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三人目の花嫁
魔城へご招待
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「私とハレルヤも、てくてく歩いてムースお姉さんへ会いにこなくてよくなるし!ハレルヤの機嫌もよくなって、一石二鳥だよ!」
「クソガキの機嫌が、悪くなくなるのかい?」
「うん。あのね、ハレルヤはスリミーズ先生があんまり好きじゃないの。今はいないから普通にしてるけど、スリミーズ先生を見たら、すっごく不機嫌になるよ」
「キサネを見る目の色が、違うからかねぇ……」
ムースもロリコン野郎が皇女様を狙っているとすぐにわかったらしい。
あれは、誰がどう見ても明らかだろ。
気づいてねぇ皇女様には、ぜひとも一生気づかないままで居てほしいもんだ。
気づいたって、俺のそばから離れることなんてねぇんだろうけどさ。
「キサネをハルモアに近づけさせないためにも、それが一番かもしれないね」
「あんたが魔族を見ただけで死にたくなるほど毛嫌いしてなければ、それが最善策だ。色んな意味でな」
ムースは深く考え込むんじゃないかと思ったが、案外あっさりと俺たちの提案を受け入れた。
マジか。そんな簡単に受け入れていいのかよ。
俺が困惑していると、ムースはあっけらかんと理由を口にする。
「あたいがこの村にいるのは、得体のしれない魔族に襲われたら対処のしようがないからさ。ハルモアに喧嘩を売らなければ、この村は闇の魔力さえ満足に使いこなせないやつらばかりだからね。あたい、腕っぷしには自身があるんだよ」
「ムースお姉さんも、紋章を自由自在に使いこなせるの?」
「まぁね。顔と身体を覆い隠しているのは、相手を油断させるためさ。この特徴的な紋章は、呪い持ちであることをアピールして歩いているようなもんだからね。身の安全を確保するためなら、極力隠しておくべきだ」
「そうなの……?私、知らなくて……。ずっとそのままにしてた……」
知らず知らずのうちに命を狙われる危険性を高めていたと、皇女様の機嫌が急降下する。
余計なこと言いやがって。
俺がムースを睨みつければ、あっちも悪いと思ったんだろう。
皇女様に優しい言葉を掛けていた。
「キサネを責めてるわけじゃないよ。あんたのそばには、常にクソガキがいるんだろ。だったら問題ないさ。独り身の女は、色々大変なんだよ」
「魔城に来れば、一人じゃなくなるから安心だね!ハムちゃんもいるし!」
「……ハムちゃん?さっきから気になっってたけど、誰なんだい」
「魔王様の側近。魔族だけど、怖くないよ!いつ背中を撃たれてもいいように、いつだって警戒は怠らないけど」
「警戒してる時点で、恐ろしい相手じゃないか……」
皇女様が殺し屋の目をしたせいで、ムースは少しだけ引いていた。
ハムチーズが俺に牙を剥くことはない……とは思いたい。
皇女様よりもムースの方が年齢は近そうだし、仲良くやれるんじゃねぇかな。
「ムースお姉さん!私達と一緒に、魔城で暮らそう!」
皇女様がムースに向かって手を差し伸べる。
その手を引っ叩くようであれば、俺が容赦しねぇけど──妹のように皇女をかわいがっているムースが、差し出された手を引っ叩くわけがねぇ。
「いいよ。あんたとクソガキ二人だけじゃ、心もとないからね。あたいが保護者として、あんたらの面倒を見てやるよ」
「やったー!ムースお姉さん、大好き!」
皇女様は初めて、俺以外のやつに飛びついた。
男だったらぶっ殺してやりてぇところだけど、皇女様は実の姉たちとは一切交流がなかったからな。
皇女様がムースを姉のように慕うなら、引き剥がしてやるのはかわいそうだ。
「ムース。皇女様と抱き合うのはいつでもできるだろ。さっさと荷物を一纏めにして、出かける準備をしとけよ」
「あんた、無機物ならなんでも転移できるみたいだけど……。どの程度なら一度に転移できるんだい?」
「やろうと思えば、この家ごと魔城の領地へ持っていけるんじゃねぇの?」
「お家ごと、お引越しだー!」
皇女様はムースの引っ越しを手伝う気満々で、ドレスの裾を翻しやる気を見せた。
皇女様が唐草模様の紋章を浮かび上がらせる練習にもなって、一石二鳥だからな。
家ごと転移させてぶっ倒れたら誰が俺を魔城へ運ぶんだって話になるし、荷物だけを魔城へ運びたい。
「あんたら、つくづく化け物じみてるね……」
「魔界を統べる、魔王と花嫁だからな。最強なのは当然だろ」
「ハレルヤも手伝って!1人だと数時間掛かる作業も、3人で分担したらあっという間だよ!」
皇女様が目の届かない範囲にいると、不安で仕方がねぇ。
さすがにムースの自宅内で皇女様に危害を加えるようなバカはいねぇだろ。
