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魔王覚醒

殺人鬼と3人の被害者

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 俺、ハレルヤ・マサトウレの親父は、魔界を統べる魔王様だったらしい。
 魔王様である親父は、生まれたばかりの息子がその身に宿した封印を解除しようと手を尽くしたが、解除できないと知るや否や、妻と大喧嘩の末に息子を人間として育てると決めた。

 魔界を統べる魔王様が解けない封印があるとすれば、この世界の原理だけでは説明がつかない強固な封印を施されていると考えるべきだ。

 ハレルヤ・マサトウレの知識には、異国で生まれ育ち、死ぬまでの記憶を引き継いで生まれた人間がいるなんて話は聞いたことがなかった。

 両親から放置され、使用人からも見捨てられた俺が幼少期にできることは剣を振るか、図書館で本を読むことくらいだ。
 マサトウレ家にある文献を隅々まで読み耽っても、そんな話は一度も見聞きしたことがなかった。

 ハレルヤ・マサトウレとして生まれ変わった俺が、前世で斎藤正晴として生きてきたことを受け入れること。
 それが封じられし魔王の力を開放するための条件だと俺は踏んでいるが、あっているかどうかは、試してみなきゃわかんねぇ。

 俺は死ぬ直前ではなく──斎藤正晴が愛した女、待兼狭霧と出会い、死ぬまでのことを思い浮かべることにした。

 俺の名前は斎藤正晴。
 待兼と出会うまでは何の取り柄もない、男子高校生だった。

『やだ……っ。誰か助けて……!』

 俺の人生が変化したのは、高校入学初日のことだ。入学式をサボって屋上で寝ていた俺は、すっかり寝過ごしてしまった。
 人気のない校舎をぶらぶら歩き回っていたら、ある教室で助けを求める叫び声を聞いたのだ。俺は興味本位でその教室へ足を運び──スーツ姿の男に押し倒されていた待兼を助けた。

 スーツ姿の男を片足で蹴り飛ばした俺に怯え、瞳に涙をいっぱい溜める待兼には、男を惑わす魅力しかない
 。俺は彼女が襲われた理由をなんとなく理解しながら、彼女に手を差し伸べた。

『気をつけろよ。あんた、かわいいんだからさ』

 待兼は差し伸べられた手を長い間感情のない瞳でじっと見つめていたが──俺がかわいいと告げた言葉を認識した途端に頬を赤らめ、恥ずかしそうにはにかんだ。
 出会ってはいけなかった。それが俺たちのはじまり。
 俺の人生が、死に向かって一直線に歩み始めた──分岐点だった。

 人間には、生死を分ける分岐点が複数存在する。

 俺にとってその分岐点は、五つ存在した。
 一つ目は待兼との出会い。
 二つ目は初めて人を殺した時のこと。
 三つ目は二人目を殺害した時。
 四つ目は三人目。
 そして、五つ目は──警察に逮捕された際に抵抗しなかったことだろう。

『俺は待兼を守っただけだ』

 警察は理由がどうであれ、三人殺した俺が悪いと怒鳴った。
 正当な理由があれば、正当防衛で無罪なんじゃねぇのかよ。

『待兼が、抵抗せずに殺される所を見てるのが正解だったのかよ』
『警察に相談すればよかったんだ』
『お前ら警察が何もしなかったから、こうなってんだろ!?』

 ストーカー被害を待兼が訴えても、警察は様子を見ましょうと及び腰。
 いざ事件が起こって通報した所で、男女関係の縺れには民事不介入だと現場にすら駆けつけてくれない。
 この状況で、相手を殺害する以外に待兼を守れる方法なんてあったのかよ?

 世界は理不尽と不条理で出来ている。

 問題が起きた後に、たらればの話をされたって、どうしようもねぇ。
 だったらお前が俺と同じ立場に立ってみろよ。お前らだって愛する人が目の前で苦しんでたら、助けようとするだろ?
 俺は見捨てるからお前みたいなクズにはならねぇとか、うるせーよ。
 先に待兼を加害してきたのはあいつらだろ。
 あいつらが悪いのに、なんで俺が罰を受けなきゃなんねぇんだよ。

 待兼を加害する奴らが全員死んだら、俺と待兼に待ち受けているのは幸せな未来でなきゃいけねぇのに──

「壊しちまおうぜ」

 殺害した三人の詳細を思い出す前に、身体中が怒りで支配される感覚に陥った瞬間。
 耳元で、斎藤正晴の声がした。
 俺は思わず後ろを振り返るが、背後に斎藤正晴の姿は見当たらない。

 どうなってんだ……?

 斎藤正晴は、俺が転生する前の姿だろ。この世に存在するはずがねぇのに──俺はハレルヤ・マサトウレとして、見慣れた高校の制服に身を包んだ斎藤正晴と対峙した。

 あれか。夢の中なら、別人として独立できるってことなのかもしれねぇな。
 たちの悪い幻覚だと思えばいいわけか。

 なるほど。理解した。

 過去と向き合い、斎藤正晴の罪を受け入れれば──俺は魔王として覚醒するかもしれねぇってことだな?
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