50 / 95
人間界<魔族の夫婦を救え>
試験合格
しおりを挟む
「魔王様。試練合格、おめでとうございます」
魔城で留守番をしていたハムチーズが、俺に向かって何故か祝いの言葉を掛けてきた。
俺は今にもぶっ倒れそうな状況で祝われ、思わずハムチーズへ聞き返してしまう。
「今話しかけられても、リアクションしづれぇんだわ……。悪い。部屋に戻る。寝かせてくれ」
「承知致しました」
「ハレルヤ?大丈夫……?」
皇女様はハムチーズに限界だと伝えた俺に遠慮して、首元に回す手を離そうとする。
俺が一番信頼してる皇女様だからなんとも思わねぇけど、俺はハムチーズを心から信頼しているわけじゃねぇからな。
医者に治療して貰い、包帯でぐるぐるになった指先を使って、皇女様が離れないように抱きしめた。
「ごめんな、キサネ」
部屋に戻った俺は、ベッドの縁に皇女様を下ろすと、大の字になって寝転がる。
死ぬかと思った。死ぬくらいなら殺してやる。
皇女様は俺のものだと思考が目まぐるしく変化していく中、俺は皇女様の名を呼んで謝罪した。
「ハレルヤはずっと私を、名前で呼んでもいいんだよ……?」
「俺が名前呼び続けたら、距離なしのイカレ野郎が勘違いして、皇女様の名前を呼ぶだろ?」
「また、戻った……」
俺はイケメンなんて柄じゃねぇのに、美少女と称するべき皇女様を名前で呼んだら──俺よりも顔に自信のある奴らが、ブサイクに名を呼ばれてるんだったら俺たちにも呼ぶ権利があるとかどうこう主張して、大変なことになるだろ?
面倒なトラブルを避けれるなら、俺は皇女様呼びをし続けた方がいい。
「二人きりの時は、名前で呼んでって、お願いしたのに……」
「悪い、キサネ。今あんまり、余裕がねぇんだ」
「余裕?気持ちの問題?」
「おう。魔力、消費しすぎたみてぇだ」
「ハレルヤ、死んじゃうの……!?」
普段は何度転移したって、ムースの為に材料を錬成してもピンピンしてる俺がグロッキーな様子を見て、うつ伏せになってベッドへ横たわる俺の上に、皇女様は圧し掛かってきた。ぐえ。窒息死するから、やめろって……。
「やだ!ハレルヤ、死んじゃやだよ!一人にしないで!」
「勝手に殺すな……。一人になんてしねぇから。落ち着け」
「でも、ハレルヤ……苦しそう……。私があいつらに、トドメを刺さずに帰ろうって言ったから……?」
「あそこで俺に正気を取り戻そうと必死になってくれたからこそ、今がある。なんかよくわかんねぇけど、魔剣も手に入れた。立派な魔王として、また一歩前進したみたいだからな。よしとしようぜ」
「うん……。寝たら、具合悪そうなの。直る?」
「おう。多分な」
「じゃあ、私も一緒に寝る……」
皇女様は俺の背中へ伸し掛かるのをやめると、俺の隣で大の字に寝転がる。違うのは、うつ伏せの俺とは違って仰向けに寝転がってる所か……。
皇女様はぼんやりと天井を見つめながら、ポツリと呟く。
「私がいなくなっても、あの人たちはなんとも思ってなかった」
「……キサネ……」
「私、やっぱりいらない子だったんだ。私を必要としてくれるのは、やっぱりハレルヤだけ……」
皇女様を大切に思っているのは、俺だけじゃない。私利私欲を満たすためなら、皇女様を求める輩は山ほどいる。
皇女様を愛するロリコン野郎、皇女様のそっくりさんに因縁があるストーカー野郎。
父親としてではなく、男として皇女様を利用したい皇帝──羅列してみると、どいつもこいつも恐ろしい感情を皇女様に抱いている。
そして、俺もまた。
やべぇ男どもの一員として、本来ならば名を連ねるべき自覚がある。
『正晴くん』
前世で三人殺害した斎藤正晴の記憶を持つ俺は、斎藤正晴が殺人を犯してでも守りたかった少女と、皇女様を重ねていた。
今は魔界を総べる魔王だとしても。
前世が最悪すぎて、皇女様は俺が斎藤正晴だと知れば……百年の恋も冷めてしまうかもしれない。
俺は皇女様に、知られるわけにはいかねぇんだ。
三人殺害した前世の記憶を持っていること。
今も奴らを重ねては、殺戮衝動で頭がおかしくなりそうになる事も──
「よく、我慢できたな」
「ハレルヤと、約束したから。私達の目的は、魔族の夫婦を助けることだって。復讐なんかに、心を奪われることはないって自分を律していたら──ハレルヤが暴走し始めたんだもん。私、驚いちゃった」
「……ごめんな」
「心臓に悪いよ!私も、ごめんね。舌噛み切ろうとしたり、角をもぎ取ろうとしたり……その、痛かったでしょ……?」
「すげー痛かった。思い出すだけでも、かなり痛ぇ。トラウマレベル」
「ほ、ほんとにごめんね……?」
心配そうに俺を見つめる、皇女様と目があった。
ハレルヤ・マサトウレとして生を受けてから、俺を心配してくれんのは皇女様だけだったからか?
