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三人目の花嫁

ハムチーズの因縁

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「お前らって、仲悪いよな。なんか理由でもあんの?」
「彼は混血の少女に穢らわしいと心無い言葉をぶつけ、少女を死へ追い込もうとしました。それはけして、許されることではありません」
「なんだそれ」

 俺が興味を持ったからか、ハムチーズは珍しく怒りを抑えきれない様子で語り始める。

 魔族の血を引く少女は人間界で迫害を受け、魔界へ落ちてきた。
 ハムチーズは少女と懇意にしていたらしい。
 魔王の花嫁候補だと一目でわかる紋章を刻み込まれたハムチーズに話しかけてくるような輩など、魔界にはいなかった。
 孤独なハムチーズは少女と傷を舐めあい、静かにひっそりと暮らしていたそうだ。

 ハムチーズと少女のささやかな幸せを、ストーカー野郎は刈り取ったらしい。人間の穢らわしい血を引く少女は死ぬべきだと、剣を突き付け脅された。
 少女は自身が生きていてはいけない存在だと思い込み、自ら生命を断とうとしたらしい。それから、ハムチーズはストーカー野郎を恨んでいる。

「あの男は、キサネ様と魔王様を狙っています」
「皇女様を見る目は、明らかにそんな感じだもんな」
「ご存知でしたか」
「おう。皇女様に仇なすもんは、俺が全員ぶっ飛ばす」

 俺は自身に向けられる殺意には鈍感だけど、皇女へ向けられる殺意には敏感だ。
 俺に守られてばかりはいられないと、かわいい皇女様が俺の危機を知らせてくれるようになったし、俺たちってほんとに息がピッタリだよな。
 どこのどいつだか知らねぇけど、俺たちの間に付け入る隙なんざねーから!
 すっこんでろ!

「キサネ様は……混血の少女と、よく似ていらっしゃいます」
「容姿か?」
「性格、容姿。仕草まで……全てです」
「ふーん」

 あれか?あのストーカー野郎、実は混血の少女が好きで、好きな子ほどいじめたいタイプだったってオチだったりしねぇよな?
 皇女様と混血少女を重ねて、歪んだ愛を抱いてるんだとしたらーー

「他人の空似か……血の繋がりがあったりしてな」
「血の繋がり、ですか」
「王家はなんだかよく知らねぇけど、子沢山だからな。存在を抹消された姉貴がいてもおかしくねぇよ。皇女様も、物心つくまでは虐げられた記憶がないみてぇだしな……」

 皇女様が覚えているかはなんともいえない所だが、ある日を堺に虐げられるようになったと話していたはずだ。
 混血の少女がこの世界に落ちてきた日と、一致すれば……。

「その混血少女って、生きてんの?」
「はい。一命は取り留めました」
「そっか。お前らの事情はわかった。ストーカー野郎は、そいつにトドメを刺そうとはしてねぇの?」
「息の根を止める価値もないと考えているのでしょう。彼は嫌がる彼女の叫びや苦しみに、興奮しているようでしたので」
「変態じゃねぇか……」

 突然ポエムを騙り始めた時から、やべえと思ってたけどさ。
 皇女様が泣き叫んだりしたら、スイッチが入るってことか。マジで気をつけねぇと。

「人は見かけによらねぇな」

 人畜無害そうに見えても、内情はってやつだ。そんなやべぇやつを、魔族の総指揮官として働かせてもいいのかよ。
 魔王権限でクビにした方がよくねぇか?

「そうですね」
「様子見でいいのか?俺は皇女様に問題が起きるくらいなら、適当な理由つけてぶっ飛ばしてぇんだけど」
「魔王様が自ら手を下さずとも、彼はいずれ、自滅するかと……」
「自滅してくれるに、越したことはねぇけどな……」

 ハムチーズの言い方じゃ、自滅するよう仕向けてるって感じか?
 今はまだ準備段階。
 邪魔するなってことなら、見て見ぬふりをしといてやるか。
 皇女様と血の繋がりがあるかもしれねぇ混血少女を傷つけられて、ハムチーズも相当恨んでるっぽいからな。
 俺たちの見えない所で、静かに息の根を止めてくれると願うしかねぇか。
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