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高校三年 デートと噂
事実と信念
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(もしも涼風楓の主張が、事実なのだとしたら……)
確証の得られない海歌は、楓を説得するような言葉を口にした。
「どう足掻いても、等しく命を落とすのならば――私達は残された時間を、後悔せぬよう。全力で生きるべきではないのでしょうか」
「それは個々の考え方によるでしょうね。同士達はいかに自分達が優位な状態で死に至るかについて、楽しそうに歓談していますよ。あなた方にも、ぜひこちらそばに加入して頂きたいのですが」
「……くだらねえ」
葛本は虫酸が走ると言わんばかりの表情で吐き捨てると、海歌の手を引っ張った。
さすがに二度目も、彼の意思には逆らえない。
海歌は葛本に引っ張られるがままに、出口へ向けて歩み始める。
海歌が葛本の過去を変えたいと願うように、葛本にも何かしら過去に戻ってやりたいことがあるらしい。
それがどのようなことかを、海歌には知る術がないけれど。
(葛本のようにくだらないと一蹴して、いいの……? )
涼風楓の言葉が真実なら、人類は等しく死に至る。どうせ死に至るくらいならば、望みを叶えて死んだ方がいい。
涼風の言い方を聞く限り、彼の意見に賛同した人間はそれなりにいるようだ。
(自ら命を終えなくて、本当によかった。涼風さんの言葉を信じれば、私は死ねる。もう一度人生をやり直して。葛本と。今度こそ……)
彼を好きだと自覚していなければ、海歌は楓の手を取り、同士となる道を歩んでいただろう。
(一人で死ぬことは怖い。でも、みんなと一緒なら大丈夫)
集団自殺に失敗した人間が、どのような目に合うのかも知らずに。
軽い気持ちで命を断っていたかもしれない。
(でも、今は……)
繋いだ手のぬくもりが、海歌に生きろと後押ししてくれるから。
彼女は同時多発テロに加担し、集団自殺に参加することはない。
表情が優れない葛本の機嫌が戻るようにと願った海歌は、繋いだ手が離れないように力を込めた。
「くだらないの一言で、片付けられては困るのですよ。私は親切心で事実を述べています。来世で、後悔することになりますよ」
「後悔なんざ、しねえ」
「言い切りましたね。それではあなたが来世で、吠え面をかく所を楽しみにしております」
楓に喧嘩を売られた葛本は勢いよく扉を開けると、蹴破りそうな勢いで扉を閉めた。
(葛本が怒っている)
やはり、説明会に連れてくるべきではなかったのだ。非現実的な話を嫌う彼は、噂の日時に世界が終わるのだと告げられても、信じる気がないようだった。
(謝罪しなければ……)
苛立った様子で部屋を後にした葛本の隣に並び立ち、彼の怒りを鎮める為に、海歌は口を開く。
「葛本……」
「あんな眉唾話、信じる価値もねえ。世界が滅びる? 願いが叶う? バカじゃねーの。いい年した大人が、やっていいことと悪い事の区別すら付かねえのかよ」
「葛本」
「あいつに同情してんの? 意味わかんねえ話持ち出して、テロ行為を正当化する犯罪者だぞ。あんなやつに命なんざ賭ける必要はねえ。やめとけ。信じるだけ無駄だ」
「はい。信じていません。私が信じるのは、葛本だけですから……」
海歌は苛立ちを隠せない様子で歩く葛本の腕に縋りつく。彼女の切なげな声を聞いた葛本は、廊下で不自然に歩みを止めた。
「信じてねぇの?」
「葛本が信じていないのに、私が信じることなどありえません。本当に、ごめんなさい。私は、葛本を傷つけてしまいました」
「いや、別に。傷ついてねぇけど……」
葛本は反省している海歌の姿を目にして、苛立っている自分が恥ずかしくなったようだ。
バツが悪そうに腕に縋る海歌を抱き寄せると、ゆったりとした足取りで歩き始める。
「悪魔が実在すんなら、ああ言う奴のことを言うんだろうな」
「涼風さんと山王丸さん、どちらがマシでしょうか」
「サイコパスの度合いで考えるなら、どっこいどっこいだろ……」
人の痛みがわからない山王丸と、御伽噺を吹聴し、人々を地獄へ導く涼風楓を比べた所で、意味はない。
海歌は大人しくなった葛本になら、自分の気持ちを伝えられるのではないかと考え――行動に移す。
「涼風楓の言葉が真実であるならば……。私は、後悔したくありません」
「信じていないんだろ」
「信じていませんが、万が一は懸念しています。もし、葛本が……」
「俺が?」
言葉にして、否定されたら立ち直れない。
そんな言葉を、海歌はこれから口にしようとしている。
本来ならばこんな所で、伝えるような話ではないだろう。
自分の将来を決定づける言葉なのだから。気軽に話せる内容ではない。