長時間皇女様と離れたことのない俺は、その不安をどうにか胸にしまい込むと、ムースの家に収納された荷物を一箇所へまとめる作業に集中した。
「クソガキの機嫌が、悪くなくなるのかい?」
「うん。あのね、ハレルヤはスリミーズ先生があんまり好きじゃないの。今はいないから普通にしてるけど、スリミーズ先生を見たら、すっごく不機嫌になるよ」
「キサネを見る目の色が、違うからかねぇ……」
ムースもロリコン野郎が皇女様を狙っているとすぐにわかったらしい。
あれは、誰がどう見ても明らかだろ。
気づいてねぇ皇女様には、ぜひとも一生気づかないままで居てほしいもんだ。
気づいたって、俺のそばから離れることなんてねぇんだろうけどさ。
「キサネをハルモアに近づけさせないためにも、それが一番かもしれないね」
「あんたが魔族を見ただけで死にたくなるほど毛嫌いしてなければ、それが最善策だ。色んな意味でな」
ムースは深く考え込むんじゃないかと思ったが、案外あっさりと俺たちの提案を受け入れた。
マジか。そんな簡単に受け入れていいのかよ。
俺が困惑していると、ムースはあっけらかんと理由を口にする。
「あたいがこの村にいるのは、得体のしれない魔族に襲われたら対処のしようがないからさ。ハルモアに喧嘩を売らなければ、この村は闇の魔力さえ満足に使いこなせないやつらばかりだからね。あたい、腕っぷしには自身があるんだよ」
「ムースお姉さんも、紋章を自由自在に使いこなせるの?」
「まぁね。顔と身体を覆い隠しているのは、相手を油断させるためさ。この特徴的な紋章は、呪い持ちであることをアピールして歩いているようなもんだからね。身の安全を確保するためなら、極力隠しておくべきだ」
「そうなの……?私、知らなくて……。ずっとそのままにしてた……」
知らず知らずのうちに命を狙われる危険性を高めていたと、皇女様の機嫌が急降下する。
余計なこと言いやがって。
俺がムースを睨みつければ、あっちも悪いと思ったんだろう。
皇女様に優しい言葉を掛けていた。
「キサネを責めてるわけじゃないよ。あんたのそばには、常にクソガキがいるんだろ。だったら問題ないさ。独り身の女は、色々大変なんだよ」
「魔城に来れば、一人じゃなくなるから安心だね!ハムちゃんもいるし!」
「……ハムちゃん?さっきから気になっってたけど、誰なんだい」
「魔王様の側近。魔族だけど、怖くないよ!いつ背中を撃たれてもいいように、いつだって警戒は怠らないけど」
「警戒してる時点で、恐ろしい相手じゃないか……」
皇女様が殺し屋の目をしたせいで、ムースは少しだけ引いていた。
ハムチーズが俺に牙を剥くことはない……とは思いたい。
皇女様よりもムースの方が年齢は近そうだし、仲良くやれるんじゃねぇかな。
「ムースお姉さん!私達と一緒に、魔城で暮らそう!」
皇女様がムースに向かって手を差し伸べる。
その手を引っ叩くようであれば、俺が容赦しねぇけど──妹のように皇女をかわいがっているムースが、差し出された手を引っ叩くわけがねぇ。
「いいよ。あんたとクソガキ二人だけじゃ、心もとないからね。あたいが保護者として、あんたらの面倒を見てやるよ」
「やったー!ムースお姉さん、大好き!」
皇女様は初めて、俺以外のやつに飛びついた。
男だったらぶっ殺してやりてぇところだけど、皇女様は実の姉たちとは一切交流がなかったからな。
皇女様がムースを姉のように慕うなら、引き剥がしてやるのはかわいそうだ。
「ムース。皇女様と抱き合うのはいつでもできるだろ。さっさと荷物を一纏めにして、出かける準備をしとけよ」
「あんた、無機物ならなんでも転移できるみたいだけど……。どの程度なら一度に転移できるんだい?」
「やろうと思えば、この家ごと魔城の領地へ持っていけるんじゃねぇの?」
「お家ごと、お引越しだー!」
皇女様はムースの引っ越しを手伝う気満々で、ドレスの裾を翻しやる気を見せた。
皇女様が唐草模様の紋章を浮かび上がらせる練習にもなって、一石二鳥だからな。
家ごと転移させてぶっ倒れたら誰が俺を魔城へ運ぶんだって話になるし、荷物だけを魔城へ運びたい。
「あんたら、つくづく化け物じみてるね……」
「魔界を統べる、魔王と花嫁だからな。最強なのは当然だろ」
「ハレルヤも手伝って!1人だと数時間掛かる作業も、3人で分担したらあっという間だよ!」
皇女様が目の届かない範囲にいると、不安で仕方がねぇ。
さすがにムースの自宅内で皇女様に危害を加えるようなバカはいねぇだろ。
長時間皇女様と離れたことのない俺は、その不安をどうにか胸にしまい込むと、ムースの家に収納された荷物を一箇所へまとめる作業に集中した。
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