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高校三年 涼風神社
お参りとイヤーマフ
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「何だその格好。センスねーな。デートなんだから、もっとまともな格好して来いよ」
バス停では、オーバーサイズのダウンジャケットを着て、すっぽりと身体を覆い隠した葛本が待っていた。
目が合って早々、服装について駄目出しされる。
外出する際はつねに一族に連なる色を身につけることが義務づけられている為、落ち着いた緑色のモッズコートを上から着てきたのが気に食わないらしい。
(自分だって、似たような服装の癖に)
葛本は何を着たって様になるが、平凡な顔立ちをしている海歌が緑を違和感なく纏うのは無理があるのだ。
そもそも真冬に可愛らしい服装で歩くことを、女性に期待するべきではないだろう。
海歌はおしゃれよりも、防寒性を重視している。
着物を着てこなかっただけ、よしとしてほしかった。
「春先でしたら、考えます」
「……髪型も。ちゃんとしてれば悪かねえんだから、巻いてくりゃよかったのに」
「今日は、母がいたので。デートに行くとすぐにわかるような格好をしていたら、バスの時間に遅れてしまいます」
「……そんなに、俺の前で着飾るのは面倒なのかよ」
「相手が葛本だから、着飾りたくないわけでは……」
喧嘩を売ったように聞こえたのだろうか。
学外で謎の令嬢から長年痛めつけられている葛本は、機嫌の悪い女性に恐怖を抱いているようだ。
海歌の表情を確認した彼の顔が、不機嫌そうな表情から一転し強張り始める。
謝るのは違うような気がして。
海歌はそれ以上、言葉を重ねることはしなかった。
(タイミングよく、バスが来てくれて助かった)
バスに乗り込んだ二人は運賃を払い、一番奥の座席へ並んで腰を下ろす。
肩が触れ合うくらいの距離に、緊張しないでいるのには無理がある。
一人ずつ別れて座ると思っていた海歌は、腕を組みムッツリと顔を顰めながら前を見つめる葛本が全身に力を入れる姿をぼんやりと眺めた。
(私だけじゃない。葛本も、緊張しているんだ……)
おあいこだと知った海歌は彼とともに、目的地へ到着するまでの二十分間を無言で過ごし続けた。
「降りるぞ」
「……はい」
目的地である涼風神社に到着した二人は、バスから降りる。
涼風の敷地は広大だ。
数百段の階段を登った先には、鳥居が見える。
覆い茂る木に隠されているせいで、母屋を探し当てることはできそうにない。
本来であれば、プライベートであったとしても、一言挨拶くらいはするべきだ。
だが、ぱっと見で探し出せない場所にあるのが悪いと考えた海歌は、葛本とともにお参りを素早く済ませる方を優先した。
参拝を終えた彼女は、彼とともに鳥居の下へ立つ。
バスは一時間に一本しか運行していないため、ここから乗り込むのであれば1時間近く暇を潰す必要がある。
「五分で済むような話なら、わざわざお参りになんて来る必要なんざなかったろ」
「私は葛本が望んだので、了承しただけです」
「俺が嫌そうにしてたら、来なかったのかよ」
「はい」
「んだよ、それ……」
瞳を見開いた葛本は、バツが悪そうに視線を逸らす。
口元を抑えた彼の耳が、みるみるうちに真っ赤に染まっていく。
その姿を心配した海歌はガサゴソと音を立て鞄を漁り、イヤーマフを取り出すと葛本へ差し出した。
「寒いのなら、やせ我慢をする必要はありません。使いますか」
「……寒いわけじゃねぇ。人の痛みには敏感なのに……真逆の感情には、なんで鈍感なんだよ……」
真逆の感情とは、一体どのような感情なのだろう。
海歌は疑問を感じながらいつまでも葛本がイヤーマフを手にしようとしないので、無理やり彼の耳へつけようとするが――すぐにはたき落とされてしまう。
「いらねぇって、言っただろ」
「ですが……」
「無理につけようとすんなって。首が締まる」
土の上に落ちたイヤーマフを拾った海歌は、無理やり彼の首元へそれをかけようとした。
葛本と海歌には身長差がある。
背伸びをした所で頭にしっかりとイヤーマフを固定できないので、どうしても首から強引に装着するような流れになってしまうのだ。
彼からに首が締まると訴えられた彼女はすぐさま謝罪をして身体を離そうとしたが、自分が想定していた以上に葛本と距離が近づいていることに気づいて動きを止めた。
海歌が背伸びをやめれば、身長差の関係で葛本に見下される。
彼女は彼から見下されるのは、嫌いではなかった。
「俺とこうやって密着すること。なんとも思わねぇのかよ」
海歌は葛本の口から意外な言葉を問われて困惑する。
葛本は男で、海歌は女だ。
今にも唇が触れ合いそうな距離にいて、なんとも思わない訳がない。
(葛本と、こうして見つめ合うのは……嫌いではない)
山王丸と見つめ合うなど、考えるだけでも嫌なのに。葛本ならば嫌いではないと思うのは、なぜなのか。
海歌はその答えを自分の中から探し出せず、彼へ問いかける。
「葛本は……。思うことが、あるのでしょうか」
「ないと思う方が、おかしいんだよ」
葛本は海歌の両頬に自身の指を触れると、慈しむように撫でつけた。
(彼は私に、伝えたいことがあるらしい)
海歌は葛本の話したいことを読み取れず、彼の熱っぽい視線をぼんやりと見つめる。
「お前って、本当に――」
「神を祀る神聖な場で、惚れた腫れたの大騒ぎですか……。大変申し訳ございませんが、そうした行為はご遠慮頂いております」
