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Tの家での話
窓から伸びる腕
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高校生の時、UFOキャッチャーにハマっていた友人からぬいぐるみを沢山もらった。
最初は棚に飾ったのだが、数が多くて納まりきらない。せっかくなのでベッドにも置こうと思いついた。
最初の週は、電撃を放つ黄色いネズミのぬいぐるみを置いて眠った。サテンのように滑らかでツルツルの生地にふわふわの綿が沢山入っていて、柔らかくて手触りがとても良かった。
枕元にぬいぐるみがあって一緒に眠るというのは、何だか安らぐ気がする。
この週は特に何も起こらなかった。
次の週になり、電撃ネズミは棚に返して、今度は当時流行っていた某格闘ゲームのキャラNのぬいぐるみを枕元に置く事にした。
ぬいぐるみを頭の横に並べて眠っていると、金縛りにあった。Tの家に住んでいる時はほぼ2日に1回は金縛りにあっていたので、大して焦らず解けるのを待っていると、薄っすら開いていた視界を何か白いものが横切った。
「!」
それは、腕だった。
一本の長い長い白い腕が目の前を横切ったと思ったら、後から後から、大量の腕がわらわらと、右側にある窓から伸びてきた。
それは私の頭の上を通り過ぎ、枕の横に集中しているようだ。ちょうど、Nのぬいぐるみがあるところに。
ぱすっ
軽い音がして、金縛りが解けた。腕も同時に消えた。
咄嗟に枕元を見ると、ぬいぐるみが無い。起き上がって辺りを見渡すと、ベッドからかなり離れた部屋の角に、投げつけられたかのように転がっていた。
妙な出来事に慣れてしまっていたのもあり、その時はあまり気にならずにまた眠ってしまった。
朝になってからNのぬいぐるみを回収して、また枕元に置き、その晩も同じように眠った。
そして、また金縛りにあった。
昨日と同じだ。右側の窓から何本もの長い腕が絡まるように伸びてきて、枕元左側に置いていたNのぬいぐるみに群がっている。
昨日と違うのは、私がよりはっきりと目を開けていたこと。
それで分かった。腕は左側からも、そして上からも、伸びてきていた。どうやらベッドの下から伸びているようだ。
窓から生えた腕がベッドの下を潜り抜けてきたのか、それともベッドの下から生えてきたものが窓を通り抜けたのか、それはわからない。
とにかく、物凄く大量の腕だった。
物凄く大量の、生白く半透明の長い腕が、蚯蚓のように絡まり合って、枕元に群がっていた。
そこから記憶が無い。
朝起きると、やはりNのぬいぐるみは部屋の隅に放り投げられていた。
そして、電撃ネズミのぬいぐるみが、何故かベッドのすぐ横に落ちていた。
飾っていた棚はベッドから離れたところにあり、そこには他にも沢山ぬいぐるみがあったのに、何故かその子だけが。
私は
「ああ、電撃ネズミが良いんだろうな」
と思った。
でも、その日から、枕元にぬいぐるみを置くことはやめてしまった。
最初は棚に飾ったのだが、数が多くて納まりきらない。せっかくなのでベッドにも置こうと思いついた。
最初の週は、電撃を放つ黄色いネズミのぬいぐるみを置いて眠った。サテンのように滑らかでツルツルの生地にふわふわの綿が沢山入っていて、柔らかくて手触りがとても良かった。
枕元にぬいぐるみがあって一緒に眠るというのは、何だか安らぐ気がする。
この週は特に何も起こらなかった。
次の週になり、電撃ネズミは棚に返して、今度は当時流行っていた某格闘ゲームのキャラNのぬいぐるみを枕元に置く事にした。
ぬいぐるみを頭の横に並べて眠っていると、金縛りにあった。Tの家に住んでいる時はほぼ2日に1回は金縛りにあっていたので、大して焦らず解けるのを待っていると、薄っすら開いていた視界を何か白いものが横切った。
「!」
それは、腕だった。
一本の長い長い白い腕が目の前を横切ったと思ったら、後から後から、大量の腕がわらわらと、右側にある窓から伸びてきた。
それは私の頭の上を通り過ぎ、枕の横に集中しているようだ。ちょうど、Nのぬいぐるみがあるところに。
ぱすっ
軽い音がして、金縛りが解けた。腕も同時に消えた。
咄嗟に枕元を見ると、ぬいぐるみが無い。起き上がって辺りを見渡すと、ベッドからかなり離れた部屋の角に、投げつけられたかのように転がっていた。
妙な出来事に慣れてしまっていたのもあり、その時はあまり気にならずにまた眠ってしまった。
朝になってからNのぬいぐるみを回収して、また枕元に置き、その晩も同じように眠った。
そして、また金縛りにあった。
昨日と同じだ。右側の窓から何本もの長い腕が絡まるように伸びてきて、枕元左側に置いていたNのぬいぐるみに群がっている。
昨日と違うのは、私がよりはっきりと目を開けていたこと。
それで分かった。腕は左側からも、そして上からも、伸びてきていた。どうやらベッドの下から伸びているようだ。
窓から生えた腕がベッドの下を潜り抜けてきたのか、それともベッドの下から生えてきたものが窓を通り抜けたのか、それはわからない。
とにかく、物凄く大量の腕だった。
物凄く大量の、生白く半透明の長い腕が、蚯蚓のように絡まり合って、枕元に群がっていた。
そこから記憶が無い。
朝起きると、やはりNのぬいぐるみは部屋の隅に放り投げられていた。
そして、電撃ネズミのぬいぐるみが、何故かベッドのすぐ横に落ちていた。
飾っていた棚はベッドから離れたところにあり、そこには他にも沢山ぬいぐるみがあったのに、何故かその子だけが。
私は
「ああ、電撃ネズミが良いんだろうな」
と思った。
でも、その日から、枕元にぬいぐるみを置くことはやめてしまった。
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