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世界征服を終えた魔王様は、平和な日常を謳歌する
そして、魔界と人間界は平和になった
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『人間界の女王に、なりました……。ララーシャ・ヘス・マチリンズと申します……。この世界がより良い世界になるよう、魔王様のご指導を受けながら、精一杯皆さんに尽くし行きたいと思います。よろしくお願い致します……』
ララーシャの戴冠式。
口を開いた彼女は、醜い心を持つ人間たちにそこまで気が弱そうな所を見せたら、食い物にされちまうぞと心配になるほどおしとやかな挨拶を人間たちに披露した。
「お姉ちゃん、大丈夫かな……。一人にしたら、悪い人に蹂躙されちゃうよ」
「信頼できる仲間を見つけられるまではハムチーズがついてるけど、人間は側につけない方がいいな」
「うん。魔族の戦闘能力が高いイケメンを配置するべきだよ!」
「美女の方が良くないか?ムースとか適任だろ」
「ムースお姉さんは、紋章が消えたら普通の人間だよ?」
「……あー、混血かどうかも不確かだもんな……」
魔王の花嫁たちは、魔王が誰か一人と婚姻することによって花嫁の資格を失う。
花嫁たちの身体に刻み込まれた紋章は、綺麗さっぱり消えるのが習わしだそうだ。
唐草模様やアゼリアの花を操っていたキサネやムースは、魔力を使役できなくなる可能性が高い。キサネは魔力センスが、ずば抜けてるからな。
クォーターであることも明らかになったし、紋章が消えても魔力を微量なら使役できる可能性も残っているが──ムースは微妙な所だ。
あいつの本業は針子だし、命を狙われるようなことさえなければ、魔力なんて使えなくてもいいだろうけどさ。
『人間界に、戻らなくていいのか』
俺はムースに聞いたことがある。
ムースは妹と人間界で、仕立屋を営んでいた。人間界の女王がララーシャになった今、魔界で暮らす理由がムースにはないはずだ。
『何いってんだい!あたいは魔王夫妻の専属針子だよ!頼まれたら王女様の分も作るけどね。あたいを魔界から追い出そうとしたって、そうはいかない。一生魔界で、雇い続ける覚悟をしておきな!』
肝っ玉姐さんは人間界に戻りたくないらしく、俺たちの成長を魔界で見守り続けると宣言した。
本人がいいと言ってるのに、無理矢理人間界へ返すのも問題だ。俺達はムースを針子として雇い続けると決め、ハムチーズと相談してララーシャに相応しい男やら側近の女やらを見繕い始めた。
人間界の侵略に成功しても、魔界は一部の魔族が祝杯を上げるくらいで、穏やかな日々が過ぎてく。
俺が魔王になってから、5年も経ってるからな。人間界を侵略した程度で大騒ぎになるようなやつらは、息を潜め人間に擬態して、あっちの世界で生きてるんだろうよ。
魔界はいいとしても、問題は人間界だ。
「魔王様……。どうしましょう……?」
ララーシャに人間界の女王を任せたのは、間違いだったかもしれない。
女王になったララーシャは、連日俺とキサネを呼びつけて首を捻った。
貴族共が群れをなし、ララーシャに人間界の常識を教えてやると凄んだり、街中で皇帝支持派と女王支持派が小競り合いを繰り広げたと報告を受けたなんて話まで。
そりゃほうれん草は大事だけど、女王になったんだから好きにしろよ。いちいち俺にお伺い立ててたら、ララーシャを王女に任命した意味がないじゃねぇか。
「もうさ、めんどくさいから。自分で考えろって、指示した方がいいよ!」
「結婚式も近いしな……」
半年は我慢したけどさ。さすがにそれ以上手を焼いてやったら、一生呼び出されると危惧した俺達は、ララーシャを独り立ちさせることにした。
