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三人目の花嫁
川の字を邪魔する男
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「荷物は……これで最後だね」
「かんせーい!」
魔城に持っていくムースの荷物を一纏めにして運び終えた俺たちは、作業を終えたことを確認してハイタッチした。
荷物を一纏めにして終わりじゃねぇんだよな……。
これから俺には、魔城へ集めた荷物を運び込む大仕事が待っている。
「皇女様。この荷物、どこに置くのが一番いいと思う?」
「ムースお姉さんのお部屋は……。私達の、隣がいい!」
「行き来しやすいもんな」
「うんっ。ムースお姉さん。いいでしょ?」
「好きにしな。あたいはなんでもいいよ……」
ムースは皇女様の相手をすることすらつかれたのか、マントや仮面を身につけ直す。
荷物を探し終えたら、すぐに移動を開始すると見越してのことだろう。
こいつ、案外察する力は高いんだよな……。
俺は少しだけムースに感心しながら、荷物を魔城の空き部屋へ移動させた。
ミシンのようなもの、トルソー、試作品のドレス、布。
細々としたムースの私物は、木箱換算で10箱程度。
日本の常識なら、小さなトラックで運べるくらいの量しかない。
単身者パックで3万くらいか?
魔力って、ほんと便利だな。
対して苦労もせず、大荷物を一瞬で移動できるんだから。
その代わり、労働対価としての金銭は一切手に入らねぇけどな。
「ムースお姉さん!忘れ物、ない?」
「問題ないよ」
「ハレルヤ!帰りは、手を繋いで帰ってもいい?」
「自分の足で、歩いて帰るのか?」
「うんっ。ハレルヤとお姉さんの3人、手を繋いで帰るの!」
あー、あれか。
幼児が真ん中で、両親に両手を繋がれて帰路につくやつだな?
歩く川の字ってやつだ。
成人女性の身体つきをしたムースが皇女様の右側、皇女様と10cm程度しか身長の変わらない俺が左側に立つと、すげー歪な川の字になる。
バランスを良くするためにはムースが真ん中になるべきだが……。
ババアと呼んでいた奴と手なんざ、繋ぎたくねぇし。
このまま、戻るしかねぇな。
「えへへ。右手にムースお姉さん。左手にハレルヤ。私は世界一幸せものだね!」
「手を繋いで並んで歩くくらい、いつでもしてあげるよ」
「ほんと?ムースお姉さん太っ腹!」
「減るもんじゃねぇしな……皇女様になにかあった時は、あんたが後ろを守れよ。俺が前を守るから」
「当然だね。妹を守らない姉なんていないよ!」
世の中探せばごまんといるから、釘刺してんだよ。
皇女様は箸が転んでもおかしい年頃なのか、俺たちのやり取りをケラケラ笑っている。
皇女様が楽しそうで何よりだ。
このまま、平和な日々が続けばいいのに──平和なひとときの終わりは、すぐにやってきた。
「キサネ皇女殿下!それと、皆様お揃いで……とても楽しそうで、僕も大変喜ばしく思います」
「あ、スリミーズ先生」
皇女様の表情が曇る。
俺とムースの間にも、ピリピリとした緊張が走った。
出たな、ロリコン野郎。皇女様になにかするようなら、ぶっ殺すからな。
覚悟しとけよ。
「俺たちはおまけかよ」
「あんたがキサネにしか興味がないのは今に始まったことじゃないけどね。お世辞くらいは使えるようになったらどうだい」
「キサネ皇女殿下にしか興味がないなど……心外です。僕は皆さんに興味津々ですよ。心を閉ざしていたキサネ皇女殿下が、太陽な笑顔を見せるほどの方々ですから」
俺たちの態度が変化したことに気づいたロリコン野郎は、寂しそうに皇女様を見つめた。
そういやこいつ、俺やムースとは一切目を合わせることがねぇんだよな。
いつだってその瞳は、皇女様へ向けられている。
「なにか、用事?」
「いえ。僕に用事はありません。ただ……僕の村で、闇の魔力が大量に消費されるような気配を感知したので……様子を見に来たんですよ。エムリカさんが外出するなど、珍しいこともあるんですね」
「あんたには関係ないだろ」
「僕はこの村を守る魔法使いです。僕に、伝えなければならないことがあるのではないですか?」
