上 下
36 / 95
三人目の花嫁

魔城へご招待

しおりを挟む
「私とハレルヤも、てくてく歩いてムースお姉さんへ会いにこなくてよくなるし!ハレルヤの機嫌もよくなって、一石二鳥だよ!」
「クソガキの機嫌が、悪くなくなるのかい?」
「うん。あのね、ハレルヤはスリミーズ先生があんまり好きじゃないの。今はいないから普通にしてるけど、スリミーズ先生を見たら、すっごく不機嫌になるよ」
「キサネを見る目の色が、違うからかねぇ……」

 ムースもロリコン野郎が皇女様を狙っているとすぐにわかったらしい。
 あれは、誰がどう見ても明らかだろ。
 気づいてねぇ皇女様には、ぜひとも一生気づかないままで居てほしいもんだ。
 気づいたって、俺のそばから離れることなんてねぇんだろうけどさ。

「キサネをハルモアに近づけさせないためにも、それが一番かもしれないね」
「あんたが魔族を見ただけで死にたくなるほど毛嫌いしてなければ、それが最善策だ。色んな意味でな」

 ムースは深く考え込むんじゃないかと思ったが、案外あっさりと俺たちの提案を受け入れた。
 マジか。そんな簡単に受け入れていいのかよ。
 俺が困惑していると、ムースはあっけらかんと理由を口にする。

「あたいがこの村にいるのは、得体のしれない魔族に襲われたら対処のしようがないからさ。ハルモアに喧嘩を売らなければ、この村は闇の魔力さえ満足に使いこなせないやつらばかりだからね。あたい、腕っぷしには自身があるんだよ」
「ムースお姉さんも、紋章を自由自在に使いこなせるの?」
「まぁね。顔と身体を覆い隠しているのは、相手を油断させるためさ。この特徴的な紋章は、呪い持ちであることをアピールして歩いているようなもんだからね。身の安全を確保するためなら、極力隠しておくべきだ」
「そうなの……?私、知らなくて……。ずっとそのままにしてた……」

 知らず知らずのうちに命を狙われる危険性を高めていたと、皇女様の機嫌が急降下する。
 余計なこと言いやがって。
 俺がムースを睨みつければ、あっちも悪いと思ったんだろう。
 皇女様に優しい言葉を掛けていた。

「キサネを責めてるわけじゃないよ。あんたのそばには、常にクソガキがいるんだろ。だったら問題ないさ。独り身の女は、色々大変なんだよ」
「魔城に来れば、一人じゃなくなるから安心だね!ハムちゃんもいるし!」
「……ハムちゃん?さっきから気になっってたけど、誰なんだい」
「魔王様の側近。魔族だけど、怖くないよ!いつ背中を撃たれてもいいように、いつだって警戒は怠らないけど」
「警戒してる時点で、恐ろしい相手じゃないか……」

 皇女様が殺し屋の目をしたせいで、ムースは少しだけ引いていた。
 ハムチーズが俺に牙を剥くことはない……とは思いたい。
 皇女様よりもムースの方が年齢は近そうだし、仲良くやれるんじゃねぇかな。

「ムースお姉さん!私達と一緒に、魔城で暮らそう!」

 皇女様がムースに向かって手を差し伸べる。
 その手を引っ叩くようであれば、俺が容赦しねぇけど──妹のように皇女をかわいがっているムースが、差し出された手を引っ叩くわけがねぇ。

「いいよ。あんたとクソガキ二人だけじゃ、心もとないからね。あたいが保護者として、あんたらの面倒を見てやるよ」
「やったー!ムースお姉さん、大好き!」

 皇女様は初めて、俺以外のやつに飛びついた。

 男だったらぶっ殺してやりてぇところだけど、皇女様は実の姉たちとは一切交流がなかったからな。
 皇女様がムースを姉のように慕うなら、引き剥がしてやるのはかわいそうだ。

「ムース。皇女様と抱き合うのはいつでもできるだろ。さっさと荷物を一纏めにして、出かける準備をしとけよ」
「あんた、無機物ならなんでも転移できるみたいだけど……。どの程度なら一度に転移できるんだい?」
「やろうと思えば、この家ごと魔城の領地へ持っていけるんじゃねぇの?」
「お家ごと、お引越しだー!」

