とある最強盗賊の苦悩

水色の山葵

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第二章 プレイヤー

17話 神の大戦

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 とある一室。
 華やかとは言えないが、全体的に黒々とした作りのその部屋は高級感があり、家具一つ一つに微量な魔力が宿っている。魔力が宿る物質はロストテクノロジーであり、この世界、この時代では人工で製造不可能な品物なのだが、彼らの影響力とその知識を考えれば当然と言っていい所有物だ。

 汚れの無い白一色の円卓に、用意された席は三つ。
 金色の刺繍の入った豪華な椅子は、そこに座る人物たちが如何に強大な力を持つ者たちなのかを表していた。

「俺は今、この世界に来て最高と言っていい程にわくわくしてるぜ!」

 その一席に腰掛ける男。
 プレイヤーネームは『ダルム』。獣のようにギラついた眼光を放つ男はこの世界でも屈指のバトルマニアだ。
 ただ、同じバトルマニアでもメイフォンとは戦いに求めるものが明らかに違う。
 宿敵ライバルを求めるメイフォンに対してダルムが求めている事は、相手の絶望の表情。圧倒的な力の差でねじ伏せられた者が見せる絶望と屈服を何よりも求めているのだ。

「ああ……、あの人の恐怖はどんな物を見せてくれるのかな?」

 黒いドレスで着飾った彼女、見た目は少女と呼べるほどに幼い。
 プレイヤーネーム『ミコン』。
 遠くを見つめながら、どこか恋する乙女を彷彿とさせる表情を浮かべている。だが、少女が求める物は人の恐怖のみ。
 魔神『シグマ』に不治のサイコパスと言わせるほどに彼女は異常だ。

「このタイミングで拠点の位置を明かす、と言うのは確実に誘われているのでしょう」

 魔の神はこの中で一番の常識人だった。
 バトルマニアとサイコパスに囲まれてはいるのだが、いやだからこそか、彼女は恐怖も絶望も憶えるし安全を確立したいという常識を備えていた。
 彼女が居たからこそ、千年前プランターを引き込むことができた。それは彼女にとって必要な事で千年前のメイフォンは放置できない存在だったからだ。
 だが、その結果は彼女の安全の確保という目的の他に二つの現実と悪夢を招く結果も含んでいた。
 それはダルムとミコンの事だ。この千年で増長を重ね、成長しない身体を持ったことも影響し、彼らの人格は破壊されたと言っていい程に変化していた。

 今、彼女はメイフォンよりもプランターよりも、彼らが自分を裏切った場合を考慮しているのだ。

「相手にも何か勝利の算段があるのでしょう。けれど、ここで攻めないと言うのは盗賊連合クラスに対しては愚策。だからこそ、こちらも作戦を用意しましょう。その上でなら私も全ての軍でメイフォンの拠点を攻め滅ぼす事を了承します」

「よっしゃ!」

「やったー!」

 魔神は、今のうちから彼らの戦力を奪っておくことを画策する。






_________________________









 拠点の結界を解除して数時間。
 拠点の周りは平野で、近くまで来ればここに拠点がポツンと建っているだけなのですぐに拠点に気が付かれるだろう。

 空に数多の粒が見え始める。
 その粒一つ一つがコスト30相当のレベル100ユニットだ。
 王国軍クラスの100コスト多数召喚型ユニット・『天使の軍勢』。
 それに、地を這うように現れたのは一体一体が強力な状態異常と死亡時効果を持つアンデットの集団だ。
 こちらは死霊軍団クラスの90コスト多数召喚型ユニット・『百鬼夜行』。

 この世界でのコスト100ユニットのレベル100に必要な金貨の総数は約500万枚。
 多数召喚型ユニットは100体のユニット全ての能力をレベルアップによって上昇させることができる分、コストパフォーマンスが非常に高い。

 だが、この世界で最も効率の良いリソースの使い方とは言えない。

 俺とプランターは拠点の前に出る。
 そこから見ると神々しく輝く天使と毒々しく蠢く不死者の混合部隊は不格好ながらも、ゲーム時代ではほぼありえなかった光景を生み出している。
 魔法『ミリオンアイ』の効果で相手方のプレイヤー三人の姿も確認している。

 腰のケースから、魔法『シルバーバレット』を取り出す。
 その効果は、その魔法で破壊したユニットの死亡時効果の無効化と復活不能だ。
 だが、その威力は高くはない。
 天使一体を消滅させる事も出来ないだろう。

 だが、ここに加わる魔法がある。
 プランターの『魔力増幅』だ。
 この世界の魔法は基本的に魔法に込める事の出来る最大魔力量という奴が定まっている。
 これは上級魔法ではない、初級魔法だ! は出来ない仕様となっている。

 そして、それを可能にするのが『魔力増幅』の魔法だ。
 この魔法はこの世界特有な物でゲーム時代には存在しなかった。
 『シルバーバレット』の魔法は威力300しかない。

 それを補うのが『魔力増幅』になる。
 この魔法は先に述べた通り、魔力の最大量を越えて魔力を込める事が出来る。

 まずは『シルバーバレット』の発動、込める金貨はレベル100の最大まで上昇させるために49万枚。
 それに対して更に『魔力増幅』で俺の体内の魔力と魔力の結晶体である、金貨を込める。
 金貨換算で込めた枚数は二千万枚相当。
 全滅させたとしてもリソースはこっちの方が多く消費するのだが、開戦の合図は派手に行こう。

 シルバーバレットのカードを前方に向けて発動する。
 シルバーバレットのレベル1での使用コストは20。
 レベル100では10万枚程度。
 けれど、込められた金貨総数は二千万枚。
 仮に、この魔法はレベル100の二百倍。
 存在するとすればレベル20000相当の威力となる。
 威力6000000(六百万)の大火力である。アンデットはかすっただけで消滅するだろう。
 範囲や速度も拡張され、防御回避不可能攻撃と化している。

 一枚のカードから圧倒的な光があふれ出る。
 白銀に輝くその光は戦場全てを覆いつくす。


 不死者と天使の有象無象は叫び声をあげる隙さえ無く、消失した。

 光が明けた時、その戦場に残るのは4人のプレイヤーと、そのユニットである1柱の奪神だけだった。
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