(何もしなくとも約一か月後に、私達が死ぬかもしれないならば)
立ち止まっているわけにいかないだろう。
確証の得られない海歌は、楓を説得するような言葉を口にした。
「どう足掻いても、等しく命を落とすのならば――私達は残された時間を、後悔せぬよう。全力で生きるべきではないのでしょうか」
「それは個々の考え方によるでしょうね。同士達はいかに自分達が優位な状態で死に至るかについて、楽しそうに歓談していますよ。あなた方にも、ぜひこちらそばに加入して頂きたいのですが」
「……くだらねえ」
葛本は虫酸が走ると言わんばかりの表情で吐き捨てると、海歌の手を引っ張った。
さすがに二度目も、彼の意思には逆らえない。
海歌は葛本に引っ張られるがままに、出口へ向けて歩み始める。
海歌が葛本の過去を変えたいと願うように、葛本にも何かしら過去に戻ってやりたいことがあるらしい。
それがどのようなことかを、海歌には知る術がないけれど。
(葛本のようにくだらないと一蹴して、いいの……? )
涼風楓の言葉が真実なら、人類は等しく死に至る。どうせ死に至るくらいならば、望みを叶えて死んだ方がいい。
涼風の言い方を聞く限り、彼の意見に賛同した人間はそれなりにいるようだ。
(自ら命を終えなくて、本当によかった。涼風さんの言葉を信じれば、私は死ねる。もう一度人生をやり直して。葛本と。今度こそ……)
彼を好きだと自覚していなければ、海歌は楓の手を取り、同士となる道を歩んでいただろう。
(一人で死ぬことは怖い。でも、みんなと一緒なら大丈夫)
集団自殺に失敗した人間が、どのような目に合うのかも知らずに。
軽い気持ちで命を断っていたかもしれない。
(でも、今は……)
繋いだ手のぬくもりが、海歌に生きろと後押ししてくれるから。
彼女は同時多発テロに加担し、集団自殺に参加することはない。
表情が優れない葛本の機嫌が戻るようにと願った海歌は、繋いだ手が離れないように力を込めた。
「くだらないの一言で、片付けられては困るのですよ。私は親切心で事実を述べています。来世で、後悔することになりますよ」
「後悔なんざ、しねえ」
「言い切りましたね。それではあなたが来世で、吠え面をかく所を楽しみにしております」
楓に喧嘩を売られた葛本は勢いよく扉を開けると、蹴破りそうな勢いで扉を閉めた。
(葛本が怒っている)
やはり、説明会に連れてくるべきではなかったのだ。非現実的な話を嫌う彼は、噂の日時に世界が終わるのだと告げられても、信じる気がないようだった。
(謝罪しなければ……)
苛立った様子で部屋を後にした葛本の隣に並び立ち、彼の怒りを鎮める為に、海歌は口を開く。
「葛本……」
「あんな眉唾話、信じる価値もねえ。世界が滅びる? 願いが叶う? バカじゃねーの。いい年した大人が、やっていいことと悪い事の区別すら付かねえのかよ」
「葛本」
「あいつに同情してんの? 意味わかんねえ話持ち出して、テロ行為を正当化する犯罪者だぞ。あんなやつに命なんざ賭ける必要はねえ。やめとけ。信じるだけ無駄だ」
「はい。信じていません。私が信じるのは、葛本だけですから……」
海歌は苛立ちを隠せない様子で歩く葛本の腕に縋りつく。彼女の切なげな声を聞いた葛本は、廊下で不自然に歩みを止めた。
「信じてねぇの?」
「葛本が信じていないのに、私が信じることなどありえません。本当に、ごめんなさい。私は、葛本を傷つけてしまいました」
「いや、別に。傷ついてねぇけど……」
葛本は反省している海歌の姿を目にして、苛立っている自分が恥ずかしくなったようだ。
バツが悪そうに腕に縋る海歌を抱き寄せると、ゆったりとした足取りで歩き始める。
「悪魔が実在すんなら、ああ言う奴のことを言うんだろうな」
「涼風さんと山王丸さん、どちらがマシでしょうか」
「サイコパスの度合いで考えるなら、どっこいどっこいだろ……」
人の痛みがわからない山王丸と、御伽噺を吹聴し、人々を地獄へ導く涼風楓を比べた所で、意味はない。
海歌は大人しくなった葛本になら、自分の気持ちを伝えられるのではないかと考え――行動に移す。
「涼風楓の言葉が真実であるならば……。私は、後悔したくありません」
「信じていないんだろ」
「信じていませんが、万が一は懸念しています。もし、葛本が……」
「俺が?」
言葉にして、否定されたら立ち直れない。
そんな言葉を、海歌はこれから口にしようとしている。
本来ならばこんな所で、伝えるような話ではないだろう。
自分の将来を決定づける言葉なのだから。気軽に話せる内容ではない。
(何もしなくとも約一か月後に、私達が死ぬかもしれないならば)
立ち止まっているわけにいかないだろう。
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