なんつーか、すげー安心するんだよな。
もっと皇女様に心配してもらう為、大怪我しようなんてトチ狂った思考を抱きながら、俺は皇女様に癒やされる。
魔城で留守番をしていたハムチーズが、俺に向かって何故か祝いの言葉を掛けてきた。
俺は今にもぶっ倒れそうな状況で祝われ、思わずハムチーズへ聞き返してしまう。
「今話しかけられても、リアクションしづれぇんだわ……。悪い。部屋に戻る。寝かせてくれ」
「承知致しました」
「ハレルヤ?大丈夫……?」
皇女様はハムチーズに限界だと伝えた俺に遠慮して、首元に回す手を離そうとする。
俺が一番信頼してる皇女様だからなんとも思わねぇけど、俺はハムチーズを心から信頼しているわけじゃねぇからな。
医者に治療して貰い、包帯でぐるぐるになった指先を使って、皇女様が離れないように抱きしめた。
「ごめんな、キサネ」
部屋に戻った俺は、ベッドの縁に皇女様を下ろすと、大の字になって寝転がる。
死ぬかと思った。死ぬくらいなら殺してやる。
皇女様は俺のものだと思考が目まぐるしく変化していく中、俺は皇女様の名を呼んで謝罪した。
「ハレルヤはずっと私を、名前で呼んでもいいんだよ……?」
「俺が名前呼び続けたら、距離なしのイカレ野郎が勘違いして、皇女様の名前を呼ぶだろ?」
「また、戻った……」
俺はイケメンなんて柄じゃねぇのに、美少女と称するべき皇女様を名前で呼んだら──俺よりも顔に自信のある奴らが、ブサイクに名を呼ばれてるんだったら俺たちにも呼ぶ権利があるとかどうこう主張して、大変なことになるだろ?
面倒なトラブルを避けれるなら、俺は皇女様呼びをし続けた方がいい。
「二人きりの時は、名前で呼んでって、お願いしたのに……」
「悪い、キサネ。今あんまり、余裕がねぇんだ」
「余裕?気持ちの問題?」
「おう。魔力、消費しすぎたみてぇだ」
「ハレルヤ、死んじゃうの……!?」
普段は何度転移したって、ムースの為に材料を錬成してもピンピンしてる俺がグロッキーな様子を見て、うつ伏せになってベッドへ横たわる俺の上に、皇女様は圧し掛かってきた。ぐえ。窒息死するから、やめろって……。
「やだ!ハレルヤ、死んじゃやだよ!一人にしないで!」
「勝手に殺すな……。一人になんてしねぇから。落ち着け」
「でも、ハレルヤ……苦しそう……。私があいつらに、トドメを刺さずに帰ろうって言ったから……?」
「あそこで俺に正気を取り戻そうと必死になってくれたからこそ、今がある。なんかよくわかんねぇけど、魔剣も手に入れた。立派な魔王として、また一歩前進したみたいだからな。よしとしようぜ」
「うん……。寝たら、具合悪そうなの。直る?」
「おう。多分な」
「じゃあ、私も一緒に寝る……」
皇女様は俺の背中へ伸し掛かるのをやめると、俺の隣で大の字に寝転がる。違うのは、うつ伏せの俺とは違って仰向けに寝転がってる所か……。
皇女様はぼんやりと天井を見つめながら、ポツリと呟く。
「私がいなくなっても、あの人たちはなんとも思ってなかった」
「……キサネ……」
「私、やっぱりいらない子だったんだ。私を必要としてくれるのは、やっぱりハレルヤだけ……」
皇女様を大切に思っているのは、俺だけじゃない。私利私欲を満たすためなら、皇女様を求める輩は山ほどいる。
皇女様を愛するロリコン野郎、皇女様のそっくりさんに因縁があるストーカー野郎。
父親としてではなく、男として皇女様を利用したい皇帝──羅列してみると、どいつもこいつも恐ろしい感情を皇女様に抱いている。
そして、俺もまた。
やべぇ男どもの一員として、本来ならば名を連ねるべき自覚がある。
『正晴くん』
