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高校三年 山王丸兄弟

対決

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 ――最近巷で、妙な広告が話題になっている。

『ねぇ、見た? やばくない?』
『うん。凄いよね~』

 海歌は同性の友達が一人も存在しない。
 仲良く世間話に花を咲かせる相手などいない彼女が、一人で学校内を歩いているだけでも耳に入ってくる広告の話題は、若者を中心に全国各地で大きな騒ぎになっているのだとか。

『もう一度、人生をやり直しませんか』
『過去に未練のあるものよ――集え』
『三月三日 十五時三十三分。私達は、奇跡を起こす』

 数か月前に涼風楓から聞いた話が、いつの間にか集団自殺の実行日時まで決まって世界中を騒がせているようだ。

 誰かに殺してもらえる機会ともならば、飛び乗らない手はない。

 かつての海歌であれば、そう考えて楓に縋っていたかもしれないだろう。
 しかし、今は……。

(何を考えているの。葛本と、約束したのに……)

 海歌は葛本と、約束してしまった。彼とともに未来を生きると。
 死にたいと願った時は、葛本へ打ち明けるようにと義務づけられている。

(……野放しにしておいても、いいのかな……? )

 彼女が当主になるつもりはなくとも、海歌が生き続ける限りはいずれ一族の後継者となることが決まっている状態だ。

 海歌はひとまず、事前に涼風楓から伝えられた話と、若者の間で騒ぎになっている内容が一致しているかを確かめることにした。

 集団自殺へ参加するには説明会に出席し、会場で簡単な質問に答える必要があるらしい。

『個人情報を渡すだけ無駄』
『時間の無駄』
『三時間並んで二分で落選』

 噂話を聞く限りでは、説明会に参加した人間の8割が資格を得ることができず時間を無駄にしているようだ。
 説明会と簡単なアンケートを突破し詳しい話を聞いたものがいないわけではないあたり、信憑性はかなり高そうだ。

『三月三日 十五時三十三分、大規模な同時多発テロが起きる。命が惜しくば外出するな。最も、誰かに恨まれるような行いをした人間に安息の地などないが。震えて眠れ』

 予告とも取れるその書き込みは、海歌が涼風楓から聞いた話と異なっている。

(集団自殺? 大規模テロ? どっちが正解なの……? )

 大規模テロが事実ならば、安息の地などない。このままでは、葛本と生きると決めた意味がなくなってしまう。

 世界の滅亡に近いレベルで国民がパニックに陥ることを懸念したのか、三月三日が最悪の日として歴史に刻まれぬように、有名人を一箇所に集める計画が持ち上がっているらしい。

 国民が不安にならないようなど、もっともらしい理由をつけて、一箇所に著名人を集めるなど愚策にも程がある。

 テロを起こしてくれと言っているようなものであると、なぜ気づかないのか。
 海歌は一族の代表として出席を打診されたが、もちろん考えるまでもなく断った。

 確実に死ねるのならば出席したが、飛行機の中は逃げ場がない。
 葛本とともに飛行機へ搭乗できない以上、海歌がその提案に乗ることはないだろう。

(誰からも必要とされないくらいならば、死のうと思った)

 かつて海歌には、叶えたい願いがあった。楽に苦しまず死にたい。殺してほしい。葛本が幸せになりますように――。

 彼女は葛本の幸せにする為なら、悪魔にもなれる。再び地獄へ落ちても、構わない。

「お母様。少し、よろしいでしょうか」

 海歌はある日、リビングにいる母を呼び止めた。
 本来であれば一族の集まりに顔を出した際話すべき内容ではあるが、今すぐ声に出さなければ決心が揺らぐと思ったのだ。

(葛本に、余計な心配はかけたくない)

 母親と戦い勝利できるのは、自分しかいない。
 そう考えた海歌は、固い表情で言葉を紡ぐ。
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