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魔王覚醒

闇の花嫁

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「俺自身のことは、だいたい理解した。次は皇女様について教えてくれ」
「人間のことはあまり詳しくありませんので……私に答えられる範囲でよろしければ、お答えいたします」

 皇女様のことを知りたければ、ハムチーズに聞く必要はない。皇女様に直接聞けばいい話だ。皇女様自身が知らないことを聞いたって無駄だから、ハムチーズに聞こうとしているだけで──話の流れが変化したことに驚き、俺の頭から手を離した皇女様の様子を窺いながら、俺はハムチーズに問いかける。

「闇の花嫁って、なんだ?」
「魔王様の花嫁になる資格を持つ娘に、刻み込まれる紋章です」
「それは聞いた。魔王は紋章を持たない女を花嫁として迎えらんねぇの?」
「そうです」

 マジかよ。結婚相手は紋章を全身に刻み込まれた呪い持ちの中から選べって?
 時代錯誤もいい所だ。

 俺は皇女様が好きだし、皇女様も俺のことを嫌ってはいないだろう。選択肢になければ問題だが、皇女様の肌には唐草模様の紋章が刻まれている。
 一瞬ムカついたが、すぐに何の問題もねぇなと思い直す。

「魔王様の母君にも、百合の花を象った紋章が全身に刻まれていました」
「お袋の顔なんざ一回くらい見たかどうかって所だから、覚えてねぇけど。紋章なんて刻み込まれてたか?皇女様レベルの紋章なら、記憶に残るだろ」

 皇女様の紋章は、入れ墨のように身体の隅々まで刻み込まれている。白い肌が見えるのは、顔の右半分だけだ。手のひらから胴体、足に至るまで。黒い唐草模様の紋章を刻み込まれた皇女様は、呪い持ちだと蔑まれ虐げられてきた。

 お袋と赤子の時代に、一度だけ顔を合わせたことがあったとして。百合の花が刻み込まれた紋章があれば、強く印象に残っているはずだ。俺がハムチーズに訴えかければ、彼女は予想もしなかった理由を告げた。

「魔王様が花嫁候補の中から1人を選び取った瞬間に、紋章は消滅します」
「どんな原理だよ……」

 魔王の花嫁候補に紋章が刻み込まれるのは、魔王以外の男が彼女たちへ手を出さないように牽制する役割を持っている。

 簡単な話が、男限定の魔除けだ。

 本来魔王の花嫁候補として紋章を刻み込まれ生まれた娘は、魔王以外の男が好意を持って近づくと呪いが発動する。ハムチーズの話では、何らかのトラブルがあったせいで、皇女様の魔除けがうまく作動しなかったのではないかとのこと。
 なんだよ何らかのトラブルって。紋章が皇女様を守ってくれなかったせいで、皇女様は心に深い傷を負ったんだぞ。きちんと責任取れよな。

「魔界の側近に1人、人間界に1人は必ず魔王の花嫁としてこの世に生を受けますが、その他の娘達は世代によってバラバラのようですね。多い時は5名、少ない時は3名の中から1人、花嫁を選んで頂きます」
「……ちょっと待て。それって、最低でもあと1人。多ければ3人も俺の花嫁候補がいるってことかよ」
「そうなりますね」

 そうなりますねって……嘘だろ。
 そんなにいらねぇし、興味ねぇんだけど。
 残り3人もいたら、皇女様とハムチーズを合わせて5人だろ。
 ハーレムじゃねぇか。勘弁してくれ。

「あと3人も、ハレルヤを狙う女狐が出てくるの……?」
「ぶっ」

 おいおい、女狐って。12歳の皇女様の口から出てきていいような言葉じゃねぇからな?
 思わず吹いちまったじゃねぇか。
 俺が声を押し殺し切れずに大笑いしていれば、皇女様からポカポカと胸元を叩かれた。
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