 皇女様はムースの引っ越しを手伝う気満々で、ドレスの裾を翻しやる気を見せた。
 皇女様が唐草模様の紋章を浮かび上がらせる練習にもなって、一石二鳥だからな。
 家ごと転移させてぶっ倒れたら誰が俺を魔城へ運ぶんだって話になるし、荷物だけを魔城へ運びたい。

「あんたら、つくづく化け物じみてるね……」
「魔界を統べる、魔王と花嫁だからな。最強なのは当然だろ」
「ハレルヤも手伝って!1人だと数時間掛かる作業も、3人で分担したらあっという間だよ!」

 皇女様が目の届かない範囲にいると、不安で仕方がねぇ。

 さすがにムースの自宅内で皇女様に危害を加えるようなバカはいねぇだろ。
 長時間皇女様と離れたことのない俺は、その不安をどうにか胸にしまい込むと、ムースの家に収納された荷物を一箇所へまとめる作業に集中した。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

無能なので辞めさせていただきます!

サカキ カリイ
ファンタジー
ブラック商業ギルドにて、休みなく働き詰めだった自分。 マウントとる新人が入って来て、馬鹿にされだした。 えっ上司まで新人に同調してこちらに辞めろだって? 残業は無能の証拠、職務に時間が長くかかる分、 無駄に残業代払わせてるからお前を辞めさせたいって? はいはいわかりました。 辞めますよ。 退職後、困ったんですかね?さあ、知りませんねえ。 自分無能なんで、なんにもわかりませんから。 カクヨム、なろうにも同内容のものを時差投稿しております。

勇者召喚に巻き込まれ、異世界転移・貰えたスキルも鑑定だけ・・・・だけど、何かあるはず!

よっしぃ
ファンタジー
9月11日、12日、ファンタジー部門2位達成中です! 僕はもうすぐ25歳になる常山 順平 24歳。 つねやま  じゅんぺいと読む。 何処にでもいる普通のサラリーマン。 仕事帰りの電車で、吊革に捕まりうつらうつらしていると・・・・ 突然気分が悪くなり、倒れそうになる。 周りを見ると、周りの人々もどんどん倒れている。明らかな異常事態。 何が起こったか分からないまま、気を失う。 気が付けば電車ではなく、どこかの建物。 周りにも人が倒れている。 僕と同じようなリーマンから、数人の女子高生や男子学生、仕事帰りの若い女性や、定年近いおっさんとか。 気が付けば誰かがしゃべってる。 どうやらよくある勇者召喚とやらが行われ、たまたま僕は異世界転移に巻き込まれたようだ。 そして・・・・帰るには、魔王を倒してもらう必要がある・・・・と。 想定外の人数がやって来たらしく、渡すギフト・・・・スキルらしいけど、それも数が限られていて、勇者として召喚した人以外、つまり巻き込まれて転移したその他大勢は、1人1つのギフト?スキルを。あとは支度金と装備一式を渡されるらしい。 どうしても無理な人は、戻ってきたら面倒を見ると。 一方的だが、日本に戻るには、勇者が魔王を倒すしかなく、それを待つのもよし、自ら勇者に協力するもよし・・・・ ですが、ここで問題が。 スキルやギフトにはそれぞれランク、格、強さがバラバラで・・・・ より良いスキルは早い者勝ち。 我も我もと群がる人々。 そんな中突き飛ばされて倒れる1人の女性が。 僕はその女性を助け・・・同じように突き飛ばされ、またもや気を失う。 気が付けば2人だけになっていて・・・・ スキルも2つしか残っていない。 一つは鑑定。 もう一つは家事全般。 両方とも微妙だ・・・・ 彼女の名は才村 友郁 さいむら ゆか。 23歳。 今年社会人になりたて。 取り残された2人が、すったもんだで生き残り、最終的には成り上がるお話。

地獄の手違いで殺されてしまったが、閻魔大王が愛猫と一緒にネット環境付きで異世界転生させてくれました。

克全
ファンタジー
「第3回次世代ファンタジーカップ」参加作、面白いと感じましたらお気に入り登録と感想をくださると作者の励みになります! 高橋翔は地獄の官吏のミスで寿命でもないのに殺されてしまった。だが流石に地獄の十王達だった。配下の失敗にいち早く気付き、本来なら地獄の泰広王(不動明王)だけが初七日に審理する場に、十王全員が勢揃いして善後策を協議する事になった。だが、流石の十王達でも、配下の失敗に気がつくのに六日掛かっていた、高橋翔の身体は既に焼かれて灰となっていた。高橋翔は閻魔大王たちを相手に交渉した。現世で残されていた寿命を異世界で全うさせてくれる事。どのような異世界であろうと、異世界間ネットスーパーを利用して元の生活水準を保証してくれる事。死ぬまでに得ていた貯金と家屋敷、死亡保険金を保証して異世界で使えるようにする事。更には異世界に行く前に地獄で鍛錬させてもらう事まで要求し、権利を勝ち取った。そのお陰で異世界では楽々に生きる事ができた。

