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高校三年 山王丸兄弟
巫女のバイト中
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――十二月三十一日。
年越しのアルバイトに励むために涼風の本邸に顔を出せば、涼風楓に巫女装束を渡された。
「先日の件を、気にされておりますか」
「いえ……」
集団自殺に参加しないかと提案してくるのではと警戒していたが、楓は海歌へ再びその話をすることなく去って行く。
どうやら涼風家の長男として、仕事が山積みのようだ。
「五分で着替えてくださいね」
去り際静かな声音でそう囁かれた海歌は、手早く巫女装束に着替え、支度を済ませる。
脱いだ私服は念の為持ってきていたトートバッグに入れておいたが、荷物を保管するようなスペースはなさそうだ。
(荷物……持っていこう……)
いたずらでもされたら大変だ。
肌見放さず携帯しようと決めた海歌は支度を済ませ、おみくじ販売所へ向かう。
カウンターの内部に腰を下ろすと、パネルを挟んだ外側に並ぶ参列客に声をかけて、おみくじも販売を始めた。
「こちら、三十八番のおみくじになります」
涼風神社では振りみくじを取り入れているらしく、参拝客は別の場所で引いた番号が書かれた棒を海歌の元へ持って来る。
番号札を受け取り、書かれた番号の棚に入っている運勢が書かれたおみくじと交換するシステムのようだ。
他の神社と異なるのは、振りみくじを引く際、自ら筒を振る従来の方式と、自販機で番号の書かれた棒を購入できる点だろう。どちらを利用してもおみくじの引き換えは有人の窓口で行われる。
(どうせなら、全自動にしてくれたらいいのに)
全自動であれば巫女装束に身を包み、こうして涼風神社に顔を出す必要はなかった。
だが、機械的に結果が出てくるよりも巫女から手渡しされた方がご利益がありそうに見えるので、人力を頼らざる負えないのだろう。
「番号札を、お預かりいたします」
巫女装束姿が珍しいこともあって、変な人がやってきたらどうしようかと身構えていた海歌も、三時間程度ひたすらおみくじの引き換えをしていれば馴れてくる。
途切れることのない参拝客から渡される番号札をおみくじと引き換え、引き換え、ひたすら引き換え――。
海歌はすっかり、休憩のタイミングを失っていた。
「六十八番になります。あの……どうぞ……」
「海歌」
除夜の鐘が成り終わり、引っきりなしに訪れたお客様がまばらになってきた頃。
タイミングを見計らったように無言でおみくじを海歌に向けて差し出してきた少年が、葛本だと認識したのはおみくじを渡し終えても踵を返そうとする様子が見られなかったからだ。
名前を呼ばれた海歌は、安心したからだろうか。自分の足が痺れていることに気づく。
「集中しすぎだろ」
「単純作業は邪念があると、務まらないのですよ」
「邪念ねえ……」
海歌は痺れた足を擦りながら、何か言いたげな葛本をじっと見つめる。葛本は、オーバーサイズの服装が好きなのだろうか。
赤のダウンジャケットに、緑のマフラー。なぜかクリスマスカラーで涼風神社に顔を出した彼は、白い息を吐き出しながら海歌へ手を差し出した。
「飯、食いに行こうぜ。奢ってやる」
「まだ仕事中で……」
「休憩時間過ぎてんのに、休んでねぇんだろ。涼風の長男に呼び止められて、連れ出せって頼まれた」
葛本はどうやら、おみくじの引き換えに集中している海歌を現実に引き戻すべく涼風楓から送り込まれた刺客らしい。
海歌は痺れた足がどうにか動かせるようになったことを確認すると、おみくじ販売所から抜け出した。
年越しのアルバイトに励むために涼風の本邸に顔を出せば、涼風楓に巫女装束を渡された。
「先日の件を、気にされておりますか」
「いえ……」
集団自殺に参加しないかと提案してくるのではと警戒していたが、楓は海歌へ再びその話をすることなく去って行く。
どうやら涼風家の長男として、仕事が山積みのようだ。
「五分で着替えてくださいね」
去り際静かな声音でそう囁かれた海歌は、手早く巫女装束に着替え、支度を済ませる。
脱いだ私服は念の為持ってきていたトートバッグに入れておいたが、荷物を保管するようなスペースはなさそうだ。
(荷物……持っていこう……)
いたずらでもされたら大変だ。
肌見放さず携帯しようと決めた海歌は支度を済ませ、おみくじ販売所へ向かう。
カウンターの内部に腰を下ろすと、パネルを挟んだ外側に並ぶ参列客に声をかけて、おみくじも販売を始めた。
「こちら、三十八番のおみくじになります」
涼風神社では振りみくじを取り入れているらしく、参拝客は別の場所で引いた番号が書かれた棒を海歌の元へ持って来る。
番号札を受け取り、書かれた番号の棚に入っている運勢が書かれたおみくじと交換するシステムのようだ。
他の神社と異なるのは、振りみくじを引く際、自ら筒を振る従来の方式と、自販機で番号の書かれた棒を購入できる点だろう。どちらを利用してもおみくじの引き換えは有人の窓口で行われる。
(どうせなら、全自動にしてくれたらいいのに)
全自動であれば巫女装束に身を包み、こうして涼風神社に顔を出す必要はなかった。
だが、機械的に結果が出てくるよりも巫女から手渡しされた方がご利益がありそうに見えるので、人力を頼らざる負えないのだろう。
「番号札を、お預かりいたします」
巫女装束姿が珍しいこともあって、変な人がやってきたらどうしようかと身構えていた海歌も、三時間程度ひたすらおみくじの引き換えをしていれば馴れてくる。
途切れることのない参拝客から渡される番号札をおみくじと引き換え、引き換え、ひたすら引き換え――。
海歌はすっかり、休憩のタイミングを失っていた。
「六十八番になります。あの……どうぞ……」
「海歌」
除夜の鐘が成り終わり、引っきりなしに訪れたお客様がまばらになってきた頃。
タイミングを見計らったように無言でおみくじを海歌に向けて差し出してきた少年が、葛本だと認識したのはおみくじを渡し終えても踵を返そうとする様子が見られなかったからだ。
名前を呼ばれた海歌は、安心したからだろうか。自分の足が痺れていることに気づく。
「集中しすぎだろ」
「単純作業は邪念があると、務まらないのですよ」
「邪念ねえ……」
海歌は痺れた足を擦りながら、何か言いたげな葛本をじっと見つめる。葛本は、オーバーサイズの服装が好きなのだろうか。
赤のダウンジャケットに、緑のマフラー。なぜかクリスマスカラーで涼風神社に顔を出した彼は、白い息を吐き出しながら海歌へ手を差し出した。
「飯、食いに行こうぜ。奢ってやる」
「まだ仕事中で……」
「休憩時間過ぎてんのに、休んでねぇんだろ。涼風の長男に呼び止められて、連れ出せって頼まれた」
葛本はどうやら、おみくじの引き換えに集中している海歌を現実に引き戻すべく涼風楓から送り込まれた刺客らしい。
海歌は痺れた足がどうにか動かせるようになったことを確認すると、おみくじ販売所から抜け出した。
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