俺たちの前に立ち塞がって、有無を言わさぬ言動をするとか。ほんとに気持ち悪い野郎だな。ムースも引いてんじゃねぇか。
皇女様は笑顔から一転、姉のように慕うムースの機嫌をロリコン野郎が損ねていると知り、頬をむくれさせた。
「かんせーい!」
魔城に持っていくムースの荷物を一纏めにして運び終えた俺たちは、作業を終えたことを確認してハイタッチした。
荷物を一纏めにして終わりじゃねぇんだよな……。
これから俺には、魔城へ集めた荷物を運び込む大仕事が待っている。
「皇女様。この荷物、どこに置くのが一番いいと思う?」
「ムースお姉さんのお部屋は……。私達の、隣がいい!」
「行き来しやすいもんな」
「うんっ。ムースお姉さん。いいでしょ?」
「好きにしな。あたいはなんでもいいよ……」
ムースは皇女様の相手をすることすらつかれたのか、マントや仮面を身につけ直す。
荷物を探し終えたら、すぐに移動を開始すると見越してのことだろう。
こいつ、案外察する力は高いんだよな……。
俺は少しだけムースに感心しながら、荷物を魔城の空き部屋へ移動させた。
ミシンのようなもの、トルソー、試作品のドレス、布。
細々としたムースの私物は、木箱換算で10箱程度。
日本の常識なら、小さなトラックで運べるくらいの量しかない。
単身者パックで3万くらいか?
魔力って、ほんと便利だな。
対して苦労もせず、大荷物を一瞬で移動できるんだから。
その代わり、労働対価としての金銭は一切手に入らねぇけどな。
「ムースお姉さん!忘れ物、ない?」
「問題ないよ」
「ハレルヤ!帰りは、手を繋いで帰ってもいい?」
「自分の足で、歩いて帰るのか?」
「うんっ。ハレルヤとお姉さんの3人、手を繋いで帰るの!」
あー、あれか。
幼児が真ん中で、両親に両手を繋がれて帰路につくやつだな?
歩く川の字ってやつだ。
成人女性の身体つきをしたムースが皇女様の右側、皇女様と10cm程度しか身長の変わらない俺が左側に立つと、すげー歪な川の字になる。
バランスを良くするためにはムースが真ん中になるべきだが……。
ババアと呼んでいた奴と手なんざ、繋ぎたくねぇし。
このまま、戻るしかねぇな。
「えへへ。右手にムースお姉さん。左手にハレルヤ。私は世界一幸せものだね!」
「手を繋いで並んで歩くくらい、いつでもしてあげるよ」
「ほんと?ムースお姉さん太っ腹!」
「減るもんじゃねぇしな……皇女様になにかあった時は、あんたが後ろを守れよ。俺が前を守るから」
「当然だね。妹を守らない姉なんていないよ!」
世の中探せばごまんといるから、釘刺してんだよ。
皇女様は箸が転んでもおかしい年頃なのか、俺たちのやり取りをケラケラ笑っている。
皇女様が楽しそうで何よりだ。
このまま、平和な日々が続けばいいのに──平和なひとときの終わりは、すぐにやってきた。
「キサネ皇女殿下!それと、皆様お揃いで……とても楽しそうで、僕も大変喜ばしく思います」
「あ、スリミーズ先生」
皇女様の表情が曇る。
俺とムースの間にも、ピリピリとした緊張が走った。
出たな、ロリコン野郎。皇女様になにかするようなら、ぶっ殺すからな。
覚悟しとけよ。
「俺たちはおまけかよ」
「あんたがキサネにしか興味がないのは今に始まったことじゃないけどね。お世辞くらいは使えるようになったらどうだい」
「キサネ皇女殿下にしか興味がないなど……心外です。僕は皆さんに興味津々ですよ。心を閉ざしていたキサネ皇女殿下が、太陽な笑顔を見せるほどの方々ですから」
俺たちの態度が変化したことに気づいたロリコン野郎は、寂しそうに皇女様を見つめた。
そういやこいつ、俺やムースとは一切目を合わせることがねぇんだよな。
いつだってその瞳は、皇女様へ向けられている。
「なにか、用事?」
「いえ。僕に用事はありません。ただ……僕の村で、闇の魔力が大量に消費されるような気配を感知したので……様子を見に来たんですよ。エムリカさんが外出するなど、珍しいこともあるんですね」
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