上 下
5 / 6
Tの家での話

窓から伸びる腕

しおりを挟む
 高校生の時、UFOキャッチャーにハマっていた友人からぬいぐるみを沢山もらった。

 最初は棚に飾ったのだが、数が多くて納まりきらない。せっかくなのでベッドにも置こうと思いついた。


 最初の週は、電撃を放つ黄色いネズミのぬいぐるみを置いて眠った。サテンのように滑らかでツルツルの生地にふわふわの綿が沢山入っていて、柔らかくて手触りがとても良かった。
 枕元にぬいぐるみがあって一緒に眠るというのは、何だか安らぐ気がする。
 この週は特に何も起こらなかった。

 次の週になり、電撃ネズミは棚に返して、今度は当時流行っていた某格闘ゲームのキャラNのぬいぐるみを枕元に置く事にした。

 ぬいぐるみを頭の横に並べて眠っていると、金縛りにあった。Tの家に住んでいる時はほぼ2日に1回は金縛りにあっていたので、大して焦らず解けるのを待っていると、薄っすら開いていた視界を何か白いものが横切った。

「!」

 それは、腕だった。


 一本の長い長い白い腕が目の前を横切ったと思ったら、後から後から、大量の腕がわらわらと、右側にある窓から伸びてきた。
 それは私の頭の上を通り過ぎ、枕の横に集中しているようだ。ちょうど、Nのぬいぐるみがあるところに。

 ぱすっ

 軽い音がして、金縛りが解けた。腕も同時に消えた。

 咄嗟に枕元を見ると、ぬいぐるみが無い。起き上がって辺りを見渡すと、ベッドからかなり離れた部屋の角に、投げつけられたかのように転がっていた。

 妙な出来事に慣れてしまっていたのもあり、その時はあまり気にならずにまた眠ってしまった。
 朝になってからNのぬいぐるみを回収して、また枕元に置き、その晩も同じように眠った。

 そして、また金縛りにあった。


 昨日と同じだ。右側の窓から何本もの長い腕が絡まるように伸びてきて、枕元左側に置いていたNのぬいぐるみに群がっている。
 昨日と違うのは、私がよりはっきりと目を開けていたこと。
 それで分かった。腕は左側からも、そして上からも、伸びてきていた。どうやらベッドの下から伸びているようだ。

 窓から生えた腕がベッドの下を潜り抜けてきたのか、それともベッドの下から生えてきたものが窓を通り抜けたのか、それはわからない。
 とにかく、物凄く大量の腕だった。
 物凄く大量の、生白く半透明の長い腕が、蚯蚓のように絡まり合って、枕元に群がっていた。

 そこから記憶が無い。

 朝起きると、やはりNのぬいぐるみは部屋の隅に放り投げられていた。

 そして、電撃ネズミのぬいぐるみが、何故かベッドのすぐ横に落ちていた。
 飾っていた棚はベッドから離れたところにあり、そこには他にも沢山ぬいぐるみがあったのに、何故かその子だけが。

私は
「ああ、電撃ネズミが良いんだろうな」
と思った。

 でも、その日から、枕元にぬいぐるみを置くことはやめてしまった。
 
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

影の住む洋館と、彼女に害なす者の末路

樹脂くじら
ホラー
幼馴染の柊香奈と帰宅中、見知らぬ不気味な洋館を目にした。その日から奇妙な出来事が起こり始める。 柊を狙う悪意は、黒い影によって容赦なく裁かれていく。

池の主

ツヨシ
ホラー
その日、池に近づくなと言われた。

餅太郎の恐怖箱

坂本餅太郎
ホラー
坂本餅太郎が贈る、掌編ホラーの珠玉の詰め合わせ――。 不意に開かれた扉の向こうには、日常が反転する恐怖の世界が待っています。 見知らぬ町に迷い込んだ男が遭遇する不可解な住人たち。 古びた鏡に映る自分ではない“何か”。 誰もいないはずの家から聞こえる足音の正体……。 「餅太郎の恐怖箱」には、短いながらも心に深く爪痕を残す物語が詰め込まれています。 あなたの隣にも潜むかもしれない“日常の中の異界”を、ぜひその目で確かめてください。 一度開いたら、二度と元には戻れない――これは、あなたに向けた恐怖の招待状です。 --- 読み切りホラー掌編集です。 毎晩20:20更新!(予定)

ずれる

ヨル
ホラー
ずれた日常を描いてみました。

【一話完結】3分で読める背筋の凍る怖い話

冬一こもる
ホラー
本当に怖いのはありそうな恐怖。日常に潜むあり得る恐怖。 読者の日常に不安の種を植え付けます。 きっといつか不安の花は開く。

こちら聴霊能事務所

璃々丸
ホラー
 2XXXX年。地獄の釜の蓋が開いたと言われたあの日から十年以上たった。  幽霊や妖怪と呼ばれる不可視の存在が可視化され、ポルターガイストが日常的に日本中で起こるようになってしまった。  今や日本では霊能者は国家資格のひとつとなり、この資格と営業許可さえ下りればカフェやパン屋のように明日からでも商売を始められるようになった。  聴心霊事務所もそんな霊能関係の事務所のひとつであった。  そして今日も依頼人が事務所のドアを叩く────。  

とある小屋の男の話

サツキユキオ
ホラー
記憶喪失の男、アルフレッドはとある山奥の小屋で犬のジョンと共に暮らしていた。質素で平穏な暮らしに満足していた彼であったが──。

たたた

星来香文子
ホラー
とある離島で起きた、奇妙な出来事…… 何も信じられない、短編ホラーです。(全10話) ※カクヨムにも掲載しています

処理中です...