力は雑魚だ。
 恩恵を与えられると身体能力、魔力ともに常人以上になるはずだが僕の恩恵は別物のようだ。
 実際僕以外のここの恩恵持ち達は、全てのステータスがB以上だった。

「それに僕にはカゲロウがいる。護衛は不要だ」

「確かに、そうであったな」

 話し合いがひと段落したのを確認したのか使用人が紅茶を運んできた。
 その後は更に話を詰めて、出来る限り体を休める事となった。
 開戦まで残り、13時間
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