「だ、大丈夫でしょうか……?」
「サポートしてくれる仲間を信じろ」
「は、はい……!」
ララーシャは毎日のように訪れる様々なハプニングに遭遇しながらも、毎日仲間たちと人間界で過ごしている。
あの様子じゃ、自分が人魚の身体に作り変えられたことも忘れていそうだ。
自分が人魚に作り変えられたことを忘れ、人間として暮らす生活の方が、ララーシャには合ってたんだろ。
収まる所に収まったんだから、文句を言うような話じゃねぇな。
これからはひたすら長寿を全うするまで、穏やかで平和な日常を謳歌するだけだ。
俺はどうにか、人殺しをせずに生き続けている。
俺の隣にはいつでも、何をするでもキサネが一緒だ。
「ハレルヤ」
「キサネ」
日本で斎藤正晴として生を受けた男は、待兼紗霧と出会い、恋をしたことで殺人鬼になった。
眉唾話を信じ、人間界の皇女として生まれたキサネ・チカ・マリンズは、家族から理不尽な暴行を受けていたが、魔王の息子として転生したハレルヤ・マサトウレと出会ったことで、
今では笑顔を絶やさぬ魔王の花嫁として生きている。
「今日から私は、ハレルヤの花嫁候補じゃなくて、お嫁さんだよ!」
「ああ。これからもよろしくな。俺の奥さん」
──今日は俺が、18歳を迎える誕生日。
俺はたくさんの魔族に祝福を受け、キサネを娶った。
「紋章が……」
結婚式に参列していたムースやハムチーズ、俺の花嫁として選ばれたキサネの身体に刻み込まれていた紋章が消滅する。
魔力を使役し、紋章を浮かび上がらせているときにしか目にできなかった白い肌や美しい顔を目にした俺は──言い表し難い喜びを全身でキサネヘ伝える為に、力いっぱい抱きしめた。
「キサネ、愛してる」
「長生きしようね、ハレルヤ!」
前世殺人鬼として絞首刑を執行された男は、ハレルヤ・マサトウレとして、不殺を誓う。
たとえ互いの命が危険に晒されたとしても。
最後の一線は、二度と超えたりはしない。
今日も魔界の魔王夫妻は、世界の平和を願いながら、お互いを抱きしめ合い、穏やかな生活を過ごす。
なんの憂いもなく、のんびりとした日常は。
まだ始まったばかりだ──
ララーシャの戴冠式。
口を開いた彼女は、醜い心を持つ人間たちにそこまで気が弱そうな所を見せたら、食い物にされちまうぞと心配になるほどおしとやかな挨拶を人間たちに披露した。
「お姉ちゃん、大丈夫かな……。一人にしたら、悪い人に蹂躙されちゃうよ」
「信頼できる仲間を見つけられるまではハムチーズがついてるけど、人間は側につけない方がいいな」
「うん。魔族の戦闘能力が高いイケメンを配置するべきだよ!」
「美女の方が良くないか?ムースとか適任だろ」
「ムースお姉さんは、紋章が消えたら普通の人間だよ?」
「……あー、混血かどうかも不確かだもんな……」
魔王の花嫁たちは、魔王が誰か一人と婚姻することによって花嫁の資格を失う。
花嫁たちの身体に刻み込まれた紋章は、綺麗さっぱり消えるのが習わしだそうだ。
唐草模様やアゼリアの花を操っていたキサネやムースは、魔力を使役できなくなる可能性が高い。キサネは魔力センスが、ずば抜けてるからな。
クォーターであることも明らかになったし、紋章が消えても魔力を微量なら使役できる可能性も残っているが──ムースは微妙な所だ。
あいつの本業は針子だし、命を狙われるようなことさえなければ、魔力なんて使えなくてもいいだろうけどさ。
『人間界に、戻らなくていいのか』
俺はムースに聞いたことがある。
ムースは妹と人間界で、仕立屋を営んでいた。人間界の女王がララーシャになった今、魔界で暮らす理由がムースにはないはずだ。
『何いってんだい!あたいは魔王夫妻の専属針子だよ!頼まれたら王女様の分も作るけどね。あたいを魔界から追い出そうとしたって、そうはいかない。一生魔界で、雇い続ける覚悟をしておきな!』