葛本が何かを言いかけた瞬間、静かな男性の声が二人を非難した。
彼女から身体を離した彼は、声をかけてきた男性から海歌の姿が見えないように庇うと、その人物を見て目を丸くする。
バス停では、オーバーサイズのダウンジャケットを着て、すっぽりと身体を覆い隠した葛本が待っていた。
目が合って早々、服装について駄目出しされる。
外出する際はつねに一族に連なる色を身につけることが義務づけられている為、落ち着いた緑色のモッズコートを上から着てきたのが気に食わないらしい。
(自分だって、似たような服装の癖に)
葛本は何を着たって様になるが、平凡な顔立ちをしている海歌が緑を違和感なく纏うのは無理があるのだ。
そもそも真冬に可愛らしい服装で歩くことを、女性に期待するべきではないだろう。
海歌はおしゃれよりも、防寒性を重視している。
着物を着てこなかっただけ、よしとしてほしかった。
「春先でしたら、考えます」
「……髪型も。ちゃんとしてれば悪かねえんだから、巻いてくりゃよかったのに」
「今日は、母がいたので。デートに行くとすぐにわかるような格好をしていたら、バスの時間に遅れてしまいます」
「……そんなに、俺の前で着飾るのは面倒なのかよ」
「相手が葛本だから、着飾りたくないわけでは……」
喧嘩を売ったように聞こえたのだろうか。
学外で謎の令嬢から長年痛めつけられている葛本は、機嫌の悪い女性に恐怖を抱いているようだ。
海歌の表情を確認した彼の顔が、不機嫌そうな表情から一転し強張り始める。
謝るのは違うような気がして。
海歌はそれ以上、言葉を重ねることはしなかった。
(タイミングよく、バスが来てくれて助かった)
バスに乗り込んだ二人は運賃を払い、一番奥の座席へ並んで腰を下ろす。
肩が触れ合うくらいの距離に、緊張しないでいるのには無理がある。
一人ずつ別れて座ると思っていた海歌は、腕を組みムッツリと顔を顰めながら前を見つめる葛本が全身に力を入れる姿をぼんやりと眺めた。
(私だけじゃない。葛本も、緊張しているんだ……)
おあいこだと知った海歌は彼とともに、目的地へ到着するまでの二十分間を無言で過ごし続けた。
「降りるぞ」
「……はい」
目的地である涼風神社に到着した二人は、バスから降りる。
涼風の敷地は広大だ。
数百段の階段を登った先には、鳥居が見える。
覆い茂る木に隠されているせいで、母屋を探し当てることはできそうにない。
本来であれば、プライベートであったとしても、一言挨拶くらいはするべきだ。
だが、ぱっと見で探し出せない場所にあるのが悪いと考えた海歌は、葛本とともにお参りを素早く済ませる方を優先した。
参拝を終えた彼女は、彼とともに鳥居の下へ立つ。
バスは一時間に一本しか運行していないため、ここから乗り込むのであれば1時間近く暇を潰す必要がある。
「五分で済むような話なら、わざわざお参りになんて来る必要なんざなかったろ」
「私は葛本が望んだので、了承しただけです」
「俺が嫌そうにしてたら、来なかったのかよ」
「はい」
「んだよ、それ……」
瞳を見開いた葛本は、バツが悪そうに視線を逸らす。
口元を抑えた彼の耳が、みるみるうちに真っ赤に染まっていく。
その姿を心配した海歌はガサゴソと音を立て鞄を漁り、イヤーマフを取り出すと葛本へ差し出した。
「寒いのなら、やせ我慢をする必要はありません。使いますか」
「……寒いわけじゃねぇ。人の痛みには敏感なのに……真逆の感情には、なんで鈍感なんだよ……」
真逆の感情とは、一体どのような感情なのだろう。
海歌は疑問を感じながらいつまでも葛本がイヤーマフを手にしようとしないので、無理やり彼の耳へつけようとするが――すぐにはたき落とされてしまう。
「いらねぇって、言っただろ」
「ですが……」
「無理につけようとすんなって。首が締まる」
土の上に落ちたイヤーマフを拾った海歌は、無理やり彼の首元へそれをかけようとした。
葛本と海歌には身長差がある。
背伸びをした所で頭にしっかりとイヤーマフを固定できないので、どうしても首から強引に装着するような流れになってしまうのだ。
彼からに首が締まると訴えられた彼女はすぐさま謝罪をして身体を離そうとしたが、自分が想定していた以上に葛本と距離が近づいていることに気づいて動きを止めた。
海歌が背伸びをやめれば、身長差の関係で葛本に見下される。
彼女は彼から見下されるのは、嫌いではなかった。
「俺とこうやって密着すること。なんとも思わねぇのかよ」
海歌は葛本の口から意外な言葉を問われて困惑する。
葛本は男で、海歌は女だ。
今にも唇が触れ合いそうな距離にいて、なんとも思わない訳がない。
(葛本と、こうして見つめ合うのは……嫌いではない)
山王丸と見つめ合うなど、考えるだけでも嫌なのに。葛本ならば嫌いではないと思うのは、なぜなのか。
海歌はその答えを自分の中から探し出せず、彼へ問いかける。
「葛本は……。思うことが、あるのでしょうか」
「ないと思う方が、おかしいんだよ」
葛本は海歌の両頬に自身の指を触れると、慈しむように撫でつけた。
(彼は私に、伝えたいことがあるらしい)
海歌は葛本の話したいことを読み取れず、彼の熱っぽい視線をぼんやりと見つめる。
「お前って、本当に――」
「神を祀る神聖な場で、惚れた腫れたの大騒ぎですか……。大変申し訳ございませんが、そうした行為はご遠慮頂いております」
葛本が何かを言いかけた瞬間、静かな男性の声が二人を非難した。
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