前世で三人殺害した斎藤正晴の記憶を持つ俺は、斎藤正晴が殺人を犯してでも守りたかった少女と、皇女様を重ねていた。
今は魔界を総べる魔王だとしても。
前世が最悪すぎて、皇女様は俺が斎藤正晴だと知れば……百年の恋も冷めてしまうかもしれない。
俺は皇女様に、知られるわけにはいかねぇんだ。
三人殺害した前世の記憶を持っていること。
今も奴らを重ねては、殺戮衝動で頭がおかしくなりそうになる事も──
「よく、我慢できたな」
「ハレルヤと、約束したから。私達の目的は、魔族の夫婦を助けることだって。復讐なんかに、心を奪われることはないって自分を律していたら──ハレルヤが暴走し始めたんだもん。私、驚いちゃった」
「……ごめんな」
「心臓に悪いよ!私も、ごめんね。舌噛み切ろうとしたり、角をもぎ取ろうとしたり……その、痛かったでしょ……?」
「すげー痛かった。思い出すだけでも、かなり痛ぇ。トラウマレベル」
「ほ、ほんとにごめんね……?」
心配そうに俺を見つめる、皇女様と目があった。
ハレルヤ・マサトウレとして生を受けてから、俺を心配してくれんのは皇女様だけだったからか?
なんつーか、すげー安心するんだよな。
もっと皇女様に心配してもらう為、大怪我しようなんてトチ狂った思考を抱きながら、俺は皇女様に癒やされる。
0
お気に入りに追加
19
あなたにおすすめの小説

テンプレな異世界を楽しんでね♪~元おっさんの異世界生活~【加筆修正版】
永倉伊織
ファンタジー
神の力によって異世界に転生した長倉真八(39歳)、転生した世界は彼のよく知る「異世界小説」のような世界だった。
転生した彼の身体は20歳の若者になったが、精神は何故か39歳のおっさんのままだった。
こうして元おっさんとして第2の人生を歩む事になった彼は異世界小説でよくある展開、いわゆるテンプレな出来事に巻き込まれながらも、出逢いや別れ、時には仲間とゆる~い冒険の旅に出たり
授かった能力を使いつつも普通に生きていこうとする、おっさんの物語である。
◇ ◇ ◇
本作は主人公が異世界で「生活」していく事がメインのお話しなので、派手な出来事は起こりません。
序盤は1話あたりの文字数が少なめですが
全体的には1話2000文字前後でサクッと読める内容を目指してます。

最強無敗の少年は影を従え全てを制す
ユースケ
ファンタジー
不慮の事故により死んでしまった大学生のカズトは、異世界に転生した。
産まれ落ちた家は田舎に位置する辺境伯。
カズトもといリュートはその家系の長男として、日々貴族としての教養と常識を身に付けていく。
しかし彼の力は生まれながらにして最強。
そんな彼が巻き起こす騒動は、常識を越えたものばかりで……。
最強の職業は解体屋です! ゴミだと思っていたエクストラスキル『解体』が実は超有能でした
服田 晃和
ファンタジー
旧題:最強の職業は『解体屋』です!〜ゴミスキルだと思ってたエクストラスキル『解体』が実は最強のスキルでした〜
大学を卒業後建築会社に就職した普通の男。しかし待っていたのは設計や現場監督なんてカッコいい職業ではなく「解体作業」だった。来る日も来る日も使わなくなった廃ビルや、人が居なくなった廃屋を解体する日々。そんなある日いつものように廃屋を解体していた男は、大量のゴミに押しつぶされてしまい突然の死を迎える。
目が覚めるとそこには自称神様の金髪美少女が立っていた。その神様からは自分の世界に戻り輪廻転生を繰り返すか、できれば剣と魔法の世界に転生して欲しいとお願いされた俺。だったら、せめてサービスしてくれないとな。それと『魔法』は絶対に使えるようにしてくれよ!なんたってファンタジーの世界なんだから!
