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魔界<人間の村>

仕立屋の女主人 アゼスト厶・ムースト

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「き、キサネ皇女殿下が声を上げて笑うなど……!ま、魔王様はど、どのような魔法を使ったのですか……?」
「魔法なんて、使ってねぇけど」
「ハレルヤと私は、相思相愛だもん。ハレルヤが楽しければ私も笑うし、私が楽しければハレルヤも笑うの」
「なんと……。魔王様は、人間界を恐怖に陥れる冷酷冷徹な方では、ないのですね……」
「ハレルヤはね、魔王として目覚めたばかりなの。冷酷で冷徹なんかじゃないよ。ハレルヤを殺そうとしたら、私がぶん殴って黙らせるからね」
「そ、それは大変喜ば……!はっ。な、なんでもありません……!」

 おい。今、皇女様がぶん殴って黙らせるって話をした時、喜んだだろ。
 ふざけんなよ、マジで……。
 こいつの声を聞いてると、ほんとにムカついて仕方がねぇ。
 早く、視界から消えてくんねぇかな。

「スリミーズ先生。仕立屋さん、着いた?」
「は、はい!こちらが仕立屋です。店主のアゼスト厶・ムースト嬢はいつも暑苦しい服を着ていますが、肝っ玉母ちゃんと呼ぶべき明るい女性で──」
「スミリーズ!誰が肝っ玉母ちゃんだって!?あたいはまだ20歳だ!!!」
「これは、失礼致しました。ムースト嬢。ご紹介致します。キサネ・チカ・マチリンズ皇女殿下と、魔王・ハレルヤ・マサトウレ様です。彼は魔族と人間の混血だそうで──」
「──その紋章!魔王が混血だって!?」
「ひゃ……っ!」

 ロリコン野郎は俺たちに仕立屋の女主人を紹介した。
 アゼスト厶・ムースト。20歳。
 全身をローブですっぽりと覆い隠し、仮面をつけて目と唇以外を覆い隠したその女は、皇女様の身体に刻まれた紋章を目にすると、両肩を強く掴んだ。

「おい。誰が皇女様に触れていいって言った?」
「離しな!穢らわしい手で触るんじゃないよ!」
「俺の皇女様に、穢らわしい手で触ってんのはどっちだ。お前が離せ。皇女様に危害を加えることがなければ、俺はお前の手を離す」
「……誰がいつ、この子に手を出すって言ったんだい。あたいは、この子の身体に刻まれた紋章をよく確認したかっただけさ」

 魔界を統べる魔王の手が穢らわしいとか、よく言えたもんだな。
 このババア……。俺が冷徹無比じゃなかったことに、感謝して欲しいくらいだ。
 皇女様の身体に刻み込まれた紋章を隅々まで確認なんて、させるかよ。

「残念だったな。皇女様の紋章を隅々まで確認出来る権利のあるやつは、魔王である俺だけだ」
「なんだって?」
「私の身体に刻み込まれている紋章は、魔王の花嫁に選ばれた証なの。私はハレルヤのお嫁さんになるんだよ」

 皇女様は嬉しそうにほほ笑みながら、頬を抑えた。キャーキャーと叫んでいる皇女様の姿を見ているだけで、俺も釣られて嬉しくなる。

 俺の説明を理解できず聞き返してきたババアは、俺たちが笑い合う姿を呆然と見つめていた。
 なんか文句あんのかよ?
 皇女様に惚れたって、渡さねぇからな。

「じゃあ、あたいの紋章は……」
「お姉さん、仕立屋さんの人なんだよね?私のドレスと、ハレルヤの普段着を作って欲しいの!」
「……あたいの作る服は、王族が着るような服じゃないよ。帰んな!」
「どうして?魔界で一番腕のいい仕立屋さんなんでしょ?ドレス、作れないの?」
「あたいを舐めるんじゃないよ!ドレスは作れるけど、上質な生地が手に入らない。あたいに王族が着るようなドレスを作らせたいなら、材料と金を用意してから言っとくれ!」

 ドレスの材料で思いつくのは、羊毛、魔獣の皮、亜麻、綿辺りか?
 自給自足をするにも、今すぐに用意すんのは無理なもんばっかりだ。

「仕立屋なのに、材料はどっからか仕入れてんの?」
「材料を一から生み出す仕立屋なんて、聞いたことがないよ!材料を生み出すのは、生産者の仕事さ!この村に生産者の仕事を担当している人間はいない!無茶言うんじゃないよ!」
「ええ……。ドレス、作ってくれないの……?せっかく魔王城から、下界へ降りてきてあげたのに……」

 皇女様はぷっくりとむくれ面を見せ、ババアへ文句を言っている。
 ご機嫌斜めな皇女様もかわいいけど、めちゃくちゃ性格悪くてわがままな皇女様にしか見えねぇから。
 やめような?

「材料があれば仕立てやるって言ったろ!?聞き分けのないガキどもだね!?」
「ああ?誰がガキだって?」
「どっからどう見ても、クソガキじゃないか!」
「うっせぇよ、ババア」
「な……!あたいはまだ、20歳だ!」

 20代はまだお姉さんの部類だとババアは叫んでいるが、俺達と比べたら8歳差だ。
 俺たちが小1の時、こいつは中2。お姉さんとは呼べねぇよ。
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