肝っ玉姐さんは人間界に戻りたくないらしく、俺たちの成長を魔界で見守り続けると宣言した。
本人がいいと言ってるのに、無理矢理人間界へ返すのも問題だ。俺達はムースを針子として雇い続けると決め、ハムチーズと相談してララーシャに相応しい男やら側近の女やらを見繕い始めた。
人間界の侵略に成功しても、魔界は一部の魔族が祝杯を上げるくらいで、穏やかな日々が過ぎてく。
俺が魔王になってから、5年も経ってるからな。人間界を侵略した程度で大騒ぎになるようなやつらは、息を潜め人間に擬態して、あっちの世界で生きてるんだろうよ。
魔界はいいとしても、問題は人間界だ。
「魔王様……。どうしましょう……?」
ララーシャに人間界の女王を任せたのは、間違いだったかもしれない。
女王になったララーシャは、連日俺とキサネを呼びつけて首を捻った。
貴族共が群れをなし、ララーシャに人間界の常識を教えてやると凄んだり、街中で皇帝支持派と女王支持派が小競り合いを繰り広げたと報告を受けたなんて話まで。
そりゃほうれん草は大事だけど、女王になったんだから好きにしろよ。いちいち俺にお伺い立ててたら、ララーシャを王女に任命した意味がないじゃねぇか。
「もうさ、めんどくさいから。自分で考えろって、指示した方がいいよ!」
「結婚式も近いしな……」
半年は我慢したけどさ。さすがにそれ以上手を焼いてやったら、一生呼び出されると危惧した俺達は、ララーシャを独り立ちさせることにした。
「だ、大丈夫でしょうか……?」
「サポートしてくれる仲間を信じろ」
「は、はい……!」
ララーシャは毎日のように訪れる様々なハプニングに遭遇しながらも、毎日仲間たちと人間界で過ごしている。
あの様子じゃ、自分が人魚の身体に作り変えられたことも忘れていそうだ。
自分が人魚に作り変えられたことを忘れ、人間として暮らす生活の方が、ララーシャには合ってたんだろ。
収まる所に収まったんだから、文句を言うような話じゃねぇな。
これからはひたすら長寿を全うするまで、穏やかで平和な日常を謳歌するだけだ。
俺はどうにか、人殺しをせずに生き続けている。
俺の隣にはいつでも、何をするでもキサネが一緒だ。
「ハレルヤ」
「キサネ」
日本で斎藤正晴として生を受けた男は、待兼紗霧と出会い、恋をしたことで殺人鬼になった。
眉唾話を信じ、人間界の皇女として生まれたキサネ・チカ・マリンズは、家族から理不尽な暴行を受けていたが、魔王の息子として転生したハレルヤ・マサトウレと出会ったことで、
今では笑顔を絶やさぬ魔王の花嫁として生きている。
「今日から私は、ハレルヤの花嫁候補じゃなくて、お嫁さんだよ!」
「ああ。これからもよろしくな。俺の奥さん」
──今日は俺が、18歳を迎える誕生日。
俺はたくさんの魔族に祝福を受け、キサネを娶った。
「紋章が……」
結婚式に参列していたムースやハムチーズ、俺の花嫁として選ばれたキサネの身体に刻み込まれていた紋章が消滅する。
魔力を使役し、紋章を浮かび上がらせているときにしか目にできなかった白い肌や美しい顔を目にした俺は──言い表し難い喜びを全身でキサネヘ伝える為に、力いっぱい抱きしめた。
「キサネ、愛してる」
「長生きしようね、ハレルヤ!」
前世殺人鬼として絞首刑を執行された男は、ハレルヤ・マサトウレとして、不殺を誓う。
たとえ互いの命が危険に晒されたとしても。
最後の一線は、二度と超えたりはしない。
今日も魔界の魔王夫妻は、世界の平和を願いながら、お互いを抱きしめ合い、穏やかな生活を過ごす。
なんの憂いもなく、のんびりとした日常は。
まだ始まったばかりだ──
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