そうして俺が転生した世界は『職業』が全ての世界。それなのに俺の職業はよく分からない『解体屋』だって?貴族の子に生まれたのに、『魔導士』じゃなきゃ追放らしい。優秀な兄は勿論『魔導士』だってさ。
まぁでもそんな俺にだって、魔法が使えるんだ!えっ?神様の不手際で魔法が使えない?嘘だろ?家族に見放され悲しい人生が待っていると思った矢先。まさかの魔法も剣も極められる最強のチート職業でした!!
魔法を使えると思って転生したのに魔法を使う為にはモンスター討伐が必須!まずはスライムから行ってみよう!そんな男の楽しい冒険ファンタジー!
1×∞(ワンバイエイト) 経験値1でレベルアップする俺は、最速で異世界最強になりました!
マツヤマユタカ
ファンタジー
23年5月22日にアルファポリス様より、拙著が出版されました!そのため改題しました。
今後ともよろしくお願いいたします!
トラックに轢かれ、気づくと異世界の自然豊かな場所に一人いた少年、カズマ・ナカミチ。彼は事情がわからないまま、仕方なくそこでサバイバル生活を開始する。だが、未経験だった釣りや狩りは妙に上手くいった。その秘密は、レベル上げに必要な経験値にあった。実はカズマは、あらゆるスキルが経験値1でレベルアップするのだ。おかげで、何をやっても簡単にこなせて――。異世界爆速成長系ファンタジー、堂々開幕!
タイトルの『1×∞』は『ワンバイエイト』と読みます。
男性向けHOTランキング1位!ファンタジー1位を獲得しました!【22/7/22】
そして『第15回ファンタジー小説大賞』において、奨励賞を受賞いたしました!【22/10/31】
アルファポリス様より出版されました!現在第四巻まで発売中です!
コミカライズされました!公式漫画タブから見られます!【24/8/28】
*****************************
***毎日更新しています。よろしくお願いいたします。***
*****************************
マツヤマユタカ名義でTwitterやってます。
見てください。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
スライムからパンを作ろう!〜そのパンは全てポーションだけど、絶品!!〜
櫛田こころ
ファンタジー
僕は、諏方賢斗(すわ けんと)十九歳。
パンの製造員を目指す専門学生……だったんだけど。
車に轢かれそうになった猫ちゃんを助けようとしたら、あっさり事故死。でも、その猫ちゃんが神様の御使と言うことで……復活は出来ないけど、僕を異世界に転生させることは可能だと提案されたので、もちろん承諾。
ただ、ひとつ神様にお願いされたのは……その世界の、回復アイテムを開発してほしいとのこと。パンやお菓子以外だと家庭レベルの調理技術しかない僕で、なんとか出来るのだろうか心配になったが……転生した世界で出会ったスライムのお陰で、それは実現出来ることに!!
相棒のスライムは、パン製造の出来るレアスライム!
けど、出来たパンはすべて回復などを実現出来るポーションだった!!
パン職人が夢だった青年の異世界のんびりスローライフが始まる!!
実はスライムって最強なんだよ?初期ステータスが低すぎてレベルアップが出来ないだけ…
小桃
ファンタジー
商業高校へ通う女子高校生一条 遥は通学時に仔犬が車に轢かれそうになった所を助けようとして車に轢かれ死亡する。この行動に獣の神は心を打たれ、彼女を転生させようとする。遥は獣の神より転生を打診され5つの希望を叶えると言われたので、希望を伝える。
1.最強になれる種族
2.無限収納
3.変幻自在
4.並列思考
5.スキルコピー
5つの希望を叶えられ遥は新たな世界へ転生する、その姿はスライムだった…最強になる種族で転生したはずなのにスライムに…遥はスライムとしてどう生きていくのか?スライムに転生した少女の物語が始まるのであった。
貴族家三男の成り上がりライフ 生まれてすぐに人外認定された少年は異世界を満喫する
美原風香
ファンタジー
「残念ながらあなたはお亡くなりになりました」
御山聖夜はトラックに轢かれそうになった少女を助け、代わりに死んでしまう。しかし、聖夜の心の内の一言を聴いた女神から気に入られ、多くの能力を貰って異世界へ転生した。
ーけれども、彼は知らなかった。数多の神から愛された彼は生まれた時点で人外の能力を持っていたことを。表では貴族として、裏では神々の使徒として、異世界のヒエラルキーを駆け上っていく!これは生まれてすぐに人外認定された少年の最強に無双していく、そんなお話。
✳︎不定期更新です。
21/12/17 1巻発売!
22/05/25 2巻発売!
コミカライズ決定!
20/11/19 HOTランキング1位
ありがとうございます!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる