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皇女に言えない隠し事

人魚の成長

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「お姉ちゃん、すごーい!」

 ララーシャの特訓開始から1か月。
 キサネも驚くべきスピードで魔力操作を習得していったが、ララーシャも半端ないスピードで魔力を自在に扱えるようになっていた。
 戦闘センスの才能は、王族の血から立派に引き継いでいるらしい。

「これで……四六時中水の中で過ごさなくても……よくなりそう……」

 ララーシャは尾ひれを垂直に立てることで、地に足をつけられるようになっていた。
 彼女の右手には、魔法少女が手にするような貝殻をモチーフにしたステッキが握られている。
 ステッキを支えにして前に歩みを進めれば、人間のように歩行できると知ってから、ララーシャは随分と明るくなった。

「定期的に水が、鱗を乾かさないようにチュールパレオから出てくるんでしょ?すごいよね!」

 キサネはララーシャの腰元につけられた、チュールパレオを指さして微笑んだ。

 腰元から臀部にかけて魚粉を覆い隠すレインボーカラーのチュールパレオは、ステッキのボタンと連動しているらしい。
 仕組みはよくわかんねぇけど、魔力によって水が噴出されるようになってる。
 ステッキを手に特殊なチュールパレオさえ身に着けていれば、人間らしい生活ができると喜んだララーシャは、最近随分と活動的になって、一日中水槽の中で過ごすことがなくなってきている。

「あたいに掛かれば、こんなもんさ!」
「さすがムースお姉さん!」
「褒めたって、何も出ないよ。5着くらいあれば、なにがあっても対応可能だね」
「はい。いつも、ありがとうございます……」
「礼なんていらないよ!あたいは人間界侵略になんざ、興味はないからね。あんた達姉妹が無事にこの魔界へ戻って来られるように、サポートするだけさ!」

 ムースは手練れだが、荒療治よりも針仕事に精を出している方が好きなタイプだ。
 決戦の日に向けてとっておきの勝負服をこしらえると意気込んでも、人間界侵略の手助けをするつもりはないらしい。

 魔族のことが嫌いで人間の村に引きこもっていたはずのムースは、気づけば魔族に嫌悪感を抱かなくなっていたようだ。
 異種族のララーシャやハムチーズにも分け隔てなく接する肝っ玉母ちゃん……なんて言ったらぶん殴られるから……肝っ玉姐さんと呼ぶべきだな。
 俺はムースが、魔王の花嫁候補でよかったと思っている。
 キサネも高級なドレスを身に着けられて毎日楽しそうだ。
 姉と慕う人間がいるからこそ、救われている部分もあるからな。

「なんだい、ハレルヤ。衣装が気に食わないのかい?」
「ありがとな。キサネと揃いの服、わざわざ俺らの為に作ってくれたんだろ」
「礼はいらないよ!ハレルヤとキサネが切っても切り離せない仲だってこと、人間どもにアピールしてやりな!」
「おう」
「私とハレルヤのラブラブっぷりを、もっともーっと、見せつけちゃうんだから!」

 その現場に居合わせる予定のララーシャは、恥ずかしそうに顔を覆っている。
 妹のラブシーンを見るのは、姉として思うことがあるらしい。
 何度も見てんだから、そろそろ慣れてくれねぇと困るんだけどな。そんな感じで大丈夫か?決戦の日は、皇帝を煽るために誰の目も気にせずいちゃつきまくる予定だぞ?

「魔王樣。ご歓談中の所、失礼致します」
「おう。どうした?」
「人間が……」
「人間?」
「魔王様。お耳を拝借……」
「ハムちゃん!ハレルヤと内緒話は禁止!」

 皇帝が俺宛にキサネを返せと嘆願書を送ってきていることは、ハムチーズと俺しか知らない。
 人間が、まで言いかけて続きが聞こえてこないのは、その件にまつわる話だからだろう。嘘がバレると、キサネが大変なことになる。

 ハムチーズが自分から俺に話しかけてくるなら、緊急事態なのは間違いねぇ。
 キサネのご機嫌は後で取ればいいと意識を飛ばしていれば、腕の中にいたキサネが俺の両耳を塞いできた。
 ハムチーズが耳打ちをしないよう、邪魔する為だ。

 俺は膝を使ってキサネを落とさないよう気をつけながら、両耳の拘束をひ解いてハムチーズに促した。

「緊急事態なんだろ。このままでいい」
「ですが……」
「何?私には聞かせたくない話なの?」
「ハムチーズ」
「はい、魔王樣。恐れながら申し上げます。人間界から、小隊が魔界に攻めてきました。彼らは、キサネ樣の開放を要求しています」
「へえ?」

 ストーカー野郎が生きていれば、俺に話が回る前にさっさと無条件でぶん殴ってそうな話だな。
 魔界では、平和な暮らしを続ける為にルールが制定されてから5年の時が経つ。
 人間が魔界に攻めてくるパターンは想定してなかったけど、魔族の奴らは喧嘩を売られるまでは、ルールを守って大人しくしているはずだ。
 問題は──数ヶ月前にルールを説明したばかりで、人間界のクソみたいなルールが染み付いてる人間界から追放された奴らが攻めてきた奴らと手を組んで、魔族を蹂躙し始める可能性があることだな。

「いかがなされますか」
「そりゃ、人間どもにはお帰り頂かねぇとな。キサネ。どうする?」
「行く!」
「うし、じゃあ……」
「わ、わたしも行きたいです!じ、実戦経験、積ませてください……!」

 人間界侵略の日、ぶっつけ本番で魔力の使役に失敗したらどうしようと悩んでいたララーシャは、自ら戦いたいと立候補してきた。
 俺と二人きりになれると喜んでいたキサネは、ララーシャを睨みつける。
 出会った当初なら怯えていたララーシャは、今ではキサネ睨まれた程度ではびくともしない。ララーシャの成長を感じた俺は、彼女を連れて現場に急行しようと決めた。

「よし。まずは対話を試みる。あっちが手を出す素振りを見せたら、全力で潰せ」
「は、はい!よろしくお願いします……!」

 心やさしいララーシャが、本当に人間を傷つけられるのか不安で仕方ない。
 最悪は俺やキサネがカバーすればいいかと考え、俺は転移する為指を鳴らした。
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