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人間界<魔族の夫婦を救え>

刑執行直前

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「これより、刑を執行する。人間に姿を替え、我々を惑わそうとした魔族よ。死を持って償いたまえ……!」
「やめろ!!!」

 人間界、王都の広場で。
 今まさに絞首刑となりそうな魔族の女性を目にした瞬間、絶叫した魔族の男がすべてをぶち壊した。

 あーあ。大騒ぎしたせいで、異変に気づいちまったじゃねぇか。

「よぉ、皆さんお揃いで」
「わぁ。お父様にお母様までいる!みんな揃って魔族の首が落ちる姿を観覧するなんて、悪趣味~」

 皇女様は腕の中で顔を突き合わせている王族達を大笑いしながら煽った。
 トラウマで顔を真っ青にしたり震えるんじゃないかと心配していたけど、どうやら問題はなかったらしい。
 俺は平気そうな皇女様の頭を撫でながら、皇帝の様子を窺う。

「何者だ」
「娘の顔すら思い出せねぇのかよ。老いぼれは、これだから困るよなぁ?」
「……あなたは、わたくし達にどれほど迷惑をかければ気が済むの……!?」
「私がいつ、あなたに迷惑を掛けたの?私を産んだのは、あなたでしょ。自分で産み落とした癖に、邪魔者扱いして虐げるとか、母親失格だよね」
「それはあなたが、王家に相応しくない呪いを刻み込まれて生まれたから……!」
「この身体に刻み込まれた紋章は、魔王の花嫁である証」

 皇女様は恍惚とした表情で告げる。
 俺が大好きで堪らないと、全身で表す皇女様の期待には答えないとな?

「俺は魔界の王、ハレルヤ・マサトウレ。俺の許可無く魔族を処刑しようとするのは、許さねぇよ」
「皇帝に向かって、何たる口の聞き方だ!」
「魔王が皇帝と同列だと思っているのか!?」
「刑を執行しろ!」
「ああ、魔王様……!」

 男の妻が歓喜の声を上げながら、涙を流す。
 助かったつもりでいる所悪いけど、その気になればいつだって妻の首は吹っ飛んじまうんだよな。
 ちゃんと旦那に抱きしめて貰ってから喜べよ。

「魔王を始末しても、代替わりするだけだったか……」
「よお、皇帝。あんたが俺の父ちゃんを始末したんだってな?自分が始末した魔王の息子に復讐される覚悟はできてるかよ」
「戯言を。我は不死身である。誰にも加害されることなどない」
「ふーん。じゃあ、覚悟ができた時、また会いに来てやるよ」
「そう何度も、この地に足を踏み入れさせると思うのか」
「魔王と皇帝。どっちが強いのか、白黒はっきりつけてやってもいいんだぜ?群衆が見てる前で無様な姿を見せたら、恥ずかしくて皇帝なんて名乗れなくなっちまうかもしれねぇけどな」

 12歳のクソガキにマウント取られても、皇帝は動じねぇ。さすがは人間界を牛耳る皇帝ってことか?
 皇女様が虐げられていた所を見て見ぬふりした挙げ句、魔界に追放しようとしてた恨みは、今度絶対に晴らしてやる。

「ハレルヤ・マサトウレ……!従者の分際で、皇帝になんて口の聞き方をしているの……!?無礼にも程があるわ!」
「黙れよ厚化粧ババア。皇女様を虐げることしか脳のねぇ、ヒステリックババアのくせに」
「なっ。誰がヒステリックですって……!?ば、ばば、二度も……!?」

 皇帝は性格終わってる皇后が大好きみてぇだからな。
 本人を煽るよりも、なんの力もねぇババアを追い詰めた方が冷静さを失いやすい。

 俺は皇帝が大きく息を吸い込んだのを確認し、皇女様をしっかり抱きしめる。
 俺は魔族の男へ手を伸ばし、胸倉を引っ掴むと、勢いよくぶん投げた。

 おお、すげぇ。

 魔王として覚醒したお陰で、腕っぷしの力もあがってるみたいだ。
 俺は感動しながらも、ミサイルのような勢いで妻の元へ飛んでいく男が人間達に加害されないようサポートへ回る。

「皇女様」
「はーい!」

 元気よく声を上げた皇女様は、ストーカー野郎から借りパクした剣をぶんまわしながら、男に群がる人間どもを卒倒させていく。
 初めての実践とは思えぬ活躍ぶりに、俺は舌を巻いた。

 さすがハムチーズに、天才と謳われたことだけのことはあるな……。
 俺は皇女様を抱きかかえて守るだけの、簡単なお仕事に徹していられる。

 魔王なんだから、積極的に恐怖を感じさせるような振る舞いしろ?

 そりゃ誰もいなければ、恐怖を感じさせるような振る舞いもするけどさ……人間どもが山ほどいる場所で俺の力を大っぴらに見せつけんのは、大人げない。

 今はハレルヤ・マサトウレが魔王で、皇女様と一緒に魔界で暮らしてるってことだけ、理解させればいいよな?
 俺たちは魔族の夫婦を助けたら、さっさとトンズラするんだ。
 尻尾巻いて逃げたと、後ろ指をさされたとしても……。

「あなた!」
「魔王様!」

 魔族の夫婦が絞首刑を免れ、抱き合う姿を確認した俺は、さっさとズラかろうと指を鳴らす準備をする。
 異変が起きたのは、それからすぐのことだ。

「また、我の娘を奪うのか」
「ぅあ……っ!?」

 ロリコン野郎やストーカー野郎と、初めて目を合わせたときに痛む頭を抑えながら、前世で人を殺した時の事を思い出したように。

「ハレルヤ?どうしたの!?」

 俺は最初に殺したやつのことを、思い出す。
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