異世界転生してしまったがさすがにこれはおかしい

増月ヒラナ
ファンタジー
不慮の事故により死んだ主人公 神田玲。 目覚めたら見知らぬ光景が広がっていた 3歳になるころ、母に催促されステータスを確認したところ いくらなんでもこれはおかしいだろ!

【改稿版】休憩スキルで異世界無双!チートを得た俺は異世界で無双し、王女と魔女を嫁にする。

ゆう
ファンタジー
剣と魔法の異世界に転生したクリス・レガード。 剣聖を輩出したことのあるレガード家において剣術スキルは必要不可欠だが12歳の儀式で手に入れたスキルは【休憩】だった。 しかしこのスキル、想像していた以上にチートだ。 休憩を使いスキルを強化、更に新しいスキルを獲得できてしまう… そして強敵と相対する中、クリスは伝説のスキルである覇王を取得する。 ルミナス初代国王が有したスキルである覇王。 その覇王発現は王国の長い歴史の中で悲願だった。 それ以降、クリスを取り巻く環境は目まぐるしく変化していく…… ※アルファポリスに投稿した作品の改稿版です。 ホットランキング最高位2位でした。 カクヨムにも別シナリオで掲載。

千年前の恋を忘れずにいたら、高貴な御曹司の最愛になりました。

汐埼ゆたか
恋愛
美緒は生まれてから二十六年間誰もすきになったことがない。 その事情を話し『友人としてなら』と同僚男性と食事に行ったが、関係を迫られる。 あやうく部屋に連れ込まれかけたところに現れたのは――。 「僕と恋をしてみないか」 「きっと君は僕をすきになる」 「君が欲しい」 ――恋は嫌。 あんな思いはもうたくさんなの。 ・*:.。 。.:*・゚✽.。.:*・゚ ✽.。. 。.:*・゚✽.。. 旧財閥系東雲家 御曹司『ECアーバン開発』社長 東雲 智景(しののめ ちかげ)33歳      × 東雲商事子会社『フォーミー』総務課 滝川 美緒(たきがわ みお)26歳 ・*:.。 。.:*・゚✽.。.:*・゚ ✽.。. 。.:*・゚✽.。. 「やっと捕まえた。もう二度と手放さない」 ※他サイトでも公開中

【完結】本音を言えば婚約破棄したい

野村にれ
恋愛
ペリラール王国。貴族の中で、結婚までは自由恋愛が許される風潮が蔓延っている。 奔放な令嬢もいるが、特に令息は自由恋愛をするものが多い。 互いを想い合う夫婦もいるが、表面上だけ装う仮面夫婦、 お互いに誓約書を作って、割り切った契約結婚も多い。 恋愛結婚をした者もいるが、婚約同士でない場合が多いので、婚約を解消することになり、 後継者から外され、厳しい暮らし、貧しい暮らしをしている。 だからこそ、婚約者と結婚する者が多い。だがうまくいくことは稀である。 婚約破棄はおろか、婚約解消も出来ない、結婚しても希望はないのが、この国である。 そこに生まれてしまったカナン・リッツソード侯爵令嬢も、 自由恋愛を楽しむ婚約者を持っている。ああ、婚約破棄したい。 ※気分転換で書き始めたので、ゆるいお話です。

転生幼女の攻略法〜最強チートの異世界日記〜

みおな
ファンタジー
 私の名前は、瀬尾あかり。 37歳、日本人。性別、女。職業は一般事務員。容姿は10人並み。趣味は、物語を書くこと。  そう!私は、今流行りのラノベをスマホで書くことを趣味にしている、ごくごく普通のOLである。  今日も、いつも通りに仕事を終え、いつも通りに帰りにスーパーで惣菜を買って、いつも通りに1人で食事をする予定だった。  それなのに、どうして私は道路に倒れているんだろう?後ろからぶつかってきた男に刺されたと気付いたのは、もう意識がなくなる寸前だった。  そして、目覚めた時ー

処理中です...